トランプ米政権が世界各国に驚きの関税措置英国は基本税率10%、景気への負の影響ありか
「関税(Tariff)。最高に美しい言葉じゃないか」。毎度お騒がせのドナルド・トランプ米大統領は常々、こう言っていたそうですね。今月2日、トランプ氏は「米国をもう一度裕福にするために」世界中の国や地域を対象に、貿易相手国の関税率や非関税障壁を踏まえて自国の関税を引き上げる「相互関税」を導入すると発表しました。ほぼ全ての国や地域に一律に適用する10パーセントの最低税率と、そのうち約60カ国や地域に適用する上乗せ税率で構成されています。基本関税は5日、相互関税は9日に発動されました。貿易赤字の解消と製造業の復活が今回の関税政策の目的といわれています。
英国は基本関税10パーセントを課されることになりましたが、ベトナムやカンボジアには上乗せ分が加わって50パーセント近くの課税となり、欧州連合(EU)は20パーセント、日本は24パーセント。また、当初米政権がライバル視する中国への関税は104パーセントに達し、これに対抗して中国政府は米国からの輸入品への関税を34パーセントから84パーセントに上昇させる対抗措置を取ると発表しました。
さて、関税は外国からモノを輸入する際に課される税金ですよね。輸出する側ではなく、輸入する側が支払いますので、英国市場に輸入品が入ってくる場合、歳入税関庁に税収が入ってきます。もし政府が輸入品に高額の関税を課し、これが販売価格に反映された場合、値段が上昇するかもしれません。消費者は同じような商品が国内にあればより安い方を買うでしょう。この意味で関税は国内産業を守る役目を持ちますが、輸出企業は商品が高額にならないよう生産拠点を輸出先に移転させ、関税を課せられない状況を作るなど知恵をしぼります。
ほとんどの場合、関税として支払う額は価格に対し、品目ごとに定められた関税率をかけて算出されます。例えば英国への輸入自動車への関税を10パーセントとすると、1万ポンド(約187万1000円)の外国車が英国で販売される場合、関税は1000ポンド(約18万7100円)になるわけです。一部の農産物の関税率は作物の重量とひもづけされています。
今回の関税措置で英国にはどのような影響があるのでしょうか。まず、米国は最大の輸出先です。政府の計算によると、昨年英国から米国への輸出金額は約580億ポンド(約11兆708億円)となり、その内訳は自動車、薬品、発電機、科学機器、航空機など。基本関税とは別に3月からは鉄鋼製品やアルミニウム、自動車には25パーセントの関税が発動されていますので、負の影響があるのは確実でしょう。でも、英国の米国向け輸出額は国内総生産(GDP)の2.2パーセントにすぎません(2023年)。米国への輸出品の一部は英国外で生産されており、さらに数字は低くなりそうです。また、国家統計局の調べによると、英米間の貿易収支はバランスが取れ、互いへの輸出と輸入額はほぼ同額となっているそうです。
英政府は中国やEUなどとは異なり、報復として米国に高関税を課す方針は取っておらず、交渉による事態打開策を探っていましたが、相互関税発動から間もない9日午後、トランプ大統領は報復措置をとらず問題の解決に向けて協議を要請している国に対しては国や地域ごとに設定した上乗せ部分を90日間停止すると発表。一律10パーセントの基本関税は維持するそうです。株式市場の下落や米国の国債市場の先行き不透明感が影響したと見られています。90日間の停止措置とともにトランプ氏は中国に対する関税を125パーセントに引き上げると発表しました。3月までに発動した20パーセントと合わせると、対中国の追加関税は145パーセントに上ります。すると今度は中国が対米輸入品に125パーセントの追加関税を課すと発表。関税戦争が白熱化しています。その行方はまだまだ予測が付きません。
Tariff(関税)
国境を越えて輸入される商品に対して課される税金。英国は米国とは包括的な自由貿易協定(FTA)がなく、世界貿易機関(WTO)の規定、もしくは相互の品目ごとの措置に基づく関税策を採る。米国の新関税体制では英国の乗用車の米国への輸入には25パーセントの関税がかかる。以前は約2.5パーセントだった。