都市ガイドシリーズ 14
自然・文化・美食がそろう環境先進都市フライブルクの魅力再発見!
16の個性豊かな州からなるドイツ。歴史や文化はもちろん、言葉も食もそれぞれ異なる。そんな魅力たっぷりのドイツ各地の都市を、一つずつスポットを当てて紹介していく「都市ガイドシリーズ」。第14回目は、黒い森の玄関口として知られるフライブルクへ。美しい旧市街を擁し、環境先進都市としても世界的に評価されている。歴史と現代が調和し、自然と共存するまちづくりの知恵が詰まったこの地を、ニュースダイジェスト編集部が実際に歩き、その魅力をたっぷりとお届けする。
(文: ドイツニュースダイジェスト編集部・沖島景、取材協力:ドイツ政府観光局、前田茂子)
フライブルクってどんな街?
ドイツ南西部バーデン=ヴュルテンベルク州に位置するフライブルクは、1120年の建設以来約9世紀にわたる歴史が宿る街。中世には銀交易で潤う自由都市として名をはせ、13世紀着工のフライブルク大聖堂は今も旧市街の石畳に優雅な影を落とす。その後、街はハプスブルク家の支配、普仏戦争やナポレオン戦争を経てドイツ帝国に編入された。第二次世界大戦の空襲で瓦礫と化すも、市民の手で歴史的景観がよみがえった。
戦後、フライブルクは「伝統×未来」をモットーに、環境先進都市へ舵を切る。フライブルク大学を中心に、太陽光発電やバイオマスなどの研究を産学官で進行。市内には路面電車と自転車道が網の目のように広がり、二酸化炭素(CO₂)排出量を大幅に削減している。市民出資のエネルギー協同組合が再生可能エネルギーの地産地消を実現し、「小さくても自立した都市モデル」として世界に知られる。
また、市の北西に位置するカイザーシュトゥール丘陵はドイツ随一のワイン産地。火山性土壌と温暖な気候が生むピノ・ノワールは国内外で高評価を受け、夏に開かれるワイン祭りや冬のクリスマスマーケットでは香り高いワインが人々を誘う。背後の黒い森(シュヴァルツヴァルト)では四季折々のハイキングやサイクリングが楽しめ、街と自然が地続きになっている。
景観ガイドライン、森林保護条例、参加型都市計画など、フライブルクの「調和」の哲学は、交通、福祉、教育、建築にまで浸透している。
アクセス
フライブルク中央駅
Freiburg im Breisgau HBF
● ミュンヘン中央駅から
ICEで約4時間30分
● ベルリン中央駅から
ICEで約6時間30分
● フランクフルト中央駅から
ICEで約2時間10分
ツーリスト向けお得なカード
フライブルク全域で3日間有効の公共交通機関が乗り放題になるチケット。料金は27ユーロで、チケットにはフライブルク市立美術館の入場料や、フライブルク郊外にある標高1284メートルの山「シャウインスラント」のケーブルカー乗車料が含まれている。また、市内観光ツアーは2ユーロの割引がある。公共交通機関の切符券売機やオンラインで購入可能。
www.vag-freiburg.de/ticket/welcomekarte
※2025年6月時点の価格
フライブルクのおすすめスポット
フライブルクに旅行で来たり、引っ越してきたりした人はぜひ訪れるべき、おすすめスポットをご紹介。
Freiburger Münster① フライブルク大聖堂
フライブルク旧市街の中心にそびえるフライブルク大聖堂は、13世紀から300年の歳月をかけて建設されたゴシック様式の傑作。美しい尖塔は116メートルに達し、今も街の象徴として親しまれている。中世に完成し、欧州内で幾多の戦争を無傷で生き延びた数少ないゴシック様式の大教会建築の一つである。内部にはステンドグラスや中世の彫刻が数多く残され、歴史の重みを感じる空間が広がる。塔の上まで登れば、赤い屋根が連なる旧市街やシュヴァルツヴァルトの山並みを一望できる。
Münsterplatz 1, 79098
www.freiburgermuenster.info
Markthalle Freiburg② マルクトハレ・フライブルク
旧市街にあるマルクトハレは、登録有形文化財の砂岩造り旧新聞印刷所を改装したモダンで明るい屋内フードマーケット。目立たない入口をくぐると、アジア、ラテンアメリカ、欧州、中東の屋台が並び、地元名物からエキゾチック料理までシェフがその場で調理してくれる。新鮮素材、漂う異国スパイス、イタリアンエスプレッソの香りに包まれ、カウンター越しに飛び交う笑い声も心地よい。昼は会社員でにぎわい、週末の夜(金土)はアペロール・スプリッツ片手に生演奏が深夜まで楽しめる。
Grünwälderstraße 4, 79098
www.markthalle-freiburg.de
Schlossberg③ シュロスベルク
旧市街の東にそびえるシュロスベルクは、かつて要塞が築かれていた由緒ある丘。現在は自然公園として整備され、展望台からはフライブルクの街並みやライン川流域、そして天気が良ければ遠くフランスのヴォージュ山脈までも一望できる。麓からはケーブルカーで登れるが、木陰に包まれた散策路を歩いて登るのも一興。丘のあちこちには、かつての城壁や見張り台の遺構が静かに佇ずみ、当時の面影を今に伝えている。
Jacob-Burckhardt-Straße & Leopoldring, 79098
https://visit.freiburg.de/attraktionen/schlossberg
Augustinermuseum④ アウグスティーナー博物館
旧市街のアウグスティーナー広場のそばに位置する博物館。かつて修道院だった建物をリノベーションした施設で、中世からバロック時代にかけての宗教美術を中心に、ステンドグラスや祭壇彫刻、絵画などシュヴァルツヴァルト地域の文化財を幅広く収蔵している。特に大聖堂から移されたオリジナルの彫刻群は迫力満点。自然光を巧みに取り入れた静せいひつ謐な展示空間は、ゆったりと芸術に向き合うのに最適だ。宗教と芸術、建築が融合したこの博物館は、美術ファンに限らず一見の価値があるスポット。
Augustinerplatz, 79098
https://museen.freiburg.de/museen/am
Theater Freiburg⑤ フライブルク劇場
1910年に創設されたフライブルク劇場は、戦後の復興期に再建されて以来、地域の文化を支える中心的な存在だ。クラシックから現代劇、オペラ、バレエ、さらには子ども向けの舞台まで、多彩な演目が楽しめ、若手演出家による革新的で実験的な舞台にも積極的に挑戦している。たとえドイツ語が分からなくても、舞台美術や音楽、身体表現といった視覚的・感覚的要素で、気軽に楽しめると評判が高い。ネオクラシック様式の外観と、モダンな内装が調和する建物も見どころの一つ。
Bertoldstraße 46, 79098
https://theater.freiburg.de
Universitätsbibliothek Freiburg⑥ フライブルク大学図書館
長い歴史を持つフライブルク大学の伝統と、ガラス張りで先進的な建築美が融合した図書館。2015年に新装され、学術資料の宝庫であると同時に、一般市民にも開かれた知の空間となっており、見学も可能だ。自然光がたっぷり差し込む開放的な館内には、最新のデジタル機器や快適な学習スペースが整備され、学生たちが静かに集中する姿が印象的。また、館外にはベンチが多数設けられている。街歩きの途中にふらりと立ち寄れば、静けさのなかに流れる知の息吹を感じ取ることができるだろう。
Platz der Universität 2, 79098
www.ub.uni-freiburg.de
Archäologisches Museum Colombischlössle⑦ 考古学博物館(コロンビ小城)
旧市街の一角にあるコロンビ小城は、19世紀に建てられたネオゴシック様式の邸宅で、現在は先史・古代史博物館として利用されている。内部では、この地域で発掘された石器時代からローマ時代にかけての出土品が展示されており、フライブルクの過去に触れることができる。建物自体も美しい意匠を持ち、周囲は緑豊かな公園として整備されているため、散歩がてら立ち寄るのもおすすめ。にぎやかな観光地から少し離れた静かな空間で、ゆったりと歴史を味わえる隠れた名所である。
Rotteckring 5, 79098
https://museen.freiburg.de/museen/arco
Tier-Natur-Erlebnispark Mundenhof⑧ ムンデンホーフ・ティアパーク
バーデン=ヴュルテンベルク州最大の動物園であるムンデンホーフは、家族連れや自然・動物愛好家に人気の観光スポット。広さ38ヘクタールの園内では、ラクダ、アルパカ、ヤクなど、世界各地の多種多様な家畜や農耕動物が、自然に近い広々とした環境で飼育されている。ヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカの各地域をテーマにしたエリアを巡ることで、まるで動物たちの王国を旅するような体験が楽しめる。
Mundenhof 37, 79111
www.mundenhof.de
スタッフが現地で見つけたもの
歩いてこそ気づく、街のさりげない表情。フライブルク散策のちょっとしたヒントに。
❶ ミュンスター広場の朝市
暮らしを間近に感じられるスポット
大聖堂を囲むこの広場で平日7:30~13:00、土曜7:30~14:00に開催される朝市。約130の露店がずらりと並び、地元の新鮮な特産品を楽しめる。中でも行列ができていたのが、ご当地グルメ「ランゲ・ローテ」(Lange Rote)の屋台だ。長さ約35センチのソーセージは、外はパリッと香ばしく、中はジューシー。小腹を満たすB級グルメとしてぜひ一度ご賞味を。
Alte Wache Freiburg
地元土産にも最適!バーデン地方のワイン
温暖な気候と良質な土壌を持つこの地方では、多彩なワインが生産されている。代表的なものはグーテデル(Gutedel)、ヴァイスブルグンダー(Weißburgunder)、グラウブルグンダー(Grauburgunder)、ミュラー・トゥルガウ(Müller-Thur gau)、シュペートブルグンダー・ロートヴァイン(Spätburgunder Rotwein)など。大聖堂の横にあるワイン専門店Alte Wache(旧衛兵詰め所)では、いろいろな種類をお土産に持って帰りやすい0.25リットルのミニボトルが手に入る。
Münsterplatz 38, 79098
旧市街
歴史が息づく涼の風物詩「べヒレ」
13世紀に整備されたフライブルク旧市街の小水路「べヒレ」(Freiburger Bächle)は、当時、生活用水としてだけでなく、夏場の路面の冷却や火災時の防火用水としても重要な役割を果たしていた。現在ではその機能は失われたものの、子どもが小さな木の舟を浮かべて遊ぶ光景などが見られ、フライブルクらしい風景の一つとなっている。
旧市街歩道の舗装モザイク
街歩きで感じる職人技の伝統
街歩きの際は、足元にもぜひ注目を! フライブルクは地元の花崗岩や川石を使った「舗装の街」として知られ、特に旧市街では天然石を用いた美しい舗装が随所に見られる。1970年代以降、歩行者優先の都市整備が進められ、色とりどりの小石を半割にして敷き詰めた「石の絨毯」が街を彩っている。取材当日は雨だったが、濡れた石畳に反射する光が舗装モザイクの美しさを際立たせていた。
五感で体感するサステナブルな都市 フライブルクが世界のモデルで在り続ける理由
フライブルクが「環境都市」として名をはせる理由は、政策や制度の数字を見れば、ある程度理解できるかもしれない。だが、それだけでは捉えきれない側面がある。澄んだ空気、車の少ない静けさ、そして住民一人ひとりの納得感に満ちた表情……。それらは、この街を実際に歩いてこそ感じられる「本当の答え」だ。持続可能な都市は、どう築かれ、どう息づいているのか。そのリアルなヒントが、この街には詰まっている。
参考:Stadt Freiburg「Cluster Green City Freiburg」「Das Freiburger Abfallkonzept」「Abfallgebühren für Privathaushalte」、Abfallwirtschaft und Stadtreinigung Freiburg GmbH「Private Haushalte」、chilli Freiburg「So Green ist die City: Freiburgs Nachhaltigkeit im Faktencheck」
ヴォーバン地区の住宅ブロックは車の通過交通を排し、代わりに住棟の間を緑地帯とコミュニティガーデンが貫いている。緑の回廊は、地域固有の動植物を呼び込む生態系ネットワークとなる。
制度の背後にある日常の実像
なぜフライブルクは「環境都市」の代名詞なのか。その答えは、数字や政策だけでは語り尽くせない。例えば、ごみ処理一つとっても、その徹底ぶりは群を抜いている。ごみ収集料金は、家族構成や容器の大きさ、回収頻度によって変動する仕組み。「無駄を出せば出すほど、出費が増える」という意識が、自然と暮らしに根づいている。結果として、市民1人当たりの残渣ごみ排出量は年間約90キログラム(2023年)と、ドイツ全国平均(約181キログラム、2022年)を大きく下回る。数字の裏にあるのは、制度を「やらされている」のではなく、「納得し、自ら選んでいる」という住民の姿勢だ。
フライブルクには全長約250キロのサイクリングロードが整備されている。2022年の市民調査によると、市内には1人当たり1台の自転車がある(1.03台)。これに加えて、eバイクやカーゴバイクも
さらに注目したいのはフライブルクの先進的な都市交通の在り方である。中心市街地への自動車の乗り入れは制限され、代わりに自転車専用道とトラム網が街を縦横に走る。郊外には「パーク・アンド・ライド」(P+R)が整備されており、車を置いて公共交通で市内にアクセスできる。この仕組みにより、街は驚くほど静かで清潔だ。耳をすますと聞こえてくるのはトラムの優しい走行音と子どもたちの笑い声。数値では表せない街の静けさは、環境都市としての質の高さを物語っているように感じた。
草の根運動が導いた環境都市への道
フライブルクが環境先進都市へと発展した背景には、市民の強い意志がある。出発点となったのは、1970年代の「ヴィール闘争」だ。近郊に計画された原子力発電所の建設に反対し、住民や研究者ら約2万8000人が現地を占拠したこの出来事は、ドイツ国内外のエネルギー政策に大きな転換点をもたらした。さらに、この市民運動は国際メディアにも取り上げられ、環境民主主義の先駆けとして世界が注目。ここで育まれた草の根環境運動は、1980年に誕生した「緑の党」(現・同盟90/緑の党)の重要な母体にもなった。
また、学術的知見と政策が緊密に連携しているのもフライブルクの特徴である。同市に本部を置くフラウンホーファー研究機構など、環境技術の最前線を担う研究機関の提言が行政施策に反映されている。こうした政党政治の展開を通じて、フライブルク発の市民意思は地域から連邦へと波及し、ドイツ全体のサステナビリティ政策を底上げする原動力となったのだった。現在もその流れは続いている。
未来の暮らしを体現する都市設計
そんなフライブルクの都市設計の好例として紹介したいのが、「ヴォーバン地区」だ。この地区では、交通制限、低エネルギー住宅、地域熱供給が一体的に設計され、約5000人の居住者のうち7割以上が自家用車を持たずに暮らしている。路面電車が走るヴォーバンアレーの軌道は芝生で覆われ、舗装材もできる限り透水性の高いものを採用。雨水は植栽された浅い溝や屋上緑化に取り込まれ、街全体で自然の保水・蒸散機能を再現している。これにより夏季の路面温度を下げ、ヒートアイランドの抑制と心地よい微気候が実現した。
既存建築を生かした改修も先進的だ。ヴァインガルテン地区の高層住宅「ヴァインガルテン地区高層ビル」は、築40年以上ながら、外壁や窓の性能向上、熱交換型の換気システムの導入をはじめとした改修によりエネルギー消費量を約80%削減。高い断熱性と気密性により、少ないエネルギーで快適な室内環境を保つ「パッシブハウス」として、高層住宅では世界初の改修事例となった。古い建物を壊すのではなく、価値を引き出しながら未来へつなぐという哲学が、ここに体現されている。
環境先進都市として制度や建築の優秀さだけでは語れないのが、フライブルクという街である。人と自然が共に生きるとはどういうことか。フライブルクへの旅は、その答えを五感で確かめさせてくれるだろう。持続可能な未来都市に関心がある人にとって、フライブルクはまさに生きた教科書である。
環境先進地を巡るエコツアーの歩き方
ドイツのグリーンシティの象徴であるフライブルク。街を歩けば、次世代的な暮らしが目に見える形で広がる。その魅力を凝縮した必見の3スポットを厳選してご紹介しよう。
Rathaus im Stühlingerフライブルクの市庁舎
フライブルクの行政拠点「Rathaus im Stühlinger」は2017年竣工のプラスエネルギー庁舎である。木・ガラス・太陽光パネルが織り成す外壁が年間消費を上回る電力を生み出し、延床約2万3千平方メートルに約840人の職員が働く。省エネ空調と自然採光を徹底し、環境配慮の一環として屋上緑化や雨水利用も導入。職員用保育所やカフェまで自立エネルギーで賄い、フライブルクのカーボンニュートラル戦略を象徴する存在となっている。
Fehrenbachallee 12, 79106
www.freiburg.de/pb/1412149.html
Das Quartier Vaubanヴォーバン地区
1938年に建設された旧仏軍兵舎跡を市民主体で再生したヴォーバン地区は、兵舎の赤レンガ棟を活かしたカフェや共同住宅が往時の面影を残す一方、屋根を覆う太陽光と木質バイオマス熱網がエネルギー自給を実現。車を排した緑道では子どもが遊び、住民が生活空間を共有しながら互いに支え合う「コハウジング」が、共有菜園とともに人々の絆を育む。トラム4号線は、フライブルク市中心部とヴォーバン地区を直接結んでおり、ヴォーバン内には複数の停留所がある(市内から約10~20分)。循環型ライフスタイルを垣間見ることができるエリアだ。
Hochhaus Bugginger Straße 50ヴァインガルテン地区高層ビル
1968年に建設された老朽マンションから、世界初のエネルギー改修済みパッシブ高層住宅へと大胆に生まれ変わった。2009〜2010年にかけて行われたこの革新的なプロジェクトでは、既存建物をいったん解体・再構築し、従来の96戸から断熱性の高い139戸へと再設計。トリプルガラス窓や厚さ40センチの断熱材、太陽光発電設備、そして熱交換型換気システムを導入することで、年間CO₂排出量を57トン削減、暖房需要も大幅に軽減された。このモデル事業はフラウンホーファー研究機構と連携して実施され、持続可能な都市居住の可能性を示す画期的な一歩となった。
Bugginger Str. 50, 79114
https://visit.freiburg.de/attraktionen/passivhochhaus