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Thu, 13 June 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

不動産王トランプ氏が米大統領に―どんな政治を実現させるか

11月8日、米国で大統領選が行われ、共和党候補で不動産王のドナルド・トランプ氏が当選しました。

最後まで接戦となった選挙戦では民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官が投票日時点でもやや有利とされており、大きな番狂わせに多くの人が驚きました。

左派系「ガーディアン」紙のコラムニスト、ジョナサン・フリードランド氏は「米国は最も危険な指導者を選択した」という見出しの記事(9日付)で、トランプ氏は「偏見を持つ人物、性の搾取者、虚言癖がある」と呼んでいます。

確かに、トランプ氏というと人種差別的発言や女性や少数民族への偏見に満ちた暴言が思い浮かびます。北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」とし、西欧諸国では独裁者として受け止められるロシアのプーチン大統領を「オバマ米大統領より良い指導者だ」と誉めるなど、これまでの防衛体制、外交関係を覆すような発言も繰り返してきました。

それでもトランプ氏が選出されたのは、クリントン氏を特権階級の象徴と見なし、既存の政治・金融体制に大きな不満を持つ人々に「米国をもう一度偉大な国にする」というアピールが強く心に響いた結果だと言われています。

……と書くと、何か既視感がありませんか? そう、英国で既存体制に大きな不満を持つ層が本音をぶつけた、6月の国民投票(欧州連合に残留するか、離脱するか)の状況に酷似しています。最後は残留派が勝つと言われていた予測を裏切り、離脱派が勝利しました。

数々の暴言の「霧」の向こうにあるトランプ像とその政策を見てみましょう。

トランプ氏は戦後まもない1946年6月生まれ。生粋のニューヨーカーです。父も同市の不動産開発業者でした。大学卒業後、父の会社を手伝いながら自分も不動産業界で働くようになります。同社の経営権を取得した後は、社名をトランプ社に変えました。米NBCのリアリティー番組「アプレンティス」で一気に知名度を拡大。3回、結婚歴ありです。その資産額は約5000億円とされ、「アメリカン・ドリーム」を実現した人物とも言えるでしょう。

これまでに政府機関に勤めたことはなく、選挙に立候補したこともなかったので、今回の大統領選が初の選挙体験であり、初の政府勤務にもなりますね。

選挙の当選演説で「すべての米国民のための大統領になる」と宣言したトランプ氏。その政策はどうなるのでしょうか。これまでの発言からすると、一言でその政策を表現するなら「米国第一主義」になりそうですね。

貿易ではTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に反対し、離脱の意向を示しています。税制については大規模な改革を計画しており、法人税の引き下げ、所得税の簡素化、相続税の廃止を主張。医療サービスに関しては「オバマケア」(オバマ政権が推進する医療保険制度改革)に反対の姿勢を見せているものの、どのような包括的な選択肢を提供できるのかは示していません。

「イスラム国」(IS)打倒、銃規制強化には反対、不法移民阻止など、まさに米国第一主義を中心とした保守的な政策が実行に移されそうです。日本に対しては駐留米軍の経費負担を求める発言もしており、日米関係にも見直しが求められるかもしれません。

心配なのは「最も醜い大統領選」が終わった今、米国が大きく2つに割れてしまったことです。 クリントン氏を支持した国民の中に失望感が大きく、「トランプ氏を次の大統領に認めない」とする抗議運動が発生しています。選挙中のトランプ氏の差別的発言を受けて、ヘイト・クライムも増えているようです。

ブレグジットもトランプ氏の当選も、いわゆる知識層やエスタブリッシュメントの当初の予想とは逆の結果となりました。なぜ予想が当たらなかったのか、世論調査会社やメディアは改めて考えてみる機会ともなりました。来年1月に大統領に就任するトランプ氏の一挙一動に世界の耳目が集まりそうですね。

 
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