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ゼンデザールでのコンサート、そして追悼 小澤征爾

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昨年秋からこの冬にかけて、久々にアマチュアのオーケストラに参加した。以前は定期的に活動していたJunges Orchester der FUというオーケストラが創設30周年を迎えるに当たり、旧知のメンバーから記念コンサートの出演に誘われたのだった。マーラーの交響曲第3番という大作で、私はフルートとピッコロを担当。毎週日曜にリハーサルを重ね、年が明けてからは週末の合宿にも参加し、アマチュアなりに少しずつ曲が仕上がってきた。

ベルリン・ブランデンブルク放送のゼンデザール大ホールベルリン・ブランデンブルク放送のゼンデザール大ホール

2月頭、待ちに待った本番のコンサートが行われた。舞台となったのは、シャルロッテンブルク地区にあるベルリン・ブランデンブルク放送のゼンデザール(放送ホール)。ベルリンのコンサートホールといえば、西のフィルハーモニーと東のコンツェルトハウスが双璧だが、ホールとしての歴史はゼンデザールの方が古い。

1929年から31年にかけて建てられたゼンゼザールは、Haus des Rundfunksと呼ばれる放送局の中にある。黒光りするれんが造りの建物に入ると、そこはリヒトホーフと呼ばれる吹き抜けだ。金と黒を基調にしたデザインは今も古びておらず、開放感たっぷり。その奥にクロークがあり、左右の入口から客席に入る。

ここで何度もコンサートを聴いているが、今回は舞台の上から客席を眺めるのが新鮮だった。木を多用した内装のデザインは1959年以来変わっておらず、1063の客席数も適度な大きさ。今回演奏したマーラーの交響曲第3番は、フル編成のオーケストラに、女声と子どもの合唱団も加わる大編成の作品だ。3カ月以上かけてきた練習の成果の全てをこの一瞬にぶつけようという意識が全員の中で共有され、本番にふさわしい熱の高い演奏が生まれた。

終演後のゼンデザールのリヒトホーフ終演後のゼンデザールのリヒトホーフ

打ち上げで最高においしいビールを飲んでから自宅に戻り、一つ調べておきたいことがあった。巨匠レナード・バーンスタインが昔ゼンデザールに出演した話を思い出し、詳細を知りたくなったのだ。私の愛読書、小澤征爾著の『ボクの音楽武者修行』を久々に開くと、確かにこういう箇所があった。「昨年の9月、この写真のテレビ塔の下にあるベルリンの放送スタジオで、ニューヨーク・フィルのバーンスタインに初めて会ったんだ」。1961年9月25日に行われたこのコンサートは、YouTubeに映像が残されていて、見始めたら止められなくなった。別のページには、小澤さんが初対面のバーンスタインと意気投合し、音楽やオーケストラについて夜の更けるのも忘れて語り合ったことがつづられている。

本を開いてから数日後、小澤征爾さんの訃報が届いた。ベルリンで出会ったカラヤンとバーンスタインの両巨匠から認められたことで、小澤さんは欧州と米国を活動の軸にしてゆく。そこから始まった長い旅がついに終着点を迎えたのだと思った。小澤さんにとって重要な出会いの場となったゼンデザールの余韻と共に、ベルリンで聴いた数々のコンサートの思い出がよみがえってくる。

インフォメーション

RBB センデザール
RBB Sendesaal

ハンス・ペルツィヒの設計により1931年に完成したホール。放送スタジオとしても1300平方メートルの広さを持ち、欧州最大級かつ最古の一つに数えられる。現在はベルリン放送交響楽団のリハーサル会場としても使われ、また定期的にコンサートが開催される。最寄りはHaus des Rundfunksのバス停。

住所:Masurenallee 8-14, 14057 Berlin
電話番号:030-9799312490
URL:www.rbb24.de

『ボクの音楽武者修行』
小澤征爾 著
新潮文庫

1962年に刊行されて以来、ロングセラーを続ける小澤征爾の自伝的エッセイ。1959年に貨物船でフランスに渡った若き小澤が、スクーターで旅と指揮者修行をしながら活躍の場を広げていく日々が、率直な言葉でユーモアたっぷりにつづられている。時代や環境は変われど、今を生きる人々をも刺激してやまない1冊だ。

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
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