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Fri, 29 March 2024

知って楽しい建築ウンチク
藍谷鋼一郎

エジプト建築

神秘に満ち溢れる国、エジプト。そこでは古王国時代に築かれたピラミッドや神殿建築が、当時の建築技術の高さを現在に伝えている。蘇生を信じた古代エジプトのファラオたちはミイラとなり、蘇るまでの仮の住まいとして、莫大な秘宝と共にピラミッドに埋葬された。

タワーの起源

太陽神の象徴、オベリスク
太陽神の象徴、オベリスク

西洋建築の起源はギリシャ建築とローマ建築にさかのぼり、その時代に発達したスタイルが変遷(へんせん)を遂げ、現在の建築様式に至っていると言える。しかし、さらに歴史をさかのぼれば、無視できない存在としてエジプト建築が挙げられる。シーザーとクレオパトラの古代エジプト時代、また、18世紀のナポレオンのエジプト遠征など、エジプト建築はことあるごとに西欧へ持ち込まれ、その技術と芸術性の高さで西洋人を驚かせた。

また、1本の巨大な柱を建てることにより、場所性や空間の秩序付けに効果をもたらす建築要素、いわゆる「タワー」の起源はエジプトにある。この一本柱は「オベリスク」と呼ばれ、欧米の至るところで見ることが出来る。パリのコンコルド広場やニューヨークのセントラル・パーク、ロンドンではテムズ河畔のエンバンクメントに建つ「クレオパトラの針」がそれである。

もともとは太陽神のシンボルとして、または王の権威の象徴として作られていたオベリスクだが、その象徴性により西欧人の強い興味をそそり、都市の中心的な広場の中央に据え付けられることになった。残念ながら西欧の町にそびえるオベリスクのほとんどは、エジプト建築の影響というよりは、むしろはるばるエジプトから持ち帰られた盗品のコレクションである。

パピルスを模した柱頭
パピルスを模した柱頭(左)テラス上の形態が特徴的なハトシェプスト女王葬祭殿(右)

エジプト建築の象徴性

代表的なエジプト建築である四角錐のピラミッド
代表的なエジプト建築である四角錐のピラミッド

エジプト建築の要素には、永久性への追求が挙げられる。住居としてよりは、むしろ王の権威や神秘性を高める宗教的要素が重んじられ、それ故にシンメトリー(左右対称性)や、一本の長い軸により連続的に空間に秩序付けする方法が発達した。左右対称と軸性による建築造形は、エジプト建築の真骨頂と言える。

例えば、パリにあるルーブル美術館のガラスのピラミッドは、単に美しいだけでなく、何か謎めいた古(いにしえ)、あるいは美と知の世界へ人々を誘う象徴的な入口として機能している。内部空間よりも彫刻的な造形、外部空間の構成にこそ、エジプト建築の特徴を見出すことができるのだ。

古代エジプトの不可思議な技術

ルーブル美術館前にあるガラスのピラミッド
ルーブル美術館前にあるガラスのピラミッド

アフリカ大陸を北流するナイル河は、砂漠で覆われる古代エジプトに、文明の息吹をもたらした。その母なる河ナイルを境界に、古代エジプトでは、太陽が昇る東域を「生者が住まう場所」、そして太陽が沈む西域を「死者が眠る場所」として位置付けていた。その証拠に、ピラミッドや墓地はすべてナイル河の西方に建設されている。数学や天文学に関し高度な知識を持っていた古代エジプト人は、現代の技術でも難解な建造物を数多く残している。4000年もの昔に、ほとんど狂いなく100メートルをゆうに超える構造物を築いていたのだから。

 
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藍谷鋼一郎:九州大学大学院特任准教授、建築家。1968年徳島県生まれ。九州大学卒、バージニア工科大学大学院修了。ボストンのTDG, Skidmore, Owings & Merrill, LLP(SOM)のサンフランシスコ事務所及びロンドン事務所で勤務後、13年ぶりに日本に帰国。写真撮影を趣味とし、世界中の街や建築物を記録し、新聞・雑誌に寄稿している。
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