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Tue, 29 November 2022

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

トラス新政権課題山積みでいよいよ船出 - 物価高対策、対EU外交策などでの手腕、問われる

9月6日、ようやく英国の新しい首相(Prime Minister)が誕生しました。前日、与党保守党の党首選出決勝戦でリズ・トラス前外相は保守党員による投票の約57パーセントを獲得し、対抗馬のリシ・スナク元財務相を破りました。翌日、スコットランドのバルモラル城でエリザベス女王*から新首相に任命されたのです。英国で女性が首相になるのは、故マーガレット・サッチャー氏(在職1979~90年)、テリーザ・メイ氏(同2016~19年)に次いで3人目です。

トラス氏は1975年7月、イングランド東部オックスフォード生まれの47歳。父は数学の教授、母は看護婦で核兵器禁止運動(CND)のメンバーだったそうです。トラス氏はオックスフォード大学マートン・カレッジでPPE(哲学・政治学・経済学)を専攻しました。在学中から政治活動に力を入れ、自由民主党学生支部の議長となって、1994年に開催された党大会で演説しています。このとき、王室廃止を訴えました。96年に「個人の自由を重んじる」保守党に鞍替えし、大学を卒業すると、複数の民間企業で会計士として働き、このときに知り合ったヒュー・オリアリー氏と2000年に結婚。2人の娘をもうけます。01年と05年、保守党候補として総選挙に出馬しますが、落選。めげずに06年、ロンドン・グリニッチの評議員となり、08年からは中道右派のシンクタンク「リフォーム」で働きます。2010年、当時の保守党党首デービッド・キャメロン氏が女性議員を増やすために女性だけの候補者リスト(「A リスト」)を作成し、トラス氏はイングランド東部サウス・ウェスト・ノーフォーク選挙区の党公認候補となりました。ところが、過去に既婚男性の保守党議員と不倫をしていたことが発覚。それでも次点と1万3000票の差を付けて勝利をものにしました。12年、キャメロン政権で教育担当の閣外相になり、14年には環境相として入閣を果たしました。このとき、保守党党大会で英国がチーズ消費が輸入に依存していることは恥だと熱意をもって演説するのですが、間の取り方が悪く失笑を買うようになります。

16年、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票では残留を支持しましたが、離脱派が勝利すると、離脱支持に転換。メイ政権では女性として初の大法官、法相を務め、19年7月発足のジョンソン政権では国際貿易相、そして外相にまで上りつめました。対ロシアへの強硬路線を明確にし、次第に存在感を高めていきます。

党首選の当初は、スナク氏が最も人気がありました。潮目が変わってくるのは、スナク氏との決戦でトラス氏が「小さな政府」を志向する保守党員にアピールする減税実現を強調したことでした。一方、スナク氏はジョンソン氏のパーティー疑惑を巡って辞任しており、これが引き金となってジョンソン氏の辞任表明につながりましたよね。スナク氏は党員の間で人気が高いジョンソン氏を「裏切った人物」として負のイメージが広がりました。党首選ではサッチャー氏を思わせる減税提案のほかにジョンソン政権の後継者という要素が勝利につながりました。

首相就任演説で国民と「ともに嵐を乗り切る」と宣言したトラス氏は、8日、急騰する光熱費による生活やビジネスへの打撃を緩和するため、大胆な対処策を発表しました。新たに「エネルギー価格保証」という仕組みを導入し、これによって家計が負担する光熱費の上限を年間2500ポンド(約41万円)に抑制するようにします。現行では10月から光熱費は平均80パーセント引き上げされ、年間で平均3500ポンド相当になる見込みでした。全家庭を対象とし、今後2年間採用されます。ビジネスにも同様の仕組みが今後半年間導入されるそうです。「まだ十分ではない」という声が出ましたが、政府の負債が膨張することへの懸念もあります。トラス政権と右肩上がりの光熱費との戦いは始まったばかりです。

*エリザベス女王は9月8日に逝去されました

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Prime Minister(首相)

英国の政治の最高責任者で、閣議の議長を務める。最初の首相は18世紀の政治家ロバート・ウォルポールといわれている。当時は「第一大蔵卿」と呼ばれたが、18世紀後半までに閣僚の中の「首席」を表すように。総選挙で下院の過半数の議席を獲得した政党党首が君主に任命される。ロンドンのダウニング街10番地に首相官邸があり、英南東部バッキンガムシャーの別荘「チェッカーズ」も提供される。

 
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