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テクノベート時代のリーダーは、AI技術をどう使いこなすか?グロービス経営大学院 学長
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
堀義人氏 インタビュー&ドイツ講演レポート

1992年以来、数多くのビジネスパーソンを輩出してきたグロービス。日本だけでなくシンガポールや中国、米国などにも拠点を置き、さらに2022年7月1日にはベルギーに欧州拠点GLOBIS Europe BVを開設。これにより北米・南米、欧州、アジアなど全てのタイムゾーンを網羅し、グローバルに活躍するビジネスパーソンの育成をますます加速させている。

そんなグロービス経営大学院学長の堀義人氏による講演が、6月21日にオランダのアムステルダムで、そして6月23日にデュッセルドルフで開催された。講演のテーマは、「テクノベート時代におけるビジネス教育の革新〜AIや最新テクノロジーをどう先取りするか?~」。人工知能(AI)やChatGPTによって、ビジネスを取り巻く環境が大きく変化する今、ビジネスパーソンに求められる能力とは?デュッセルドルフでの講演に先立ち、堀氏にお話を伺うとともに、デュッセルドルフ講演当日の会場の様子をレポートする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

Yoshito Hori堀 義人

堀義人 Yoshito Hori

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。
住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur’s Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、世界の成長企業(GCC)の共同議長、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)、米国ウィルソンセンターのグローバルアドバイザリーカウンシル等を歴任。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設し、現在一般社団法人G1の代表理事を務め、日本のビジョンである「100の行動」を執筆する。2011年3月大震災後に復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げる。現在一般財団法人KIBOWの代表理事を務め、KIBOW社会的インパクトファンドを組成・運営している。2016年に水戸ど真ん中再生プロジェクトを始動。同年4月に茨城ロボッツ、2019年11月に茨城放送のオーナーに就任。 2022年1月、 ROCK IN JAPAN FESTIVAL が千葉に移転することが発表された2時間後にLuckyFesを立ち上げ、総合プロデューサーを務める。
Twitter: @YoshitoHori

グロービス経営大学院学長 堀義人氏 インタビュー

1992年に東京・三軒茶屋のアパートで、たった一人でグロービスを立ち上げた堀さん。創業から30年以上、常に日本のMBA(経営学修士)教育を牽引する存在であり続けています。そもそも日本にMBA教育の必要性を感じたきっかけを教えてください。

僕は商社で働いた後にハーバード大学のビジネススクールに通いましたが、そのときに受けた教育が自分の知っていたものとは明らかに違っていて衝撃を受けました。ハーバードでの授業は、データや実際の経営環境を分析した上で自分の頭で考えて戦略を練り、それを意見の違う人同士でぶつけ合うというもの。この学びを通して、自分の能力が格段に向上したことが分かったのです。

それまでレクチャー形式の授業で知識を植え込むような教育しか経験したことがありませんでしたが、実際のところ経営に正解なんて存在しない。正解のない世界で最善の解を導き出すには、教科書から学ぶだけでなく、実際にそれを道具として使いこなせなければなりません。そんな場所を日本にも作りたいと思ったのが、グロービスを始めたきっかけです。

今回の講演のテーマにもある「テクノベート」。これは堀さんが独自に生み出した言葉ですが、その意味するところを教えてください。

1996年からベンチャーキャピタルを経営していて、投資先の企業の経営をつぶさに見てきました。そのなかで2008年くらいから、今までの手法とは異なる経営の形が登場してきたのです。例えばデジタルマーケティングや、テクノジーを使った新しいビジネスモデルなどにより、従来のMBAで教えているものだけでは補いきれなくなってきました。

そのためグロービスでも新しい経営の在り方を打ち出していくために、今の時代を表す言葉が必要だと思いました。そこで考えたのが、テクノロジーとイノベーションを組み合わせた「テクノベート」という造語。「アジアNo. 1のMBA」から「テクノベート時代の世界No. 1 MBA」へと舵を切り、テクノベート時代のリーダーを育成するための学びの在り方を追求し続けています。

講演前、会場であるクレイトンホテルにてインタビューに答える堀氏(左)講演前、会場であるクレイトンホテルにてインタビューに答える堀氏(左)

堀さんが考える、起業家、リーダーに必要な能力や資質とはどのようなものでしょうか?

能力に関しては、三つあると考えています。一つ目は「経営に関する知識や理論」。それがないと考える枠組みがないので、そもそも選択肢を導き出すことができない。二つ目は「考える力」。自分の頭で考えて意思決定をし、行動画を立てる力です。そして三つ目が「人間関係力」。自分が考えていることを適切なコミュニケーションで相手に伝え、それらを通して人的ネットワークを広げていきます。

そしてこれら三つの能力の根底には、必ず経営における「( こころざし ) 」がなくてはならない。すなわち、自分が生きていく方向性を自分自身で見極めることができているか、ということです。グロービスのMBAでは、こういったものを体系的に学ぶことができます。

2022年11月にOpenAIが公開した人工知能チャットボット「ChatGPT」は、瞬く間に広がり、ビジネスの世界にも大きな影響を及ぼしています。経営者やリーダーはどのようにテクノロジーと向き合い、使っていく姿勢が必要だと思われますか?

当然ながら、これからは人間だけでなく、ロボットやAIのマネジメントもできなければなりません。AIやロボットによって生産性は格段に上がりますが、時には間違った情報を伝えてくるし、何より能力開発の機会を人間から奪かねない。テクノロジーに振り回されないためには、自分の頭で考えて物事を見極める力がますます必要でしょう。

またAIによって、それまで専門知識や経験が必要とされていた仕事が誰にでもできるものになり、ビジネスの品質やブランド力などの特徴が薄れて一般化していく可能性があります。そうしたなかで、高い付加価値を提供し差別化を図るには、余計に「人間性」の部分、すなわち感動する力や、エンターテイメント、クリエイティビティーなどが重要になるのではないでしょうか。そう考えると、いくらテクノロジーが変化しても、先ほど挙げた経営者に必要な三つの能力や、教育の本質自体はそれほど変わらないのではないかと思います。

2022年7月に開設したグロービスの欧州拠点GLOBIS Europe BVのメンバー。MBA教育だけでなく企業研修なども展開し、現地で高い評価を得ている2022年7月に開設したグロービスの欧州拠点GLOBIS Europe BVのメンバー。MBA教育だけでなく企業研修なども展開し、現地で高い評価を得ている

テクノロジーの変化を理解し、使いこなしていくことが求められる今、グロービスのような場で実践的にMBAを学びたいという方たちに向けてメッセージをお願いします。

人生100年時代といわれる今日においても、日本では一般的に大学を卒業してからは、自分で何かを学ぼうと思わなければ教育を受ける機会はなくなりますよね。一方でテクノロジーが激しく変化する今、「リスキリング」(技術革新やビジネスモデルの変化に対応するため、新しい知識やスキルを学ぶこと)がますます必要になるといわれています。

複雑性も変化のスピードも増していくなかで、新しい能力を身に付けていかなければ、リーダーが経営判断を誤ることもあるでしょう。そのため、常に学び続ける姿勢が大切だと思います。グロービスでは世界中どこにいても、働きながらでもオンラインで1科目から学ぶことができる。さらに実践を積んだビジネスパーソンを講師に迎え、良いカリキュラム、良いメンターからのフィードバック、そして切磋琢磨し合う仲間がいます。ぜひ最高の場に身を置いて、学ぶことを楽しんでいただきたいです。

デュッセルドルフ講演レポート「テクノベート時代におけるビジネス教育の革新」

2023年6月23日にデュッセルドルフのクレイトンホテルで行われた堀氏の講演。開始時間になると、GLOBIS Europe BVのCCO&CMOであるバンスチケル・スベン氏、そして同社の社長兼CEOの高橋( とおる ) 氏が挨拶。その後堀氏が登壇した。

講演は、堀氏が1991年にハーバード大学のMBAを卒業後、わずかな資本金を元にアパートの一室で、たった一人でグロービスを立ち上げた歴史から始まった。そして堀氏が独自に生み出した「テクノベート」という言葉をキーワードに、これからの時代において必要なMBAの在り方が語られる。

堀氏は、テクノベート時代におけるMBA教育機関のトップの未来を想像した際に、以下の三つのポイントを挙げる。そして、それに対応するグロービスでの具体的な取り組みを紹介した。

①世界のタイムゾーンに対応した社会人教育の提供
グロービスの取り組み:1998年から通信教育を導入し、オンライン受講のみでMBAを取得することができる。また1科目からMBA科目を受講できる「単科生」制度も。さらに世界各地に点を置くことで、世界中どこにいても受講できる仕組みづくりを行っている。

②​​いつでも・どこでも学べる​
グロービスの取り組み:グロービスが持つビジネスナレッジを、基礎から実践まで、いつでもどこでも学べる定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」を導入している。

③積極的なAI活用
グロービスの取り組み:ChatGPTを活用した対話型の学習システム、GLOBIS AI Chat Learning(略称GAiChaL、ガイチャル)を開発。2022年4月よりサービス提供開始している動画とAIで学ぶMBA単位「ナノ単科」に実装した。その他にAIフィードバック、AIを使ったエッセイやレポートの評価などを行っている。

講演には在独邦人企業に勤める人々をはじめ、グロービスの卒業生、これからMBAを始める人、現地の起業家など約70名が集まった講演には在独邦人企業に勤める人々をはじめ、グロービスの卒業生、これからMBAを始める人、現地の起業家など約70名が集まった

グロービスではテクノロジーを駆使したMBA教育を展開しているが、その行き着く先にあるのは「人間としての喜びや幸せとは何か」という哲学的な問いだ。変化の激しい時代だからそ、教育を通した能力開発だけでなく、信頼できる仲間がいるコミュニティー、そして「志」を持つことの重要性など、より人間性にフォーカスした内容で講演は閉じられた。

その後の質疑応答では、AIによって消えるとされる職業にどう向き合うべきか、AIと共存する子どもたちの未来についてなど、参加者からさまざまな質問が飛び交った。常に最先端を走り続けてきたビジネスパーソンとして、またプライベートでの5男の父としての教育方針など、堀氏は一つひとつの質問に丁寧に回答。興奮冷めやらぬ雰囲気のなか、閉会間際まで熱い議論が繰り広げられた。

会社情報

株式会社グロービス(日本)
https://globis.co.jp

GLOBIS Europe BV(欧州拠点)
https://globis.eu

 
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