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Fri, 29 March 2024

フードマイル再考

環境問題の一環として、食物にも気を配る人が増えている。買うのはもっぱらオーガニック・フード。居住地域で生産されたものしか口にしない「ロカヴォア(Locavore)」を名乗るエコロジストまで現れた。彼らの信念の核を成すのが、「フードマイル(food miles)」という考え方。しかし、これって本当にエコなのか?食欲の秋を迎えた今、人と地球に優しい食生活を改めて考えてみよう。(サイトウ・ケイナ)

フードマイル(フードマイレージ) =
食べ物の輸送された総距離 X 輸送された食べ物の重量
日本は、なんと国民一人あたりのフードマイルが第1位。食料自給率が40パーセント以下と低く、多くを輸入に頼るために、自ずとフードマイルは大きくなる。一方、食料自給率約60パーセントの英国のフードマイル個人総量は日本の約半分。ちなみに米国は日本の約8分の1。この計算式から算出されたフードマイルの値が大きいほど環境への負担は大きいとされるが、あくまでも環境問題を考える際の一つの視点と して捉えよう(農林水産省2001、08 年、Defra 08年統計より)。

フードマイルとは

今日のあなたの晩ご飯、一体どのくらいの距離を経てそのお皿までやって来たか、想像できるだろうか。例えば、メインのお肉はニュージーランド、付け合せの野菜はスペイン産で、食後のフルーツは南アフリカから、という具合。スーパーで買う冷凍食品やパブで食べる料理の中には、さらなる長旅を強いられてきたものもあるというから驚きだ。

「フードマイル」はこのように、ある食物がその生産地から消費者の口に運ばれるまでの移動距離に着目した考え方。90年代に、現シティ大学教授で消費者運動家のティム・ラング氏が提唱し、食品製造が及ぼす環境問題や社会・経済問題への影響を、それまで見落とされがちであった輸送距離という観点から単純化して一般に示したことで注目された。以降、マークス・アンド・スペンサーやテスコといった英国の大手スーパーが、環境問題への企業努力として、野菜や果物のパッケージにフードマイルについての表示をするなど、フードマイルは消費者のエコ志向の高まりと共に広く認知されてきたのだ。

フードマイルの落とし穴?!

環境問題を考慮すると、自宅の近くで採れた食材を買うか、究極的には自給自足の生活をするのが一番で、遠く離れたケニアの地で育ったインゲンなんてもってのほか、ということになる。実際にこの考え方を自らの食生活に適用する環境保護活動家もおり、彼らは「ロカヴォア(Locavore)」と呼ばれる。ある土地で生産されたものをそこで消費する「地産地消」こそがエコなのだ、という主張だ。

ところが、何でもかんでも地域農家で育てれば良いのかというと、それは大間違い。トマトを例にとって考えてみよう。英国内で消費されるトマト、英国産とスペイン産ではどちらが地球に「優しい」か ─ はい、答えはスペイン産。フードマイルは確実にスペイン産の方が大きいのに……と疑問に思ったあなたは「偽エコの罠」に要注意だ。

「適地適作」という言葉がある。読んで字の如く、その土地ごとに栽培に適した作物があるということ。というわけで、上の例では、英国の気候条件がトマト栽培に適さないことが鍵だ。英国のほとんどの地域では、トマト作りを温室栽培に頼らざるを得ない。実はこの温室栽培に必要なエネルギーは、スペインからのトラック輸送で消費されるそれよりも、はるかに大きいのだ。同様に、レタスを旬ではない時期に英国内で作ろうとした場合、結果的にスペインから輸入するよりも多くの温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出することになってしまう。

トマト以外についても、ぜひ生産方法に注目されたい。なんと英国産の羊肉よりも、はるか1万1000マイル(約1万7700キロ)もの旅路を船でやってきたニュージーランド産羊肉の方が、環境負荷は少ないというのだ。これは、ニュージーランドの農家が英国内の農家に比べてより少ない肥料を用い、より効率良くエネルギーを使って羊を育てているため。それゆえ、その温室効果ガスの総排出量が、結果的に輸送で生じる温室効果ガスの排出量を下回ることになるそうだ。先のケニヤ産インゲンも然り。ケニアの産地では、トラクターなどは使わず昔ながらの手作業で栽培や収穫を行っているため、石油系の肥料やディーゼル・トラクターなどを駆使して作られる英国産の同品よりも、環境への負担は総合的に少なく済んでいる。ところが、栽培にエネルギーを要しない旬の英国産野菜と比べた場合には、空輸されたケニア産の方が20倍もの温室効果ガスを出していることもある。輸送方法もポイントだ。同じ商品でも、空輸した場合の温室効果ガス排出量は、船輸送の約177倍にも上ると言われる。

そして、店頭に並ぶまでの保存方法にも留意する必要がある。せっかく英国内で採れたオーガニックのリンゴであっても、そのほとんどが店頭や倉庫で最長1年間も冷蔵保存されている。冷蔵・冷凍保存には莫大なエネルギーが消費され、温室効果ガスが排出される。それなら旬のニュージーランド産リンゴを船で運んだ方がエコロジカルなのだ。

さらに、ことには立場を変えた視点、人道的、世界経済的な視点も求められる。アフリカには、英国のような先進国に作物を空輸することで、どうにか生活をしている人々が100万人以上いる。フードマイルばかりが強調され、環境のために輸入品の不買運動をすれば良いという単純な考え方が広まると、そうした貧困国の経済を圧迫することにもなりかねないのだ。

食物を「ゆりかごから墓場まで」 で考える

このように、食品消費にかかわる環境負荷を考える場合、フードマイルだけにとらわれていては誤りの元となる。食品の生産から輸送、販売、消費、廃棄、再利用までの、すべての過程で必要とされるエネルギーや材料、排出される温室効果ガスなどの大気汚染物質や廃棄物の量といったあらゆる環境負荷、つまり「ライフサイクル・コスト」を考慮すべきなのだ。この考え方は、限られた資源を効率的に活用しながら人間の活動と地球環境の調和を図る「循環型・持続型社会」を目指したもの。食ベ物に限らず、人間によって作られるすべての製品やサービスに適用され、それぞれのライフサイクル・コストは、温室効果ガスの総排出量などさまざまな観点から専門的に評価される(ライフサイクル・アセスメント)。

しかし、食品におけるライフサイクル・アセスメントは、その複雑さに難点がある。特に加工食品、例えば、さまざまな具が乗ったピザは一つ一つの具材の軌跡をたどるのが難しく、評価は困難を極める。商品にフードマイルを表示していた先のテスコでも、ライフサイクル・コストに視点を移し、近いうちに商品製造で生じた温室効果ガスの排出量の表示に切り替えるよう検討しているというが、やはり表示が可能な商品は限られるようだ。

購入後もライフサイクルのうち

食物のライフサイクルを考える際に忘れてはいけないのが、食材を買って家に持ち帰ってからのこと。その食材の一生は完全に消費されるまで、もしくは廃棄・リサイクルされるまで続くのだ。くどいようだが、新鮮な旬の国産野菜を買っても、自宅の冷蔵庫で不必要に長期保存したり、うっかり腐らせてゴミ箱へ直行させてしまったり……ということでは元も子もない。

それだけではない。食材をどう調理するかも、そのライフサイクル・アセスメントにかかわる大切な部分であることをお忘れなく。例えば煮豆の缶詰。天日干ししただけの乾燥豆の方が、調理済みの缶詰よりも環境に負担をかけずに店頭までやってきただろう。ところが、だ。いざ乾燥豆を買って自宅の台所で煮豆を作ろうとすると、これが意外にたくさんのエネルギーを食う。工場で一度に大量の豆を調理する方がエネルギーは効率良く使われるため、食卓に並ぶ段では、皮肉にも缶詰煮豆に軍配が上がるのだ。

最もエコなお買い物は「地域の旬モノ」「肉・車ナシ」!

さて、私たちの買い物の手段は、食品のライフサイクル・アセスメントに影響を与えないのか。そんなはずはない。フードマイルを考えたら、自宅から近いファーマーズ・マーケットで買うのが良いはずだ。しかし、そこへ自家用車で出掛けたとしたら意味がないのでは……。自分は家から動かずに、契約農家のオーガニック食材を毎週宅配してもらったらどうだろう。買い物に出る回数を減らす代わりに、車でスーパーに行って大量に買いだめしたら?

考え始めると頭がクラクラするが、これまで見てきた通り、食を取り巻く環境問題は非常に複雑だ。あちらを立てればこちらが立たずで、一般消費者である私たちは右往左往。良かれと思ってしていたことが実は逆の結果を招いていた、ということにもなりかねない。

それではつまるところ、地球環境の保護のためには、日常の食生活で何をどう実践するのが一番良いのか。現在のところ、専門家らの意見が一致しているのは「地域の旬のもの(できればオーガニック)を食べる」、「肉や乳製品を控える」(※下記コラム①②参照)、「買い物で自家用車を利用しない」ということだ。

旬のものは複雑な調理をしなくても美味しい上に、栄養価も抜群に高い。これからの季節は根菜類が旬。季節の食べ物を必要なだけ摂るという、昔から当然とされてきたシンプルなスタイルこそが、現代人のための最も理に適った食生活のお手本なのではないか。

(参考資料:農林水産省、英環境食糧農林省(Defra)、欧州委員会、カーボン・トラスト、国連食糧農業機関、BBC、「ガーディアン」紙ほか)

エコ食マメ知識1
お肉と乳製品はエコの敵!

牛肉の生産は、他のいかなる食べ物の生産や輸送方法と比べても、最も大きなダメージを環境に与える。牛から採れる牛乳やそれを加工したチーズも、赤身肉と同様にNGだ。牛のゲップが大量のメタンガス(温室効果ガスの一つ)を排出するというのは有名な話。それに加えて、英国では家畜の飼料をはるばるブラジルや米国から輸入している。しかも、それはもとをたどればケニヤ産だというから、とんでもない。
エコ食マメ知識2
週に1度はお肉を我慢

ある学者の研究によると、1年間で週にたった1回、メイン・ディッシュを牛肉ではなく野菜にするだけで、車が1860キロ走るのに必要なエネルギーを節約できることになるという。野菜が無理なら、チキンに替えるだけでも効果は大きいとのこと。
エコ食マメ知識3
ベジタリアンの食生活はエコじゃない?!

ヘルシーでエコなイメージを持つ菜食主義。でも、同じサラダを一年中食べられるのはなぜか考えて欲しい。そう、その野菜のほとんどが地球にダメージを与える温室栽培や空輸によるもの。英国内で消費される野菜の50パーセント、果物に到ってはなんと95パーセン トが輸入品だという。

ライフサイクル・コストのココをチェック!

フードマイルだけでエコを語るべからず。食物のライフサイクル全体から判断しよう。

生産方法は?
「適地適作」かチェック。温室栽培は国外からの輸送よりもエネルギーを必要とする。農作業は機械、それとも手作業?

輸送方法は?
飛行機より船がベター。空輸は他のどんな輸送手段よりも二酸化炭素の排出量が多く、環境への負担は海上輸送の150~180倍。買い物へは車ではなく徒歩か自転車で。英国に住む成人は、食品の買い物のために年間平均135マイル(217.3キロ)も自家用車を走らせている。スーパーやオーガニック食材店のデリバリー・サービスも考えもの。

保存方法は?
冷蔵や冷凍による長期保存は環境へのダメージ大。

購入後は?
一般家庭での食材の冷蔵・冷凍保存はもちろん、調理時にもエネルギーが使われることをお忘れなく。

ライフサイクル

旬のモノを知ろう!

これからの季節は何が旬?下記サイトのレシピを参考に、英国の野菜や果物を使った料理にもチャレンジしよう!

食に関するウェブサイト

その名も「eat the seasons」。毎週水曜日に旬の食べ物情報を更新する、英国各紙で紹介された有名なウェブサイト。
www.eattheseasons.co.uk

BBCの食に関するページ。レシピも豊富。
www.bbc.co.uk/food/in_season

英国児童のための教育チャリティー団体「The Woodcraft Folk」のウェブサイト。子ども向けに環境問題が詳しく説明されている。
www.sustnable.org.uk

旬の食品カレンダー

9月 ナス、キャベツ、レタス、ケール、人参、カリフラワー、キュウリ、トマト、マッシュルーム、玉ねぎ、ほうれん草、エンドウマメ、サヤインゲン、ピーマン、パプリカ、パースニップ、ジャガイモ、かぼちゃ、スイートコーン、リンゴ、ブラックベリー、ラズベリー、エルダーベリー、ルバーブ、洋なし、 桃、メロン、ブドウ、いちじく
10月 ナス、ビートルート、キャベツ、レタス、人参、カリフラワー、ズッキーニ、かぼちゃ、マッシュルーム、パースニップ、ジャガイモ、リンゴ、ブドウ
11月 キャベツ、かぼちゃ、スウィード、カリフラワー、ジャガイモ、パースニップ、ポロねぎ、ビートルート、栗、クランベリー、洋なし、マルメロ
12月 セロリ、キャベツ、赤キャベツ、カリフラワー、セルリアック、かぼちゃ、ビートルート、かぶ、パースニップ、芽キャベツ、洋なし

(情報は上記各ウェブサイトより一部抜粋)

地元の旬の味をファーマーズ・マーケットで!

細かいことはひとまず置いて、できることからコツコツと。ロンドン市内でもたくさんのファーマーズ・マーケットが開かれている。さっそく足を運んでみよう。

マーケット情報はここでチェック

The National Farmers' Retail & Markets Association (FARMA)
全国規模でファーマーズ・マーケットを運営・進行する協会団体。全国のマーケット主催者が登録しており、スコットランド、イングランド、ウェールズ内の情報がこのウェブサイトから得られる。入り口にFARMAマークがあれば、そのマーケッ トはお墨付き。
Tel: 0845 458 8420
www.farmersmarkets.net

London Farmers' Markets (LFM)
ロンドン市内でファーマーズ・マーケットを主催する団体。市内15カ所で開かれるマーケットの情報を調べることができる。
Tel: 020 7833 0338
www.lfm.org.uk

map

1. Blackheath
駅に隣接した駐車場が会場。地元密着型でのんびりした雰囲気のマーケット。
日曜10:00-14:00
Blackheath Rail Station Car Park, 2 Blackheath Village SE3
最寄駅: Blackheath駅
バス: 54、89、108、202、380

2. Marylebone
オックスフォード・ストリートに近く、出店数も人出の多さもダントツ。
日曜10:00-14:00
Cramer Street Car Park W1
最寄駅: Baker Street駅 / Bond Street駅

3. Pimlico Road
規模の大きさの割に雰囲気は落ち着いており、ゆっくり買い物を楽しめる。
土曜 9:00-13:00
Orange Square SW1
最寄駅: Sloane Square駅
バス: 211、11、239

4. Ealing
ロンドンで唯一の路上ファーマーズ・ マーケット。
土曜9:00-13:00
Leeland Road, West Ealing W13
最寄駅: West Ealing駅
バス:207、607、208、83

5. Islington
1999年、ロンドンで初めて開かれたファーマーズ・マーケットがここ。
日曜10:00-14:00
William Tyndale School, Upper Street Islington N1
最寄駅: Angel駅

6. Notting Hill
ロンドンで最も大きなマーケットの一つ。オーガニック商品を扱うストール が多い。
土曜9:00-13:00 
書店Waterstones裏の駐車場にて
最寄駅: Notting Hill Gate駅

7. Clapham
地域住民による長年の熱い要望に応えてついに開かれたというマーケット。
日曜10:00-14:00 
Bonneville Primary School Bonneville Gardens SW4
最寄駅: Clapham South駅

8. Acton
オーガニック食材や新鮮な魚介類が揃う。ハーブや花類のストールも豊富。
土曜 9:00-13:00
Public Square on Acton High Street King Street W3
最寄駅: Acton Town / Ealing Common駅

9. Twickenham
会場はショッピング街に近く、週末のお買い物に便利。
土曜9:00-13:00 
Holly Road Car Park, Holly Road off King St, Twickenham TW1
最寄駅: Twickenham駅

10. Wimbledon Park
ウィンブルドンの地元住民から愛され続けている、地域密着型マーケット。
土曜9:00-13:00 Wimbledon Park First School Havana Road SW19
最寄駅: Wimbledon Park駅

地球環境に配慮した食品店

週末のファーマーズ・マーケット を逃してしまった!でも環境に優しいお買い物がしたい!それなら、お散歩がてら近所のエコなお店を探してみては?

Cheshire Food
リンゴや、国内最古と言われるチーズで有名な、イングランド北西部チェシャー州で生産された食品だけを揃えている。同州を中心に約20店舗を展開。ウェブサイトにはチェシャーの旬な食材のカレンダーも。
www.cheshirefood.co.uk

The co-operative food
国内最大の「農家」である同店は、フェアトレード商品の取扱数も国内最多。
Tel: 0800 068 6727
www.co-operative.coop

EARTH natural foods
Kentish Town Road沿い、地下鉄Camden Town駅から徒歩5分、Kentish Townからは2分に位置するオーガニック食品店。
Tel: 020 7482 2211
www.earthnaturalfoods.co.uk

Planet Organic
国内最大のオーガニック商品専門店。ロンドンに5店舗を構えている。 www.planetorganic.com

Fresh and Wild
北米と英国に全270店舗を展開する、エコ志向の食品店。
Tel: 020 7368 4500
www.wholefoodsmarket.com

The Grocery
様々な食品からペット・フード、自然療法に基づく医薬品などが揃う。
Tel: 020 7729 6855
www.thegroceryshop.co.uk

 

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