女性政治家が反論 「子供の予定は?」と聞かれて
ニュージーランドで野党・労働党の党首となったばかりのジャシンダ・アーダーン氏が、8月上旬、テレビやラジオの番組の中で子供を作る予定を数度にわたって聞かれ、「2017年にそんな質問をして許されるわけがない」と答える場面が放送されました。性差別的ではないかという議論がニュージーランド内外で起こっています。
これまでの経緯を振り返ってみましょう。1日、アーダーン党首は就任後間もなくして、テレビの報道番組「ザ・プロジェクト」に出演。ここで司会者から女性として職業と育児をどう両立させるべきかを聞かれました。アーダーン氏は未婚ですがボーイフレンドがおり、かねてから子供がほしいと発言していました。そこで、多くの女性が仕事と家庭のバランスを取ることに苦労していると話します。「その日その日でベストを尽くしていくしかありません」。あるウェブサイトのコラムニストは、このような質問は「育児以外の分野でどれほど功績があっても女性の主な役割を母と見なす、性差別的考え方である」と指摘しました。翌日、今度は「ジ・AM ショー」に出演したアーダーン氏に対し、男性の出演者が「首相になるかもしれない人物に子供について聞くことは真っ当なことだ」と述べた上で、「企業は雇用する女性にこうしたことを聞く必要がある――つまり、一国の首相が育児休暇を取っていいのですか」と問い掛けました。アーダーン氏は育児や仕事について意見を述べてきた政治家である自分に対し、こうした質問が投げ掛けられるのは良いが、ほかのすべての女性が聞かれるのはおかしい、と反論します。「2017年にもなって、こんな質問を女性が職場で聞かれるのは承服できません。いつ子供を持つかは女性が決めることで、雇用と結びつけられるべきでありません」。留めの言葉は「男性に将来、子供を作るかどうかを聞くでしょうか?」
男性の政治家だったら聞かれない、プライベートな事柄についての質問を女性の政治家であるがゆえに聞かれたことがアーダーン党首やその支持者たちの怒りの根っこにあります。とはいっても、雇用する側から見れば妊娠年齢にある女性が突然子供を産むことを決め、出産・育児休暇を取られては困るという面もあるかもしれません。この点が男性出演者の質問の意図でした。
子供を持たない政治家が批判されることは多々あります。オーストラリアの首相だったジュリア・ギラード氏(在職2010~13年)もそんな一人です。「人生を仕事に捧げた、子供がいない独身の女性だから」一部の有権者の期待に沿わない、と地元紙に書かれました。
フランスではこの春、大統領選が行われましたが、子供を持つルペン国民戦線党首は子供がいないマクロン「前進!」党首(現フランス大統領)をこの文脈で批判しました。メイ首相も既婚ですが、子供がいませんよね。昨夏の保守党党首選では、対立候補レッドソム氏が子持ちである自分の方が、子供がいないメイ氏よりも英国の将来に「より差し迫った利害関係がある」と発言しました。
母であることを政治的な武器に使う人もいます。ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」のペトリー党首には5人の子供がいます。7月26日、生まれたばかりの赤ちゃんと一緒の自分の写真をツイッターに投稿し、「あなたはどうしてドイツのために戦うのですか?」というキャプションを付けました。将来の世代である子供たちのために戦うのであれば、母親でもある自分が党首の政党が良い、というメッセージが伝わってきます。
政治家は子供がいないと「社会と十分に深くかかわっていない」として批判されてきましたが、子供がいない政治家で政界のトップに立つ人は少なくありません。メルケル独首相(既婚、子供なし)、オランダのルッテ首相(未婚、子供なし)、アイルランドのバラッカー首相(未婚、子供なし、同性愛者であることをカミングアウト)など。子供がいる、いないで政治家あるいは職業人を評価したり、性のステレオタイプを押し付けるのは時代に合わなくなってきました。