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Fr. 24. Mär. 2017

どん底のドイツ・トルコ関係 難民危機への悪影響は?

メルケル首相と握手するエルドアン大統領
2月2日、トルコを訪問したメルケル首相と握手する
エルドアン大統領(右)

ドイツとトルコの関係が、急速に険悪化している。トルコのエルドアン大統領は、3月5日に行った演説で、「ドイツ人たちよ、お前たちのやっていることは、ナチスのやり方と全く変わらない。ドイツは民主主義国ではないし、その態度はナチス時代から変わっていない。私はナチズムは死に絶えたと思っていたが、今日でも続いている」と、強い言葉で批判した。私は27年間ドイツに住んでいるが、外国の元首がこれほど酷い言葉でドイツを非難するのは、聞いたことがない。

演説会禁止に対して怒りが爆発

トルコの怒りの理由は、エルドアン政権の閣僚たちがドイツ国内に住むトルコ人向けに計画していた演説会を、ガッゲナウ市やケルン市などが中止させたことだ。エルドアン大統領は、自分の権力を強化するための「大統領直接統治制(Präsidialsystem)」について、4月16日に国民投票を実施する。彼は、ドイツに住む140万人のトルコ人有権者のために、閣僚の演説会を予定。ところがガッゲナウ市とケルン市当局は、3月初めに「会場では大変な混雑が予想され、安全を確保できない」という理由で、一度出した演説会の許可を取り消したのだ。だが大統領は、「ドイツ政府が国民投票に関するキャンペーンを妨害しようとして、地方自治体に圧力をかけて演説会を中止させた」と考えて、メルケル政権を非難したのだ。

ナチスとの同列視は最大の侮辱

今日のドイツ人にとって、「お前たちはナチスと同じだ」と言われることは、最大の侮辱である。第二次世界大戦後、西ドイツの時代からドイツ人たちはナチス・ドイツの過去と真剣に対決してきた。彼らはナチスによる迫害の被害者らに多額の補償金を支払い、歴史教育などを通じて、若い世代にナチス時代の犯罪の事実を伝える努力を続けている。世界を見渡しても、ドイツほど真剣に、前の世代の犯罪と真摯に対峙(たいじ)し続ける国はない。つまりエルドアン氏は、演説会の中止に抗議するために、ドイツ人を最も激しく怒らせる言葉をわざと使ったのである。トルコとドイツは、共に軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。NATOの加盟国がほかのメンバーを公に侮辱するというのは、未曽有の事態である。これは、すでに「言葉を使った戦争」と言ってもおかしくない。

普段は冷静なメルケル首相も、厳しい言葉でエルドアン氏に反論した。彼女は「今日の民主国家ドイツの政策を、ナチズムと同列に並べる態度は、絶対に受け入れられない。ナチスとの同列視は、愚かであり的外れだ。ドイツのやり方はナチスのやり方と同じだという発言は、ナチスの犯罪を矮小化することにもつながる」と述べ、大統領の発言を批判した。

演説禁止は集会の自由と矛盾?

一方でメルケル首相は、「ドイツには集会の自由や、発言の自由がある。したがって、地方自治体が安全上問題がないと判断すれば、トルコの閣僚はドイツで演説することができる」と述べ、連邦政府が演説会を禁止させているわけではないという姿勢を強調した。

だがこれは苦しい発言である。メルケル政権は、昨年7月にトルコで起きたクーデター未遂事件以降、エルドアン政権が同国で多数の公務員や政治家、報道関係者を逮捕、拘留して人権弾圧を行っていることに抗議してきた。ドイツは、エルドアン氏が「治安確保」を理由に、大統領直接統治制の導入により権力を集中させ、同国が一段と独裁国家のような性格を強めることに、懸念を抱いている。同国の司法当局が、ドイツ・トルコの二重国籍を持つ「ヴェルト」紙の記者を「テロ組織の支援者」として拘留していることも、メルケル政権を怒らせている。

ドイツには、「連邦政府が、トルコの閣僚の演説会に関する判断を、地方自治体に任せるのは誤りだ。基本法を改正して、非民主的な政府の閣僚演説などを禁止できるようにするべきではないか」という意見もある。だが外国の政治家の演説を連邦政府が禁止することは、民主主義の原則に抵触する機微な問題だ。

難民合意取り消しの危険

エルドアン大統領は、「私はドイツで演説すると決めたら、ドイツに行く」とも述べ、メルケル政権に圧力をかけた。気になるのは、大統領の次の言葉だ。「もしもドイツ政府が私を入国させず、演説を禁止したら、私は世界を混乱させてやる」

私は、エルドアン氏がこの言葉によって、欧州連合(EU)・トルコ間の難民合意をキャンセルする可能性を示唆したものと考えている。難民危機の解決をめぐり、EUはトルコに依存している。トルコは昨年3月以来、同国経由でEUに不法入国した難民を国内に受け入れ、現在は、約270万人のシリア難民を滞在させている。トルコ政府がドイツとの対立を理由に難民合意を取り消して「水門」を開いた場合、西欧をめざすシリア難民の数が再び急増する可能性がある。

ドイツ政府のガブリエル外相は、3月7日の公共放送ARDとのインタビューで「トルコの挑発に乗らずに冷静な態度を保ち、正常な対話ができる状態を回復しよう」と語り、事態のエスカレートを避けるべきだという姿勢を強調した。

9月に連邦議会選挙を控えた今、メルケル政権にとって難民危機の再燃は、最悪のシナリオ。ドイツにとっては、トルコとの関係を一刻も早く正常化することが重要だ。欧州全体にとっても大きな関心事である。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
Toru Kumagai Official Website : http://www.tkumagai.de/
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