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Sat, 07 December 2024
ティム・クラークさん注目を集める大英博物館
「春画展」のキュレーター
ティム・クラークさん

[ 前編 ] 江戸時代を生きる庶民たちの間で流行したという、性行為の様子などを赤裸々に描いた「春画」。この春画を集めた展示会が大英博物館で開催されることになり、公開前から早くも大きな注目を集めている。過激な内容をめぐって論争を呼びそうなこの展示会を実現させた大英博物館のキュレーターの素顔とは。
プロフィール
ていむくらーく - 1959年生まれ、イングランド東部ハートフォードシャー出身。米ハーバード大学の博士課程で日本史を研究した後、学習院大学に研究生として留学。1987年に大英博物館の職員となり、2003年より現職である大英博物館アジア局日本部門長に。10月初旬より大英博物館で公開される春画展のキュレーターを務めるほか、浮世絵をテーマとした著書なども発表している。

Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art
10月3日~2014年1月5日 £7
10:00-17:30(金は20:30まで)
The British Museum
Great Russell Street, London WC1B 3DG
www.britishmuseum.org

 

「衝撃の展覧会」のキュレーター

2匹の蛸(たこ)と性交渉を行う女性、女装してコトに及ぶ同性愛者たち、性のテクニックについての指導を行う売春宿の風景、そしてホトトギスが飛ぶ空の下で情交に勤しむ夫婦。有害指定図書の漫画や、インターネットの成人向けサイトにおける話ではない。世界で最も権威のある史料館の一つとされる、大英博物館の展示内容なのである。

「描かれた内容があまりに過激であるとして、これらのコレクションは1960年代まで『秘密』を意味するラテン語『シクレターム』と名付けられた大英博物館内の一室に保管されていました」とよどみなく話すティム・クラークさんは、かつて江戸時代の日本で流行したという、性風俗を描いた浮世絵の一種である「春画」特別展のキュレーター。その名も「春画――日本美術における性とたのしみ」と題された展示会は、10月初旬に控えた一般公開日前から、英各紙に「英国の歴史上で最もわいせつな展示会となるか?」「日本の遊女と会えます。17歳以上ならば」といった扇動的な見出しとともに取り上げられている。

大英博物館 外観
世界中の観光客が訪れる大英博物館

確かに、古代エジプト語を解読する糸口になったという「ロゼッタ・ストーン」や、古代ギリシャのパルテノン神殿の一部を丸ごと切り取って展示品とした「エルギン・マーブル」などの世界遺産が陳列されたあの大英博物館で春画展が開催されるとなれば、話題を集めるのは当然だろう。「葛飾北斎が、喜多川歌麿が描いた。アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックが、パブロ・ピカソが蒐集した。ときにユーモアが垣間見える、性的に露骨で、かつ美しい絵画。私は、春画とは素晴らしい芸術だと思います。あなたはどう思いますか」。

着物が乱れている男女が横たわっている浮世絵
大英博物館の春画展で展示される喜多川歌麿の春画作品

世界に春画ブーム到来か

庶民の大衆的な娯楽に過ぎなかった浮世絵が、欧州のとりわけ印象派画家たちによって「ジャポニズム」としての芸術的な評価を得たというのはよく聞かれる話である。現代においても、国内と海外では全く違った評価を受ける日本の芸術やエンターテインメントというのは決して珍しくない。子供が楽しむものと認知されていた漫画やアニメが海外の芸術家たちを魅了し、オタク文化の象徴とされるアイドル・ソングが欧州では「クール」と受け取られていたりする。春画も然り。例えば、「蛸と海女」と名付けられたグロテスクな内容の春画は葛飾北斎が描いたもので、19世紀後半にフランスの美術批評家エドモン・ド・ゴンクールが紹介して以来、欧州の美術界では広く知られてきた作品なのだという。

皮肉なことに、まさにその19世紀ごろから日本では春画がタブー視され始めた。クラークさんによると、春画を扱った研究書などが多数出版されるなどの形でこの状況に変化の兆しが見られるようになったのは、せいぜいここ数十年のこと。今回は日本の第一人者を含む約30人が協力し合い、世界中の春画コレクションを対象とした膨大なリサーチを行った。「春画展になぜ日本が主体的に関わらないのかと訝しむ声がありますが、それは違います。日本からの全面的な協力を得られたからこそ実現したプロジェクトなのです。英国で好評を得て、日本でもこれらのコレクションが発表される機会につながればいいと思います」。

実際、大英博物館における特別展の開催期間と前後して、英国内では複数の春画展が開かれる予定となっている。これらの展示会の評判によっては、世界で今後ちょっとした「春画ブーム」が起きることになるかもしれないのだ。

 

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