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Tue, 15 October 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

トランプ米大統領の訪英に反対の声 高まる

トランプ米大統領が訪英するべきかどうかで、英国内に大きな議論が起きています。

1月27日、メイ首相は海外首脳として初めてトランプ氏と会談をする機会を持ちました。欧州連合(EU)を離脱する英国と貿易や国防の面で緊密に協力するという約束を取り付けた首相官邸側は「大成功」と思ったことでしょう。スーツに赤いネクタイのトランプ氏と赤みがかったオレンジ色のスーツを着たメイ首相がホワイトハウスで手を取り合った姿が印象的です。メイ首相がトランプ大統領を国賓として招きたいと申し出ると、トランプ氏は快く承諾しました。

しかし、思わぬ展開が待っていました。会談の直後、トランプ大統領はテロ対策を強化するためとして、シリアやイランなど中東とアフリカの7カ国の出身者の入国を90日間停止することを命じたのです。紛争が続くシリアからの難民は無期限の受け入れ禁止。一時は米国永住権保持者も対象となり、各地の空港は大騒ぎに。「強権的」「人種差別的」と世界中から批判が殺到しました。

メイ首相はその判断力を問われることになりました。大統領選のときから人種差別的、女性蔑視的暴言を繰り返してきたトランプ氏を英国に公式招待するのはいかがなものか、という疑問が浮上したのです。官邸が設置している請願署名受付サイトには、トランプ大統領の訪問中止を求める署名が2月上旬で180万以上も集まりました。10万以上の署名が集まると下院での議論を行う対象となりますが、とうとう、20日に訪問の是非について議論することになりました。

6日、トランプ氏の訪英問題に新たな火が付きました。中立な立場を取ることが求められる下院議長のバーコウ氏が、トランプ大統領が訪英する際に議会で演説することに反対すると表明したのです。トランプ氏の訪英の日程や行事については未定ですから、議会での演説が計画されているわけではありません。でもその可能性もありますので、議長は先手を打ったことになります。

他国の指導者が英国の議会で演説を行うのは「勝ち取るべき栄誉」であるとしたバーコウ議長は、入国禁止令以前からトランプ氏の議会での演説に「強く反対していた」が、入国禁止令が出た後では「より一層、強く反対する」と述べました。非常に強い表現です。その理由は「人種差別と性差別に反対し、法の下での平等と司法の独立を支持する私たちの姿勢は非常に重要」と考えるため、と説明しています。

バーコウ氏の発言は議長としての中立性を逸脱した行為だとして非難する声が保守系勢力を中心に出た一方で、野党労働党のコービン党首は「全面的に支持する」と歓迎しました。

訪英について反対論が巻き起こった米大統領はトランプ氏だけではありません。反戦運動が大きく拡大したイラク戦争を主導したブッシュ元大統領の訪英(2003年) 時もそうでした。

国賓としての訪英の招待は、正式には政府のアドバイスを受けてエリザベス女王が行うものです。訪英中は女王がホスト役となり、来賓は通常、バッキンガム宮殿かウィンザー城に宿泊します。豪華な祝宴が開かれ、下院を訪問したり、演説をしたりします。過去の米大統領は頻繁に訪英していますが、国賓として招かれたのはオバマ前大統領が就任後2年4カ月後、ブッシュ元大統領の場合は2年10カ月後でした。現在のところ、トランプ大統領の訪英は年内のようです。政府は招待に変更はないと表明しています。

調査会社「ユーガブ」によると、トランプ大統領の訪英を支持する人は49%、反対する人は36%でした(2月1 日発表の調査)。根強い反対の声がある一方で、EUを離脱する英国にとって、米国との貿易関係強化を目指すことが大事であると考える現実的な国民が多いのかもしれませんね。

 

 

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