Hanacell
ドクターの診察室


いわゆる 「慢性上咽頭炎」について

日本の知人から「慢性上咽頭(じょういんとう)炎」という病気のことを聞きました。インターネット上では新型コロナウイルス感染症の後遺症との関連も話題になっていますが、ドイツの家庭医や耳鼻科に尋ねても分からないといわれます。どのような病気なのか、また治療法についても教えてください。

Point

  • 鼻の奥の突き当たりの部分が上咽頭
  • 約70年前に日本で提唱された疾患概念
  • 上咽頭の病巣が体調に影響
  • Bスポット療法(EAT)が治療法
  • 病名、治療法とも国際的認知はほとんどない
  • 鼻うがいも予防、治療に有効とされる

上咽頭について

上咽頭の部位

鼻の奥の突き当たりの部分で、鼻の穴がのどと合流する部分が上咽頭(Epipharinx)です。そこからのどの奥までの全体部分が咽頭(Pharinx)と呼ばれます。

上咽頭の部位 上咽頭の部位

上咽頭での感染防御

鼻呼吸の通り道にある上咽頭には、リンパ組織の咽頭扁桃(へんとう)(Pharynxtonsile、肥大したものがアデノイド)があり、鼻からの感染を防ぐ免疫に関与しています。また咽頭粘膜に捕捉された異物は、粘膜表面の線毛の運動により体外に排除されるため、物理的バリア機能も担っています。

急性の咽頭炎(akute Pharyngitis)

咽頭は鼻や口を通して外とじかに接するため、感染を起こしやすいところです(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)。過労や寝不足による免疫機能の低下、気温の低下などが誘引となります。

いわゆる「慢性上咽頭炎」とは?

教科書やWHO国際疾病分類にはない病名

「慢性上咽頭炎」という疾患名は、日本の耳鼻咽喉科学の教科書には見当たりません。分類項目数が約1万8000もあるWHOの死亡・疾病統計に用いられた2019年改定の「国際疾病分類」(ICD-11)にも、疾患項目として挙げられていません。

医学界の見方

「慢性上咽頭炎」の概念と治療法は、日本の耳鼻咽喉科の専門家の間でも見解に差がみられます(日本口腔・咽頭科学会内の委員会で検討中)。ドイツを含め国際的にはほとんど知られていません。

昔からある「慢性上咽頭炎」の概念

実は70年近く前から

「慢性上咽頭炎」の概念は、大阪医大の山崎春三教授の「鼻咽頭炎症候群」の発表があった1942年にまでさかのぼります。1956年には東京医学歯学専門学校(現東京医科歯科大学)の堀口申作教授が「鼻咽腔(びいんくう)炎の現す諸症状」を発表、1966年に後にBスポット療法と呼ばれる上咽頭擦過(さっか)療法(Bスポット療法、EAT、後述)を報告しました(日耳鼻誌)。短期間であまりにも多くの病状や症状を著明に改善したとの報告は、当時懐疑的にも受けとめられました。

いわゆる「慢性上咽頭炎」の最近の考え方

慢性的な上咽頭の炎症

鼻や口を通して炎症を生じやすい部位で、病的炎症に至らなくとも生理的炎症や軽度の病的炎症が繰り返され、局所のうっ血などが続く状態をいわゆる「慢性上咽頭炎」としています。

関係するとされている症状

①上咽頭の炎症による症状(のどの違和感など)、②咽頭の知覚に携わる三叉(さんさ)神経、舌咽(ぜついん)神経、迷走神経の支配する領域への放散痛(肩こりなど)、③副交換神経である迷走神経を介する自律神経症状(めまいなど)、④持続的な炎症が病巣となり免疫機能を介して起こる二次疾患(IgA腎症など)(病巣感染、後述)が「慢性上咽頭炎」の疾患概念です。

「慢性上咽頭炎」の疑いのチェック

のどの違和感があり、耳下の首の横の筋肉(胸鎖乳突筋)を押して痛みがあれば、「慢性上咽頭炎」の疑いの可能性があるとされています。

全身疾患と関連

腎疾患(IgA腎症)

腎臓内科医の堀田修先生(堀田修クリニック)は、IgA腎症(免疫グロブリンの沈着が関係する慢性腎臓病の一つ)が「扁桃腺摘出とステロイドのパルス療法の併用」で予後が改善すること(2001年のAm J Kid Dis誌)、さらに少数例の検討ながら上咽頭擦過療法を加えることでIgA腎症の進展をより抑えられることを報告しました(2019年のAutoimm Rev誌、2022年のSch JOto誌)。

コロナ感染後の易疲労感

コロナ後遺症にみられる易疲労感が週1回、1カ月間の上咽頭擦過療法で改善したとの報告(2021年の日本医事新報誌のオピニオン欄、2022年のVirsuses誌)があり、インターネット上で注目を浴びました(2021年のKyodo News など)。

関係あるかもしれないという病態

前述の堀田先生は慢性の上咽頭の炎症が自己免疫性疾患(2017年のJ Antivir Antiretrovir誌)、慢性疲労性症候群(2018年のJ Tr ansl Sci誌)、子宮(けい)がんワクチン後遺症(2017のImmunol Res誌)にも関係するのではないかとの説を提唱しています。

上咽頭擦過療法(Bスポット療法、EAT)

Bスポット療法(EAT)

上咽頭に0.5~1%の塩化亜鉛(Zinkchlorid)を擦りながら塗る治療法です。Bスポット療法の「B」は鼻咽腔をローマ字読みした「Biinku」の頭文字から、EATは上咽頭擦過療法(Epipharinx Abrasive Therapy)の頭文字で、Bスポット療法と同義です。最近は経鼻内視鏡(Endoskopie)を用い、炎症部位を目で確認しながらの治療もあります(E- EAT)。

Bスポット療法(EAT) Bスポット療法(EAT)

治療の実際

綿棒に染み込ませた塩化亜鉛の溶液を鼻からと口から、上咽頭の後壁に強く擦って塗りつけます。上咽頭を擦ったときの痛みが強く出血が多いほど、炎症が強いと判断されます。何回か繰り返すごとに炎症が軽減して出血も痛みも軽くなるとされています。

効果について

東京の大野芳裕先生(大野耳鼻咽喉科)は、「慢性上咽頭炎」患者を92名を対象に検討、上咽頭擦過により局所所見の改善率は73%、主訴となった症状のアンケートでの改善率は88%と報告しています(2021年の口咽科誌)。さらなる客観的な臨床評価が望まれます。

安全性は?

積極的な安全性の臨床評価はされていません。嗅覚障害を避けるために鼻腔の天井部分に近い部分への擦過塗布は避けるべきとされています(日本病巣疾患研究会)。

推定される効果

①塩化亜鉛の抗炎症作用による炎症の沈静化、②うっ血部位からの出血による局所循環の改善、③上咽頭を擦ることによる迷走神経の刺激、などです。 さらに上咽頭の炎症を抑えることにより、自己免疫性の二次疾患にも効果があると推測されています(2017年のJAntivir Antiretrovir誌)。

Q&A

病巣感染(Fokalinfektion)とは?

体のどこかに慢性の炎症(扁桃腺炎、副鼻腔炎、胆嚢(たんのう)炎、虫歯など)があり、それ自体の症状は軽いものの、これが原因で体のほかの疾患を生じることをいいます。

ドイツでもBスポット療法(EAT)を受けられる?

「慢性上咽頭炎」の病名もBスポット療法(EAT)も、必ずしも国際的に受け入れられたものではありません。施行は日本国内の限られた医療機関のみといえます。

「鼻うがい」も有効

Bスポット療法を積極的に進める日本病巣研究会では「慢性上咽頭炎」の予防、治療のための1日2回の「鼻うがい」(Nasenspühlung)を勧めています。ドイツでは簡便な鼻うがい器を薬局(Apotheke)で購入できます(EMSER® Nasenduscheなど)。

治療法に関しての日本口腔・咽頭科学会の判断が待たれます。

最終更新 Dienstag, 10 Januar 2023 16:41
 

子宮頸がんワクチンの日独の違い

日本で子宮(けい)がん予防ワクチンの接種が再び推奨されていると聞きました。来年中学に入る子と現在高校3年の子がおり、子宮頸がんワクチンについて知りたいと思っています。日本とドイツではワクチン製剤や投与方法に違いはあるでしょうか? 日本の対象年齢で接種を受けなかった場合は、もう接種はできないのでしょうか?

Point

  • ワクチン接種は子宮頸がんの予防効果あり
  • ドイツは9〜14歳の男女に推奨
  • 日本は小6〜高1相当の女子が接種対象
  • 日本にはキャッチアップ接種あり
  • 9価ワクチンは原因ウイルスの90%以上をカバー

ヒトパピローマウイルス(HPV)

ウイルス持続感染が原因

子宮頸がん(Gebärmutterhalskrebs)は、主に35〜59歳の若い世代の女性のがんです(ロベルト・コッホ研究所、以下RKI)。子宮頸がんの95%以上はヒトパピローマウイルス(Humane Papillomviren、以下HPV)の持続感染が原因です。

HPV陽性率は?

性経験のある女性の50%以上が生涯で一度はHPV感染するといわれています。ほとんどの感染は自然に消えてしまいますが、ウイルスの持続感染が続くと子宮頸がんの原因になります。日本での子宮頸がん検診受診者のHPV陽性率は、 6.8%(2018年のCytopathol誌)〜11.7%(2017年のCancer Epidemiol誌)と報告されています。

子宮頸がんの頻度

日本では年間約1万人に子宮頸がんが見つかっており、そのうち約2800人が亡くなっています(2020年、日本産婦人科学会)。50歳未満の若い世代を含め、日本でも患者数・死亡者数とも増加傾向がみられます(国立がん研究センター)。

性経験で感染

HPVは性的接触により感染する一種の性感染症ともいえ、男女を問わず感染する可能性があります。男性では尖圭(せんけい)コンジローマ、陰茎がん、咽頭がん、肛門がんなどの原因になり、ワクチン接種は尖圭コンジローマの予防にもなります。

HPVが関与するがん疾患

HPVが関与するがん疾患

子宮頸がん予防ワクチン

子宮頸がんの予防効果は?

スウェーデンの調査では、予防ワクチンの非接種者と比べ88%(接種年齢が17歳未満、2020年のNEJM誌)、デンマークでは86%(同16歳以下、2021年のJNCI誌)、英国では87%(同12〜13歳、2021年のLancet誌)の子宮頸がん(高度異形成)発症率の低下が報告されています。

接種年齢が低い世代ほど高いワクチン効果

英国の調査では、12~13歳の女子でのワクチン予防効果は87%であったのに対し、16~18歳の年齢層では 34%でした(2021年のLancet誌)。ワクチン接種による抗体価は接種年齢が低い方が高いとの報告もあります(2021年のLancet誌)。

接種年齢とワクチン接種の予防効果

調査国 ワクチン接種時の年齢
英国* 12~13歳
97%
14~16歳
75%
16~18歳
39%
デンマーク 16歳以下
86%
17歳以上
68%
スウェーデン** 17歳未満
88%
17歳以上
53%
米国* 14~17歳
73%
18~ 20歳
41%
20歳以上
効果なし
*高度異形成・上皮内がん、 **浸潤がん

ワクチンの2価、4価、9価とは

「価」は予防可能なヒトパピローマウイルスのタイプ(型)の数を示します。「2価ワクチン」では子宮頸がんの原因の60〜70%を占める16型と18型に対して、「4価ワクチン」は前者に加えて尖圭コンジローマの原因となる6型、11型にも予防効果が期待できます。「9価ワクチン」では、さらに31型、33型、45型、52型、58型ウイルスにも効果があるため、子宮頸がんの原因となりうる90%以上のウイルス型に対して予防効果が期待されます。

ドイツの場合

使用ワクチンは2種類

2価ワクチン「Cervarix®、GSK」(日本のサーバリックス)と、9価ワクチン「Gardasil®9、MSD」(日本のシルガード9)の2種類です。

ドイツでは9〜14歳の男女が対象

2007年より9〜14歳の女子(Mädchen)、2018年より同年齢の男子(Jungen)への予防接種が推奨されています(RKI)。未接種のまま年齢枠を過ぎてしまった場合は、18歳の誕生日前のできるだけ早い時期の接種が勧められています。

ドイツのワクチン投与回数

ドイツでは5カ月以上を挟んでの2回接種が行われます(2回接種の間が5カ月未満の場合は3回目接種が必要)。15歳を過ぎてから1回目接種を行う場合は、3回接種が必要です。

日本の場合

ワクチンは3種類(保険適応は2種類)

日本で接種できるのは2価の「サーバリックス」、4価の「ガーダシル」、9価の「シルガード9」です。定期接種として公費対象となるのは2価と4価のみです(シルガード9は2023年4月よりの改定準備中、厚生労働省)。

接種の対象者は?

小学校6年(12歳になる年度の4月1日)〜高校1年相当(16歳になる年度の3月31日)の女子が対象です。自己負担ですが、2020年から男子へのガーダシル接種もできるようになりました。

日本は3回接種が標準

2価のサーバリックスでは初回、1カ月後、6カ月後の3回接種、4価のガーダシルでは初回、2カ月後、6カ月後の3回接種が基本です(厚生労働省)。

日本のキャッチアップ接種とは

1997年4月2日〜2006年4月1日生まれの人

積極的な接種が控えられていた時期にワクチン接種を逃した女子、あるいは過去に合計3回の接種を受けていない女子のために、公費での接種(キャッチアップ接種)の機会が設けられています(厚生労働省)。

キャッチアップ接種の背景

大阪大学の研究グループより、子宮頸がんワクチン接種が激減した2000年度生まれの女性の子宮頸がん検診で、細胞診異常率の上昇が報告されました(2021年のLancet Regional Health誌)。ワクチン接種が事実上停止した9年間の空白世代への対応が必要とされています。

日本とドイツの接種対象年齢、接種回数

ドイツ 接種 推奨 可能 対象外
年齢 9~14歳 15~17歳 18歳以上
接種回数 2回 3回 -

日本 接種 推奨 可能
年齢 小6〜 高1相当 1997年〜2006年生
接種回数 3回 3回
※ キャッチアップ接種

子宮頸がんワクチンの種類

ワクチン 日本
(女子*)
ドイツ
(男・女)
予防効果が期待できる
原因ウイルスの割合
2価 60~70%
4価 -
9価 △** 90%以上
*男子は私費負担、**私費負担

Q&A

接種は大人になるまで待っても良いでしょうか?

最近の報告によると12〜13歳での接種の予防効果が最も高く(2021年のLancet誌)、16~17歳以降では低下(2020年のNEJM誌、2021年のJNCI誌)、20歳を過ぎてからの接種では予防効果がないか(2018年のLancet Child Adol Health誌)、期待できる効果が相当小さくなります(2021年のJNCI誌)。

ワクチンを受ければ子宮頸がん検診は不要ですか?

子宮頸がん検診、ワクチンともに有効な子宮頸がんの予防方法で、どちらも受けることが重要です。ワクチンはHPV感染の全てを予防できるわけではないので、早期発見・早期治療のために子宮頸がん検診も定期的に受けるようにしましょう。

最終更新 Dienstag, 06 Dezember 2022 18:00
 

帯状疱疹とその予防接種

帯状疱疹は水ぼうそうウイルスが原因というのは本当でしょうか? 64歳の母は、幼少時に水ぼうそうにかかっています。それでも帯状疱疹・水ぼうそうの予防接種を受けた方が良いのでしょうか?

Point

  • 水痘(水ぼうそう)ウイルスが原因
  • 水痘感染歴がある50歳以上に多く発症
  • 80歳までに約3人に1人が罹患(りかん)
  • 罹患した約5分の1に帯状疱疹後神経痛も
  • 50歳以上では予防接種が効果的

水ぼうそうと帯状疱疹の原因は同じウイルス

名前の由来

赤い斑点と小さな水疱(すいほう)が帯状に拡がるため、「帯状疱疹」の病名がつきました。ドイツ語ではベルト(Gürtel)状のピンク色(rosa)の発疹という意味で、「Gürtelrose」(専門用語はHerpes Zoster)と呼ばれます。

水痘・帯状疱疹ウイルス(Varizella-Zoster-Virus)

水疱瘡(みずぼうそう)(=水痘)の原因である「水痘・帯状疱疹ウイルス」(以下、水痘ウイルス)の保有者に生じます。水痘ウイルスは、水痘が治った後も脊髄(Rückenmark)の知覚神経の神経節(Nervenknoten)に潜んでいます。

帯状疱疹の頻度

80歳までの人の約3分の1に発症します(2016年のロベルト・コッホ研究所 [以下RKI]の報告書、2017年のOFID誌)。85歳までに約半数が罹患するという報告もあります(1975年のJ Royal Coll Gen Prac誌)。

免疫低下と加齢がリスク因子

加齢、寝不足、過労、強いストレスなどで免疫が低下した状態、または免疫低下を伴う病気、免疫抑制の薬を用いている場合、さらに新型コロナウイルス感染(2022年のOFID誌)でも発症しやすくなります。加齢は特に重要なリスク因子で(2013年のN Engl J Med誌)、50歳頃から発症頻度が上昇します(2015年のJ Epidemiol誌、2017年のOFID誌)。

ウイルス保有率は90%

50歳以上の日本人の90%(2017年の国立感染症研究所のファクトシート)に、ドイツでは60歳以上の高齢者の95%以上(2001年のVaccine誌)に水痘ウイルスが潜んでいます。

帯状疱疹の症状

最初はピリピリ感

皮ふのピリピリ感、チクチク感といった痛みや違和感が最初に現れます。この時点では、なぜ痛むのか分からないことが少なくありません。

帯状疱疹の経過

多くは数日程度で痛む箇所に一致して帯状の赤い斑点状の皮疹(ひしん)(Ausschlag)が出現、次第に小さな水ぶくれ(Blase、Wasserblase)を伴います。水ぶくれが破れるとかさぶた(Schorf)ができて、発症から7~10日で皮疹は消失します。神経痛はそれより遅れて発症から3~4週間でなくなります。

体の片側だけに現れるのが特徴

体表の神経分布は左右で分かれているため、皮疹は体の左右どちらか一方(einseitig)の神経支配領域に沿って現れるのが特徴です。

皮疹が出やすい部位は?

最も多いのは上肢から胸背部にかけて全体の約3分の1を占めます(2003年の日皮会誌)。口の中に皮疹ができると食事が困難になることもあります。

帯状疱疹の発症部位

目、耳の合併症も?

鼻のてっぺんに帯状疱疹を認めたときは同じ三叉(さんさ)神経(第1枝)に支配される目の合併症、耳たぶの帯状疱疹では面神経麻痺(まひ)や耳痛、めまいを伴うこと(Ramsay-Hunt症候群)があります。

帯状疱疹後神経痛について

帯状疱疹後疼痛(とうつう)とは(Post-Zoster-Neuralgie)

皮疹が消えた後に3カ月以上(1カ月以上という定義もあり)も痛みが続く状態で、痛みのために睡眠や日常生活の「生活の質」(Quality of Life、QOL)が低下します。

帯状疱疹後神経痛の頻度

50歳以上の帯状疱疹の患者の約2割にみられ、高齢になるほど頻度が高くなります(2012年のContin Educ Anaesth Crit Care Pain誌)。

なぜ痛みだけ残るのか?

帯状疱疹による神経の炎症による損傷が残り、その神経の支配領域の皮ふが非常に敏感になることが一因と考えられています。

帯状疱疹の治療

抗ウイルス薬

抗ウイルス薬(Aciclovir、Valaciclovir、Vidarabinなど)が用いられます。ウイルスは増殖速度が速いので、抗ウイルス薬の治療開始はできるだけ早い方(72時間以内が望ましい)が効果的です。急性期の適切な治療で帯状疱疹後神経痛のリスクも減るとされます。

軟こう(Ausschlag)

皮ふのただれなどの皮膚病変に対しては、白色ワセリンのような創傷治療外用薬が用いられます。抗ウイルス薬軟こうの有効性は必ずしも明確ではありません。

痛み止め

神経痛、皮ふの痛みが強い場合には、アセトアミノフェン(Paracetgamol®)や非ステロイド系の鎮痛薬(NSID)が用いられます。

そのほか

それでも強い痛みが残る場合には、三環系抗うつ薬、オピオイド製剤、神経ブロック注射などが用いられることがあります(日本ペインクリニック学会の「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」)。

帯状疱疹を未然に防ぐ方法

予防接種が薦められる人は?

ドイツでは健康な60歳以上の人と慢性疾患のある50歳以上に対してのワクチン接種が推奨されています。日本国内では50歳以上の人が対象となります。

ワクチン製剤

ドイツでは2013年より生ワクチンのZostavax®と、2018年より不活化ワクチンのShingrix®が用いられています。Shingrix®の方が高齢者でも予防率が高く、効果持続期間も長いため、RKIおよび米国の疾病対策予防センター(CDC)はShingrix®をより推奨しています。

ワクチン効果はどのぐらい?

ワクチンは水痘ウイルスに対する細胞免疫を高め、帯状疱疹の発症を抑えます(2005年のN Engl J誌)。帯状疱疹の生涯発生を約10分の1(100人中33人から100人中3人へ)減らすことができます(RKI)。

帯状疱疹を未然に防ぐ方法

日本の水痘ワクチン接種はいつから?

日本では1987年より任意で水痘ワクチンの接種ができるようになりましたが、接種率は低く、2014年10月より定期接種化されました。そのため2014年より前に生まれた世代では、水痘に自然感染した人も多くいます。

水痘ワクチン接種をしても発症する?

水痘感染のリスクが著減するため、体内に水痘ウイルスが潜んでいる可能性は低く、帯状疱疹の発症も3分の1~12分の1に減ります(2009年のPediatr Infect Dis J誌、2013年のJ Infect Dis誌)。

帯状疱疹はうつる?

帯状疱疹はほかの人に帯状疱疹としてうつることはありません。ただし水痘ワクチンの未接種者に水痘ウイルスが感染し、水痘を発症させる可能性はあります。

水痘患者に接して帯状疱疹が発症する?

例えば、水痘の孫に接しても祖父の帯状疱疹の原因にはなりません。

どうして50歳以上で増えるの?

年齢とともに下がる免疫力と、加齢やストレスでさらに免疫が低下しやすくなっていることが関係します。

ワクチン接種で帯状疱疹が発症することは?

ワクチン接種で水痘や帯状疱疹を発症することはありません。ただし注射部位の局所的な痛み、頭重感や倦怠(けんたい)感などが接種後1~2日間みられることがあります。

最終更新 Dienstag, 08 November 2022 11:52
 

気候変動と私たちの健康 エネルギー不足の今冬のために

地球温暖化をはじめとした気候変動に加え、この冬のエネルギー不足問題も連日話題となっています。私たちの健康に影響するのでしょうか?

Point

  • 耐寒、耐暑の体温調節能は加齢で低下
  • 温暖化で感染症リスク地域が変化 
  • 温暖化で熱中症のリスクが高まる 
  • 秋〜冬は太陽光に当たる工夫を
  • 規則正しい生活、歩行、十分な睡眠
  • 今冬は暖房費にも留意を

体の気温変化への対応

地球の陸地の80%に居住

「地球上で人間が居住している地域」(エクメーネ)は陸地の80%を占めます。これは環境に合った衣服や暖房器具があってのこと。それらなしに人が暮らせる気温の範囲は意外と狭いものです。

体温を一定に保つ仕組み

暑いと発汗により体温上昇を抑え、寒いと末まっしょう梢血管が収縮して体温発散を防ぎます。体内の代謝活動やホルモンにも、体温を一定に保つ働きがあります。亜熱帯や熱帯で生まれ育った人は汗腺数が多く、発汗能が優れています(1978年の日本熱帯医学会誌)。また暑さ、寒さへの適応能は加齢とともに低下します(2017年のAm J Physiol 誌、2012年のGerontology誌、2018年のBio Med Res Int誌)。

至適温度に関わる環境因子

生活上の好ましい気温は17〜24度で、快適さには、①気温のほか、②湿度、③輻

ふくしゃ射温度、④風速が関わります(1978年の人類誌)。外気温が同じでも、日光が当たれば暖かく(暑く)、風が吹いていると涼しく(寒く)感じます。

感染症拡大への危惧

なぜ拡大?

気候の温暖化とそれに伴う降水量や降水パターンの変化により、蚊(Mücke)やダニ(Zecke)など感染症媒介生物の生息域が拡大するためです。

ダニ脳炎(Frühsommer-Meningoencephalits、FSME)

ダニ脳炎のドイツでの感染リスク地域(Risikogebiet)は南ドイツでしたが、ここ数年はアーヘン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)近郊でも発症が報告され(6月21日付のRheinische Post紙)、同州にあるゾーリンゲンはロベルト・コッホ研究所(RKI)のリスク地域リストに加えられました。

デング熱(Dengue)

日本においてもデング熱を媒介するヒトスジシマカ(Tigermücke)の分布域の北上が報告されています(日本の環境省の「地球温暖化と感染症」より)が、近年は南ドイツでもヒトスジシマカが確認されるようになりました(6月10日のヴェルト紙)。

マラリア(Malaria)

多くの人が最も恐れているのがマラリアの拡散です。媒介動物のハマダラカにとってドイツの冬は寒過ぎるため、ハマダラカ生息の可能性は考えられていません(6月10日のヴェルト紙)。

暖冬と花粉症(Heuschnupfen)

飛散時期の変化

花粉の飛び交う時期が早まったり、長引いたりする可能性が指摘されています。1月下旬〜2月のハーゼル(Hasel)やハンノキ(Erle)の花粉症が12月にみられたこともあります(2018年12月のSpiegel誌)。

虫刺され(Insektenstich)

ノスフェラトゥ・クモ(Nosferatu-Spinne)

ドラキュラの別称「ノスフェラトゥ」の名を持つ、温暖な地中海域に生息する比較的大きめなクモ(体が1〜2センチ、足が最大5センチ)です。今年はドイツ各地で生息が確認されました(9月8日のReinische Post紙、9月2日のヴェルト紙)。クモの巣を作らずに家の中で生息し、かまれると強い痛みがありますが、血を吸うことはありません。

ヴェスペ(スズメバチ、Wespe)

2022年の夏は特にヴェスペの数が多く、「ヴェスペの年」(Wespenjahr)と呼ぶ人も(8月18日のヴェルト紙)。暖冬の影響で春に多くの女王ヴェスペが巣作りし、さらにヴェスぺは乾いた高温の気候を好むため、この夏に大量に発生したと推測されています(同紙)。

気温上昇、空気の質

熱中症の増加

夏の気温上昇は高い湿度や都市部の地面からの照り返しも加わり、熱中症のリスクが高まります。高齢者では循環器系や呼吸器系への負担も大きく、死亡率への影響も指摘されています(2002年のIPCC報告書)。

大気汚染(Ausschlag)

大気汚染との複合的影響により、地域や国によってはぜんそくやアレルギー疾患の増加が懸念されています。

エネルギー不足と冬の健康(Heuschnupfen)

暖房費・光熱費上昇の可能性

今冬は住宅用暖房用のガスの不足や暖房費の値上げがささやかれています。暖房の設定温度をやや低めに保ったり、日本のように部屋ごとの暖房や足だけを暖めるコタツ的なものを用意したりすることも有用かもしれません。窓からの熱の放散を防ぐには2重窓や3重窓、厚手のカーテンも部屋の保温に役立ちます。

入浴、シャワー

入浴やシャワー回数を減らすことでエネルギーを節約したい場合、シャワーを浴びて体を温め、すぐに寝るという工夫も。冷たいシャワー(kalgen Dusche)を浴びて体を温めることの利点を載せた記事(8月16日のRheinische Post紙)もありますが、慣れないで急に冷たいシャワーを浴びると心臓病や高血圧の人には大きなリスクにもなり得ます。

照明と冬季うつ

寒く暗いドイツの冬は「冬季うつ」(Winterdepression、ウィンターブルー、季節性情動障害)の季節。部屋だけでも明るく過ごしたい場合、効果的な予防や治療法には市販の専門照明器具による強い光量(1万ルクス)を用意すると良いでしょう(本誌1111号参照)。

室内での運動

自宅で行うフィットネスなどの運動は血液の循環を良くし、冷えた体を温めるのにも役立ちます。

今冬の新型コロナ感染、インフルエンザ流行は?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

コロナウイルスは冬季に活動が増すため、ドイツでも晩秋からの新型コロナ感染の拡大が危惧されています(6月8日のドイツ政府のコロナ専門者会議報告書)。ワクチン接種者も新型コロナ感染者の抗体価も月日の経過とともに低下するため、高齢者などリスクグループに属する人は4回目のワクチン接種が推奨されています。

インフルエンザ(Grippe、Influenza)

日本感染症学会は、インフルエンザに対する集団免疫が低下しているとして「今季はインフルエンザの流行の可能性が大きい」と警告しています(8月9日更新版)。一方、東京都感染症情報センターの定点調査の報告(第36週[8月末~9月初旬])では、今シーズン(2022〜 2023年)のインフルエンザ流行の兆しはまだ見られていません。

この冬を健康に暮らすために

よく歩く

日常から歩くことは足腰を鍛え、血圧や糖質代謝にも良い影響をもたらします。有酸素運動は加齢に伴う温度適応の低下を防ぐとされています(1994年の日本生気象学会雑誌、2016年の日職災医誌)。

十分な睡眠

睡眠は疲れた身体の疲労回復だけではなく、免疫を高めることにより風邪などの病気にかかりにくくします。睡眠は記憶の定着にも必要です。

太陽光に当たる

日本より緯度が高いところに位置するドイツでは、これからの季節は太陽光により皮ふで作られるビタミンDが不足しがちです。晴れた日は1回15〜 20分、週2〜 3回の日光浴が勧められます。

規則正しい生活

起床、食事、睡眠、体を動かすなど、無理のない規則正しい生活が大切です。デスクワークが多い人は、仕事中も体を時々伸ばすなどの工夫を。就寝直前の食事は好ましくありません。

最終更新 Donnerstag, 13 Oktober 2022 17:11
 

足の静脈瘤をご存じですか?

出産後から足のふくらはぎの裏に青い網目状の血管が浮き上がって見えるようになりました。日本に住む母も足の血管がボコボコと盛り上がっていたので、同じようになるのではないかと心配です。これからの予防法や治療について教えてください。

Point

  • 血管が浮き出て、拡張・蛇行
  • 比較的多い下肢の所見
  • 静脈の弁が壊れて血液が逆流
  • 妊娠、立ち仕事、加齢がリスク因子
  • 多くは無症状、かゆみ・熱感も
  • 弾性ストッキングが有効
  • 歩くことで働く筋ポンプ

動脈(Arterien)

血液を届ける

心臓(Herz)より拍出された血液は体のすみずみまで送られ、毛細血管を介して細胞が必要としている栄養分・酸素などを届けます。動脈は弾力性に富み、高い血圧にも耐えることができます。

動脈と静脈

筋肉が血流の調節

動脈の壁には筋肉(血管平滑筋)の層があり、血管の太さを調節します。交感神経系や各種の血管作動物質が血管の収縮・拡張に関わっています。

静脈(Venen)

血液の心臓への帰り道

毛細血管での役割を終えた血液は静脈を通って心臓に戻ります。心臓(右心房)の拡張により重力に逆らって血液を足から心臓まで引っ張りあげます。歩行はふくらはぎの深部静脈(後述)を絞り出すように圧迫して血液の移動を促します(筋ポンプ、後述)。

逆流を防ぐ「弁」

静脈には逆流を防ぐ「弁」が備わっています。血液が心臓に向かって流れるときだけ弁が開き、それ以外は弁が閉じて重力で血液が下がるのを防いでいます。

静脈瘤の成因

表在静脈(ひょうざい)と深部(しんぶ)静脈

足の静脈には皮ふの近くの「表在静脈」と、筋肉の中を走る「深部静脈」があり、静脈瘤は「表在静脈」の障害です。一方、足の血液の90%以上は深部静脈を流れます。

筋ポンプ(Muskel-Venen-Pumpe)

歩くことによりふくらはぎの筋肉が深部静脈を絞り出すように圧迫して、血液の移動を促しています。全く歩かずに立ちっぱなしでいると足がむくみやすいのはこのためです。

足の「静脈瘤」とは(Krampfader、Varize)

体にできる静脈瘤

静脈が拡張し瘤こぶのようになった状態を指します。足の静脈瘤が最も知られていますが、おしりにできる内痔核(肛門と直腸のつなぎ目より直腸側にある痔)は静脈叢(じょうみゃくそう)が腫れた一種の静脈瘤です。また、肝硬変に伴い現れるおへそ付近の血管拡張(「メデューサの頭」と呼ばれます)や大量出血の原因となる食道静脈瘤もあります。

足の静脈瘤の種類

見た目に、①ボコボコと膨らむタイプと、②クモの巣状・網目状に見えるタイプがあります。①は障害部位によって側枝型静脈瘤、陰部静脈瘤、伏在型(ふくざいがた)静脈瘤に分類されます。

足の静脈瘤の原因は?

静脈の逆流防止の弁(前述)が壊れたり、静脈が広がり、弁がきちんと閉じなくなったりして血液が逆流して起こります。

足の静脈瘤の症状

多くは無症状で放っておいても健康を損なうことはありませんが、かゆみや熱感の原因となることがあります。一部の伏在型静脈瘤が悪化すると、疲労感、皮膚炎や潰瘍を生じることも。

足の静脈瘤が起きやすい人

出産経験のある女性、長時間の立ちっぱなしの仕事が関係します。加齢、家族歴、肥満もリスク因子です。立ち仕事の人は前述の「筋ポンプ」が機能せず、静脈内の血液が心臓に戻りにくくなります。

足の静脈瘤の頻度

日本では2005年の調査で40歳以上の女性の11.3%、男性の3.8%に静脈瘤が認められました(西予地区コホート研究で「下肢表面が盛り上がって蛇行している血管で、かつ起立すると目立つもの」と定義された静脈瘤)。ドイツでは20%が静脈瘤ありと答えています(2009年のロベルト・コッホ研究所の報告書 Heft 44)。

静脈瘤の診断と検査

まずは相談を

足の表面の血管拡張と蛇行から肉眼的な診断ができますが、静脈瘤の原因部位(種類)を見極めることが大切です。掛かりつけ医(家庭医、Hausarzt/-ärztin)に相談の上、必要に応じて一度血管内科(Angiologie)の専門医を受診しましょう。

超音波による血流検査

静脈に血液の逆流があるか、静脈瘤の発生している箇所の確認、静脈弁の動きや血栓(血の固まったもの)があるかなどを知ることができます。

足の静脈瘤の予防

毎日の適度な歩行

散歩など無理のない範囲で毎日歩くようにします。ふく方せんにより年に2回(セット)まで公的疾病保険(Krankenkasse)の適応になります。圧の異なる、いくつかのサイズがあります。処方せんの場合は薬局(Apotheke)、医療器具(Sanitätshaus)や整形外科の支援器具(Orthopädiefachgeschäft)を扱う店で購入でき、保険適応とは関係なくオンラインでの購入も可能です。

寝ているときは不要ですか?

弾性ストッキングは長時間立っているときや座っているとき、重力の影響で血液がうっ滞するのを防ぐものなので、横になっているときは着用の必要はありません。

静脈を塞ぐ治療法の例

硬化療法(Schaumsklerotherapie)

静脈内に血管の壁を癒着させる硬化剤を注入して静脈を閉鎖する方法です。フォーム状の硬化剤を用いる方法は、治療時間が短時間で体への負担が少なく、治療効果が期待できます。静脈の拡張や蛇行したときのみに用いられます。

レーザー療法(Varizenstripping)

カテーテルという管を静脈の中に入れ、レーザー照射により静脈を焼いて塞ぎます。静脈の血液の逆流が高度な場合に選択されます。また、高周波エネルギーによる熱が用いられる方法もあります。

静脈を取り除く治療法

ストリッピング手術(Varizenstripping)

静脈瘤のできた静脈血管をワイヤーで引き抜いて行われる手術で、「ストリッピング手術」と呼ばれています。以前までは静脈瘤の主流の治療法でした。逆流が高度のときに選ばれます。

最終更新 Dienstag, 06 September 2022 10:41
 

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