ニュースダイジェストの制作業務
Fri, 02 May 2025
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2025年5月23日(金)ロンドン 和太鼓ソロ公演

和太鼓・新時代の幕開け
無限の可能性に挑む
和太鼓奏者 TAKUYAさん インタビュー <前編>

和太鼓奏者、TAKUYAさん

5月23日(金)、ドイツ在住の和太鼓奏者のTAKUYAさんが英国デビュー公演をする。ロンドンではこれまで数々の和太鼓グループがパフォーマンスを行ってきたが、ソリストとしてのパフォーマンスはTAKUYAさんが初めてだ。日本人なら誰しもが和太鼓といえばグループでの演奏というイメージを持っていることが多いが、TAKUYAさんは和太鼓を「オーケストラの演奏ともよく合う」繊細な音が出せる楽器だと表現する。これまでの伝統的なイメージが良い意味で一蹴されることを願い、その可能性が無限であることをさらに人々に知ってもらうため、TAKUYAさんはドイツを拠点に日々精進している。本インタビューでは、舞台上での雄々しい姿とは異なる、温厚で柔和なTAKUYAさんの素顔や、「和太鼓を打つために生まれてきた」、といっても過言ではない和太鼓への熱い思いについて、2号に分けて紹介する。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

Information

Takuya Taniguchi: The Taikoist 2025年5月23日(金)
19:30~20:50(休憩なし)
£10~40(手数料別)
主催: Mu:Arts, Kings Place
助成: Great Britain Sasakawa Foundation
演出: JUMPEITAINAKA

Kings Place
90 York Way, London N1 9AG
Tel: 020 7520 1440
King’s Cross駅
www.kingsplace.co.uk/whats-on/contemporary/takuya-taniguchi-the-taikoist/

Profile

Takuya Taniguchi
谷口卓也

和太鼓奏者、TAKUYAさん

1983年生まれ。福井県出身で現在はドイツのミュンヘンに在住。3歳から和太鼓を始め、99年に「天龍太鼓」の指導者となる。2003年、和太鼓の第一人者、林英哲の主宰する「英哲風雲の会」のオーディションに合格し、プロ・デビュー。11年に渡独。プロ活動開始から訪れた国の数は24を超える。
https://taiko-ist-takuya.jp/en

2024年4月ブリッジ・オーケストラとの共演2024年4月ブリッジ・オーケストラとの共演

ソリストとしての意識

─ グループで演奏するイメージが和太鼓にはあるのですが、ソリストとして活躍するにはどんな素質が求められるのでしょうか。

僕は「Taikoist」(タイコイスト)として日々活動しています。この名義はピアニスト、ヴァイオリニストのように「太鼓のスペシャリストでありたい」という思いで、自分自身で作った言葉です。和太鼓のプロ奏者はそもそも数が少ないので、ソリストはさらに希少です。また、現在和太鼓のプロのソリストとして欧州で活動しているのは僕だけです。ソリストとして舞台をたった一人で80分やり遂げるというのは誤魔化しが一切効かないため、体も鍛えてパフォーマンスに説得力を持たせないといけませんし、舞台上の一つひとつの所作で観客に分かってもらえないといけません。19歳のときに師匠の林英哲はやしえいてつが主宰する「英哲風雲の会」のオーディションに合格してプロ奏者になりましたが、林英哲師匠と共に訪れた世界各地の一流の舞台で、その振る舞いを学ばせていただきました。今回のコンサートでは、演奏にことや笛も使用することで演奏の幅を広げ、日本舞踊や武道で培った日本の伝統的な所作を総合的に生かすことにより、一人での舞台を成立させることができると信じています。それはとても時間がかかるプロセスですが、日々研鑽していないと表現できないことだと思っています。

「太鼓奏者は音楽家であり、スポーツ選手であり、俳優である」と言い表されるくらい、ソリストには多くの要素を求められます。それを理解することがソリストとして持つべき意識だといえます。和太鼓というシンプルな楽器を使って、リズムだけではなくメロディーとして聴かせるには、音楽家としてのセンスも問われます。数回続く公演でも、毎回少しずつ向上させていきたい、という思いが積み重なって、唯一無二のソリストとしての活動ができていると思っています。

人生を賭けて和太鼓に打ち込む理由

─ 和太鼓との出会いについて教えてください。

和太鼓は3歳のときに始めました。最初、僕がお茶碗を箸で打っている姿を見た両親が、本物の和太鼓を買ってくれたのです。そのことが本格的な和太鼓を始めるきっかけとなりました。僕の故郷の福井県は和太鼓が盛んな地域で、太鼓を打っても周囲の迷惑にならない環境が整っていました。また、地元のお祭りで小学生が和太鼓を打つイベントがあり、僕は小さいときからそれを見て家で真似していたんですが、そのグループで教えていたおじいちゃんが、「お前うまいな!」と褒めてくれまして。子どもグループでの活動が終わった後も、自分はもっと太鼓が打ちたいと強く思ったため、そのおじいちゃんが主宰する「天龍太鼓」というグループに入りたいとお願いしました。結婚式などお酒の席での演奏が多かったため、当初は断られましたが、最終的には10代の僕をメンバーとして受け入れてくださり、そこから結婚式やお祭りを行脚する活動が始まりました。そういったさまざまな出会いや環境が整ったことで、僕は和太鼓の道に導かれました。それ以来、僕の人生はずっと和太鼓と共にあります。僕がまだ中学生だったころ、主宰者だったおじいちゃんの引退を機に、1999年に「天龍太鼓」の指導者になりました。僕の妹や弟、同世代の若いメンバーも加わり、僕が率いていく中で、子どもたちに教える楽曲を作り始めました。そういった作曲やグループへの指導経験が今の演奏活動にも生かされています。地元福井大学で建築を学び、大学卒業後は上京し、すぐに林英哲師匠の元で活動を始めました。

─ 2011年に渡独されましたが、その当時のことを教えてください。

僕がまだ福井にいたころ、ドイツのジャズ・トリオが福井で公演を行ったんですが、公演前にジャズと和太鼓のセッションはどうかと、主催の方から提案されました。そのセッションが成功し、その後も交流を続けて数年が経ったころ、メンバーの一人、ジャズ・ピアニストのワルター・ラング氏から日独交流150周年を記念して「友情」というCDを作ってツアーをしようと誘われました。当時プロになりたての僕は、二つ返事でお受けしました。そして2011年にドイツ・ミュンヘンを初訪問。到着してすぐ、何かの導きか、和太鼓を所有するドイツ人に出会いました。在独以来、家を自分で建てるなどドイツ人の器用さに驚かされていましたが、その方はさらに自分で和太鼓を作ると言い出しまして(笑)。それを聞いてとても面白いと感じ、「日本の文化にも興味を持ってくれているんだ」と知ったことが定住するきっかけになりました。日本で積み上げてきたキャリアをさらにレベルアップさせるためにも、海外でチャレンジしたいという思いに完全に火がついたのです。ミュンヘンでは、バイエルンで活躍するクラシックの作曲家とも出会う機会に恵まれ、和太鼓の曲を書いてくださることになりました。当時、すでにドイツでは和太鼓が流行していて、西部デュッセルドルフに「KAISER DRUMS」という太鼓専門店があることも分かりました。そこから買った大太鼓を前述のドイツ人の友人が貸してれまして、おかげで僕はドイツに来た当時からスタジオで和太鼓の練習ができました。今思うと、本当に幸運で数奇な出来事の連続だったと感じます。

2023年12月東京南青山MANDALAでのライブの様子2023年12月東京南青山MANDALAでのライブの様子

ロンドン公演について

─ 「ライブで和太鼓を聴く」魅力について教えてください。

和太鼓は「倍音」という、高い音と低い音が同時に鳴っている楽器なんです。実はこの音は心臓の音に似ているといわれていて、懐かしいと思われたり、涙が出るという方がいらっしゃいます。心音に似ているがゆえに、あれだけ大きい音であるにもかかわらず、しばらく聴いていると子どもが寝てしまうそうです。宇宙的で原始的、とてもシンプルでありながら心に強く響いてくる。太鼓はライブで聴くことで音の振動が直接体に伝わり、五感で楽しむことができます。しかし、CDにマスタリングする際は、この心地良い音域がカットされてしまうこともあります。CDももちろん良いのですが、やっぱり太鼓の本当の良さを知るには、生で直接聴いていただくのが最も理想的だと思います。和太鼓は木をくり抜いてそれに牛の皮を張って作った楽器なので、音は金属的なそれではなく、自然の音に限りなく近い。とても壮大で、何かインスピレーションを与えてくれる楽器だと思っています。今回のロンドン公演では、いろいろな種類の和太鼓を使って演者は僕一人で演奏し、表現します。

─ ロンドン公演は今回が初めてですよね。

ロンドンはレコーディングで来たことはありますが、公演は初めてです。僕の印象として、ロンドンは人々が礼儀正しく、文化や歴史もある。そして何よりも舞台人にとっての聖地だと思っています。舞台人が皆目指す場所。そこで前例のない和太鼓ソリストとして公演を行えることは非常に光栄で、それを僕ができる、ということの喜びを噛み締めつつ、皆さまの太鼓のイメージを刷新したいと思っています。また、ソリストとしてできる無限の太鼓の可能性、その証明を皆さまに体感していただく機会になると思っています。

─ 最後に、ロンドン公演への意気込みと読者の方々へメッセージをお願いいたします。

今回の公演タイトルが「阿吽あうん」なんですが、まさに繰り返す呼吸をするように、僕は人生を賭して太鼓を打ち続けてきました。太鼓は僕の体の一部なんです。今まで歩んできた道がロンドンにつながり、そしてこの公演の後にこれから歩む道がどうなっていくのか。その経過の大切なターニングポイントとなる今回のコンサートをぜひ会場で皆さまに見ていただきたいです。皆さまに太鼓を「音楽」として捉えて、五感で感じていただきたいです。そして和太鼓の可能性が無限に広がる瞬間を共有し、新たな時代の目撃者になっていただきたい、と強く願っています。

公演では、ドイツ在住の写真家であり演出家のアーティスト、JUMPEITAINAKA氏による視覚的な効果も盛り込む予定です。この演出は僕も初めての試みで、目の肥えたロンドンの皆さまに見ていただくのは緊張もありますが、とても楽しみですし、キングス・プレイスのような素晴らしい会場で公演ができるのは非常に光栄です。

TAKUYAさんのインタビューは5月15日発行の1675号に続きます!

 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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