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Fri, 29 March 2024
レイコ・カネコ日英文化を内包する陶磁器をつくり出す
プロダクト・デザイナー
レイコ・カネコさん

[ 前編 ] 日本の折り紙を彷彿させるフォルムが美しい小皿、竹をモチーフにデザインされた花瓶や酒器など、白亜のボーンチャイナを自由自在にデザインするレイコさんの作品の多くには、英国的な気高さと日本の「民芸」的な手のぬくもりが同居する。2つの文化をシームレスに融合させるレイコさんの創造性の源を追う。 全2回の前編。
プロフィール
レイコ・カネコ - 英国人の母と日本人の父を持つ。英国に生まれるが、生後直後から父の実家、福島県郡山市で育つ。父の逝去に伴い8歳のときに英国に移住。名門セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインでアート & デザインを学び、2005年に卒業。07年、ロンドン東部にデザイン・スタジオをオープンし、自らのブランド「レイコ・カネコ」を立ち上げる。その後は英国の伝統的な磁器ボーンチャイナをベースに、機能美あふれるフォルムとウイットに富んだデザインが特徴のホームウェアを次々に発表し、デザイン業界で大きな注目を浴びる。現在は英中部ストーク・オン・トレントにアトリエを移し、創作活動を続けている。
www.reikokaneko.co.uk

 

ボーンチャイナに魅せられて

英中部に位置するストーク・オン・トレントと言えば、英国の陶器産業のメッカであり、英王室御用達窯として日本でも広く知られる「ウェッジウッド」や「ロイヤルドルトン」など錚々(そうそう)たる高級陶磁器ブランドの工場が集まる小さな町。通称「ポッタリーズ(The Potteries)」と呼ばれているこの地に、今、デザイン業界で大きな注目を浴びるプロダクト・デザイナー、レイコ・カネコさんがスタジオを構えたのは2年前のこと。「それまでは、ロンドン東部のダルストンにあるスタジオでデザイン活動をしながら、必要に応じてストーク・オン・トレントに通っていましたが、2012年の夏、思い切って創作とビジネスの拠点を移しました。新しい陶磁器を開発するには、根気と長い時間がかかります。また、私の作品の根幹とも言えるボーンチャイナを使った作品をデザインすればするほど、その原点である陶磁器全体を本格的に勉強したくなったんです。実際に窯の近くで生活し、熟練された職人さんと密に仕事をすることで、大きなインスピレーションを得ていると思います」とレイコさんは語る。

ストーク・オン・トレントのスタジオで作業するレイコさん
ストーク・オン・トレントのスタジオで作業するレイコさん

自然光がさんさんと降り注ぐ、ストーク・オン・トレントの広々としたアトリエには、レイコさんの作品が至るところにディスプレイされている。無駄を削ぎ落としたシンプルなラインを持ちながら、作り手の温かみが感じられるプレート、 コンセプチュアルなフォームにさりげないエスプリが宿り、作品を見ているだけでも笑みがこぼれてしまうコーヒー・カップなど。竹をモチーフにしたり、折り紙やコマを彷彿させる日本的なデザインなども見られるのは、レイコさんが少女時代の8年間を父親の故郷である日本で過ごした際に吸収した、日本文化の年輪に起因するのだろう。

日本と英国、二つ文化を自然に持つ

 「福島県郡山の小さな田舎で、普通の日本人と同様に過ごしました。ランドセルを背負って小学校に行き、給食を食べて、友達と遊んで……。でも8歳で英国に帰ってきたので、赤いランドセルを使ったのは2年ほど。いまだにピカピカのランドセルが家にあります」と明るく笑うレイコさん。英国人のお母さんは、駐日英国大使館で働いていたときにレイコさんのお父さんと出会い、結婚して郡山に住み始めた。「小さいころからアーティストになりたかった。子供向けのゴッホの本が大好きでした。いつか必ずアートを勉強したいと思いながらも、ゴッホのように常軌を逸するアーティストにはなるまいと思っていたことを、今でも覚えています」。

そんなある日、思いもよらない悲劇がレイコさんの家族を襲った。レイコさんが6歳のとき、大好きだったお父さんが、脳腫瘍で倒れ、帰らぬ人となったのだ。梱包関係の会社を経営していたお父さんは、いつも何かを作っていて、1円玉で立派な兜かぶとをつくってしまうようなユニークな人だったという。「私のアート好きは、お父さんから受け継がれたものだったのでしょう」。その後、レイコさんのお母さんは、レイコさんと2人の息子を連れて英国に帰国。いきなり英語の世界に戻され戸惑ったというが、それ以降は英国文化がレイコさんのアーティストとしての感性を育んでいった。

ボーンチャイナにシルクスクリーンを施したブランドの代表作
ボーンチャイナにシルクスクリーンを施したブランドの代表作

レイコさんはその後、セントラル・セント・マーチンズ・カレッジでアート & デザインを学び、特に彫刻を含む3Dデザインに多大なる興味を持った。大学を卒業してからも、パートタイムで働く傍、プロダクト・デザイン活動を続けて作品を発表し、ボーンチャイナでつくったクリスマス用のデコレーションがデザイン業界で高い評価を得た。このボーンチャイナとの出会いが、レイコさんのその後のデザイナー人生を大きく変えることになる。

 
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