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Fri, 19 April 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

公共サービス放送チャンネル4が民営化へ - 英政府が2023年末までの売却を決定

リアリティー・ショーの元祖「ビッグ・ブラザー」、夕方の報道番組「チャンネル4ニュース」、ドラマ「It's a Sin」、パラリンピックの実況中継など、幅広いジャンルの番組を放送するチャンネル4が民営化されることになりました。「今までは民放ではなかったの?」と不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。

英国では、主要放送局BBC、ITV、チャンネル4、チャンネル5などは「公共サービス放送」のカテゴリーに入ります。純粋に商業的な利益を得ることを目的とするのではなく、公益のために放送サービスを提供する事業体、というわけです。日本では、「公共放送」というとNHKですね。英国ではBBCがNHKの受信料に相当するTVライセンス料を視聴世帯から徴収して活動しており、「公共放送=BBC」という捉え方は理解しやすいですよね。英国では、活動資金がどうやって調達されているかにかかわらず、主な収入源が広告となる放送局も「公共サービス放送・公共放送」の枠組みに入れている、ということです。

さて、チャンネル4ですが、ちょっと変わった事業体構成になっています。ITVとチャンネル5はそれぞれ民間企業が所有、運営しており、「公共サービス放送」であると同時に「民放」でもあります。でも、チャンネル4は政府が所有する非営利組織の形をとります。自前で番組を制作せず、外部の制作会社に委託した番組を放送、配信しています。チャンネル4は1982年、BBCやITVとは異なる視点を提供する放送局として誕生しました。通信法(2003年)によると、チャンネル4の番組は「革新的で、創造性に富み、独特であること、文化的多様性に考慮すること」が求められています。そのため、「It'sa Sin」などの同性愛者への理解が少なかった1980年代に生きた若者たちのドラマ、障がい者スポーツの頂点ともいえるパラリンピック大会の英国内での放送権獲得など、社会の多様性に光を当てる番組が目に付きます。

昨年夏、政府はチャンネル4の将来について意見募集を行い、今年4月上旬、売却を決定しました。メディア環境が激変するなか、「政府所有という形態がネットフリックスやアマゾンなどの大手ストリーミング・サービスとの競争の足かせになっている」が、売却によって「公共サービス放送として長期に繁栄するためのツールと自由を得る」ことになる、とナディーン・ドリス文化相は手放す理由を説明しています。2024年の総選挙前となる来年末までの売却を目指しているそうです。

ところが、売却に反対する声が一気に出てきました。民営化によって商業的な利益の達成の方に比重がかかるようになれば、「別の視点」の番組が制作委託されなくなる懸念があるからです。売却反対派の「ガーディアン」紙は、民営化で番組予算の40~50パーセントが削減され、大きな広告収入が見込めない番組が削減対象になると、60社の制作会社の経営が危なくなると分析しています。

チャンネル4の民営化の試みはこれまでにも何度かあり、最近では2016年、デービッド・キャメロン政権下で検討されました。同7月、上院の調査報告書は、「営利により大きく傾いた経営の下では、チャンネル4の報道番組や映画などの重要なコンテンツの一部が危険にさらされる」と指摘して、民営化には否定的な結論を出しました。当時の担当大臣も報告書の結論に同意を表明していたのですが。今回の売却決定は「メディア環境の激変」だけが理由だったのか、それとも英国の欧州連合(EU)からの離脱を巡って、チャンネル4の報道番組が「反離脱に傾いていた」と主張する一部の与党・保守党議員の反チャンネル4感情が根底にあるのでしょうか。さまざまな憶測が出ています。売却先にITVや米ディスカバリーの名前が挙がっていますが、どうなることでしょう。

キーワード

チャンネル4(Channel 4)

1982年に開局した公共サービス放送(Public Service Broadcaster)。22年開局のBBC、55年のITVに続いて発足した。番組の制作を約300社の独立系制作会社に委託。複数の有料チャンネル、映画チャンネルも持つ。オンデマンド・サービスは「All 4」。英国の人口の約4分の3がチャンネル4のいずれかのサービスに毎週アクセスする。年間収入は約10億ポンド(約1630億円)。

 
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