ジュニア・ドクターはなぜスト決行?大きな賃金増額を要求 - 35万件の外来予約や手術に影響
4月11日、イングランドのジュニア・ドクター(Junior Doctors)たちが、35パーセントの賃上げを求めて4日間のストを開始しました。35パーセントとはぎょっとするような高い数字です。英国医師会(BMA)によると、過去15年間にわたって賃金上昇率がインフレ率を下回り、給与が実質26パーセント減少したため、要求額がこのような数字になったそうです。政府は「非現実的な数字」としています。ジュニア・ドクターによるストは、今年は3月13~15日に続く2回目です。このときは17万5000件の外来予約や手術が再調整されました。今回のストでは、35万件もの予約・手術に影響を与えたといわれています。
3年以上の臨床研修を終え、より経験豊かな医師とともにフルタイムで働くジュニア・ドクターは、イングランドでは7万5000人に上ります(昨年9月時点、慈善組織「ナフィールド財団」調べ)。この中の約47パーセントが英国以外の国籍を持つ人でした。国民医療制度(NHS)の調査によると、イングランドでは、昨年6月時点で医師を含むNHS全体の人手不足が13万人に達しています。人手不足などによる職場の忙しさで燃え尽き症候群に悩むジュニア・ドクターが増えているそうです(慈善組織「医学総会議」(GMC)の調査)。昨年時点で5人に1人のジュニア・ドクターがこれに苦しみ、救急部門では3人に1人にまで増えていました。疲れ切ったジュニア・ドクターが業界を去ってしまうと、ますます医師不足に拍車をかけることになりそうです。
人手不足はNHS全体で広がっています。2月時点で、緊急外来で訪れた患者が4時間以内に医療サービスを受けられる目標を達成できたのは72パーセント。すぐにでも処置が施されないと生死にかかわる人に、救急車が到着する時間は8分30秒でした。心臓発作を起こした人への到着時間は32分強で、昨年12月時点ではこれが90分まで伸びたそうです。
ストの達成項目である給与の状況はどうでしょうか。フルタイムで働くジュニア・ドクターの基礎給与は、イングランドの場合、研修1年目で年間2万9384ポンド(約486万円)、2年目は3万4012ポンド(約563万円)。初年の給与は大学卒の初任給約2万4000ポンド(約397万円)を少し上回るだけです。でも、その後は増加し、昨年3月時点でフルタイムおよびパートタイムのジュニア・ドクターの平均給与は5万5420ポンド(約917万円)に達しています。また、臨床現場で数年の経験を積んだジュニア・ドクターは「コンサルタント」という資格を得ます。ここまでくると、年間給与は10万ポンド(約1645万円)を超えるようになります。
BMAによる給与が「実質26パーセント下落した」についてですが、BMAはインフレ率の計算に、消費者が購入した物・サービスの価格動向を示す「小売物価指数」(RPI)を用いています。しかし一方で国家統計局が推奨しているのは、同局が設定した生活必需品項目の平均価格に基づく、「消費者物価指数」(CPI)です。RPIの対象項目にはカウンシル・タックスや住宅ローンの支払い額も含まれ、住宅価格や金利によって左右され、CPIよりも大きなインフレ率になることが多いのです。CPIを使った計算では実質16パーセントの下落となりました。
ストに対する市民の支持はどうでしょうか。世論調査会社IPSOSの調査では、今回のストの支持者は1092人中54パーセントを占めましたが、26パーセントは反対でした。昨年12月以降の同様の調査では、看護婦によるストおよび救急職員によるストへの支持率は60パーセントでしたので、これよりは少し低い支持率です。スティーブ・バークレー保健相は英医師会に対し「35パーセントの値上げ率は不合理」とし、この部分を撤回し、ストを停止して交渉を始めるよう呼び掛けています。
ジュニア・ドクター(Junior Doctors)
医師になるために医学生として5年間の学部課程または4年間の大学院課程と臨床実習を終え、より経験の長い医師(シニア・ドクター)の監督下で医療行為に従事する医師を指す。医療経験と年数によって六つの段階がある。最長8年間の臨床実務の後、専門分野を持つ医師「コンサルタント」に昇格する。