ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Wed, 09 October 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 63

ファット・ラスカル
Fat Rascal

Fat Rascal

本誌1495号にてご紹介したパーキンを、イングランド北部に位置するヨークシャーにある有名ティー・ルーム、「ベティーズ」から取り寄せたと書きました。実はそのとき、一緒に注文したのが「ファット・ラスカル」です。こちらもまた、同地方が発祥とされるもの。ベティーズのベーカリーで、毎週約1万個も作られるというほどの人気商品です。

この名前を初めて聞いたときには、子供のころにテレビで観たアニメ「あらいぐまラスカル」を連想してしまいました。若い世代の方はご存知ないかもと思いましたが、調べてみると、今年はアニメ放送40周年記念ということで、日本では改めてこのラスカルが人気になっているようでびっくり……って、話は英国のお菓子のことでしたね。

英語で「ラスカル」とは、いたずらっ子とか、生意気といった意味で使われます。となると、このお菓子は「ぽっちゃりしたいたずらっ子」という名前? そんなことを考えながら、ベティーズから届いた箱を開けると、中からは、まさにいたずらっ子のような顔をしたお菓子が飛び出してきました。直径約12センチ程、ちょうどメロンパンくらいの丸型で、ドレイン・チェリーの真っ赤な目と、アーモンドでできた3本の歯がユニークです。

さっそく、マグカップになみなみ入れたミルク・ティーで、試食に取り掛かります。色から予想したように、外側はサクサク。でも、中はふんわりと、バターの風味がしっかり効いたところに、カランツとオレンジ・ピールの甘みと歯ごたえがマッチ。ほかの英国菓子の例にもれず、紅茶がすすむこと、すすむこと。しっとりめのスコーンみたい、と思っていると、商品名は「Yorkshire Fat Rascal Scones」とあるのを発見。なるほどやはりスコーンと同類なのですね。

名前の由来は明らかではありませんが、19世紀中ごろの記録にこの名前があるそうです。1日の終わりにパンやパイ生地の残りをまとめ、炭火で焼いた「ターフ・ケーキ」と呼ばれるものが原型と言われています。そこにラードを混ぜたことから「ファット(脂肪)」の名前がきているとも考えられるようですが、真相は定かではありません。

お茶目な顔のラスカルはベティーズのアイデアだそうで、同店では1983年に発売が開始されました。実は今年の11月、ヨークシャー北部、ウィットビーにある小さなカフェが、ベティーズから「ファット・ラスカル」の名称使用禁止を迫られたことがニュースになりました。というのも「ファット・ラスカル」は2008年に登録商標となっているのです。仕方なくこの店では「ウィットビー・ファティーズ(Whitby Fatties)」と変更したそうです。ちなみにファット・ラスカルだけでなく、「ヨークシャー・ファット・ラスカル」、「リトル・ラスカル」という名称もベティーズの登録商標になっているとのことですので、英国でティー・ルーム開業予定のある方はご注意くださいね。

ファット・ラスカルの作り方(6個分)

材料

  • 小麦粉 ... 300g
  • ベーキング・パウダー ... 小さじ3
  • バター(さいの目に刻んでおく) ... 125g
  • カスター・シュガー ... 100g
  • カランツ ... 80g
  • オレンジ・ピール ... 50g
  • シナモン ... 小さじ1
  • ナツメグ ... 小さじ1/2
  • 卵 ... 1個
  • 牛乳 ... 適量
  • ドレイン・チェリー ... 12個
  • アーモンド ... 18粒

作り方

  1. ボウルに小麦粉、ベーキング・パウダーをふるい入れ、バターを入れて指先を使ってポロポロのそぼろ状になるように混ぜる。
  2. カスター・シュガー、カランツ、オレンジ・ピール、シナモン、ナツメグを❶に入れてよく混ぜる。
  3. ❷に溶き卵と牛乳を加えて手でまとめられるくらいの固さの生地を作る。
  4. 生地を6等分して、それぞれを丸め、2㎝くらいの厚さにのばす。
  5. ドレイン・チェリーとアーモンドで顔のデコレーションをする。
  6. 200℃に余熱したオーブンで20~25分焼く。よく膨らんで表面がきつね色になったら出来上がり。
memo

ベティーズのレシピはシークレットとされていますが「手作りするときは、顔になるドレイン・チェリーとアーモンドは隙間を空けずにできるだけくっつけて置くこと」というアドバイスをしています。それではと、試作のとき2個分はわざと少し間を空けて作ってみたら、ラスカルの目がまるでクワガタの目のようになってしまいました。それはそれで可愛い気もしましたが(笑)。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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