ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Thu, 14 November 2024

英国にいながらインドを知る

英国の中のインド英国に住んでいると、世界中の国の人々と共に生きていることを日々実感するのでは。その中でもインドでは1947年の独立まで約200年間、英国の支配が続いた関係で、多くのインド人たちが英国に移住して暮らしている。彼らの歴史は21世紀の今日に至るまで、社会のあらゆる面において見ることができる。この特集では現在の英国社会においてインド出身の人々がいかに活躍しているのか、探ってみたい。

20世紀も続いた、英国への移住
教育やキャリアに可能性を見出したインド系移民

独立後の1950年代以降も、多くのインド人が就職や結婚など様々な理由で、景気の見通しが上向きであった英国に移住した。当時、英国政府は移民の管理に懸命に務めたものの、61年にはすでに10万人以上のインド人や隣国のパキスタン人が定住していた、と記録に残っている。彼らの多くは英国にすでに移住している同郷人が親族を呼び寄せるという「連鎖移住」の制度を利用した。現在、英国に住むインド出身の人々は西ロンドンのサウソール、ウェンブリー、ハウンズロー、バーネット、クロイドン、郊外では東西ミッドランズ、マンチェスターそしてレスターにコミュニティーを作っている。

英国における非白人人口の内訳非白人人口としては圧倒的!
100万人を超えるインド系人口

01年に行なわれた国勢調査によると、英国の総人口は約5420万人で、そのうち白人は92.1パーセント。残る7.9パーセントに当たる460万人がエスニック・マイノリティーと呼ばれる非白人人口になり、中でもアジア及びアジア系英国人は5割を占めている。その内訳は、インド人約105万人、パキスタン人約75万人、バングラデシュ人約28万人、その他のアジア人約25万人となっている。在住邦人数が約2万5000人(外務省調べ)であることを考えると、日本人1人に対しインド人が42人いる勘定になる。

仕事と家庭の両立が可能に
ニュースエージェントとインド人店主の関係

コーナーショップ英国で生活をする上で必需品が欲しくなった時便利なのが、ニュースエージェント。コーナーショップとも呼ばれるこの種の店では、なぜかインド系の人達が店番をしていることが多い。これは偶然なのだろうか? 昨年、全国小売ニュースエージェント協会の会長を初のインド出身者として務めたメハンドラ・ジャデージャ氏に話を伺った。

独立後のインドでは暴力が横行し、社会問題となっていました。それを逃れるため、1950年代と60年代に多くのインド人が英国に渡ってきました。慣れない国で生計を立てていくには、作業そのものが難しくないニュースエージェント業が最適でした。店舗の多くは上の階に住空間があり、通勤に時間を取られることがない。仕事と家族を養うことが両立できて一石二鳥です。インドにいたら働くことなどなかった女性も、英国では生活のために働かなくてはなりません。ニュースエージェントであれば、店の繁忙時に上の階にいる女性を呼び、男性の役に立つことが出来ます。つまり共稼ぎを実現するには、ニュースエージェントが一番都合が良かったのです。現在ではニュースエージェント経営者のうち半数以上がアジア人、さらにその3割をインド人が占めています。

2代目インド人達の思いは……

ニュースエージェント業も、最近の社会の移り変わりを反映し、営業時間を延長する必要が生じてきました。いまや午前5時に始まる早朝勤務となり、夕方7時頃に終えることも珍しくありません。しかし、60年代に英国に来たインド人の世代は、自分達が経験した苦労や長時間労働を次の世代に受け継がせたくないと考えます。彼らの子供達も、親のように大変な生活ではなく、9時5時の定時で勤務したいという考えを持つようになり、大学へ進学する若者達が増えました。もともと勤勉であるという性格も手伝い、いまや2代目インド人の多くは医師、エンジニア、教授、公認会計士や弁護士などの職に就いています。

メハンドラ・ジャデージャ氏の経歴
ジャデージャ氏
「ニュースエージェント業とほかの職業を掛け持ちする人は意外と多い。そこがキーポイントです」と話すジャデージャ氏

1950年 インドに生まれ、土木技師として学ぶ
ドバイ政府に1年勤務
1975年 結婚を機に渡英
1978年 家電製品会社コメット入社
1980年 当時賃貸していた北ロンドンの住宅を大家から買い上げ、後に250万ポンドで売却
1985年 コメット退社した後、ニュースエージェントを開始
  この頃から、午前6時半から午後6時半までニュースエージェントの営業と同時に、不動産業にもかかわるという、2足のわらじ生活に
2005年 初のインド出身者として全国小売ニュースエー ジェント協会会長を1年間務める

渡英後、生活の基盤を安定させることを優先してニュースエージェント業を開始。今では、店の日常的な運営は家族に任せている。ご本人は、より利益が大きく、以前から興味があった不動産業を始め、両方の職業を掛け持ちしている。

National Federation of Retail Newsagents
英国全土とアイルランドにおける2万軒弱のニュースエージェントを代表、この種の組織としては欧州一の規模を誇る同業者組合。「英国でニュースエージェントを経営する日本の方がいらっしゃいましたら、ぜひ 会員になって組合を利用してください」とはジャデージャ氏のメッセージ。www.nfrn.org.uk

各業界で頭角を現す
メディアに見るインド人の活躍ぶり

今ではすっかり英国の生活に溶け込んでいるように見えるインドの人達。ここでは、ビジネス、映画、テレビ、文学の分野において彼らがいかに活躍しているかを紹介する。

第1位! 想像を絶する大富豪
鉄鋼のラクシュミ・ミッタル氏

ミッタル氏
極めて思い切った行動に
出るタイプ?大富豪の
ラクシュミ・ミッタル氏

世界最大のアジアン・ラジオ局「サンライズ・レディオ」が集計した「アジアン・リッチ・リスト」の第1位に輝いた、ラクシュミ・ミッタル氏(55)。彼は毎年「タイムズ」紙が集計するリッチ・リストの06年版でも1位を飾っており、正真正銘の英国一のリッチマンだ。ミッタル氏が社長を務める鉄鋼会社ミッタル・スティールはもともと世界一の規模を誇っていたが、今年1月、鉄鋼業世界第2位であるアルセロール社の競売劇で127億ポンド(およそ2兆5000億円)の入札額を提示して、業界関係者の度肝を抜いた。

本人は自身を「ラジャスタンの砂漠の息子」と形容するのを好むものの、実のところ、カルカッタでビジネスと鉄鋼業界について学んだ現実派。鉄鋼業を営む父の援助で80年代半ばに鉄鋼プラントを買い上げ後、みるみる頭角を現し95年にロンドンに移住。今では高級住宅街であるビショップス・アベニューに、900万ポンド(約18億円)の豪邸を所有するまでに出世した。さらに、04年7月には娘の結婚式のために3000万ポンド(約60億円)を散財している。

全部で148億ポンド(約3兆円)の価値があるといわれるミッタル氏のビジネス。アルセロール社をものにすれば、さらに富み栄えることとなるだろう。

ほぼオール・インド人キャストで構成
「グッドネス・グレーシャス・ミー」&
「ザ・クマ-ズ・アット・ナンバー42」

The Kumars
「ザ・クマ-ズ・アット・ナンバー42」のキャスト。 おばあさん役を演じるM・サイアル=写真左端=と S・バスカール=写真中央=は05年、極秘のうちに結婚した。

96年にラジオ・ドラマとして登場した「グッドネス・グレーシャス・ミー」はインドの伝統文化と英国の現代的な生活の間で起こる確執を4人のインド人キャストが面白おかしく演じ、瞬く間に人気を得た。98年にはテレビ・シリーズ化され、02年2月まで3シリーズと2回の特別編が放映された。毎回、レギュラー陣と共に新顔キャストが登場し、コントを次々と披露。中でも「英国のものは何でもインドから来てるのだ!」とうそぶく男性が、次々と例を挙げていくうちについには「ロイヤル・ファミリーもインド人だ!」と発言するコントは好評を得た。この番組はターゲットであったインド人視聴者の枠を越え、幅広い層に受け入れられた点で画期的だった。

その後「グッドネス・グレーシャス・ミー」で注目された俳優2人が、01年「ザ・クマ-ズ・アット・ナンバー42」というコメディー・トーク・ショーを開始。インド人4人からなるクマ-ズ一家に招待されたセレブ・ゲストに、家族全員が質問攻撃をするという内容。最初に放映された2シリーズは高い評価を受け、翌年の国際エミー・ポピュラー・アーツ賞を受賞した。現在、シリーズ6が放映中。

アジア人俳優専門の劇場
タマシャ・シアター

Tamasha
左)98年「Fourteen Songs, Two Weddings and a Funeral」に出演した、パーミンダ・ナーグラ=左
右)映画にもなった「イースト・イズ・イースト」

89年ロンドンを拠点に設立されたタマシャ劇団は、インドや隣国のパキスタン出身者から成るアジア人俳優を専門とし、国内外にて公演を果たしている。古典文学、即興コメディーやミュージカルまで、表現形態にこだわらない活動が特徴的。特に話題になったのは96年上演の「イースト・イズ・イースト」。英国人の妻との間に生まれた7人の子供達をイスラム教の教えに従って育てようとするパキスタン人の父親に対し、子供達がそれぞれに反発し、家庭崩壊寸前までいく様子を描いた。99年には映画化もされている。

このほか代表作は、98年初演、01年に再演されたミュージカル 「Fourteen Songs, Two Weddings and a Funeral」。この作品に出演した若手女優パーミンダ・ナーグラは2代目インド人。後に映画「ベッカムに恋して」に主演、米ドラマ「ER-緊急救命室」に出演するという大出世を遂げている。

世界一の映画産業
ボリウッド

ボリウッド映画とは、ボンバイ(現ムンバイ)と米国の映画産業の中心であるハリウッドから来た造語。ついハリウッドと比較して亜流に思われがちなボリウッドだが、実は世界で年間最多の作品を作り出している巨大な業界なのである。英国では、インド人コミュニティーがある街にボリウッド映画を専門に上映する映画館が存在し、最も商業的に成功を収めているのは西ロンドンのハウンズロー地区フェルタムにあるシネワールド映画館である。

ボリウッド映画の特徴として、「女性の理想は母となること」、また「男性は家族を守ることが使命」、などといった伝統的な倫理観が描かれている点が挙げられる。また、真の愛情で導かれたカップルが、立ちはだかる数々の困難を乗り越えつつハッピーエンドを迎えるというストーリーも多い。

Never Say Goodby8月11日(金)から公開される「カビ・アルビダ・ナー・ケーナ(英語タイトル:ネバー・セイグッバイ)」。それぞれ倦怠期を迎えている2組の夫婦。互いに全く面識のなかった彼らが、ある時、運命の十字路に迷うことに……



番外編・インド亜大陸、バングラデシュ編
小説「ブリック・レーン」 映画化に住民、怒る!

Brick Lane
英国には、インドの隣接国、バングラと呼ばれるバングラデシュ人も多く住んでいる。彼らが経営するレストランが軒を連ねることで知られる東ロンドンのブリック・レーンは、03年にブッカー文学賞候補になった同名小説の舞台でもある。最近この小説が映画化されることになり、実際のブリック・レーンを舞台に撮影する話が進んでいるが、これに対し現地の住人達の怒りが爆発。というのも、この小説はお見合いのためロンドンに送り込まれるバングラデシュ人女性を主人公としているが、その描写がバングラ・コミュニティーを侮辱しているというのが理由。ブリック・レーン・ビジネス協会会長は「作者のモニカ・アリさんはコミュニティーの一員ではない。だから彼女は想像でこの本を書いている。映画制作についても、住人達の許可は得られていない。ブリック・レーンで撮影する権利は何もない。けしからんことだ!」と撮影禁止を訴える意向を示しており、今後の発展が注目される。

英国に見るインドの伝統
結婚と食事情

英国に生まれ、すっかり西洋風の生活になじんでいるかに見える2代目インド人でも、結婚と食に関してはインドの文化を守っている場合が多い。ここでは、結婚と食の面から英国において見ることの出来るインドの伝統を探ってみる。

柔軟になりつつあるインドの結婚事情

インド本国においては、今もって残るカースト制により、身分の異なる者同士の結婚に周囲が眉をひそめる場合もあるという。英国におけるインド人コミュニティーの中でも、確かに出身地や考え方などが似通っている家族同士の結婚を望む伝統派も存在する一方で、若い人の間では自分が選んだ人と結婚したいという、西洋的な考え方も浸透しつつある。

女友達と独身最後のドンちゃん騒ぎ
花嫁と女友達が主役のヘンナ・ナイト

英国には結婚を控えた女性が女友達と独身最後の夜を過ごすヘン・ ナイトという習慣があるが、インドでも似たような「ヘンナ・ナイト」と呼ばれる習慣が。その特徴は、ヘンナという植物から取った染料を用いて花嫁の手足に凝ったデザインを施す、メーンディを行なうこと。 時間が経つにつれ染料が濃く染まり、翌日、挙式の時間には花嫁の手足に美しい模様が際立っているという仕組み。仕上がったデザインは約1~2週間で徐々に消えるそう。

Henna 左)ヘンナで施した繊細なデザインが花嫁の手を彩る
中、左)伝統的な花嫁のドレスは、絢らん豪華な赤とゴールド!
写真提供: www.theindian
weddingcompany.co.uk

英国生まれの「インド」・カレー
チキン・ティカ・マサラ

Chicken Tikka Masala
辛さ控えめで口当たりがマイルドな、チキン・ティカ・マサラ・カレー

英国各地にインド・レストランが点在することからも分かるように、英国人は大のインド・カレー好き。中でも、トマト味をベースにしたチキン・ティカ・カレーは、01年当時の外務大臣、故ロビン・クックによって「もはやチキン・ティカ・カレーは国民的料理となった」と称されたほど英国人の生活に根付いている。この発言の背景には外国の食習慣を英国流に取り込んでしまうという英国人の性格を、この一品の存在が端的に表しているという氏の考えがあった。

しかし、この料理は元々インドには存在しない。50~70年代のある日、英国北部(おそらくグラスゴー)のカレー・レストランで、一人の頑固な客が炭焼きのタンドーリ・チキンに英国の調味料、グレービーをかけるよう注文してきた。対応に困ったシェフが、うっかりキャンベル社のトマト・ソースとスパイス一つまみをチキンにかけてしまったことから誕生した、偶然の産物という説が有力だ。

英国初のインド・レストラン
べーラスワーミー Veeraswamy

スパイス いい香り!料理で使用されるスパイス。
写真はそのごく一部。
写真の上にマウスを当てるとスパイス名が表示されます。
メース カースルー ケイトウを圧縮したもの

1926年、インド人のお姫様と結婚したエドワード・パーマーという英国人男性が、本物のインド料理を英国で味わいたいと企画、誕生したのが高級インド・レストラン「べーラスワーミー」。ロンドンのメイフェア地区の一角に建つこのレストランは今年で開店80周年を記念し、英国に現存する最古のインド料理レストランだ。店内のイメージを一新させるため、去年から改装工事を開始。天井を高くするなど1920年代風の装飾をよみがえらせ、先日オープンした。

このレストランの料理は、クラシックなものや郷土料理を中心に、インド各地から選りすぐりの品を出している。一押しの料理は、ロブスター・マラバー・カレー。ちなみに、チキン・ティカ・マサラは出されていますか? と聞くと、間髪入れずに「ノー」という返事が返ってきた。

Veeraswamy
左)ナツメグの仮種皮を乾燥させたメース。26年の開店当初 から定番メニューの鍋料理、ハイデラバード・ラム・ビリヤーニに使われている。
中)豪華さ満点の店内。奥の壁にはユーモラスな絵画が掛かっている。
右)ターメリック、ココナッツ、マンゴーから作ったソースが絶品! おすすめ料理のロブスター・マラバー・カレー

VEERASWARMY
住所 99 Regent Street London W1B 4RS MAP
TEL 020 7734 1401
営業時間 月~金: 12:30-14:15、17:30-22:30
土〜日: 12:30-14:30、土17:30-22.30、日18:00-22:00
最寄り駅 Piccadilly Circus
Website www.veeraswamy.com

新発見!スパイスががん予防に?
カレー成分と結腸がんの関係

カレーに使われるスパイスと玉ねぎの成分が、結腸がん予防に 役立つ可能性があるとの研究結果が発表された。医学の研究で名高い、米国のジョンズ・ホプキンズ大学の調査チームが、カレーのスパイスであるターメリックに含まれるクルクミンという成分と玉ねぎのクェルセチンという酸化防止成分を組み合せて作った錠剤を、結腸がんになる可能性のあるポリープを発症した患者5人に対し投与。6カ月に及ぶ治験の結果、患者達のポリープの数と大きさが共に著しく減少したことが分かった。今回の発見を裏付けるため、今後さらに大きな規模の治験を行なっていく。
出典: 06年8月1日"Chemicals in Curry and Onions May Help Prevent Colon Cancer"
ジョンズ・ホプキンズ大学、米国
 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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