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So. 22. Apr. 2018

ドイツの難民問題は解決していない

ドイツでは2015年からの2年間に、約116万人の外国人が亡命を申請した。これは世界で最も多い数だ。難民危機は、極右政党の連邦議会進出を許すなど、政界、社会に大きな影響を及ぼしたが、その余波は今なお続いている。

難民の家族呼び寄せをめぐる議論

連邦内務大臣に就任したホルスト・ゼーホーファー氏は、今年4月3日に、難民の家族呼び寄せについて、新たな制限を設けることを提案した。彼はキリスト教社会同盟(CSU)の元党首で、バイエルン州の首相でもあった。ドイツ政府は今年8月から、同国に住む難民がシリアなどから家族を呼び寄せることを部分的に許可する。その数は、毎月1000人に限られる。

だがゼーホーファー氏は、「長期失業者(ハルツIV)として登録され、国から失業者援助金を受け取っている難民には、家族の呼び寄せを禁止するべきだ」と発言したのだ。この提案についてはSPDなどから、「家族と再会できるかどうかを、難民の経済力で決めるという提案は、連立協定に違反するものであり、まったく受け入れられない」と厳しい批判が出ている。

またゼーホーファー氏は、内務大臣の席に着くや否や、イスラム教に関する議論を蒸し返した。彼は3月16日に大衆紙「ビルト」とのインタビューで「ドイツはキリスト教の伝統を持つ国であり、イスラム教はドイツには属さない。勿論ドイツに住むイスラム教徒はこの国に属しているが、彼らに配慮してドイツの慣習や伝統を放棄するべきではない」と語ったのだ。

これはメルケル氏が総選挙前に行ったインタビューで打ち出した「イスラム教はドイツの一部だ」というコメントを否定するものだ。メルケルは、「この国には約400万人のイスラム教徒が住んでおり、ドイツの憲法を守る限り、イスラム教はこの国の一部だ」と述べている。メルケル氏は2015年からこうした主張を繰り返しており、CDU/CSUの保守派から「伝統的な価値観を崩す姿勢」として強く批判されてきた。

ターフェルの食糧配給を待つ人々
ターフェルの食糧配給を待つ人々

右旋回の理由は10月のバイエルン州議会選挙

ゼーホーファー氏は、なぜ難民やイスラム教について厳しい発言を繰り返すのか。その最大の理由は、今年10月にバイエルン州で行われる州議会選挙だ。

CSUはバイエルン州の地方政党で、1957年以来単独で過半数を確保し、州首相の座を占めてきた。だが極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、バイエルン州でも支持率を増やしつつある。同党は去年9月の連邦議会選挙で、バイエルン州での得票率を前回の選挙の4.3%から12.4%に増やした。AfDは連邦政府の難民政策を厳しく批判し、「イスラム教はドイツの憲法と文化にそぐわない」と主張してきた。彼らの主張はリベラルな政策に不満を持つ有権者の心をひきつけた。ゼーホーファー氏がCSU党首の座を追われたのも、この敗戦の責任を問われたからだ。

現在CSUでは、今年10月の州議会選挙でもAfDが大きく躍進することが危惧されている。このためゼーホーファー氏は、政策を右旋回させることによって、AfDから有権者を取り戻そうとしている。つまりCSUは、難民政策やイスラム教に対する姿勢を、AfDに近づけつつあるのだ。

ターフェルが外国人新規登録を一時停止

ドイツ社会の難民に対する姿勢の硬化を示すもう1つのエピソードがある。ドイツには、長期失業者やホームレス、年金生活者など低所得者に、商店で売れ残った野菜やパンを無償で配る「ターフェル(ドイツ語で食卓の意味)」という慈善団体がある。

ところがエッセンのターフェルは、外国人の数が余りにも増えたので、今年1月10日から、食料の配給を受けるための新規登録をドイツ人に限ることに決めた。外国人の排除は、4月上旬まで続いた。

ターフェルが外国人の新規登録をやめた理由は、配給を受けるために並ぶ市民の75%が、難民など外国人で占められているからだ。ターフェルの代表は、「若い難民たちは、列に並んで順番を待つということを知らない。このため年老いたドイツ人や子供を抱えた母親が、外国人に押しのけられて、食料を受け取れない場合が多い。外国人の集団が怖いために、ターフェルに来ないお年寄りや女性が増えている」と説明した。

メルケル首相は「ターフェルの人々が苦労していることは理解できるが、外国人・ドイツ人という基準で区別するのは良くない」というコメントを出した。これに対しターフェルの全国組織は、「ターフェルに外国人が殺到する原因を作ったのは、メルケル首相の難民政策ではないか」と反論した。

ドイツの空気を変えた難民危機

戦後の(西)ドイツは、第二次世界大戦でのナチスの外国人・ユダヤ人差別に対する反省から、外国人差別を避けようと細かい配慮を行ってきた。しかし、「許容の時代」は終わりを告げた。私はこの国に28年間住んでいるが、ターフェルほど露骨に、ドイツ人と外国人を区別した決定は珍しい。以前のドイツならば、お年寄りや女性が食料を受け取る時間と、外国人が受け取る時間をずらすなどの工夫をして、外国人締め出しを避けたはずだ。今回ボランティアたちが、外国人を露骨に排除した背景に、私は2015年の難民危機以来、この国の空気が変わったことを感じる。かつて「欧州の良心」と呼ばれたドイツは、右派勢力の圧力に抗して、人間性を守ることができるだろうか。

 

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
Toru Kumagai Official Website : http://www.tkumagai.de/
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