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Sat, 04 December 2021

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

エネルギー危機注目される原発の位置づけ - 「ネット・ゼロ」の実現に向けて、政府がプッシュ

「エネルギー危機」。そんな言葉が似つかわしい日々が私たちの生活に到来しました。8月以降、天然ガス市場のひっ迫で複数のエネルギー小売り企業が続々と破綻していきました。天然ガスは発電に多用されるため、電力料金も急騰し、回りまわって食品供給にも懸念が出るようになってしまいました。9月末、追い打ちをかけるように、今度はガソリン供給の滞りが発生。石油各社によるとガソリンは不足しておらず、給油所にガソリンを運ぶトラックの運転手が不足したために滞りができたのですが、不安に襲われた市民の車がガソリン・スタンドに列を作り、「パニック買い」現象が発生しました。トラック運転手を含む多くの業種が欧州連合(EU)からの労働力に依存しており、英国のEU離脱も人手不足につながったといわれています。英国の「ガソリン不足」のニュースは世界中で報道されました。

ここ数カ月の燃料高、ガソリン供給の停滞、パニック買いなど、エネルギー供給の重要さが浮き彫りになりました。英国の電力供給に注目すると、35.7パーセントはガスに由来しています(英政府調べ、2020年)。その半分以上を輸入に依存しており、自国で生成できるクリーンなエネルギー源の一つとして政府が力を入れているのが、原子力発電(16.1パーセントを供給)です。天然ガス価格の急騰に加え、風力の低下による再生可能エネルギー発電の減少で、原発の必要性がさらに高まりました。

英国の原発の歴史を振り返ってみましょう。1940年代、英国で研究されている原子力技術は軍事目的を主としていましたが、次第に民間用途に変わっていきます。1956年、イングランド北部カンブリア地方にあるコールダー・ホール原発で、世界発の商用発電が開始されました。現在は8カ所で15基の原子炉が稼働中です。問題は2030年までに14基の原子炉が稼働を終了してしまうこと。原発の建設には計画から施設の完成にまで10年以上かかるといわれていますので、現在建設中あるいは計画があるプロジェクトを着々と進める必要が出ています。

1970~80年代までは原発建設が集中的に行われていたのですが、その速度は次第に鈍化しました。最近の例では、2016年、南西部サマセットのヒンクリー・ポイントC原発建設計画にゴー・サインが出ましたが、これは過去25年間で初めての原発建設プロジェクトになります。建設が滞った理由は、建設費が巨額になるため政府の補助金が必要となったり、契約締結に時間がかかったりすることや、2011年の福島の原発事故で世論の原発支持に陰りができたこと、新たな安全対策を講じるため計画策定にさらに時間がかかるようになったことなど。昨年9月、日立製作所がウェールズ地方アングルシー島の原発建設計画から撤退したニュースを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。理由は総事業費を巡る英政府との交渉や投資環境の変化で出資者集めなどが難航したためでした。また、スコットランド民族党(SNP)や緑の党が反原発であるのに対し、保守党や労働党は支持派で、原発は政治の争点にもなっています。

昨年12月、政府はエネルギー白書「私たちのネット・ゼロ社会を可能にする」を発表しましたが、このもとになったのがボリス・ジョンソン首相が20年11月に打ち出した「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」で、重要施策の3番目に挙げられているのが「新規・先進型原子力発電の展開」です。白書によると、ヒンクリー・ポイントC原発は完成時には英国の電力需要の7パーセントを供給。これは約600万戸の家庭の消費に相当します。ほかの原発が老朽化していますので、これだけでは十分ではなく、政府は小型原発と少なくとも一つの大型原発建設の最終投資計画を今議会が終了する24年4月までに決定することを目指しています。

キーワード

ネット・ゼロ(Net Zero)

温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引き、合計がゼロになること。排出の完全ゼロ化は現実的に難しいため、排出せざるを得なかった分については同じ量を「吸収」または「除去」することで、「正味ゼロ」にすることを指す。2019年、英国は50年までにネット・ゼロにする目標を法制化。35年までに1990年比で78パーセント減少する新たな目標も。11月、気候変動会議「締約国会議」(COP)をグラスゴーで開催予定。

 
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