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Sat, 24 February 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

8月中旬、英国が世界に誇る大英博物館(The British Museum)で、所蔵物の盗難事件が発生していたことが分かりました。18世紀半ば、医師ハンス・スローン卿の収集物を基に設立された大英博物館には、世界中から年間約600万人が訪れます。特別展示を除き入場料は無料ですので、気軽に中に入って文化財を鑑賞することができます。皆さんも1度、いや何度も訪れたことがあるかと思います。常に大勢の訪問者がいますので、盗難事件発生の話を聞いて「100パーセントの防止は無理なのではないか」と思ったのですが、このときは公開中の展示品が被害に遭ったと想像していました。ところが、盗難された約2000点の大半は最近展示されたものではなく、主として学術・研究目的で保管されていたものだったと知って、驚きました。一般訪問客の手の届かないところにあった、非展示の所蔵品だったのです。


大英博物館によると、盗難や破損対象となったのは紀元前15世紀から紀元19世紀までの装飾品、宝石類、ガラス製品など。博物館は関与が疑われた職員1人を解雇しました。現在、ロンドン警視庁の経済犯罪部が捜査を進めているところです。

英メディアの報道によると、古美術商イッタイ・グレイデル氏が大英博物館所有のローマ時代の装身具の一部がオンライン上で売りに出されていることを発見し、2021年2月、博物館側に連絡を取りました。同7月、副館長はメールで「徹底した調査の上、コレクションは守られている」と返答し、紛失・盗難を認めませんでした。装身具を売りに出していた人物にグレイデル氏が連絡を取ると、「博物館に返した」とのこと。そこで博物館の理事会に確認のメールを送るのですが、昨年10月、ハルトビッヒ・フィッシャー館長が理事の1人に向けてのメールの中で「不正はなかった」、グレイデル氏が指摘した所蔵物は「コレクションの中にある」「疑惑を裏付ける証拠はない」と答えていたことが分かりました。同館のジョージ・オズボーン理事長はこの時点でガイデル氏の警告を知り、今年1月、同氏に連絡を取って警告を真摯に受け止めていると伝えました。グレイデル氏の最初のメールから2年近く経っています。少なくとも22年10月時点でなぜ館長がコレクションの中にあると言えたのか、疑問が残ります。


大英博物館のコレクションは約800万点に上り、2019年以降、公開されているのは約8万点で、そのほとんどが保管状態にあるようです。また、オズボーン理事長がBBCに語ったところによりますと、全ての品目が「適切に目録化され、登録されているわけではない」そうです。ただし、大規模なコレクションを持つ博物館で、所蔵品の全てを目録化していないことは、世界的に珍しいことではないとのことです。それでも、博物館側がどんなものがあったのかを把握していないとすると、何が紛失し盗難されたのかを見つけ出すことも困難なのではないでしょうか。

フィッシャー館長は来年退職するはずでしたが、事件の責任を取って辞職を表明。代行館長が決定次第、辞任予定です。当初の懸念を真剣に受け止めなかった理由として、オズボーン氏は事実を隠ぺいしたのではなく、「内部の人間による盗難ではない」という集団的思考があった可能性を指摘しています。警視庁の捜査に加え、博物館内部でも元理事と英交通警察の警察署長が中心となって、なぜこのような事態が発生したのかを調査し、今後のセキュリティー対策について検討する委員会が設置されました。コレクションが膨大であることや、一般公開されていない収蔵品であれば、紛失・盗難があってもすぐには分からないなどの盲点を突いた犯罪が発生したのは、大変残念です。何らかの形で職員の協力があったと考えるのは自然ではないでしょうか。消えた所蔵品の追跡とともに、同館の人事管理の見直しも必要かもしれません。

キーワード

The British Museum(大英博物館)

1753年、世界最初の公的博物館として発足。開館は59年。王立協会会長で医師のハンス・スローン卿(1660~1753年)は生涯をかけて膨大な量の希少品、書籍や写本、硬貨やメダルを収集した。死後は自分のコレクションを議会に贈呈すると遺言に書き、ジョージ2世の蔵書なども含めて大英博物館が誕生した。

 
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