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Fri, 19 April 2024

育自の時間。親と子を育てる英国の学校

2002年に画家の夫とともに当時7歳の息子を連れてイングランド南西部コッツウォルズ郊外に移住。現地の小学校から大学受験までを実体験した母親の目から英国教育を見つめます。


第25回「モンスター・ペアレント」になる

「モンスター・ペアレント」とは、言うまでもなく、学校や担任の先生に対して自己中心的かつ理不尽な要求をする親のこと。そうした意味合いとはかなり異なるかもしれませんが、ここ英国では、親も「モンスター」になった気持ちで心を強くして、学校に抗議しなければならない場面に出くわすことが多々あります。

実はこの「モンスターになる心得」を私に指南してくれたのは、息子が現地の小学校に通っていたころの英国人のママ友でした。彼女はもともとロンドンの出版社で百科事典の編集者もしていたというインテリ。4人の子供を持ち、上の子は既に英国の名門大学へ通っていました。

彼女いわく「子供がセカンダリーへ上がったら、何を勉強しているか、授業を理解しているかなど、ちゃんと探らないとダメよ! それと、心配ごとや疑問を持ったときは遠慮なく校長や担任に問い合わせること。そうしないと、親が気付いたときは既に手遅れになっていることが多いのよ」。実例を交えた先輩ママの話には、とても説得力がありました。

実際、息子の場合も小学校のときにはあり得なかった外国人差別的なことなど、様々な問題が起こりましたが、その都度、臆することなく校長も巻き込んで状況を把握し、改善に努めたことがありました。

普段は穏やかで大らかなお母さんも、「言うときは言う」のが英国流。学校や先生にとっては頭の痛いことでしょうが、日本に比べシビアな学歴社会、格差社会の英国、ましてやマイノリティーである立場においては、とても大切な心得だと実感しました。

実はこうした過干渉ぎみの親を称して英国では「ヘリコプター・ペアレント」と呼んでいます。子供をヘリコプターのごとく、頭上から常に見張っていることを揶揄(やゆ)しているのです。

私がこの「ヘリコプター・ペアレント」という言葉を初めて耳にしたのは、ロンドンの大学の教育学部で専門課程として行われていたボーディング・マネージメントに関する講義の最中でした。公立校に限らず、パブリック・スクールを始めとした私立校などでも、たとえ寮生であれ常に親とインターネットなどで繋がる時代になり、このヘリコプター度が増しているため、近年では子供を預かる学校側にとって大きな問題となっているのだとか。しかしながら裏を返せば、英国の教育熱心な親ほど、子供への干渉度は大きいというのが現実なのです。

14、15歳から既に大学受験に向けてのステップが始まり、更に学校の授業がその結果に直結する状況を鑑みれば、まだ幼さが残る我が子を正しい方向へ導くことも、大切な親の役目の一つと言えるでしょう。

大学受験に役立つ義務教育修了試験(GCSE)主要科目

Mathematics and Further Mathematics:数学 & 上級数学
English (Literature):英語(英文学)
Physics:物理
Biology:生物学
Chemistry:化学
Geography:地理
History:歴史
Languages(Classical and Modern):言語(古典 & 現代)

英国のみならず、欧米や日本の大学受験の際にも上記の科目は重要。
詳しくは下記サイトなどをご参考に
www.studentladder.co.uk/Soft-Subjects/soft-subjects.html

 
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小野まり小野まり NPO法人ナショナル・トラストサポートセンター代表。2002年、画家で夫の小野たくまさ氏とともに当時7歳の一人息子を連れコッツウォルズ郊外へ移住。現地の小・中・高等学校、大学受験を母親の立場として体験。教育関連の連載エッセイやナショナル・トラスト関連の著書多数。最新刊に「図説 英国ナショナル・トラスト (河出書房新社)」がある。
英国王室流教育の極意: エリザベス女王からジョージ王子まで(河出書房新社)英国王室流教育の極意ビクトリア女王からジョージ王子まで、英国王室の子育てや教育を語る一冊。憧れのプリンス、プリンセスが受けた教育とは? 英国のパブリック・スクールや筆者が体験した公立校の教育システム及びその現状が網羅されている。
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