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Thu, 28 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

ささやかれる連立政権の可能性 - 地方選で労働党圧勝したものの、まだ不十分?

先月末、広島で開催されたG7先進国首脳会議に出席したリシ・スナク首相は、お好み焼き作りに参加したり、岸田首相に広島カープのロゴが入った赤い靴下を見せたりなどのパフォーマンスで、日本では人気沸騰となったそうです。

ただ、英国内では真面目で実務的な首相として評価されているものの、党首となる与党保守党の支持率は最大野党労働党に大きく水をあけられています。調査会社「ユーガブ」によると、総選挙でどの党に投票するかと聞かれたとき、労働党と答えた人は43パーセントですが、保守党は25パーセント(5月17~18日調査)。ここのところの調査で、約20パーセントの差が数カ月続いています。5月4日にはロンドンを除くイングランドの230の地方自治体で地元議会の選挙があったのですが、保守党は1063議席を失って総議席数が2296となり、逆に労働党は537議席増の2675議席。労働党は地方議会の最大政党となりました。自由民主党も407議席増の1628議席となり、好調の結果を出しました。

次の総選挙は2025年1月24日以前に実施することになっていますが、もし地方選挙のパターンが繰り返された場合、プリマス大学の教授らは労働党が650議席中298議席を獲得して勝利すると予測しています。でも、この議席数では過半数となる326議席には足りません。少数単独政権になると議会で法案を通しにくくなります。そこで浮上したのが、ほかの政党と共に発足する「連立(coalition)政権」の可能性です。労働党が自民党とあるいは保守党が自民党と連立政権を構成するという案が報道されましたが、今のところ、各党はその可能性を否定しています。選挙前に連立を組む意思を明らかにすると、自党の得票が減少すると考えて、否定したのかもしれません。


英国は長年、二つの主要政党のいずれかが政権を担当する体制を取ってきました。総選挙で最大議席数を獲得した政党が政権を発足させます。過半数の議席を維持できずに連立を組まなければならかったことも何度かあります。最近の例は2010~16年の保守党と自民党による連立政権でした。10年の総選挙では、デービッド・キャメロン氏が率いる保守党が307議席、首相だったゴードン・ブラウン氏の労働党が258議席、ニック・クレッグ氏の自民党が52議席で、どの党も過半数に達しない、「宙ぶらりんの議会」(ハング・パーラメント)となりました。このときは保守党と自民党による連立政権が発足しましたが、政党側も国民も連立政権に慣れておらず、政権発足前、両党は覚書を作成して政策の調整を図りました。

保守・自民の連立政権でジュニア・パートナー的存在となった自民党は、選挙前の公約で大学の学費値上げに反対していましたが、キャメロン政権は値上げを決定。核兵器システム「トライデント」の縮小更新や選挙制度改革も実現できず、2015年の総選挙では大敗してしまいました。クレッグ氏は党首を辞任し、17年の総選挙では落選の憂き目にあいます。現在の自民党はエド・デイビー党首のもと、次第に支持者を増やしつつありますが、失った信頼感を回復させるまでには数年を費やしたのです。


一方、キャメロン首相の後を継いだのが、2016年7月から19年7月まで在任したテリーザ・メイ首相でした。17年の総選挙で過半数を失い、少数単独政権を発足させるのですが、英国の欧州連合(EU)からの離脱関連法案を通すため、北アイルランドに拠点を置く、プロテスタント系政党・民主統一党(DUP)から閣外協力を得る調整をしました。EUからの離脱という大きな変化を実現するためのカギを、当時は下院に10議席しか持っていない政党に委ねることになりました。それでもEU側との交渉を続けるとともに離脱関連の法案を通すのは困難で、とうとうメイ首相は辞任せざるを得なくなりました。

キーワード

Coalition(連立)

複数の政党が共に政権を担当する形を指す。総選挙後、一つの政党が下院で過半数議席を獲得しなかった場合、①選挙前の首相が少数単独内閣を作る、②ほかの政党と交渉の上で連立内閣を構成する、③辞任して最大議席を持つ野党に政権運営を任せるという選択肢がある。1974年2月の総選挙ではどの政党も過半数を取れず、与党保守党と自由党の連立交渉が失敗した後、労働党が政権を担った。

 
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