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Fri, 19 April 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

英地方選が終了独自の歩みを進める自治政府 - スコットランドでは独立を掲げる民族党が圧勝

5月6日、英国各地で地方選挙が行われ、開票結果が判明するまでの数日間この話題で持ち切りとなりました。

イングランド地方では国政与党・保守党が235議席増の2345議席を獲得。ボリス・ジョンソン党首・首相による新型コロナ対策が評価されました。国政最大野党・労働党は327議席減で1345議席となり、惨敗でした。同時に行われた下院の補欠選挙でも、長年労働党が強い北部ハートルプールの議席を保守党に奪われてしまいました。

最大の注目は、自治政府があるスコットランド地方の選挙でした。英国からの独立を掲げる地方与党・スコットランド民族党(SNP)が定数129のうち64議席を獲得。過半数には達しませんでしたが、前回2016年の地方選よりも1議席多く、同様に独立支持派の緑の党が8議席獲得しましたので、スコットランド議会は独立派が圧倒的位置を占めることになりました。SNP党首で自治政府首相のニコラ・スタージョン氏(50)は16歳でSNPに入党して以来、独立を訴えてきたそうです。元弁護士の同氏がスコットランド議会に初当選したのは1999年。元党首・元自治政府首相のアレックス・サモンド氏と二人三脚でSNPの支持拡大に努めてきましたが、サモンド氏の性的暴行疑惑事件の調査を巡って大きく対立します。一連の対立劇の負の影響が選挙に出るのではないかと懸念されていましたが、スタージョン氏のコロナ対策における奮闘が評価される結果となりました。住民投票の実施には中央政府の同意が必要になるのですが、ジョンソン政権はこれを拒絶しています。

英国にはほかに二つの自治政府が置かれています。その一つがウェールズ地方です。中央政府が管轄するイングランド地方とは異なり、ウェールズで強みを見せたのが労働党でした。定数60のうち、30議席を獲得。英国からの独立を最終的に目指すプライド・カムリ党は13議席で第3党でした。有権者の間で、独立への支持はそれほど高くないようです。自治政府首相は労働党党内でも左派に位置するマーク・ドレイクフォード氏(66)です。2011年にウェールズ議会の議員になる前は、複数の大学で教鞭をとっていました。学者肌でソフトにゆっくりと話すドレイクフォード氏は、当初「カリスマ性がない」とされ、その指導力に疑問符が付いたそうですが、慎重なコロナ対策を通して信頼度が高まっていきました。

自治政府の最後の例として、北アイルランドを見てみましょう。実は今回、北アイルランド議会の選挙は行われませんでした。アイルランド島の北部6州で構成される北アイルランドは、英国との帰属維持を望む「ユニオニスト」と南のアイルランドと一つの国になる「ナショナリスト」という二つの政治の流れが拮抗する地域です。宗派的にみると、ほとんどの住民がプロテスタント系かカトリック系。帰属維持はプロテスタント系、南との統合はカトリック系の住民に支持される傾向があります。自治政府はそれぞれの政治志向を代表する政党による連立の形をとっているのですが、互いに相手への不信感が強く、これまでに何度か政権が空中分解しています。解散選挙が行われたのが2017年5月で、次の選挙は来年5月の予定です。定数90のうち、ユニオニスト系の民主統一党(DUP)が最大数の27議席、同じ議席数をナショナリスト系のシン・フェイン党が保持しています。自治政府首相は5月までDUP党首のアーリーン・フォスター氏(49)ですが、党内の支持を失って辞意表明し、6月からは党内の選挙で選ばれたエドウィン・プーツ氏(56)が就任予定です。

各地方は13世紀以降、さまざまな経緯で強国イングランド王国に政治的に一体化された過去を持ちます。イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4地方で構成される英国は、次第に形を変えていくのかもしれません。

キーワード

Local elections(地方選挙)

4~5年ごとに行われる地方選挙を指す。2020年初頭に発生した新型コロナウイルスの感染防止のため、一部の選挙は1年延期され、今年5月6日に行われた。イングランド地方の自治体134カ所の議会選、13都市の市長選、スコットランド地方とウェールズ地方の各議会選が実施され、投票権を持つ有権者数は約4800万人。2019年の総選挙以来、最大規模。

 
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