COVID-19で多数の死者を出したケア・ホーム - 「後回し」になった?高齢者へのケア
新型コロナウイスル感染症(COVID-19)の感染者・死者数がようやく下落傾向を見せ、今月上旬にはやっとパブやレストランの営業が再開しました。
英政府によると、7月7日時点での感染者(検査で陽性となった人)は28万4391人、死者は4万4391人。死者の内訳はイングランド地方が3万9815人、ウェールズ地方が1534人、スコットランド地方が2488人、北アイルランド地方が554人で、ほとんどがイングランド地方での発症です。
国家統計局(ONS)の調査では、3月2日から6月12日までに約6万6000人のケア・ホーム利用者が亡くなりました。この中でCOVID-19が死因だった方は約1万9000人。これはCOVID-19よる死者総数の約半分にあたります。
英国のケア・ホームは、社会的な支援を必要とする人に様々な世話(ケア)を提供する=「ソーシャル・ケア」の中に位置づけられています。対象者は高齢者、ハンディキャップがある人、飲酒や薬物依存などの問題を抱える成人や児童です。英国内には約2万1000のケア・ホームがあり、運営は民間企業、慈善組織、地方自治体、国民保健サービス(NHS)が行っています。
なぜケア・ホームでのCOVID-19による死者数がこれほど大きいのでしょうか。感染しやすい年齢層である高齢者がいること、感染措置対策として政府が勧めた、他者との距離を取る「ソーシャル・ディスタンシング」の実行がとても難しい場所であること、さらに、これまでの報道によると、「NHS優先で後回しにされた」面もあるようです。英政府は新型コロナの感染を阻止するため、一貫して高齢者や持病を持つ人に対して、外出自粛や自宅隔離を勧めてきました。でも、同時に、医療体制の崩壊を防ぐためにNHSからケア・ホームに患者を移動させていました。移動前に感染しているかどうかを知るための検査が必須となったのは4月15日。このときまでにすでに2万8000人以上の患者がNHSからケア・ホームに移動させられていました。ケア・ホーム関係者への検査の進み具合は遅く、100万人を超えるケア職員の中で検査を済ませた人はこの時点で1000人ほどでした。NHSのスタッフにさえも配布が遅れた、個人保護用具(PPE)のセットはケア・ホームにはなかなか行き渡らず、一時高騰したPPEを自力で入手しようとしたケア・ホームの経費が、大きく膨らむ事態が発生。コンサルタント会社「キャンデルシック」は、英国の40数万人の高齢者が暮らすケア・ホームの3分の2が何らかの感染者を出しているという予想を出しています。
こうしたなか、7月6日、ボリス・ジョンソン首相が「あまりにも多くのケア・ホームが適切な対策を講じなかった」と述べて、ケア・ホーム関係者の怒りを買いました。「政府は病院しか眼中になかった」とソーシャル・ケアを提供する慈善組織の団体「ナショナル・ケア・フォーラム」の役員がBBCの番組の中で批判しました。政府はCOVID-19対策用の緊急追加資金32億ポンド(約4326億円)をイングランド地方の自治体に拠出することを決め、ケア・ホームにも6億ポンドの支援を約束していますが、「これだけでは足りない」と言われています。
「高齢者」、「持病を持つ人」という感染しやすい特徴を持つ人々やこうした人々の世話をするスタッフがいるケア・ホームがCOVID-19の感染拠点になってしまったのは、大変残念です。政府は7月第2週からイングランド地方のケア・ホームで65歳以上あるいは認知症の利用者がいる場合、職員には毎週、利用者には28日ごとに繰り返し検査を行うことを決めました。
1人でも死者を出さない取り組みが期待されますね。
Care Home(ケア・ホーム)
高齢、病気などの理由で1人では生活できない人が入居する施設。自分で身の回りの世話ができる人用「レジデンシャル・ホーム」と介護や医療ケア・サービスを提供する「ナーシング・ホーム」がある。NHSによると、利用料金はイングランド地方のレジデンシャル・ホームで週に約600ポンド(約8万円)、ナーシング・ホームで約800ポンド(金額は地方によって変動)。自治体が入居費用を負担する場合と、しない場合(入居者に約2万3000ポンド以上の貯蓄があり、自宅を所有など)がある。