スナク政権が北海の石油・ガス開発権認可、増大へ - 環境団体は「地球温暖化対策に逆行」と非難
7日、チャールズ国王が昨年秋の即位後、初めて政府の施政方針演説を読み上げました。議会開会時に行われるこの演説は、政府が会期中に達成しようとする重点政策や法案の概要を説明するもので、政府が原案を作成し、国家元首が代読するのが慣習です。
審議予定の法案の中で注目の一つとなったのが、スコットランドの沖合にある北海で、エネルギー会社に石油や天然ガスを開発するライセンスを毎年与える、とする「オフショア石油認可法案」でした。今年7月、リシ・スナク首相は北海油田とガスの開発事業者に新たに100件の開発ライセンス(Oil and Gas Licence)を付与する方針を発表しました。これまでは、どれほどの期間でライセンスを与えるのかが決まっておらず、それが「毎年」となると、開発が加速化しますね。多数の新規認可の目的として、首相はエネルギーの安全保障を強化し、他国にエネルギー供給を依存し過ぎないようにすることを挙げています。雇用創出も期待されています。必ずしも家庭の光熱費が下がるわけではないようですが、クレア・クティーノ・エネルギー安全保障相は「エネルギー会社が払う税金が増えれば公的サービスに回せる」と述べています。英国は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を立てていますが、スナク首相は新規開発がこれには矛盾しないと述べています。一方、環境保護団体は化石燃料への新規投資は気候温暖化防止に逆行する動きだと批判しています。8月、こうした組織の一つグリーンピースの活動家が、英中部ノース・ヨークシャーにある首相の自宅の屋根に上って抗議活動を行う事態にまで発生しました。首相が気候変動対策に消極的という批判には一理あるかもしれません。9月にはガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止の導入時期を当初の予定だった2030年から35年まで延期すると述べているからです。
英国のエネルギー源は化石燃料が大部分を占め、トップがガスで39パーセント、次が石油の36パーセントです。ガスの大部分は北海から提供されるか、米国やカタールなど複数の国から海上輸送のタンカーで運ばれてきます。ウクライナに侵攻したロシアからのガスの供給は4パーセント以下でした。
北海で石油・ガスの採掘が始まったのは、1970年代です。業界団体「オフショア・エネジーズUK」の調べによると、稼働中の北海の油田・ガス田は300弱。その半分は2030年までに稼働停止状態となる見込みです。政府はエネルギー需要を満たすには新規の開発が必要と考えています。北海からのガス・石油の生産は1990年代末をピークに減少中。これまでに480憶バレルの石油やガスが採掘され、残りは40億バレルといわれていますが、これ以下になる可能性がないとはいえません。
ガス・石油の新規開発ライセンス付与について、与党保守党と最大野党労働党の方針は異なっています。来年秋と予想される総選挙をにらみ、キア・スターマー労働党党首は、選挙に勝利して政権を発足させたら、すでに認可されたライセンスの取り消しはしないけれども、今後は新規ライセンスを認可しない方針を明らかにしています。影のエネルギー安全保障相エド・ミリバンド氏は、スナク政権による毎年の新規認可方針は「政治戦略の一つ」で、光熱費が下がるわけでもなく、エネルギーの安全保障も強化しないと批判しました。
環境が政治の争点になったことは否めません。7月の下院補欠選挙では保守党の候補者が当選しましたが、その鍵を握ったのはロンドン市長サディク・カーン氏が力を入れる、大気汚染対策に反対の姿勢を取ったからといわれています。スナク首相は、現実的かつ不要な負担を家庭に与えない方法を模索し、気候変動対策の実施速度を緩め、生活費の高騰に悩む国民の支持を得たいと考えているのかもしれません。
Oil and Gas Licence(石油・ガスの開発ライセンス)
ここでは大西洋北東部に位置する英国、デンマーク、ノルウェーなどに囲まれた海域「北海」でのガスや油田の開発に対する認可を指す。政府が所有する「北海移行規制機関」(NSTA)(旧英国石油ガス規制機関)が査定後、ライセンスを付与する。オフショア石油認可法案は手続きを柔軟化させ、より早く事業ができるようにする。