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Tue, 19 March 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

バイデン米政権発足英国との「特別な関係」はどうなるか - 歴史、文化、安全保障で分かち難く結びつく英米

先月、ジョー· バイデン米大統領による新政権が発足しました。バイデン氏(民主党)は、18世紀後半の米国の建国から第46代目の大統領になります。就任時の年齢は78歳で、米国史上最高齢の大統領となりました。上院議員としての初当選は1970年で、バラク· オバマ政権(2009~17年)では副大統領を務めた、ベテランの政治家です。

英国は米国と「特別な関係」にある、という表現を英国ではよく聞きますよね。歴史を振り返ると、1774年、北米にあった13の英植民地が宗主国英国の植民地政策に抵抗し、独立戦争(75年)が勃発。76年に独立宣言が出され、83年のパリ条約を経て米国(「アメリカ合衆国」)が成立した経緯があります。さらに過去にさかのぼれば、1620年、信仰の自由を求めて絶対王政下の英国を脱出した清教徒たちがメイフラワー号で北米に移住し、プリマス植民地を建設しました。これが英国による米大陸の植民地支配の基礎を作ったと言われています。米国はその歴史とともにさまざまな文化や慣習を英国から引き継いでおり、母語も同じく英語ですので、両国は非常に深く結びついていると言えるでしょう。第二次世界大戦後、英国の植民地が次々と独立し、世界中に領土を広げた大英帝国の時代が終わりを告げます。現在、米国(人口約3億2800万人)は、GDP、軍事費で世界一(世界銀行、英IISS調べ)となりました。英国(人口約6700万人)はGDPおよび軍事費で第6位です。2国の密接な関係はいまだ続いており、人やビジネス上の交流の上に機密情報の共有体制「ファイブ· アイズ」(英米のほかにカナダ、オーストラリア、ニュージーランドが参加)も当初英米2国間で開始したものでした。

英国は欧州連合(EU)から完全離脱しましたが、将来の英国の姿を「グローバル・ブリテン」として描きました。離脱後も「英国が継続して外に開かれーー自由貿易を振興し、国益のために主張する国」になるという理想を定めたのです。外務省資料によりますと、最も重要視する国として米国が挙げられています。

バイデン政権とボリス· ジョンソン政権はどのように協力していくのでしょうか。ジョンソン首相は、ロンドン市長時代、離脱の是非を問う国民投票に向けて離脱運動を主導していましたが、このときバイデン氏が仕えていたオバマ大統領に対し、人種偏見ともとられかねない発言をしています。また、EU残留を支持したバイデン氏に対し、ジョンソン氏は離脱派。そして、「英国を国民の手に取り戻す」と繰り返したジョンソン氏は、「米国第一」をモットーにしたドナルド·トランプ前米大統領(共和党)に近いと言われてきました。一時は英米関係の冷却化に向かうかとも言われましたが、バイデン大統領が就任後に最初の電話をした欧州の国が英国でした。まずまずのスタートを切ったと言えそうです。EU離脱後の英国としては米国との自由貿易を締結したいところですが、交渉は今も継続中です。

バイデン政権は政策の優先事項として「新型コロナ感染症対策」、「気候変動」、「人種的公平性」、「経済」、「ヘルス· ケア」、「移民」、「国際的地位の回復」を挙げています。ジョンソン政権はこのなかの2つで大きな貢献ができるかもしれません。6月、英国はG7首脳会議を南西部コーンウォールで、11月にはスコットランドのグラスゴーで第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を開催します。どちらの会議にもバイデン大統領が参加する予定で、先のG7会議はバイデン氏にとって初の国際舞台への登場になるのです。国際会議の場でジョンソン氏とバイデン氏が相互協力の姿勢をアピールし、成果を出すことができれば、両者の政治家としての評価も高まるでしょう。バイデン政権の誕生で、トランプ政権時代とは一線を画す新たな英米関係が始まったと言えそうです。

キーワード

Special Relationship(特別な関係)

歴史的な経緯および民主主義的価値観を共有することから生じる政治、安全保障、経済などの面での協力体制を指す。また、英米の首脳陣の個人的な親密さによって2国関係が一層緊密になることを意味することも。例えば1980年代のマーガレット· サッチャー首相とロナルド· レーガン米大統領、90年代のトニー· ブレア首相とビル· クリントン米大統領、2000年代のブレア首相とジョージ·W· ブッシュ米大統領の場合など。

 
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