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Wed, 17 December 2025

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フジコ・ヘミング インタビュー - 愛するものに囲まれた人生

愛するものに囲まれた人生 ピアニスト フジコ・ヘミング
フジコ・ヘミング インタビュー

ピアノ、絵画、パリ、猫、ファッション、そして恋 ──
ピアニスト、フジコ・へミングさんの生活は、
愛すべき様々なものに囲まれている。
長年にわたるヨーロッパ各地での生活を経て、
60歳を過ぎて日本に帰国。
その数年後にテレビ放映されたドキュメンタリー番組を
きっかけに一躍脚光を浴びる。
プロの音楽家としては遅咲きのその才能は、
人生における幾多の経験と、
何よりこうした愛するものたちに独自の「色」を与えられ、
誰にもない光を放つようになった。
人生にはピアノ以外にもやりたいことがいっぱいある、
そう語るフジコさんに、
彼女の人生を彩るものたちについて、聞いた。
(本誌編集部: 村上 祥子)

フジコ・へミング 略歴
Ingrid Fuzjko Hemming

日本人の母とロシア系スウェーデン人の父の間にベルリンで生まれる。5歳で日本へ帰国。父が母国へ戻ったことにより、ピアニストの母がピアノの手ほどきをしつつ、フジコを一人で育て上げる。16歳のとき、中耳炎により右耳の聴覚を失うが、東京音楽学校(現東京藝術大学)に進み、在学中より多数のコンサートで入賞。ピアノ留学を志すも、無国籍であった事実が発覚し、一時は断念する。30歳のとき、難民としてベルリン音楽学校への留学を果たし、卒業後はヨーロッパ各地で演奏活動を行う。世界的指揮者、レナード・バーンスタインに実力を認められ、リサイタルを行うことが決まるが、その直前に風邪をこじらせ、左耳の聴覚も失う。その後は演奏家としての活動を一時休止してスウェーデンのストックホルムでピアノ教師として働きながら療養生活を送る(現在、左耳は40%ほど回復)。1995年、日本へ帰国。日本国内でコンサート活動を行っていたが、99年、テレビのドキュメンタリー番組をきっかけに大きな注目を集めるように。以降、世界各地でリサイタルや一流オーケストラとの共演を行い、人気ピアニストとして多忙な日々を過ごしている。

原点はパリにある

フジコさんは、日本人の母とスウェーデン人の父を持ち、ドイツで生を受けた。30歳まで日本で過ごした後に、ドイツへピアノ留学、以降、ヨーロッパ各地で音楽活動を行うようになる。母の死後、日本に帰国。その後は日本のみならず、世界を舞台に活躍している彼女にとって、「国」とは何を意味するのだろうか。

── ヨーロッパ各地で生活されてきたフジコさんが、現在、パリに居を構えていらっしゃる理由は何でしょうか。

私は20代のころからパリに住むのを夢見ていました。たくさんの天才画家、そしてショパンやドビュッシー、ラベル、フォーレなど、私の最も好きな芸術家たちの集っていたところですから。でもパリは物価が高く、ベルリンの音楽大学からスカラシップが出たので仕方なくベルリンに行きました。私の父方のおばあさんはドイツ人、又は半分ドイツ人だったらしいのですが、なんともドイツ人のものすごい気性は、到着したときから私には合っていないようでした。1999年2月にテレビを通して一夜で有名になり、天からお金も降ってくるようになったので、パリに住むことができたわけです。

── パリの好きな場所とその理由をお聞かせいただけますか。

私の住んでいるパリのアパートの辺りは、夜更けまで遊びの天才と言われるフランス人のざわめきで賑やかです。私も夜遅くまでピアノを弾きますが、窓を開けっ放しでも音が聞こえないほどアパートの壁も厚く、動物も犬2匹、猫5匹飼っていますが、うるさいと迷惑がる人間は一人もいません。日ごとの犬との散歩道は、どの角もユトリロやゴッホの画のようで、住んで良かったとためいきのつきっぱなしです。

── 自分の原点はどの国にあるとお考えですか。またそのことがご自分の音楽活動にどのような影響を及ぼしていると思われますか。

私にとっては、ショパンやドビュッシー、ラベル、そしてユトリロやロートレックの国、パリ・フランスです。ショパンが毎週訪れて作曲をしたり、時々サロン・コンサートをしたと言われる、一般には非公開のランベール(LAMBERT)館が私の家の近くにあるのですが、今年9月にフランス人からそこでサロン・コンサートをするよう頼まれました。客は招待されたVIP(ほとんどがフランス人とポーランド人)。私一人でショパンのみのプログラムを組み、大成功しました。フランスに来て良かったのだとつくづく思いました。フランスのVIPが私のことを「3本の指に入るピアニスト」と評してくれたのもうれしい限りです。フランスならでは、とつくづく思います。

── コンサート等では着物を着られることも多いですが、フジコさんにとって、日本という国はどのような存在なのでしょうか。

日本人は自分たちの古い文化をもっとアピールするべきだと思います。戦争中、アメリカ軍が爆弾を一個も落とさず、わざわざ残そうとした素晴らしい京都の町も、日本人の手で次々に壊されていっています。とんでもないところのある国民ではないでしょうか。私のコンサートに何度も来てくださる人々は素晴らしい方たちだと思います。つまり、私の芸術、私の思い、動物や弱いものに対しての哀れみなどを、心で感じてくださる日本人たちで、心からありがたいと感謝しています。

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人生の達人

何十匹もの猫を飼っていたこともある動物愛護家で、絵画の腕前は個展を開くなど玄人はだし。西洋と日本のファッションを融合させた独特のファッション・センスも注目されているフジコさん。幼いころからピアノ以外の生活を知らず、「人生イコール・ピアノ」となってしまいがちな多くのプロの ピアニストに比べ、ピアノを含めた人生そのものを謳歌しているように感じられる。

フジコ・ヘミング

── ロンドンでフジコさんのお描きになった絵をいくつか拝見しましたが、重力とは無縁の浮遊感、線と線の間から漂う独特の空気感など、どこかフジコさんの音楽にも通じるものを感じました。フジコさんにとって、絵画と音楽には何か共通するものがあるのでしょうか。

もちろん、絵画と音楽はたいへん共通しています。ドビュッシーは(葛飾)北斎の海の画にひどく感激して「ラ・メール(海)」を作曲しています。音色というものは、演奏するのに最も大切なものの中の一つですから。

── いつも個性的なファッションに身を包まれていますが、フジコさんにとってファッションとはどのような意味を持つものなのでしょうか。

ファッションなしに私は生きていけないでしょう。高いお金を出すのとは関係なしに、裸足で歩いてもイキな人々が私は好きです。ダンディーにすぐ恋をしたりしますが、中身の方が悪い人も多くがっかりして冷めることもあります。でもうわべだけのかっこよさも悪くはないでしょう。みんな美しくあるべきと思います。鳥や犬、猫などは服など着なくとも美しいですが、裸の人間をビルの上から見たら、ウジ虫と同じくらいにしか見えないのではないでしょうか。

── 別のインタビューで、「恋は大切」と語っていらっしゃるのを何度か拝見したことがあります。恋することはなぜ大切なのでしょうか。また、大切、というのは、ピアノにとって大切、ということなのでしょうか。

恋をしているとピアノはあまり良く弾けませんが、恋はお酒に酔っ払っているようにすてきではありませんか。若さを保つのにも良いでしょう。

── 恋愛対象となる男性は、音楽に対し理解のある方が良いですか、それとも音楽とは無関係の人の方が良いですか。

恋の相手はやはり音楽をやっている人の方が良いです。

── これまでの人生で「これは失敗だった」という恋愛はありましたか。また逆に、「この恋は人生においてかけがえのないものだった」と思えた恋愛はありましたか。

ほとんどが「この人とではダメ」と言うシロモノばかり。結婚してくれとでも言われれば、「待てよ? もう少しマシなのが出てくるはず」と考えていっぺんに冷めてしまうものがほとんど。「一年でも結婚したら最高だろうに」と思えた相手は2人ぐらい。一人は天国に行ってるし、一人はまだケムに巻かれたままで分からない。私も彼も忙しすぎ。

── フジコさんは動物愛護家として知られていますが、中でも猫に関しては、本を出版されるほど深い愛情を捧げられています。なぜ、数いる動物の中でも猫が特にお好きなのでしょうか。

忙しい者にとって犬はちょっとやっかい。一日に2度も外へ連れていかないとならない。猫はその点、楽です。

世界的オルガニストで医者でもあるアルベルト・シュバイツァー(Albert Schweitzer)は、「人生の艱難辛苦(かんなんしんく)から逃れる道は2つある。音楽と猫である」と言っています。

── コンサート等のない、日常的な一日の過ごし方を教えていただけますか。ピアノには毎日、どのくらいの時間を費やしているのでしょうか。

毎日4時間、練習出来れば良い方ですが、客が来たりすると出来なくなることもたびたびです。画を描くと、次の日は手も痛く、疲れはひどいです。

── ピアノ以外にも様々な分野でご活躍されていますが、これらは皆、「ピアノにとってプラスになる」との思いから始められたのでしょうか。それともただ自然に好きだと感じられたのでしょうか。

ピアノにとってプラスになるからやっているわけではありません。人生にはやりたいこと、読みたい本、観に行ってみたいバレエ公演、他にもいっぱいありますよね。結婚してないで良かったと思います。人は前世でやったことを天国(悪者のいない完全なところ)へすべて持っていけるそうです(物質ではなく才能とか……)。

── かつてフジコさんが、波乱万丈の人生を「祈りがあったからやってこられた」とおっしゃっていたのを伺ったことがあります。いつから信仰を持たれるようになったのでしょうか。また信仰を持たれるようになった前と後で、フジコさんのピアノ、また人生全体に大きな変化はありましたか。

信仰は子供のときから自然についてきました。青山学院でクリスチャンの教育を受け、教会の日曜学校でも子供ながらに牧師の話と姿に心打たれたものです。もちろん、芸術家は信仰と宗教なしにはうつろなものです。

── フジコさんにとって、人生で最も大切なものは何ですか。

人生で最も大切なのは信仰と祈り、それに愛です。私は波乱万丈の人生の終わりに幸運を勝ち得ましたが、「遅くなっても待っておれ。それは必ず来る」という聖書の言葉は、私に訪れたのです。神のおきてはどんな宗教でも同じようなものです。どんな荒波の人生のときでも神の言葉を守り通した人に、神は必ず救いを与えて下さいます。

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一番大切なのは「音色」

様々なものに喜びを見出し、人生を謳歌するフジコさん。でもやはり、その核となるのはピアノという存在だろう。「ミスタッチを直そうとは思わない」と発言、同じ曲でも時に全く異なる演奏をする彼女に対し、否定的な見方をする向きもある。しかしその一方で、どんなピアニストの演奏よりも、彼女の音色こそが心に響くと深く共鳴する人も数多い。テクニック偏重の傾向にある現代の音楽界において、フジコさんは何を考えて、ピアノと向かい合っているのだろうか。

── 好きな作曲家、好きな曲とその理由を教えていただけますか。

どの作曲家でも、その人のつくった作品のどれか、あるいは人間としては好きでない部分はありますが、特に人間として好きなのはラベルで、パリ近郊にある彼の家を訪れたときには感激しました。猫を好きな、結婚しなかった男性ですね。

── ピアノの演奏には、早く弾く、間違いなく弾くといったテクニックよりも大切なものがあるとおっしゃっておられますが、そうした中であえて超絶技巧曲を好んで演奏されるのはなぜでしょう。

超絶技巧に中身(人間的、愛、頭)がなければ、うつろな響きしか出ませんし、そんなものは機械でやった方が良いでしょう。演奏家の人格と頭脳は、必ず演奏に出てきます。たくさんの国際コンクール優勝者たちの人気が薄れ、演奏者から指揮者に変わっていくのは、彼らの人格が薄っぺらいからです。

── ピアノを弾いている最中は、どんなことを考えていらっしゃるのでしょうか。

一人で弾いているときはとんでもないことを考えていることが多いですが(例えば今夜何を食べようとか)、コンサートのときは次の音を間違えなく弾くことのみ考えています。情感はつくったものでなく、自然に人格と才能から湧き出てくるものですから。

── ピアノ演奏には、音色やテクニック、作曲家の意思・意図を汲み取ることなど、様々な要素が必要になるかと思います。フジコさんにとって、ピアノを演奏する上で一番大切なものは何ですか。

作曲家の意思は霊感で自然に伝わるものです。一番大切と思うのは、私にとって音色です。

── かつての名作曲家たちは、その人生において貧困や革命など数々の辛酸を舐め、そのときの思いを曲に投影することで自らの存在理由を示していたように思います。片や現代を生きる音楽家の多くは、経済的には恵まれ、英才教育を施されています。フジコさんは、人生において様々な経験をすることはピアニストにとって重要だと思われますか。

運命を変えることは出来ないと思います。すべて神に任せ、祈り続けるより仕方ありません。経済的に恵まれて育っても、人格の気高い人は悪者がはびこるこの世の中で、辛酸を舐めなければならないでしょう。お金のみで通らないこともたくさんありますから。

── 現在、存命している演奏家の中で好きな方はいらっしゃいますか。

セシリア・バルトーリ(Cecilia Bartoli)*1イタリア人のメゾ・ソプラノ歌手とフィリッペ・ジャルスキー(Philippe Jaroussky)フランス人のカウンター・テナー歌手*2です。2人とも天真爛漫、エンジェルの様に無垢に歌いますし。

── 自分のピアノの魅力、個性はどこにあると思われますか。

音です。

── このオーケストラと共演したい、このホールで演奏したいなど、ピアニストとしての夢はありますか。

別にありません。ホールはショパンがそうであったように、サロン風が一番私に合っています。

── フジコさんにとって、ただピアノを演奏することと、「プロ」として聴衆の前でピアノを演奏することは、違うのでしょうか。

R.シューマンが本に書いてあることがあります。「よく 有名アーティストの受ける大々的拍手喝采に惑わされる な。真の芸術家、大家から受ける賛辞こそ信じるべき」。私 は、ウィルヘルム・バックハウス(Wilhelm Backhaus)*3スイス(元はドイツ人)のピアニスト、サンソン・フランソワ(Samson François)*420世紀のフランスにおける代表的なピアニスト、ブルーノ・マデルナ(Bruno Maderna)*5イタリアの現代音楽の作曲家・指揮者、シューラ・チェルカスキー(Shura Cherkassky)*6ウクライナ出身のユダヤ系米国人ピアニスト、ミーシャ・マイスキー(Mischa Maisky)*7ラトビア(旧ソビエト連邦)出身のチェロ奏者、マキシム・ベンゲーロフ(Maxim Vengerov)*8ロシアのバイオリニスト・指揮者から最高の賛辞を受けています。心ない評論家の言葉など、もう平気ヘイチャラです。

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10月上旬、フジコさんはバルセロナやリトアニア、ワルシャワ、ベルリンと、まさに目の回るような多忙なスケジュールで演奏活動を行っている最中だった。そこで今回のインタビューは、残念ながら実際にお会いすることはできず、文章を通じて行うことに。顔の表情やボディ・ランゲージ、声音など、その人の人となりを伝えてくれる要素がない分、文章でのコミュニケーションは、難しい。しかしフジコさんから届いた言葉は、どれもフジコさんの「色」を強く感じさせるものだった。ピアノにおいて、「音色」を何よりも大切にしていると言うフジコさん。その独特な「色」は、ピアノのみならず、絵画やファッション、彼女の人生のすべてを鮮やかに彩っている。そんな彼女の「色」に溢れた音が、10月31日、技巧や楽譜といった枠から飛び出し、ロンドンの街に広がる。

information

フジコ・へミング・ロンドン公演

フジコ・へミングが31日、ロンドンでリサイタルを開催。シューベルトの「即興曲変ト長調作品90第3番」を始め、ショパンの「夜想曲第20番嬰ハ短調」や、バッハ、リストの名曲を演奏する。

2010年10月31日(日)19:30 
£15 ~35
St John's Smith Square
Smith Square London SW1P 3HA
Tel: 020 7222 1061
Westminster / St. James's Park / Victoria駅
www.sjss.org.uk

絵画リトグラフ展

自らのCDジャケットを手掛け、絵画の個展を開くなど、画家としての一面も持つフジコ・へミングの絵画リトグラフ展が、ロンドン三越店内で開催中(購入も可能)。

14-20 Regent Street London SW1Y 4PH
Piccadilly Circus駅

 

井上康生氏インタビュー 「最強かつ最高の柔道家を育てたい」

井上康生氏インタビュー

すべて一本勝ちで試合を終えることを信条とする、真の柔道家。シドニー五輪で金メダルを獲得し、母親の遺影を持って表彰台に立った好青年。アテネ五輪でまさかの4回戦負けを喫しながらも、翌日から声を枯らして他選手の応援に専念した日本選手団の主将。記録にも、記憶にも残る柔道家として知られた井上康生氏が、第2の人生の出発地点として選んだ場所は英国だった。エディンバラそしてロンドンで指導者としての道を歩み出した同氏に話を聞いた。
(本誌編集部: 長野 雅俊)

井上康生井上 康生 いのうえ・こうせい 宮崎県出身。5歳で柔道を始める。東海大卒。1999年のバーミンガム世界選手権100キロ級で優勝。2000年のシドニー五輪の柔道100キロ級で金メダル。01年の全日本選手権大会で優勝し、23歳にして3冠王者に。04年のアテネ五輪では日本選手団の主将を務めた。08年6月に現役を引退。日本オリンピック委員会の08年度スポーツ指導者海外研修員制度によって同年12月より英国に滞在中。全日本柔道連盟の在外特別コーチを務めている。

エディンバラという街が、だーいすきです

「我が柔道人生に悔いはなし」との言葉を残して現役生活に終止符を打ってから半年後、日本オリンピック委員会の海外研修員制度を利用して、2008年12月に渡英。スコットランドの首都エディンバラでの約1年間の暮らしを経て、今年3月にロンドンへと生活の拠点を移した。ロンドン西部チェルシー地区近郊にある道場「Budokwai」で指導を行う傍ら、9月に東京で開催された柔道の世界選手権に特別コーチとして帯同、ウクライナ、カナダ、デンマーク、スイス、イスラエルでも講師を務めるなど、世界中を飛び回っている。

スコットランドの代表選手たちが数多く所属している「エディンバラ柔道クラブ」という現地の名門クラブと、母校である東海大の柔道部との間に交流があるんですよ。私が今まで指導していただいた先生方の中にも、そういう関係をつたって現地に住んでいた経験を持つ方が多くいらしたということなどもあって、海外研修を行うにあたって、まずはエディンバラを住む場所として選びました。

中央駅から車で5、10分ぐらいの距離に位置する自宅から、週に3回ほど道場に行って指導していました。あとは語学学校に通っていましたね。現役時代に色々と海外遠征に行かせていただいていたにもかかわらず、英語が全く話せなかったので、一から勉強やり直しです。そりゃ大変でしたよ。英語ができないから勉強しているっていうのに、語学学校では全部その英語で授業するんですから(笑)。訛りも強いから聞き取りづらいですしね。

エディンバラという街が、私は大好きですね。だーいすきですね。私自身が田舎で育ったところがありますから、きっとフィーリングが合うということなのでしょう。でも2年後にはロンドンで五輪が開かれるし、現在私が指導を行わせていただいている「Budokwai」というロンドンの道場と東海大のつながりもあるということで、こちらに引越してきました。ロンドンには、大きな成功を求めている人が多いように感じますね。なんか一発を狙いに来ているというかね。

せっかくの機会なのでミュージカル観賞など色々楽しみたいのですが、子供が生まれてからはやはり移動が難しくなったのと、あと私自身があれやこれやで世界を飛び回っている状態だったんで、まだあまり観光できていません。公園、例えばハイド・パークを歩き回って楽しんでいるぐらいでしょうか。ブラブラと歩いていると、「あっ井上康生だ!」って指差されるようなこともありますよ。まあ日本にいるときよりはマシですけどねえ。この前パリに行ったときも、随分と図体の大きい現地の人が近寄ってきたと思ったら、「お前はKosei Inoueだろう」って言われて。一緒に記念写真を撮りました。

フランスで行った柔道教室にて
フランスで行った柔道教室にて

2年後にロンドンで開催される五輪を視野に入れながら日本人選手の強化活動に関わると同時に、ロンドン市民を始めとする世界各地の人々にも柔道の指導を行っている。少し大袈裟に言えば、ロンドン五輪に出場する日本人選手の対戦相手候補にも指導を行うことで、敵に塩を送っていることにもなる。

ロンドン五輪、もう2年後ですね。日本人選手は活躍できるか、ですか。勝負の世界って、絶対とか100%といった概念はないんですよ。あと、近道もない。私が今までの競技人生で大事にしてきたことは、過程というものをどうしていくか、ということです。4年、1年、半年といった一定のスパンで考えて、どのように上手く計画を立てていくか。そしてその期間を、全力で生きていく。大会の日になったときに俺は精一杯やったんだ、と思える状態に持っていくことが最も大事なんだと思います。

国内大会と国際大会、世界選手権と五輪の戦い方というのは、全く違います。ルールも微妙に違えば、日本人選手と外国人選手では体の構造も違いますからね。もちろん基本は一緒だとは思いますけど、戦い方は随分と変わってきますよね。だから状況に応じて戦略を立てていかなければならないんですが、そうした点も含めて、大きな目標に対していかに取り組むことができるか。そのことに集中できたら、たとえ負けても、自分に対して納得できるわけですから。

私が現在指導を行わせていただくことのある海外選手たちの中には、五輪や世界選手権の舞台で日本人選手との対戦相手となる者もいるでしょう。でも私は、海外で、柔道を通じて誰かと戦う、という考え方をしたことがないですね。柔道の創始者である嘉納治五郎先生が仰る言葉に、「精力善用」「自他共栄」というものがあります。この「自他共栄」の部分において、いかにお互いが、助け合って、励まし合って、また高め合うことで支え合うか。それが大事なんです。こうした考え方は私たち柔道家が持つ哲学であって、もっと言うと宗教的な感覚なのかなとも思います。

特別コーチとして帯同した、9月に東京で開催された世界選手権では、日本は過去最高の金メダル10個という好成績を残した。一方で、判定に不満を持ったフランスからの出場選手が試合後の礼を拒否する場面が見られるなど、改めて「柔道の国際化」の難しさがうかがえた大会でもあった。

日本人は、相手のことを思いやったり、言葉を選ぶがために一歩遅れてしまう、ということがよくありますよね。それは私自身、すごく感じます。例えば私が渡英したばかりの頃、思うように言いたいことが言えないことって、やはりいっぱいありました。そういうとき、日本人だと助け合ったり、待ってくれたりするのにな、という場面でも、こっちの人は「ウォー」ってまくし立てて言い合いますからね。「相手の気持ちを思いやる」というのは、日本人の素晴らしいところではないかと改めて感じましたね。だから柔道の技術だけではなく、柔道を通じて、そういう心に関わる部分をも伝えていくことができればいいな、と思っています。どの国で大会が行われようと、柔道で使われる言葉って、「Hajime(始め)」、「Soremade(それまで)」、「Yuko(有効)」という風に、全部日本語ですよ。柔道は、日本の文化を広めていく、和の心を広めていく力を持っているはずなんです。

そりゃ、そういった心の部分を伝えるのは難しいですよ。ただ私の場合は、体を使って教えることができる。言葉で伝えても分からないことって絶対にあります。だから、柔道家にとっては、振る舞いを見せることが大切。しっかり相手に礼をする。相手に投げられてどんなに悔しい思いをしても、稽古の始めと終わりにはきちんと挨拶をする。練習で手を抜かない。どんなに相手が強かろうが弱かろうが全力でやる。それが相手に対する尊敬の念につながる。私たちは、相手がいないと強くなれない。相手がいるからこそ、自分も成長することができる。幸いなことに、私自身が世界タイトルを獲ったことのある人間です。そういった人間が、きちんと感じるべきことを感じ、やるべきことをやっているところを見せれば、これから柔道を学んでいこうとしている人たちも分かってくれると思うんです。

最強の柔道家になるだけではなく、
最高の柔道家になりたい

メダル獲得数や優勝回数などに象徴されるアスリートとしての強さと、礼儀作法や振る舞いに表れる柔道家そして人間としての素晴らしさ。この2つは、果たして両立するものなのだろうか。

私は現役時代、最強の柔道家になるだけではなく、最高の柔道家になりたいという強い思いを持っていました。強さを持つことに加えて、人間的にも恥ずかしくないようにありたいと。ではどういう人間が恥ずかしくないのか、どんな人が素晴らしいのか、となると正直分かりません。まだ学んでいる最中ですから。

でもそうしたことを考え続けるのは大事なことではないかなあと感じていますし、皆さんにも伝えていきたいと思っています。たとえ弱くても、結果的に勝つことができなくても、一生懸命生きている人は良い人生を歩んでいける。そう思うようになったのは、世界選手権、五輪大会、全日本選手権の3冠のタイトルを23歳ですべて手にした後でしょうか。

私は5歳のときから柔道を始めて、やはり柔道家であった父からずっと指導を受けていました。父は「皆がいてお前は初めて強くなれるんだよ。そしてお前が強くなったとき、皆が応援してくれるんだよ。お前はただ柔道だけをやっていればいいわけじゃないんだ。人間的にも自分を高めないといけない」と私に言い続けてくれたので、そういう言葉を頭の中では漠然とは理解していました。でも勝ちたいから、強さの方をより求めていたような気がします。徐々に父の言葉が自分の心に響き、最強だけじゃない、最高になりたいと本気で思うようになったのは、たぶん3冠獲った後です。日本の文化を世界に伝えていきたいとはっきりと思い始めたのもその頃です。

実際にロンドンに来てみると、現地の皆さんは柔道の心をよく理解しているなという印象を受けました。振る舞いを見ても、驚くほどしっかりとしている人が多い。まあ私の課題としては、もう少し英語を上達させたいですよね。さきほど体を使って教えられると言いましたが、やはり英語ができれば、伝えられることが著しく増えるはずなんです。きっとほとんどの国で指導することができますし。だから今、道場で練習の日程とか、今後の練習の方針を英語できちんと発表できるよう、家で自習しています。忙しいときもあるからさすがに毎回は準備できないですけれど、でもできるだけやっていますよ。

長年にわたって日本の柔道界の第一線を走り続けてきた井上氏も、現役引退後の第2の人生はまだスタートしたばかり。彼はこれから、どんな指導者になっていくのだろう。

現役時代と違うのは、当たり前だけど、自分の体を使っての戦いが終わったということですかねえ。現役時代はとにかく相手を投げたりなんだりってばかりですから。自分の体を使っての戦いがあるのとないのとの差は大きいですね。いやいや、寂寥感なんてものはないですよ。もう精一杯やったんで。

アテネ五輪後に初めて出場した国際大会で断裂した大胸筋腱のあたりが、今でも痛くて痛くて。1カ月前ぐらい前にも練習が終わった瞬間に強い痛みを覚えました。普通に生活している分には大丈夫なんですが、腕を横に開く動きが駄目ですねえ。今も動きを抑えながら、肩に負担をかけないよう気をつけているんですが、時々無理しちゃって、また痛めるっていう繰り返し。自分で言うのも変ですけど、すぐ熱くなる男なんで。ただもう現役を退いていますしね。別に誰に迷惑をかけるわけでもない、明日俺がただ一人痛いって思えばいいんだ、だったらどうでもいいやって張り切った挙句にまた痛める、という毎日です(笑)。

今後の目標ですか。自分が引退した以上、今度は最強の柔道家であり、最高の柔道家を育てることですかねえ。今、随分と簡単に言ってしまいましたけどね(笑)。あとは柔道というものは世界平和に貢献できると強く思っていますから、この世界に生まれてきた以上、そうした貢献ができたらと考えていますけど。そういう思いが芽生えたのは、東海大で指導いただいた山下泰裕先生(ロサンゼルス五輪無差別級で金メダル獲得。「史上最強の柔道家」と呼ばれる)の教えが大きいと思います。

今、世界では、様々な宗教的、政治的な問題が存在しています。日本人が持っている、相手を思いやる心が少しでも色々な人の心の中に入ることによって、状況は変わってくるのではないかなと。7月に平和活動の一環として、山下先生とパレスチナに行ってきたんですよ。本当に少人数でしたが、パレスチナとイスラエルの子供たちが一緒に柔道をしました。彼らが柔道を楽しんでいる姿を見たときに、僕らがこれからやることというのはこういうことなんだな、と感じることができたんですね。具体的に次に何をどうすべきか、というところまではまだ描くことはできないですけれど。考え続けることによって、アイデアが浮かんでくるのではないかなと思います。

身近なところにも問題はたくさんありますよね。いじめであったり、人間関係のトラブルであったり。難しいことですけど、そうした局面で見て見ぬふりをするのでなく、間に入って助ける勇気を持てるようになりたい。幼い頃の私は体が大きかったからまあそういうことがわりと簡単にできたんですね。周りの生徒たちは、この人暴れたら大変だなって思っていたんでしょう(笑)。しかも自分で言うのもまた変なんですけど、温厚で平和主義ですから。一方の山下先生の場合は逆で、とてもいじめっ子で、もう手がつけられないっていうんで、柔道を始められたみたいです。そのことによって心が変わって。今の地位にいられるのも、柔道のお陰だって先生はよく仰っています。

妻の亜希さんと
エディンバラ城の前で、妻の亜希さんと

元気に生まれてきてありがとうね、
と心の底から思いました

2008年1月に、タレントの東原亜希さんと結婚。渡英後の09年5月には、第1子となる女児がエディンバラで生まれた。11月には、第2子の出産を控えている。

海外出産に関しては、実は計画した部分もちょっとあるんですけどね。海外にいることによって、家族の絆がより深まる感じがしたんです。もうちょっと正直に言うと、全然誰も自分のことを知らない新しい土地だったら、新しい家族との時間をもっと平和に過ごすことができるんじゃないかって思ったんですよね。

初めての子については、妻は最初、自宅出産を試みようとしたんですよ。もちろん私も出産に立ち会いました。でも、赤ちゃんがお腹の中で寝ちゃっていたみたいで、なかなか出てこなくて。それで病院に行ったら、到着して15分後ぐらいで生まれました。

新生児って、ものすごく美しいもののように世の中では言われていますよね。でも実際のところ、生まれてすぐの赤ん坊って、そんなに美しいものじゃないですよ(笑)。しわくちゃで、まだへその緒もついていて、しかも血だらけだし。だけど、神秘的なんですよね。生まれた瞬間に子供の泣き声が聞こえてきてね。あと、初めて抱っこしたときのあの気持ち。元気に生まれてきてありがとうね、と心の底から思いました。

来年の1月には日本に帰国する予定です。日本に帰ってしまったら、子供は、英国で生まれたってことはまあ覚えてないですよねえ。だから絶対、また自分の意志で英国に戻ってきて欲しいと思います。

 

スガシカオ ロンドンの地に再び鳴り響くジャパニーズ・ファンクのビート

ロンドンの地に再び鳴り響くジャパニーズ・ファンクのビート スガシカオ

「ジャパニーズ・ファンク」の申し子が、
ロンドンに戻ってくる ──
昨年12月、ロンドンで海外デビューを果たした
スガ シカオが、11月、再びロンドンの地を踏む。
日本と英国の間をファンクの精神で疾走し続ける
スガ シカオは、前回のライブで何を感じ、
次のライブで何を感じようとしているのか。
「スガ シカオ JAPAN★UKサーキット2009」から、
「スガ シカオJAPAN★UKサーキット2010」へ。
敢えて同じタイトルで臨む今回のライブへの期待感を
込めて、まずは昨年、スガがロンドンで
何を感じ取ったのか、聞いた。

スガ シカオ プロフィール
7月28日生まれ。東京出身。大学卒業後はイベント制作会社で勤務。退社後、1997年に「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャー・デビューを飾る。翌98年には、SMAP のシングル「夜空ノムコウ」の作詞を担当。同楽曲の大ヒットとともに、スガ シカオの名と楽曲の認知度が一気に高まった。2001年発売の5thアルバム「Sugarless」はオリコンのアルバム・チャート初登場 1位を獲得。これまでにリリースしたアルバム13作品のすべてがアルバム・チャートのTOP10入りを果たし、男性ソロ・シンガー歴代1位の記録を樹立。09年12月、ロンドンの現代アート・ギャラリーICAで海外デビュー公演を行ない、大成功を収めた。

異なる空気感が生み出したグルーヴ

2009年12月、ロンドン中心部の現代アート・ ギャラリー、ICAで行われたスガ シカオの海外デビュー・ライブ。ライブ直前には日系誌のみ ならず、ロンドンの無料新聞「METRO」など、地元メディアにも大々的に取り上げられ、チケットはすぐにソールド・アウト。とはいえ、日本では誰もがその名を知る有名人も、ここロンドンでは異国の一介のミュージシャン。当日は、熱狂的な日本人ファンから、何となく興味を持って訪れた英国人まで、温度差を持つ多種多様な聴衆を前にしてのデビュー公演となった。

スガシカオ─ ロンドン公演が始まる直前、通常のライブ以上に緊張するといったことはありましたか。

とにかく時差ボケと、電圧の違いで思うように動かない機材もあったりといったトラブルに苦しめられたので、緊張と相まって、ステージ直前は気を失いそうなくらいの精神状態でした。

─ 聴衆の方たちの中には、日本から渡英したファンの方もいらっしゃったと伺いましたが、全体的には日本人、日本人以外の方の割合はどのような感じだったのでしょうか。

日本から来た方は20人程度。あとは現地のチケットです。人種もかなりバラバラだったし、ノリもバラバラでしたが、それがとても自然で良かった。

─ ロンドン公演ということで、曲目を日本でのツアーのものと意図的に変えたということはありましたか。英語の曲は演奏されたのでしょうか。

英語の曲は全くやりませんでした。日本でのセット・リストと全く変えていません。

ぼくらがUKのアーティストを見るときも、言葉が分からなくても楽しめるし、中途半端な英語の曲をやるより、自分の言語で勝負したかった。

─ バラード調の曲からファンク全開のものまで、様々なテイストの曲を演奏されたそうですが、聴衆の皆さんのノリの良かった曲、悪かった曲はありますか。そうしたノリの違いは、日本でライブをする際とは異なっていたのでしょうか。

分かりやすい感情の曲 ──「悲しい」とか「楽しい」── とか、そういう曲の方が伝わりやすかったという印象です。複雑な感情を歌った曲 やミドル・テンポの曲は、あまり伝わらなかったかな??

逆に日本でやるときには、お客さんは皆、歌詞との距離感を楽しんだりするので、ミドル・テンポの曲をやると雰囲気が良くなるときが多いです。

─ 会場内の日本人と日本人以外のお客さんの間で、何か反応に違いは感じられましたか。

日本人以外のお客さんは、大人のノリでしたね。

─ MCは英語でされたのですか。MCに対する聴衆の方々の反応はいかがでしたか。

英語で半分くらいやってみましたが、たぶん、英語をしゃべっていると認識されていなかったと思います(笑)。もう少し、英語がんばります。

─ すべての曲目が終わった直後、まずは何を感じられましたか。

アンコールのやり方が日本と違い、床を足で蹴るというのを知らなくて、ライブが終わった瞬間から地響きのようにその音が押し寄せてきて、あぁ英語じゃなくても音楽は通じるんだ、と実感しました。

─ ライブの後、現地の聴衆から感想を聞く機会はありましたか。

ジョン・レノンに似ていると言われた……。
似てないと思うんだけど(笑)。

─ ロンドン公演の後、アルバム「FUNKASTiC」 を発売されました。このタイトルは、公演直後に英国人の聴衆の方から「Fantastic!」と声 を掛けられたことがきっかけで付けられたものだそうですが、ロンドンでの公演が、この新作をつくる上で大きな影響を及ぼすことはあったのでしょうか。

すごく影響があると思います。「分かりやすく感情を表現すると伝わるんだ」という気持ちが、この新作に大きく影響していると思います。

スガシカオ

4日間の滞在中に体験した出来事

2005年の初渡英時には1カ月、ロンドンに滞在。 レコーディングを行ったほか、ライブやミュージカル鑑賞などを満喫、ロンドンの日常生活を垣間見ることが出来た。一方、昨年の滞在日数はたったの4日間。自由時間はゼロで、ライブ以外、作詞作曲などの音楽活動も全くできなかったという。そうした多忙な中、スガには一つの印象的な出来事があった。

─ 昨年のロンドン滞在時には、郊外にある現地校に行かれたそうですが、その訪問の目的は何だったのでしょうか。

コベントリーにある女子高だったのですが、その学校の日本語学科のダン先生が、北海道に語学留学していた時分、ぼくのラジオ番組を聴いていたらしく、その番組を通してスガ シカオの音楽にはまったそうです。

そして英国に帰国してから、ぜひ、生徒にスガ シカオの音楽を通して日本語を勉強して欲しいと思い、教材に使い始めたということで、ライブをやることが決まった後、そのダン先生からメールが来たんです。それがきっかけで訪問することになりました。

─ 学校を訪問されて、具体的にはどのようなことをされたのですか。

かるく臨時先生をやったり、体育館でライブをやったりしました。日本語学科の生徒さんは250名ほどでしたが、皆さん、スガ シカオの曲をよく知っていてびっくりしました。

─ 英国の学生さんたちと触れ合って、どのような印象をもたれましたか。

みんな日本の独特の文化に憧れて、一生懸命日本語を勉強されていて、感心しました。と同時に、自分たちの文化にもっと誇りを持たねば ……と感じましたね。

スガシカオ

再び、ロンドンの地へ

ロンドン公演後、「分かりやすく伝える」という音楽作りのヒントを得て、アルバム「FUNKASTiC」 を制作。そして今年 11月、日本と世界をファンクでつなぐ、海外進出第 2弾となるライブの地を、再びロンドンと定めた。別の国、別の場所ではなく、敢えて同じ場所を周る決意を下したその理由とは、一体何だったのだろう。

─ 昨年に引き続き、今年もロンドンという場所を選ばれた理由は何ですか。

ロンドンという場所には、影響力もあるし、刺激もある。色々な場所でやるよりも、まずロンドンで地盤を固めたいという思いがありました。

─ 今回の公演では、選曲やバンドの構成など、前回とは異なる方向性を考えていらっしゃるのでしょうか。

色々、前回の経験を生かしたセット・リストや演出を考えているところです。

─ 今回の公演のテーマは決まっているのでしょうか。

テーマは、「スガ シカオ入門編」です。やりたいことがたくさんあって現在、様々なアイデアを練っているところなので、ご期待ください。


日本のライブでは、すべての曲を熟知したコアなファンが会場を占め、1曲目から皆が一体となって熱狂的な盛り上がりを見せる。スガの名前も知らず、「外国人のファンク・ミュージシャン」のうわさを聞いてふらりと立ち寄った、日本語も解せない客も多かったというロンドンで の海外デビュー・ライブで、スガが得たものは 多かったはずだ。何を感じ、何を得たのか。その答えは、それから一年後、同じ地で行う「スガ シカオ JAPAN ★ UK サーキット 2010」にこそ、あるのかもしれない。

スガ シカオ JAPAN ★ UK サーキット 2010
14 November 2010
London O2 Academy Islington:
Doors: 7pm / Start: 8pm
Ticket Price: £18
www.ticketweb.co.uk
www.o2academyislington.co.uk/event/19244/suga-shikao-tickets

 

第54回 ロンドン・フィルム・フェスティバル

第54回ロンドン・フィルム・フェスティバル

ロンドン国際映画祭の季節が今年も巡って来た。10月13日から28日まで の2週間に、世界67カ国から集まった300本近い最新作が一挙に上映される。今年は英国映画にバラエティーと勢いが見られ、開催地の意気込みが伝わるプログラムとなっている。このチャンスを生かし、注目の新作や話題作をひと足先にチェックしてみよう。(本誌編集部: 田中晴子)

ロンドン・フィルム・フェスティバル 公式ウェブサイト www.bfi.org.uk/lff

Opening Night Gala

文豪カズオ・イシグロの世界を堪能する
Never Let Me Go

Never Let Me Go

「日の名残り」など、多くのベストセラーを生み出している英作家カズオ・イシグロの小説「わたしを離さないで」を映画化した、ミステリアスなドラマ。監督は元々ミュージック・ビデオの売れっ子制作者として活躍し、やがて「ストーカー」などで劇場映画監督へと転身を遂げたマーク・ロマネク。

英国の美しい田舎町ヘイルシャムの学校を舞台に、30代前半の女性キャシーの独白で物語は進行する。外の世界から隔離された私立の寄宿舎で穏やかな子供時代を過ごした彼女は、ヘイルシャム時代の友人たちと再会したことで、過去の記憶が甦り始める。

幸せだった日々を回想していたキャシーと友人たちは、次第に寄宿舎に隠された暗い秘密や、奇妙な不調和音に気付いていく。やがて「選ばれた特別な子供」として育てられた自分たちの、恐ろしい運命が目の前に展開するのだった……。繊細で微妙な感情の揺らぎを丹念に描きつつも、衝撃的なSF風結末を迎える作品。

(UK 2010 / 105分)

監督 Mark Romanek
出演 Carey Mulligan, Keira Knightley, Andrew Garfield, Charlotte Rampling他
上映日時 10月13日(水)19:00 Odeon Leicester Square
10月15日(金)12:45 Vue Screen 6
10月17日(日)12:30 Vue Screen 7
Closing Night Gala

ある登山家に起きた事故と奇跡
127 Hours

127 Hours

「トレインスポッティング」「28日後...」そして2008年のアカデミー賞を総なめにした「スラムドッグ$ミリオネア」など、ヒット・メーカーとして活躍するダニー・ボイル監督の新作。米国の登山家アーロン・ラルストンに起きた事故と奇跡の生還の物語を、実話を基に描く。

米ユタ州の峡谷ブルー・ジョン・キャニオンに単独で挑んだアーロンは、突然落下してきた巨大な岩の衝撃で、峡谷の下部まで滑り落ちてしまう。しかも岩によって頭上を封鎖され、ほとんど脱出不可能な状態となる。ほぼ5日間にわたり岩と岩の間で宙づり状態のまま過ごした彼の必死の試みを、驚くべきカメラ・ワークで描き出す。

主演のアーロンを演じたのは、「スパイダーマン3」や先頃公開された「食べて、祈って、恋をして」に出演のジェームズ・フランコ。肉体的にも精神的にも究極の状態に陥った主人公を、リアルに演じている。

(USA-UK 2010 / 94分)

監督 Danny Boyle
出演 James Franco, Clémence Poésy, Amber Tamblyn他
上映日時 10月28日(木)19:00 Odeon Leicester Square
American Express Gala

国王ジョージ6世の素顔をのぞく
The King's Speech

The King's Speech

幼少期からの吃音(きつおん)が原因で、引っ込み思案で大変なあがり症として知られる国王ジョージ6世。そんな国王と彼を支えた妻エリザベスの姿を、英国を代表する2人の俳優、コリン・ファースとヘレナ・ボナム=カーター主演で描く歴史ドラマ。兄のエドワード8世がウォリス・シンプソン夫人と結婚するため退位し、そのため王位継承を余儀なくされたジョージは、苦手とするスピーチを克服し、君主として国民に向けて第二次大戦への参戦を発表しなければならなかった。エキセントリックな性格のオーストラリア人発音矯正セラピストが呼ばれ、国王は徹底的な訓練を開始することになる……。その生真面目さとシャイな性格で英国民に愛されたジョージ6世の姿を、「ブリジット・ジョーンズの日記」や「シングルマン」でおなじみのコリン・ファースが好演している。

(UK-Australia 2010 / 110分)

監督 Tom Hooper
出演 Colin Firth, Geoffrey Rush, Helena Bonham Carter他
上映日時 10月21日(木)19:00 Odeon Leicester Square
10月22日(金)12:30 Vue Screen 7
10月23日(土)15:00 Vue Screen 7
Centrepiece Gala presented by the Mayor of London

老いと人生について考える
Another Year

Another Year

「秘密と嘘」や「ヴェラ・ドレイク」他、常に英国の市井の人々の姿を愛情を持って描き出す、マイク・リー監督の最新作。ほとんどの作品で脚本を使わず、 俳優に即興的な演技をさせるリー監督が、本作でもその手法を採用している。

トムとジェリという老齢の域に達した2人のカップルを主人公に、友情、家族の絆、そして老いについてをユーモアと共に描く。トムとジェリは成人した息子もいる熟年カップルだが、今でも出会ったときの 情熱を失なわず、その様子にイライラする友人もいる程。だが彼らは、自分たちがいかに幸運に恵まれているか、皆に知ってもらいたいと思うのだった……。

本作の舞台がロンドンということで、10月18日には市長のボリス・ジョンソン氏が作品紹介を兼ねた舞台挨拶を行う。

(UK 2010 / 129分)

監督 Mike Leigh
出演 Jim Broadbent, Ruth Sheen, Lesley Manville他
上映日時 10月18日(月)19:00 Odeon Leicester Square
10月20日(水)14:45 Vue Screen 5
10月21日(木)15:15 Vue Screen 6
Time Out Special Screening

怒れる少年たちの衝動
Neds

Neds

60年代の怒れる若者たちを描いたリンゼイ・アンダーソンの「ifもしも...」を彷彿とさせる、幻想を交えて描いた異色の青春ドラマ。1970年代のグラスゴーで中学校に入学したばかりの少年ジョンを主人公に、階級格差や街にはびこる暴力事件の中を生き抜く、労働者階級の少年たちの姿を描いていく。アル中の父親や口うるさい母親、しょっちゅう警察沙汰を起こしている兄に囲まれ、将来の希望が見えない毎日を送るジョン。しかも友人のジュリアンの恵まれた生活を見ていると、ますます情けない気分になってしまうのだった……。

監督はグラスゴー出身のピーター・ミュラン。本業は俳優で、「トレインスポッティング」「マイ・ネーム・イズ・ジョー」「Boy A」などに出演している。本作は「マグダレンの祈り」に続く、監督第3作目。

(UK-France-Italy 2010 / 122分)

監督 Peter Mullan
出演 Conor McCarron, Joe Szula, Mhairi Anderson他
上映日時 10月20日(水)20:15 Vue Screen 5
10月20日(水)20:30 Vue Screen 7
10月22日(金)15:15 Vue Screen 6
Jameson Gala

ダンスに魅せられた女性の物語
Black Swan

Black Swan

ニューヨーク・シティ・バレエ団内部で起こる陰謀を描いたサイコ・ミステリー。「クローサー」や「ブーリン家の姉妹」などで演技派としても人気の高まっているナタリー・ポートマンが、清純で一途なバレエ・ダンサーに扮する。

古典作品「白鳥の湖」を新たな解釈で再演し、その際、主演ダンサーも総入れ替えになるというニュースを聞いたニーナ。彼女は主役の座を射止めるべく、舞台監督のどんな注文にも応じようと決意する。しかし、白鳥と黒鳥の双方のキャラクターを内包しているダンサーが欲しいという監督は、ニーナに意外な指示を出すのだった。

(USA 2010 / 110分)

監督 Darren Aronofsky
出演 Natalie Portman, Mila Kunis, Barbara Hershey, Vincent Cassel, Winona Ryder他
上映日時 10月22日(金)20:30 Vue Screen 5
10月22日(金)20:45 Vue Screen 7
10月24日(日)14:45 Vue Screen 5
10月25日(月)12:30 Vue Screen 7
Film on the Square Gala

孤独な男性の末路を描く
Biutiful

Biutiful

菊池凛子を一躍有名にした「バベル」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が、バルセロナを舞台に描く犯罪ドラマ。主演はコーエン兄弟監督の「ノーカントリー」や「それでも愛するバルセロナ」への出演や、更にはペネロペ・クルスの夫としても知られるハビエル・バルデム。

街で行われるあらゆる犯罪に手を染め、それによって男手一つで2人の子供を育てる男性。麻薬の売買から違法移民への仕事斡旋まで、彼なりの仁義やルールにのっとり仕事をするため、闇の世界では「やり手」として信用もされている。しかし病魔が彼を蝕み始め、彼と家族の生活に危機が訪れる。

(Spain-Mexico 2009 / 138分)

監督 Alejandro González Iñárritu
出演 Javier Bardem, Maricel Álvarez, Eduard Fernández他
上映日時 10月26日(火)20:45 Vue Screen 7
10月26日(火)21:00 Vue Screen 5
10月27日(水)15:00 Vue Screen 7

傷ついた者たちの幻想
Essential Killing

Essential Killing

アフガニスタンで米軍に捉えられたタリバン兵を演じた本作で、本年度のベネチア映画祭にて審査委員特別男優賞を獲得した、ビンセント・ギャロ主演のドラマ。

脱走したモハメドが、逃亡先のヨーロッパで聴覚障害を持つ女性に出会い、心を通い合わせる様子が全編ほとんどセリフなしで進行する。深い雪の中の逃亡シーンなど、観る者を引き込む美しく印象的な映像が展開する幻想的な作品。監督のイエジー・スコリモフスキーは、共産主義時代のポーランドを代表するアンジェイ・ワイダ監督などとも仕事をした同国出身のベテランで、俳優としても活動している。

(Poland-Norway-Ireland-Hungary 2010 / 83分)

監督 Jerzy Skolimowski
出演 Vincent Gallo, Emmanuelle Seigner他
上映日時 10月27日(水)12:30 Vue Screen 7
10月27日(水)18:15 Vue Screen 5

ポスト・黒澤的時代劇
13 Assassins 十三人の刺客

十三人の刺客

1年のうちに当たり前のように3~4本制作する、多作で過激な作品群で知られる三池崇史監督による時代劇アクション。今回は三池監督らしからぬオーソドックス、かつ黒澤明監督作品を彷彿とさせるような時代劇だが、もともとは1963年に片岡千恵蔵、里見浩太朗主演で制作された、同名作品のリメイク。

江戸時代末期、権力をカサに悪事の限りを尽くす徳川将軍・家慶の弟、松平斉韶(なりつぐ)に危機感を募らせた老中は、秘かに腕の立つ剣士たちを集め、斉韶を殺害しようと計画する。だが、計画が洩れ、斉韶側も行動を起こし始めていた……。

(日本 2010 / 126分)

監督 三池崇史
出演 役所広司、伊勢谷友介、光石研、岸部一徳、古田新太 他
上映日時 10月23日(土)18:00 Vue Screen 6
10月24日(日)17:45 Vue Screen 5

ほろ苦い人間ドラマ
Dear Doctor ディア・ドクター

ディア・ドクター

現在最も活躍している女性監督の一人、西川美和が、落語家の笑福亭鶴瓶を主演に迎えて描くヒューマン・ドラマ。過疎化の進む山間の小さな村に、研修医としてやって来た若い医師。彼はそこで、村人たちから絶大な信頼を受けるベテラン医師の下で働き出す。やがて彼らは不治の病を患った女性に、自分の病気を東京で医師をしている娘には知らせないよう頼まれる。女性の頼みを引き受けたばかりに、彼らは苦しい思いをすることになり、同時にベテラン医師が抱える秘密が浮かび上がる。主演を務める笑福亭鶴瓶の圧倒的な存在感が光る作品。

(日本 2009 / 127分)

監督 西川美和
出演 笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、香川照之 他
上映日時 10月27日(水)20:45 NFT3
10月28日(木)13:30 NFT1

人生の一発逆転
Sawako Decides 川の底からこんにちは

川の底からこんにちは

「アジア・フィルム・アワード」で新人賞に輝くなど、期待の新鋭監督、石井裕也によるコメディー。

東京で冴えない仕事に就き、冴えない恋人を持つ、妥協ばかりの人生を歩むOL。しかし父親が危篤状態に陥ったことから、彼女の生温い生活が一変する。

倒産寸前のシジミ工場を継ぐ事態に追い込まれた彼女は、編み物が趣味だという恋人とその連れ子を伴い帰郷。アクの強いおばさん従業員たちに揉まれながらも、逆境に力強く立ち向かっていく。主演の満島ひかりは英国でも上映された「愛のむきだし」や「カケラ」でおなじみの実力派若手女優の一人だ。

(日本 2009 / 112分)

監督 石井裕也
出演 満島ひかり、 遠藤雅、相原綺羅、志賀廣太郎、岩松了 他
上映日時 10月26日(火)20:30 NFT2
10月27日(水)13:15 NFT2

主な上映会場

Vue West End
3 Cranbourn Street, Leicester Square London WC2H 7AL
Tel: 0871 224 0240
最寄駅: Leicester Square
www.myvue.com

BFI Southbank(NFT1, NFT2, NFT3)
Belvedere Road, South Bank London SE1 8XT
Tel: 020 7928 3232
最寄駅:Waterloo
www.bfi.org.uk/southbank

Odeon Leicester Square
24-26 Leicester Square London WC2H 7JY
Tel: 0871 224 4007
最寄駅:Leicester Square
www.odeon.co.uk

その他の会場の詳細については、公式ウェブサイトwww.bfi.org.uk/lffをご確認ください。

チケット入手方法

オンライン
公式ウェブサイト(www.bfi.org.uk/lff)から直接申し込む。

電話
Box Office  
Tel: 020 7928 3232(毎日9:30~20:30)

会場にて直接
・ National Film Theatre(サウスバンク) 毎日11:30~20:30
・各フェスティバル会場:当日、最初の作品 - 上映の30分前から販売開始

ラスト・ミニット・チケット / スタンド・バイ・チケット
運悪く売り切れの場合にも諦めないこと!10月8日以降、一旦売り切れとなった作品のチケットが再度売りに出されることがある。ウェブサイト、または Box Office(020 7928 3232)に電話して問い合わせてみよう。一度売り切れになったチケットが連日にわたって新たに販売される可能性があるので、最後までチャレンジを。それでも購入できなかった場合には、スタンド・バイ・チケット。通常上映開始30分前から当日券が販売される。

チケット料金

BFI Southbank(NFT1, NFT2, NFT3, Studio), Ritzy, ICA,
Curzon Mayfair, Ciné Lumière
£9.50
Film in the City Venues: Rio, Genesis, Greenwich Picturehouse,
Tricycle, David Lean, Watermans, Phoenix, Rich Mix
£7.50
Vue West End £13
ガラ & 特別上映(Vue West End, Odeon West End) £17.50
ガラ・スクリーニング(Odeon Leicester Square) £25
アーカイブ・ガラ £20
オープニング & クロージング・ナイト・ガラ £30
トーク & セミナーなど £17.50
ウィーク・デーのマチネ(17時以前) £7
学生 & シニア £6
16歳以下
(ファミリー・ガラ作品の場合は£7)
大人券1枚につき子供券は最高3枚まで購入可能
£5
 

ロンドンの、本格ベーカリー9選

ロンドンの本格ベーカリー9選

短かった夏も終わり、ロンドンはもうすっかり秋。
早々と暗くなる街を背に家路を急ぎ、自宅でゆっくりと食事を楽しみたい季節だ。旬の素材を使った秋の料理を食卓に並べれば、添えるパンや、食事の後のおやつにだってこだわりたい。今回は、秋の夜長を充実させる、本格ベーカリーをご紹介。食卓の主役にさえしたい味わい深いパンの数々を、ぜひお試しあれ。 取材・写真 : 平川さやか

おすすめベーカリー


安い!うまい!早い!3拍子揃ったブリック・レーンの顔
Brick Lane Beigel Bake

Brick Lane Beigel Bake

ロンドンでベーグル屋と言えば、必ずこのお店の名が挙がるほどの有名店。その理由の一つは、イスラエル出身のオーナー、セミさんとご家族を中心としたスタッフが、42年間ほとんど変わらないレシピで焼くシンプルなベーグルのおいしさ。元々ユダヤの文化に由来するベーグル、こちらのものは当のユダヤ系の人たちからも大好評だという。地元のカフェやレストランヘ卸すものも含め、一日平均4000個のベーグルを生産する。びっくりするのはその価格。ジューシーなソルト・ビーフが溢れんばかりに詰まった、ボリュームたっぷりのベーグル・サンドが£3.30。フィリングなしならたったの20pという、二度見してしまいそうな安さだ。さらにこのお店、なんと年中無休の24時間営業。夜に働く人々や、踊り疲れて腹ペコのクラバーにとって、これほどうれしい場所はない。深夜以降、特に人気を増すニューヨーク・スタイル・チーズケーキは、甘すぎずしっとりとした食感で、朝焼けの帰り道をおいしく彩ってくれる。

ソルト・ビーフ・ベーグルソルト・ビーフ・ベーグル
£3.30

店名 Brick Lane Beigel Bake
住所 159 Brick Lane E1 6SB
TEL 020 7729 0616
営業時間 毎日24時間営業
アクセス Shoreditch High Street駅から徒歩10分

シナモンの香りに包まれる北欧カフェ
Nordic Bakery

Nordic Bakery

目の前のゴールデン・スクエアにまで漂うシナモンの香りに誘われる客も多いだろう。扉を開けると、スカンジナビアの空を思わせるダーク・ブルーの壁と、バーチ・ウッドを基調としたインテリアに迎えられる。気負いのない、家庭的でシンプルな北欧の味を提供するのがこのお店だ。まず試してみたいのが定番の「シナモン・バンズ」。シナモン、カルダモン、砂糖をまぶした生地をくるくると丸めたら、表面に溶き卵とシロップを塗ってオーブンヘ。外はカリカリ、中はしっとりのバンズを、層を剥がしながら食べるファンが多いのだそう。シナモンと並んで人気なのが、「ブルーベリー・バンズ」と「ソフトチーズ・バンズ」。固めに練った生地に、ブルーベリー・ジャムかパイナップル & ソフトチーズをトッピング。フルーツの酸味が効いた素朴な味わいが自慢だ。実用的かつ美しい、北欧を代表するテーブル・ウェア「イッタラ」のカップでサーブされるフィルター・コーヒーをお供に、のんびりと過ごしたい。

シナモン・バンズ £2.00シナモン・バンズ
£2.00

店名 Nordic Bakery
住所 14a Golden Square W1F 9JG
TEL 020 3230 1077
営業時間 月〜金8:00-20:00 土9:00-19:00 日11:00-18:00
アクセス Piccadilly Circus駅から徒歩8分
WEB www.nordicbakery.com

甘くて美しいものに目がない女性にお勧め
Euphorium Bakery

Euphorium Bakery

イズリントンを始め、北ロンドンを中心に7店舗を構える「ユーフォリアム」。ブリックの壁や、薪の積まれた暖炉などといった暖かくクラシックなインテリアに、敢えてモダンなシャンデリアやミラーで味付けしたスタイリッシュな空間が、特に女性客を惹き付ける。ほとんどすべての製品が、イズリントンの本店で焼かれ、それぞれの店舗へと毎朝届けられる。ベストセラーは、目にも美しいタルト。宝石のように輝くストロベリー、ブルーベリー、ブラック・カラントが、さくさくのタルト生地の上に座り、上質のクリームが柔らかなハーモニーをもたらしてくれる。定番として常連客に愛されているのは、しっかりと酸味のあるリンゴと、軽やかなパフ・ペストリーが絶妙のバランスを奏でる「アップル・タルト」。ホーム・パーティーやピクニックに持って行きたい、懐かしい味だ。添加物を使わない自然素材にこだわっているからこそ、ベビー連れのママにも安心してお勧めできる。

シナモン・バンズ £2.00ストロベリー & クリーム・タルト
£3.90(イート・イン・プライス)

店名 Euphorium Bakery
住所 79 Upper Street N1 0NU
TEL 020 7288 8788
営業時間 月〜金7:30-23:00 土8:00-21:00 日9:00-23:00
アクセス Angel駅から徒歩12分
WEB www.euphoriumbakery.com

イタリアの太陽を感じる、バラエティー豊かなピザ
Princi

Princi

奥行きのある店内に、ずらりと並んだ色とりどりのピザ、そして飛び交うイタリア語。ミラノで人気を博す「プリンチ」は、2008年、ソーホーに初のロンドン店をオープンして以来、小麦粉、ビネガー、野菜、フルーツと可能な限りの素材をイタリアから取り寄せ、本格的なイタリアの味を提供している。毎日並ぶ8~10種類のピザは、 おいしさが際立つという、薪を使った旧式のウッド・オーブンで焼き上げられる。ズッキーニを載せた「ホワイト・ピザ」や、イタリアン・トマトをベースにした「マルゲリータ」は、ボリュームがあってソーホーで働く男性に大人気。女性には、小さなサイズのクロワッサンや、ロールを使った「ミニ・サンド」が好評だ。カマンベールにサラミ、チョリソーと色々な味を楽しめるのもうれしい。風味豊かなオリーブをシンプルな生地に練り込んだスティック状のパン、「スフィラティーノ」はスナック感覚で。そのもっちりとした食感が、日本人の口によく馴染む。

スフィラティーノ £1.50スフィラティーノ
£1.50

店名 Princi
住所 135 Wardour Street W1F 0UT
TEL 020 7478 8888
営業時間 月〜土7:00-24:00 日9:00-22:00
アクセス Oxford Circus駅から徒歩10分
WEB www.princi.co.uk

こだわりの天然酵母パンでオーガニック・ライフ
The Old Post Office Bakery

The Old Post Office Bakery

80年代初頭にオープンした、南ロンドンに最も古くからあるベーカリーの一つ。文字通り、開店当初の店舗が旧郵便局だったことに由来した名前がなんとも可愛らしい。イート・インのない小さな店内には、毎朝の食卓に欠かせない、あらゆる種類の食パンや丸パンが並ぶ。そのすべてが、有機製品認定団体の英国土壌協会に認められた、オーガニック・ブレッドだ。サワー種と呼ばれる天然酵母で作られたライ麦パンは、目が詰まってずっしりと固めの食感と、その独特の酸味がヨーロッパならでは。フルーツやオニオン、オリーブをそれぞれ練り込んだ香りの良いローフ・パンも、日替わりで試してみたい。イースト・フリーや、 完全穀物菜食のビーガン・ブレッドもあり、特定アレルギーがある人にも心強い。南ロンドンに住んでいなければ少し遠く感じるが、うれしいことにロンドン各地のファーマーズ・マーケットでストールを出しているので、ぜひウェブ・サイトをチェックしてみて。

オーガニック・ホール・ウィート・ローフオーガニック・
ホール・ウィート・ローフ
£1.40

店名 The Old Post Office Bakery
住所 76 Landor Road SW9 9PH
TEL 020 7326 4408
営業時間 月〜金7:00-17:30 土6:00-17:00 日9:00-14:00
アクセス Clapham North駅から徒歩10分
WEB www.oldpostofficebakery.co.uk

パリの朝の定番、バゲットが自慢のブランジェリー
Bagatelle

Bagatelle

仏大使館や仏語学校、フレンチ・ビストロが顔を揃えるフレンチ・コミュニティーの中心で、「まるでパリの街にあるブランジェリーのよう」と慕われ、毎朝焼きたてのバゲットを買い求める人々に愛される「バガテル」。フランスの朝に欠かせない定番の「バゲット・パリジェンヌ」は、1日2回、北ロンドンにある自社工場から届けられる。フランスから輸入した小麦やライ麦を使い、ふわっとした中身にさくさくの皮という、おいしいバランスを実現させている。バゲットの種類も豊富なので、クリスピー、オーガニック、ライ麦バゲットと、用途や好みに合わせて選ぶのも楽しみの一つ。ころんとしたフォルムが人気のマカロンは、ピスタチオ、パッション・フルーツ、ラズベリーなどのフレーバーを展開。色とりどりのボックス・セットはおみやげにも喜ばれそう。ウィンドーには、仏大使館パーティーでお披露目したというエッフェル塔を型取ったパン・アートが。パリ気分を一層盛り上げてくれる。

*閉店しました

バゲットバゲット・パリジェンヌ £1.20
サワードウ・バゲット £1.40

店名 Bagatelle
住所 44 Harrington Road SW7 3NB
TEL 020 7581 1551
営業時間 月〜土8:30-19:30 日8:30-18:00
アクセス South Kensington駅から徒歩5分
WEB www.bagatelle-boutique.co.uk

南仏リゾート気分でプティ・デジュネ
Aubaine

Aubaine

南仏風のフレンチ・カフェ・ビストロに、自社ベーカリーを併設する「オベンヌ」。天気の良い日なら一日中座っていたくなる明るい店内は、ブレックファスト・タイムが特に忙しい。眠気覚ましのコーヒーと、手軽に食べられるフレンチ・ペイストリーの朝食を、一日の原動力にする常連客が多いからだ。空気をたっぷり含んだクロワッサン、お好みでプレーン、チョコレート、シュガーから選べる甘さを抑えたブリオッシュ、香り高いサルタナ・レーズンがぎっしりの「パン・オ・レザン」。どれもすぐに売れ切れてしまうので、オンライン予約できるシステムがあるほどだ。ここで、クリスマス・ケーキより人気があるのが、1月の初めに売り出される「ガレット・デ・ロワ」。紙の王冠を載せたパイ菓子で、中に陶器の人形が隠されている。フランスでは、これを家族で切り分け、人形が当たった人が王冠を被り、王様になるという。家族が笑顔になれる、こんな楽しいデザート。ぜひ来年は試してみたい。

パン・オ・レザンパン・オ・レザン
£2.50

店名 Aubaine
住所 260-262 Brompton Road SW3 2AS
TEL 020 7052 0100
営業時間 月〜土8:00-22:30 日祝9:00-22:00
アクセス South Kensington駅から徒歩10分
WEB www.aubaine.co.uk

職人の情熱がたっぷり詰まったサワードウ・ブレッド
Flour Power City

Flour Power City

「おいしいパンに必要なものは? と聞かれると、いつも『粉、塩、水、酵母、そしてラブ』と答えているよ」とヘッド・シェフ。食のメッカであり、フード・ラバーが集まるバラ・マーケットにショップを構えるだけに、彼らのパン作りへかける愛情とこだわりは並大抵のものではない。サワー種を使った強い酸味のあるパンが主流だが、その酵母を育てるには3~4週間が必要なのだとか。初代店舗があった、東ロンドンのホクストン・ストリートから名前を取った「ホクストン・ライ」は、発酵過程を入れると30時間のプロセスを経て、豊かな香りとずっしりとした食感を持つパンに焼き上がる。すべてはおいしいパンのため、短縮できない行程だ。上質のオリーブ・オイルをたっぷり使ったフォカッチャ、定番のフレンチ・クロワッサン、それにデニッシュなど、様々な人種の集まるロンドンのニーズに合わせて幅広く展開しているため、きっとお気に入りの味に出会えるはず。

ホクストン・ライホクストン・ライ
ホール £8.00
ハーフ £4.00
クォーター £2.00

店名 Flour Power City
住所 Stoney Street Borough Market SE1 1TL
TEL 020 8691 2244
営業時間 月7:00-16:00 火〜金7:00-18:00 土8:00-16:00
アクセス London Bridge駅から徒歩10分
WEB www.flourpowercity.co.uk

200年変わらない味のパン・ド・カンパーニュ
Poilane

Poilane

1932年、パリのサンジェルマン・デ・プレで創業して以来、店名の頭文字「P」を模した切り込み入りの、重さ1.9キロもある田舎パンを頑固に焼き続ける老舗。もちっとした食感と、サワー種の柔らかな酸味を持つ優しい味が人気だ。フランス産の上質な素材にこだわり、小麦の産地として有名なボース地方やブリ地方の小麦に、ブルターニュ半島南部、ゲランド産の塩を使用。自然発酵で香りが増した生地を、石釜で薪を使いじっくりと焼き上げたパンは、そのままで、トーストして、サンドイッチにして、と幅広く楽しめる。そして、スプーンとフォークをかたどったなんとも可愛らしいクッキー「ピニュシオン」は、パリのおみやげリクエストに必ず入るくらいの人気者。「お仕置き」という意味で、ポワラーヌ家のおばあちゃんが、子供たちに「お仕置きよ~」と言いながらこのクッキーをくれたのが、名前の由来。バター味、ジンジャー味のスプーンと、チーズ味のフォークは、ロンドン店でももちろん購入可能。

パン・ド・カンパーニュパン・ド・カンパーニュ
(ポワラーヌ・ローフ ホール)
£8.30

店名 Poilane
住所 46 Elizabeth Street SW1W 9PA
TEL 020 7808 4910
営業時間 月〜金7:30-19:00 土7:30-18:00
アクセス Victoria駅から徒歩13分
WEB www.poilane.com

地図はこちら

 

RMKが魅せるオータム・ブラウン - 今年の秋に知る新たなブラウンの世界

RMK AUTUMN BROWN
今年の秋に知る新たなブラウンの世界

グリーンやピンク、オレンジなど、ポップで健康的な色味に、
ほのかに輝く偏光パール。
女性であること、メイクできることを
ハッピーに感じさせてくれるコスメ・ブランド、
RMKが2010年秋冬に提唱するのは、
「オータム・ブラウン」。
秋の定番色、ブラウンに、RMKならではの
光と煌めきをプラスすれば、
これまでにないブラウンの世界が広がる。
今回は、RMK専属メイクアップ・アーティストによる
秋冬メイクをベースとポイントに分けてご紹介。
誰もが気軽に楽しく「今年の顔」に……。

before - after

ベース・メイク中、「ポイントは、ポイントがないということ」と言って笑ったのは、RMKのクリエイティブ・ディレクター、RUMIKOさんのテクニックを継承する14人のRMK専属メイクアップ・アーティストの一人、中水康博さん。素肌らしさを追求しつつ、素肌では決して成し得ない透明感と立体感を実現するRMKのベース・メイク。さぞ独自のテクニックを要するのかと思いきや、「プロだけでなく、一般の人が誰でも簡単に奇麗になれる」ことこそ、RMKのメイクのポイントだと言う。

隠すのではなく明るさをプラスする ── そうすることで、健康的で、一人ひとりのありのままの魅力を最大限に生かすメイクが完成する。

透明感と立体感 ── そんな一見、相反するようにも思える2つの要素を両立させるポイントは、下地からコンシーラー、クリーム・ファンデ、パウダーと一つひとつのプロセスをおろそかにせず、でもそれぞれを薄付きにすること。特にファンデはごく少量で、そばかすも完全に隠すのではなく、顔全体で見て目立たなければOK。パール粒ほどの量のファンデを手のひらで伸ばしつつ、中水さんが「他人の顔を目の前まで近付いて見る、なんてことはないですからね」と微笑む。コンシーラーやパウダーは、欠点を覆い隠すのではなく、明るさをプラスするために使う。そうして色と光のベールを幾層にも纏った肌は、やがて素肌が喜ぶ、自然な透明感溢れる肌に生まれ変わるのだ。

米ニューヨークでメイクアップ・アーティストとして活躍しているRUMIKOさんが、ブラウンに注目したのは、80年代のこと。「ブラウン一つで、すべてを実現できる」。そう感じながらも、自らのブランド、RMKでこれまでブラウンを前面に打ち出してこなかったのは、求めるクオリティーが出せなかったから。固めないと色が出ない、でも固めると粉落ちしてしまう……。しかし今、開発テクノロジーがRUMIKOさんの思いに追いついた。

今年、RMKが提唱するのは、見る者に雄弁に訴えかける、 奥行きのあるブラウン。ポイントはベース・メイクと同様、「重ねること」。ホワイト・ベースでふわりと明るくなったま ぶたの上にディープ・ブラウンをのせると、その発色の良さに一瞬、躊躇いを感じるかもしれない。「そうでしょう? でも気にしないで大丈夫。最後にパールを重ねれば、自然な立体感が生まれるんですよ」と語る中水さんの言葉通り、3つのプロセスを経て生み出されたブラウンのグラデーションは、深みと柔らかさ、輝きを目元に与えてくれる。

「服を着替えるように、メイクも色々楽しんでほしい」、そう言いながら目元のメイクを終えた中水さんが、次に取り出したのは、淡いピンクやローズ、ゴールド・ベージュなど、明るく優しい色味のチークとリップ。RMKならではのヘルシーな色味を軽くプラスするだけで、ブラウンの世界に温かみと優しさが広がる。ときに大人びて、ときにキュートに。今年の秋冬は、変幻自在なブラウンで、様々な表情を楽しんでみたい。

ベース・メイクアップ

Base Make How To

下地1. 下地

高度なテクニックは一切不要。適量を手に取って、顔全体に均一に伸ばすだけ。夕方、くすみが気になるという人には明るめの色、毛穴が気になる、キメを整えたいという人にはノー・カラーがお勧め。

Product
1. Creamy Polished Base 01

肌の凹凸をカバーし、滑らかに整える化粧下地

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コンシーラー 2. コンシーラー

ブラシですっと目の下から頬骨に向かって伸ばした後、手ですべらせるようにまぶたや目の際を含む目の周り全体に馴染ませる。顔に自然な立体感を出すため、鼻筋とあご先にも軽くプラスしハイライトする。シミ、そばかすなど、特に気になる部分にはコンパクト型のコンシーラーを使ってカバーして。

Product
2. Super Basic Liquid Concealer 01 and 02,
Super Basic Concealer Pact 01

ペンシル・タイプで手軽に利用できるコンシーラーと、カバー力重視のコンパクト・タイプ

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ファンデーション 3. ファンデーション

パール粒使う量はパール粒ほど。指の腹を使って、頬やおでこから全体に伸ばしていく。時間を置けば馴染んでくるので、細かい部分は気にしすぎないでOK。コンシーラーを使った部分は避け、その境目を手でブレンドする。

Product
3. Creamy Foundation 102

「クリーム・ファンデ=厚塗り」のイメージを覆す、薄付きなのにカバー力抜群なファンデーション

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パウダー 4. パウダー

フェイスパウダー粉を大量にはたくというよりは、「過剰なツヤを抑える」ための仕上げのプロセス。「Face Powder EX」はネット部分がメッシュ状の柔らかいシリコン製になっていて、粉を少量しか取れないよう設計されている。ごく少量を、軽く抑えるようにポンポンと顔全体にはたいて。

Face Powder EXProduct
4. Face Powder EX

肌に煌めく透明感を与えるパウダー。粉っぽさとは無縁の、ナチュラルな仕上がりに

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ポイント・メイクアップ

Point Make How To

1. アイシャドウ

アイシャドウまずは白のベースを目の際からまぶた全体に、次にブラウンを際からアイ・ホールまで伸ばしていく。最後にパールをくぼみから眉下、そして全体に広げていけば、ブラウンのグラデーションの出来上がり。下まぶたに、目尻から目頭に向かって3分の1ほどブラウンを入れればナチュラルに目元を強調、3分の2ほど入れれば印象的な目元に。

Product
A/W 2010 Brown Eyes 031. A/W 2010 Brown Eyes 03

3色セットのアイ・シャドウ。6色展開で、レッドやイエロー、ベージュなど、様々なブラウンの魅力に出会える

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2. アイライナー

アイライナー目元をくっきり、でもナチュラルに。そんなときには下まぶたの内側にラインを入れて、「フレームを強調」。手を添えつつ、ペンの先ではなく、腹の部分を使えば安定感がアップ。

Product
Ingenious Water Proof Eyeliner2. Ingenious Water Proof Eyeliner

ナチュラルかつ印象的な目元にしてくれるウォーター・プルーフのアイ・ライナー

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3. マスカラ

マスカラマスカラは3回のプロセスで。まずはかけたカールを保ち、ベースの繊維を付けやすくするためにマスカラを塗る。そして次にベースで太さと長さを 出したら、最後に再びマスカラを。繊維をコーティングし、簡単にボリューム・アップを実現できる。

Product
3. Extra Deep W Mascara 01

マスカラ・ベース・マスカラの3度のサンドイッチ式重ね塗りで驚異のボリューム・アップ

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4. アイブロウ

アイブロウまゆはあくまで自然にまとめて、アイ・メイクを生かす。ペンシルですき間を埋めるように描いた後に は、アイ・ブロウ・マスカラを使って柔らかいイメージをプラス。日本人の場合、ゴールドを使うと元 の毛色がグレーになり、優しい雰囲気にまとまる。

Product
4. Eyebrow Pencil 02, Eyebrow Mascara N 03

一本で自然なまゆが完成するペンシルと、メイクのイメージに合わせて色を簡単に変えられる便利なマスカラ

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5. チーク

5. チーク頬骨に沿ってチークを入れた後、頬の高い部分へ伸ばしていく。頬骨から横に向かったラインを強調すれば立体感が生まれ、頬の高いところにポイントをもってくれば、ふんわり感が出て可愛らしい雰囲気に。

Ingenious Powder Cheeks Ex-04Product
5. Ingenious Powder Cheeks Ex-04

やさしい発色で、肌の色をナチュラルに 引き立てるチーク

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6. リップ

リップアイ・メイクを引き立たせるため、口元はベージュで控えめに。唇は保湿力が弱いので、まずはリップ・エッセンスで潤いを。その後、一旦塗ったリップはティッシュ・オフして油分を取り、再びオン。最後はファンデを使って口角を整えれば、輪郭がくっきり鮮やかになる。

リップProduct
6. Lip Essence N(Strawberry), Irresistible Lips B 27

ナチュラルなベージュからセクシーな赤まで、組み合わせによってメイクのイメージががらりと変わる秋の新色

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メイク写真:前川 紀子

RUMIKOがRMKを生み出すまで

幼い頃から「クリエイト」することが大好きだったRUMIKOさんが、メイクと出会ったのは、高校生のとき。欧米のファッション誌を買っては独自のメイクを友人とともに試していた彼女はやがて、メイクアップ・アーティストという職業の存在を知り、美容学校に進む。しかし、当時の日本ではヘアとメイクの分業が確立しておらず、次第にRUMIKOさんの目は海外へ向くこととなる。

そして1980年、単身NYへと飛んだRUMIKOさんは、まずNY大学で10カ月ほど英語を学ぶ。その後、日本で面識のあったメイクアップ・アーティスト、リック・ジレット氏のアシスタントに。同氏の下で研鑚を積み、やがて「アメリカン・ヴォーグ」など多数のファッション誌でひっぱりだこの人気アーティストとなる。

NYで活躍し10年が経った頃、「NYでやりたかったことはやりつくしたのではないか」と考え始めたRUMIKOさんは、日本の女性にNYで学んだメイクを伝えるため、日本の雑誌でメイク・ページの連載を開始。多くの読者から反響が寄せられるなか、大手化粧品メーカーからコスメ・ブランドの立ち上げを提案された。これがRMKブランド誕生のきっかけとなる。

ブランド設立に際し、まずRUMIKOさんがこだわったのがパッケージ。今ではRMKの代名詞的存在となっているシルバーにシンプルな白抜き文字のパッケージは、パッケージと言えば黒、と決まっていた当時のメイク業界に驚きをもって迎えられた。そして「東京のクオリティー、NYのセンス」をモットーに、すべての国籍、あらゆる肌の色に合う製品の開発に着手。元々、日本のものは世界最高レベルにあると考えていたファンデーションが最初に完成した。続いて色ものへ。当時、発色の良さでは海外ブランドの方が勝っていたものの、その色が日本人の肌にあまり合わなかった。試行錯誤の末に出来上がったチークやアイ・シャドウは、色ごとにラメ感、オイル感が異なり、その健康的で色彩豊かな商品の数々は、当時、画一的なメイクが全盛期を迎えていた日本のコスメ業界に鮮やかな風を吹き込むことになる。

ブランド設立から13年。「メイクとは、素肌を隠すためのものではなく、内面にある美しさを引 き出し、より美しく見せるもの」̶̶RUMIKOさんのメイク哲学に支えられたRMKのコスメは、日本のみならず、世界中の女性一人ひとりをよりハッピーに、よりポジティブにするために存在している。 (参考: マガジンハウス出版 「DREAM」 by RUMIKO)

Rumikoプロフィール
1980年、単身NYへ。NY大学で英語を学ぶ。82年からメイクアップ・アーティストとしてNYで活動開始。「アメリカン・ヴォーグ」を始め、世界各国のファッション誌で活躍する。97年には自身のコスメ・ブランド「RMK」を設立。現在もアーティストとして世界各国を飛び回る一方、RMKのクリエイティブ・ディレクターとして新製品開発などにも携わる多忙な日々を送っている。2010年8月現在、日本国内に103店舗、世界7カ国に34店舗を展開中。

RMK Available at

Stores: Selfridges Oxford St.
400 Oxford Street, London W1A 1AB
Tel: 020 7318 3538
  Selfridges Trafford
The Trafford Centre, Manchester M17 8DA
Tel: 0161 629 1176
  Selfridges Birmingham
The Bullring, Upper Mall East, Birmingham B5 4BP
Tel: 0121 600 6816
Web: ASOS
www.asos.com/search/pgeSearch.aspx?q=rmk
  LOOK FANTASTIC.COM
www.lookfantastic.com/beauty/rmk
  RMK Official Website
www.rmkrmk.com

Face PowderRMKの新ベース・アイテム「RMK Face Powder EX」の発売を記念して、RUMIKOが実力を認める14名の専属メイクアップ・アーティストのうちの一人、中山恵美が初渡英。参加者の皆様に、1対1で秋の肌作りから今シーズンのポイント・メイクまでお見せいたします。女性ならではの細やかさ溢れるテクニックを、是非ご体験ください。

日時 9月30日(木)~10月3日(日)
場所 Selfridges (Main Beauty Hall),
400 Oxford Street, London W1A 1AB
ご予約 Tel: 020 7659 2220(日本語)

※残りのプロモーション期間(10月4日(月)~10月6日(水))には、特別ギフトなどをご用意し、現地スタッフがご対応させていただきます。
※ご予約には20ポンドの参加費がかかり、当日のRMK商品ご購入代金に充当させていただきます。また、お買い上げ金額に応じて、素敵なギフトもございます。


中山 恵美RMK専属メイクアップ・アーティスト
中山 恵美

RUMIKOより直接指導を受けその実力を認められて、03年に専属メイクアップ・アーティストに。以降、ショップでのメイクアップ・レッスンやイベントにて活躍。顔の中で最も印象に残る部分であるアイ・メイクと、お客様の新たな一面を引き出すような効果的な色使いにこだわりを持つ。同じ女性としての立場からお客様の悩みに親身に応える丁寧なアドバイスも好評。

 

鈴木ナオミさんインタビュー :英国で活動するマルチ・タレント

鈴木ナオミさんインタビュー

渡英後すぐに発売されたCDが英国のクラブ・チャートにランクインし、BBCがドキュメンタリー番組を放映、英国の名優ヒュー・グラントと映画で共演するといった華やかな経歴と、その裏側にあった転落、そして歌手としての再起。成功と失敗、栄光と挫折の物語が凝縮された、英国で活動するマルチ・タレント、鈴木ナオミさんの波乱万丈の半生を紹介する。

歌手、女優、司会者としてヨーロッパで活動。ロンドンから日本に向けて、ロンドン情報を発信するラジオ番組「ナオミのLONDON CALLING(FM軽井沢)」のパーソナリティー*1 としても活躍中のマルチ・タレント。7月にリリースされた新ユニット「AJ UNITY」のデビュー・アルバムがUK のメディアで絶賛される。10月に2ndシングルをリリース予定。また日本の企画制作会社「ポマトプロ(www.pomato.co.jp)」のUK 支社POMATO UK LTD の代 表として、プリンセス・ダイアナ展や世界子供の絵博覧会「えとことば展」を企画・運営するなど、クリエーターとして も活動している。自身が代表を務める音楽制作会社「NANA MUSIC UK LTD」*2 にて、アーティストの育成も行っている。
鈴木ナオミのサイト www.sweet-naomi.com
新ユニット「AJ Unity」のサイト www.ajunity.com

*1 FM軽井沢のパーソナリティー 「ナオミのLONDON CALLING 日本時間土曜午後2時放送」。鈴木ナオミのサイトの「最新ニュース」から過去の放送が聞ける。またFM軽井沢のサイトでは、リアル・タイムで聴取可。

*2 「NANA MUSIC UK LTD」。独自のレーベルを立ち上げ、アーティストのプロモート、育成なども行っている。レッスンやプロモーション活動などに興味のある方は、NANA MUSIC UKのサイトを参照。

生まれながらにして

2歳のときから、「スター」だった。

町内会のパレードで踊る姿を見た人が、「将来、絶対に芸能人にした方がいい」と親を説得しに家にまで訪問に来た。「普通2歳ぐらいだと、お祭りで踊るって言っても、よちよち歩きながら手を振ったりしているだけじゃないですか。私は既に持っていた『決めのポーズ』を披露していたみたいです」。

物心付いたときには既に通い始めていたというエレクトーン教室では、「20年に一人の逸材」と言われる。中学校3年生のとき、「そんなことする必要は全くないのに、足を派手にぐるぐるかき回してペダル鍵盤を踏むような」演出をして、米国のジャズ・ピアニスト、デューク・エリントンの代表曲である「キャラバン」を弾き、コンクールの九州大会で優勝した。

粉々に砕けた腕、そして自信

やがて音大への入学を目指すようになった「神童」は、しかし、間もなくして、挫折を経験する。それも、文字通り、粉々になるまで。「3階建て分ぐらいの高さがある歩道橋の上で、妹と遊んでいたんです。そしたら橋の上から落っこちてしまって。2、3日間意識をなくして、さすがに親は私が死んだと思ったみたいです」。

命は助かったものの、腕全体の骨はぐちゃぐちゃ。医師が一度は切断を勧めるほどだった。1本1本の指を動かすリハビリに何カ月も費やした後に何とか音大に入ったが、その頃にはもう、状況は随分と変わっていたという。まず、ピアノを練習しようとすると、手にしびれを感じる。練習がすっかり嫌になってしまった。学内で開催されるピアノのコンクールでの成績は最悪で、ますます嫌になるという悪循環が繰り返されていく。

ちょうどその頃、学校に芸能コースが新しく設立され、「歌手と司会者」を育成するコースの1期生となる。歌い方やマイクの持ち方はもちろん、立ち方、歩き方からアイウエオの発声練習までを行うこのコースの先生が、とにかく厳しかった。「『あんたなんて全然歌手に向いてない』って言われました。お腹ガーン蹴られて、最後にはもう『帰れ』って教室から追い出された」。

とりわけ、高音の限界に到達したときの歌い方を厳しく指摘された。「逃げる歌い方をしている。それはあなたの生き方そのもの。あんた1回ここで逃げたらもう二度と同じ高さの壁を越えられないわよ」。そう言われたとき、今まで逃げてばかりいた自分に気付いたという。そして、歌うのが怖くなるくらいまで、その壁に真っ直ぐに立ち向かってみようと決めた。すると、不思議なことに、少しずつ歌を、そして音楽をまた好きになっていった。

「なんちゃってアイドル」時代

恩師と慕う先生の厳しい指導のお陰もあって、やがて、音大生を続けながら、アニメ・ソングやコマーシャル・ソングを歌う仕事が入ってくるようになった。本人の言葉を借りると、「なんちゃってアイドル」だ。「ほかの同年代の友達が、喫茶店やコンビニで時給数百円のアルバイトをしているときに、コマーシャル・ソング1本歌って50万円とかもらえる。芸能人とも会える。とにかく楽しんでいました」。

イベント出演の仕事も多くあった。デパートの屋上で行われる戦隊ショー。一般に「営業」と呼ばれる、伍代夏子や五木ひろしといった演歌歌手たちの地方公演の前座。そうした場で、「今振り返るとあまりに場違いな」、マライア・キャリーやホイットニー・ヒューストンといった、米国のR & Bの曲を歌っていたという。

ここで、話は急展開を迎える。

ある日、彼女のショーを見終わったばかりの英国人プロデューサーが近寄ってきて、初対面の彼女に、「英国でデビューしてみませんか」と言う。「『へ?』みたいな。さすがに、自分が世界の舞台で歌うレベルじゃ全然ないことは分かっていましたし」。当然のことながら、話を聞いた両親は引っくり返った。そもそも自分自身が、眉に唾を付けてもまだ信じられない。ところが、その音楽プロデューサーからは以後、毎日のようにFAXが送られてくる。英国デビューまでの道のりを示した企画書が送られてくる。新曲が決まったとの報告が来る。最後には、英国行きの航空券が送られてきた。

「私、スターだ」

「日本でアルバイト感覚でアイドルとして働いていたら、会ったばかりの外国人に英国デビューの話を持ちかけられ、渡英することになった」。そう聞けば、「何か騙されているのでは」と考えるのが常識的な感覚だろう。だが現実は、明らかに一般常識を超えていた。

「帰って来なかったら警察に連絡してね」と茶化した言葉を友人に言い残して成田空港から旅立ち、ヒースロー空港へと到着。客室乗務員と挨拶を交わして搭乗口を出ると、何台ものテレビ・カメラが待ち構えていた。聞けばBBCによるドキュメンタリー番組の撮影だという。「あまりに騒々しすぎて、入国審査でつかまっちゃって(笑)。なかなか空港を出られませんでした」。

ロンドン市内に着けば、ハイド・パークの向かいにあるホテルの一室が用意されていた。当然、宿泊費は会社持ち。食事代として、数百ポンドを毎日ぽんとくれる。

仕事の方でも万全の準備が整えられていた。渡英3カ月後に控えたCDリリースに向けて即日、活動を開始。バック・ミュージシャンはもちろん、プロモーション・ビデオの収録を一緒に行うためのバック・ダンサーも手配済みだった。そのとき思ったこと。「私、スターだ(笑)」。

「日本への逆輸入」という夢

英語は全くと言っていいほど、話せなかった。「当時に受けたインタビュー映像を観ると、『Uh-Huh』『Mmm』『Yeah』の3語ぐらいしか言ってないんです(笑)」。

前述のBBCによるドキュメンタリー番組には、もはやコメディーとしか思えないような失態が記録されている。レコーディングの最中で、「エコーヲ、モットアゲテクダサーイ」と外国人訛りになっただけの日本語を大声で話す。インタビューで、「Have you been to US?」と問われた際に、得意の「Yeah」で返したものの、続けざまに「Where?」と尋ねられて、「China」と答えてしまう。慌てたバック・ダンサーの一人に、「You have been to Chinatown, right?」と助け舟を出される始末。英国の国営放送で流される映像としては、なかなか衝撃的な内容である。

では、英語もろくに話せない、日本国内でさえほぼ無名と言っていいほどの日本人歌手が、なぜ英国でデビューを飾るに至ったのか。その理由は、先の音楽プロデューサーによる、日本人歌手を使っての目論みにあった。つまり、「日本から連れてきてたアーティストを英国でデビューさせ、日本へと逆輸入する」というマーケティング戦略を描いていたのである。

この夢は、すぐに現実味を帯びてくる。用意周到なPR活動も手伝い、デビュー・シングルは英国のクラブ・チャート12位へとランクイン。そのニュースを耳にした日本のレコード会社が、1億円の予算を確保するから、日本で売り出したいとの申し出を寄せてきた。その資金を使って、カイリー・ミノーグなどの作品を手掛けてきたジェームズ・テイラーを含む著名音楽プロデューサーたちを結集させてのアルバム制作が始まった。さらに、5分に1回はかかるという、ヘビー・ローテーションのCMソング採用の話も決まる。日本への凱旋帰国というプロジェクトは、実現に向けて着々と進んでいった。ある一人の関係者が、1億円を持って逃げるまでは。

今週のお勧めCD
渡英直後、デビュー曲を「今週のお勧めCD」として取り上げた
ロンドンのレコード店で撮影したときの写真

ビギナーズ・ラックの終焉

その「関係者」とは、日本人の音楽プロデューサーだった。「日本人アーティストの逆輸入」との構想を立ち上げた英国人プロデューサーと、1億円の予算を確保した日本のレコード会社の間を橋渡しした人物である。

日本への逆進出に向けてまずは英国での知名度をさらに高めようと、日本のレコード会社が提供した1億円のプロモーション費用が、突然消えた。レコーディングした曲が、「制作料の未払い」を理由にリリースされない。これまで応対してもらっていた担当者が、責任を取らされて解雇となる。自分を取り巻く周囲の信頼関係は、一気に崩壊。「一体誰のせいだ」と自分を責める声が聞こえた気がした。

彼女のビギナーズ・ラックは、渡英1年も経たないうちに、こうしてあっけなく終わった。

立ち位置は違うけれど

汗水垂らして努力したことがなければ、高度な策略をめぐらす経験値もなく、失敗の恐怖さえ知らない無垢な初心者が、往々にして手にする幸運。世間では「ビギナーズ・ラック」と呼ばれるこの代物は、いくつかの特性を持っている。決して長くは続かない。いずれ失う。見放されてしまったら、もう戻ってこない。

所属レコード会社との関係は一旦切れてしまったが、「そのままただ日本に帰るというのも何だか悔しかった」から、英国に残ることにした。語学学校で一から英語を学び、日本のオーディション番組に参加しているうちに、主にレコーディングを目的としてロンドンへ来る日本人ミュージシャンに付き添う、コーディネートの仕事が入るようになった。「レコーディングというのは、本当に繊細な作業です。特に外国語でのやり取りとなると、その繊細さが増します。普通に通訳するだけでは伝わらないものがある。幸い私は、渡英当初に右も左も分からないままそうした環境に揉まれる機会を得たので、スタジオ・ワークの雰囲気は十分知っている。私が歌手として活動する場が少なくなったとしても、他の歌手の人たち の作品作りに参加することで、好きな仕事を続けられるような気がしたんです」。

それまで何もかもお膳立てしてもらっていた自分が、いつの間にか、お膳立てする立場になっていた。宇多田ヒカル、矢井田瞳、小柳ゆきといった日本の音楽界を代表するそうそうたる面々が、レコーディングのため頻繁 にロンドンを訪れる。そうした歌手たちが音楽活動に専念している様子を見て、多少の嫉妬を覚えたことがないとは言わない。でも彼女たちのレコーディング作業に何度も立ち会ううちに、「立ち位置が違うだけで、自分も作品作りをしている」と思えるようになった。またそうした歌手たちが日本の歌番組で「ロンドンのレコーディングでお世話になった人がいましてね」と言って自分への感謝の気持ちを述べているのを知って、勘当扱いしていた両親も、応援してくれるようになった。

気付けばもう、ビギナーズ・ラックなんか、必要としていなかった。

今まで頑張ってきたご褒美

日本人歌手たちのレコーディングの手配を主とするコーディネートの仕事を続ける傍ら、ロンドン在住の日本人を対象とした歌謡ショーを開催するなどして歌手としての活動も続けているうちに、再び一つの転機が訪れる。

2008年から日本各地で開催された、「プリンセス・ダイアナ展」がきっかけとなった。1997年の自動車事故で亡くなったダイアナ元妃の写真やドレスを展示する このイベントの企画・運営に関わった際に、同展のテーマ・ソングが作られると聞きつけ、「じゃ、私がやる!と手を挙げた。「今まで頑張ってコーディネート業務をこなしてきたご褒美」だと思った。

そして、日本への逆輸入を目指していた渡英当初以来となる、自身のレコーディング作業が始まった。もう、英語の初歩的な間違いを直してくれるバック・ダンサー たちはいない。ヒット・チャートを賑わす大物歌手たちを手掛けてきた著名プロデューサーが結集するということもない。そもそも、レコーディング・スタジオが狭い。

でも、今度は確実に、自分で掴み取った夢だ。自分自身がプロデューサーも務める。アルバムのコンセプトも、「AJ UNITY」と名付けたユニットのメンバーも、全部自分で決めた。日本で先行販売されたCDが英国でも発売されると、いくつかの業界誌が好意的に取り上げてくれた。ビギナーズ・ラックじゃないとしたら、今回の幸運は、一体何と呼べばいいのだろう。

ジャック・アザグリー氏と
故ダイアナ元妃が愛用したドレスを数多く提供した英国人デザイナーの
ジャック・アザグリー氏と、プリンセス・ダイアナ展にて撮影

 

愛犬のヨークシャー・テリアを連れて、家の近くの公園をよく訪れる。いつも、その公園に咲いているシロツメクサについ目が行く。悲しいことに、そのうちのどれかは、ほぼ必ず、誰かに踏まれてしまう。でも次の日に行くと、その花はまた咲いている。あまり目立たないけれど、近付いてよく見てみると、白くて繊細な、かわいい花だ。ちょっと自分ぽいなと思う。だから近寄ってみて、「今日も頑張って咲いているね」と声を掛けてあげる。

「何か目標を持ってロンドンに来てはみたものの、挫折して、あきらめて帰っていく人というのをこれまで何人も見てきました。でも、あきらめないで頑張って欲しい。あきらめないで夢を追い続けていれば、叶うって私は信じています、継続は力なり!」。

この名もなき幸運は、あのシロツメクサのように、小さく美しく、何度でも咲かせてみたい、と思う。


1. ユニット「AJ UNITY」結成
プリンセス・ダイアナ展のテーマ・ソングを作ることになったのをきっかけに、彼女を彷彿とさせるような、「エレガンス」「ビューティー」というテーマの下で、「Sweet Roses」と題したアルバムを作ることになりました。そのために結成したユニットが、この「AJ UNITY」です。ユニットのメンバーは、ロンドン在住の日本人の皆様を対象とした歌謡ショーでも一緒にお仕事をしたことのある、オーストリア人スタジオ・ミュージシャンのフィリップ君。またピアノは、天才肌のキーボード奏者である深町純さんにお願いしました。

2. リチャード・カーペンターとのデュエット
リチャード・カーペンターとコーディネートの仕事を続けていく中で、「トップ・オブ・ザ・ワールド」などの名曲を残した兄妹デュオ「カーペンターズ」の兄であるリチャード・カーペンター氏とお仕事する機会に恵まれました。妹のカレンの死後、沈黙していたリチャード氏が音楽活動の再開を宣言した際に、日本での復帰プロジェクトのお手伝いをすることになったのです。しかも、一緒にデュエットまでしたんですよ!ある新聞社との取材を終えた後に、「あなたは何かカーペンターズの曲を歌えますか」と尋ねてくれたので、「もちろん、全部歌えますよ」と答えるや否や、彼はもう「青春の輝き(I need to love)」の伴奏を弾き始めていました。その伴奏に乗せて、歌ったんです。しかも、リチャード氏のバック・ボーカル付きで。感動のあまり、涙が出てきてしまいました。

3. ヒュー・グラントと共演
ヒュー・グラントと日本でも人気を集める英国人俳優のヒュー・グラント氏とは、映画「ブリジット・ジョーンズの日記」で共演させていただきました。その映画のオーディションに行ったら、すごいプロポーションのモデルばかり。しかも審査員の方々は、「あなたにとって愛とは何か」といったような深遠な問いを投げ掛けてくる。明らかに場違いでした。すっかりやる気をなくしてしまって(笑)、私は「I love a dog」と言ってさっさと帰ってきちゃった。なのに、オーディションは合格。その時点では、共演する役者さんの名前も「ヒューなんとかさん」とだけしか覚えていなかったので、撮影現場にあのヒュー・グラント氏が現れたときは、たまげました。

4. BBCのドキュメンタリー番組への出演
詳細は本文参照。

5. ジャパン祭り 
今年もメイン・ステージの司会

ジャパン祭り9月18日のジャパン祭にて、「ナオミ劇場歌謡ショー」を開催します。90年代の懐かしいJ-POPナンバーと、「AJ UNITY」のアルバムの中から10月にリリースされる2ndシングル「Jupiter」をセクシー・ダンサー(Himawari Dancers、ベリー・ダンサー、盆踊りダンサー)と共にお届けします。またダイアナ妃のメッセージが入った、日本でリリースされた限定アルバムを同会場のストール(JP-BOOKS)で購入できます。

ジャパン祭り
昨年3万5000人を集めた、ロンドン中心部の巨大な会場スピタルフィールズ・マーケットで行われる、日本をテーマとしたフェスティバル。海老原駐英大使や、ハント文化・スポーツ・メディア相も参席予定。当日のボランティアも募集中。
日時: 9月18日(土)10:00‐21:00
(「ナオミ劇場歌謡ショー」の開演時刻はサイトを参照)
http://japanmatsuri.com


Sweet Roses amazon.co.uk amazon.co.jp

 

英国の運河をカヌーで渡る72歳 - 吉岡嶺二さんインタビュー

英国の運河をカヌーで渡る72歳 吉岡嶺二さん インタビュー

ロンドン中心部リージェンツ・パークのそばに、「リージェント・カナル」と呼ばれる運河が通っている。小川とも形容できそうな、細く、流れの緩やかなこの河は、やがてグランド・ユニオン・カナルと呼ばれる全長220キロの運河に合流し、イングランド中部の工業都市バーミンガムまで続く。この運河をカヌーで渡る旅に挑戦する、72歳の日本人男性がいた。カヌーでの日本一周を達成し、カナダ、欧州と旅してきた吉岡嶺二さんが英国運河の旅に出掛けるまでの日々に密着した。

(本誌編集部: 長野 雅俊)

吉岡 嶺二(よしおか・れいじ)
1938年に旧満州ハルビンに生まれる。早稲田大学卒業後、大日本印刷入社。会社員時代に、週末や夏休みを利用して、カヌーでの日本一周を始める。定年後は、カナダや、フランス、オランダを含む欧州を縦断するカヌー旅行を行っている。神奈川県在住。72歳。
吉岡さんによるカヌー旅行の航路

捕鯨船の砲手になりたかった

南アフリカで開催されたサッカーのワールド・カップ、イングランド対スロベニア戦が行われた6月23日、午後。市内のパブから漏れてくる歓声や罵声が炎天下の路上にまで時折こだまする中、ロンドン中心部オックスフォード・ストリートに建つ格安デパート「プライマーク」の客足は、さすがにまばらだった。

「サッカーにはあまり興味がない」という吉岡さんは、この店で、これから約2週間にわたる水上の旅に必要な備品を物色していた。「これいいなあ」と言いながら鮮やかな虹色のタオルを手に取ったので、「最近では同性愛の象徴色ですよ」と伝えると、「じゃ、買っちゃおうかな」と笑って答える。結局、別のタオルとサンダル、Tシャツを購入して店を出た。

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小さいときから、海が大好きだったという。湘南の海辺で育ち、中学校時代の作文には、「捕鯨船の砲手になりたい」と書いた。だが近眼が足枷(あしかせ)となった上に、商船大学への入学に必要な理数系の科目が、「極端に駄目だった」。結局、早稲田大学を卒業後に、日本の2大印刷会社とされる大日本印刷に就職する。

「私、会社でネクタイを締めなかったんですよ。それでよく怒られましてね。人事部に呼ばれて、ダーク・スーツ着てきなさいってしょっちゅう言われていました。それでもネクタイしなかったけど(笑)」。

「ネクタイを締めない社員」は、30代後半になり、カヌーを趣味とするようになる。「当時は、趣味でカヌーに乗る人なんてほとんどいませんでした。ゴルフを1回するのに3万円ぐらいかかっていた時代です。カヌーにかけるお金といったって、ほとんどが家からカヌーに乗りに行く海までの旅費で、それが1回につき往復で3万円ぐらい。月1回ゴルフするのと一緒じゃないかって、周囲には言っていました」

41歳になったとき、太平洋を介して、鎌倉から京都までをカヌーで渡ってみた。この旅の成功をきっかけとして日本一周を目指すようになるのだが、サラリーマン稼業なので、旅に出掛けられるのはもっぱら週末や日数の限られた休暇期間のみ。そこで思いついたのが、「建て増し住宅方式」だ。旅の行程を週末や休暇ごとに分割し、ある週末に辿り着いた終着地点が、翌月の休日に行う旅の出発地点になるという方法で、鎌倉から京都までの旅に続いて今度は鎌倉から青森までを漕いで、本州の太平洋側を制覇。その後、日本海側を行き、本州一周を完結。さらに、九州一周、四国一周、北海道の南半分を周って、定年になった。最後に残されていた北海道の北半分及び沖縄の本島を漕いで、23年かけて日本一周をついに遂げた。その間に韓国の済州島(さいしゅうとう)でもカヌー旅行を楽しんでいる。

プライマークにて
格安デパート「プライマーク」で買い物

「London」の字
これまで訪れてきた街の名が記されたカヌーに、
「London」の字を書き込む

カヌーの組み立てを行う吉岡さん
リージェンツ・パークで朝のジョギングを楽しむ人が、
カヌーの組み立てを行う吉岡さんを横目で見ながら通り過ぎていく


オックスフォード・ストリートから、ピカデリーにあるアウトドア用品専門店「コッツウォルド・アウトドア」へと徒歩で移動。ガム・テープ、折りたたみ布バケツと、マット代わりになるウレタン・ロール・シートを購入する。ロンドンでの現地調達を予定していた備品をひとまずすべて揃えたところで、今度はすぐ近くにある紅茶販売の老舗「フォートナム & メイソン」のカフェで一服することになった。「家内が紅茶好きでしてねえ」と言って、また話し始める。

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2001年に定年退職すると、カヌーに捧げることのできる時間が一挙に増えた。「定年退職した翌日に、奄美でカヌー・イベントがあったんですよ。家内と2人で行って。2人乗りのカヌーの後ろに、家内を乗せました。『お前は荷物だよ。俺が漕ぐから』って言ってね」。その日、自分が定年を全うしたことを実感したという。「普段だったら、そのカヌー・イベントが終わったら、職場にとんぼ返りするんです。でもその日は奄美の民宿に泊まったんですよね。もう次の日に出社する必要がないから」。

やがて、カヌーの旅は海外に場を移すことになった。まずは、息子さんが在住するカナダのトロントに接するオンタリオ湖から大西洋までの1300キロの運河。次に欧州はオランダのアムステルダムからフランスのマルセイユまでの運河を2000キロ。そして今度は、産業革命発祥の地として広大な運河網を誇る、英国に乗り込んできたわけである。

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翌々朝。午前7時に吉岡さんが宿泊しているホテルに赴くと、彼は既に、「プライマーク」で買った速乾仕様の黒い長袖の服に着替えて、ホテルの入り口前で待機していた。「行きましょうか」と言って、運搬用の車輪に乗せたカヌーの備品一式を引きながら道路の上を歩き出す。これから出勤するところなのであろう、すれ違う通行人たちの目が、カヌーの行方を見つめていた。

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休みを取ってカヌーの旅をすることに対して、会社の同僚の人たちの理解は得ていましたかと聞くと、「300日だけです」と言う。カヌーを始めたのは39歳のときで、退職したのが62歳だから、その間の勤続年数は23年。つまり約7000日働いて、旅に費やした日数は300日だけという意味だ。

 

「私、仕事大好き人間でしたからね。私たちの時代は、仕事が楽しかったんですよ。今の管理職の人たちは、どの部から何人減らせだとか、そういう話ばかりでしょう。辛いだろうな。他人を苦しめて、そして自分を苦しめるのが仕事の一つになっているんじゃないかなあ。嫌な時代になったと思うけど。私たちは高度成長の時代ですからね。頑張れば、頑張っただけの結果が出た。給料は、もともと少なかったっていうのもあるけど、アップ率だけは一丁前でしたから。その代わり、働きましたよ。100時間残業なんてもんじゃないです。土曜日は皆勤の時代でしたし。週休2日制になっても、土日とも皆喜んで出勤していた。だからカヌーの計画がおじゃんになってしまうことはよくありましたよ。それが、時代が変わってきて、休みが取りやすい世の中になってきた。『吉岡君、そろそろカヌーに行かなくていいの』なんて上司から逆に聞かれるようになってきちゃった」。

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ホテルから5分ほど歩いてリージェンツ・パークに到着すると、吉岡さんは、組立式のカヌーの備品一式を芝生の上に広げた。頭上を舞う大量の蚊を両手で追い払いながら、組立作業を行う。その間、早朝のリージェンツ・パークを駆け抜けるランナーたちが、訝しげな視線を時折送りながら、走り去っていく。「ナイス・ボート!」と一声かけていくスーツ姿のビジネスマンもいた。最後には、「この公園で一体何しているんだ」と言って、公園の管理人から注意を受けてしまったのだけれど。

1時間くらい経つと、カヌーの組立作業が完了した。さっきまでばらばらだったアルミと布でできただけのものが、よく水に浮かぶなあと、ちょっとした感慨を抱いてしまう。カヌーの布地部分には、これまでの旅で訪れたいくつもの地名が書き込まれている。万が一のときのために、日本の家の住所も記されていた。

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会社の同僚の理解は得ていたとして、休日をすべてカヌー旅行に捧げられてしまったご家族の方はご不満だったんじゃないですかと聞くと、またしても答えは否だった。「子供の運動会や授業参観のときは日程を入れていませんでした。毎週休みをつぶしたというわけではありません。そもそも、私がカヌーを始めたのは39歳になって以降で、日本一周の旅に出たのは41歳ですから。子供たちもそこまで手がかからなくなっていて、その頃にはもう学校の部活に一生懸命になっていました」。

実際、吉岡さんのカヌー生活に対して、ご家族はすっかり慣れっこの様子だった。渡英前の、Eメールを使わない吉岡さんに代わって、現在は既に結婚されている娘さんを通して連絡する機会が何度かあったのだが、それらのメールの末尾には、いつもこんな文面が添えられていた。「娘の立場から、こんなに早くにご連絡をするのは、いかがなものかと思ったのですが、なにぶん年寄りなもので、早めの準備をしないと不安があるようです。申し訳ございません」「なにぶん老人で、無鉄砲、かつ失礼の多い父ですが、どうかお付き合いくださいませ」。

カヌーに空気を入れ込む
組立式のカヌーに空気を入れ込む

カヌーを運ぶ
車輪に乗せてカヌーを運ぶ


ロマンティック街道にも行きたい

組み立てたカヌーを再び運搬用の車輪に乗せて、リージェント・カナルまで運んだ。ロンドン動物園前からの出発だ。隅々まで最終点検を行った後、いよいよ運河にカヌーを下ろす。船体が、水に浮かんだ。

吉岡さんは、「それでも絶対何か忘れちゃうんですよね」と苦笑いしながら、最後に忘れ物がないかもう一度だけ確認した。そして、日の丸が結び付けられたパドルを漕ぎ出す。こちらは、もう少しだけ写真撮影したいからと断って、側道を歩きながら、水上の吉岡さんを追いかけていくことにした。

「少し慣れるまで時間がかかるかな」と言いながら、時折、蛇行してみたり、180度回転してみたりしてくれる。「いよいよ英国運河の旅が始まりましたね」「そうですね」「どんな気持ちですか」「楽しみだなあ」などといった何気ない言葉を水陸間で投げ合いながら、運河上を進む吉岡さんとの会話はもうしばらく続いた。

吉岡さんはヨットも趣味としていて、自宅から歩いて行けるハーバーを頻繁に訪れている。「週に3日か4日ぐらい通っていますかね。船を出さなくても、仲間が集まってくるんですよ。外国人も含めて。最近は、米国のアリゾナから来たという方が、よくハーバーに来てくれます。新しい友達がこの年になってもできるというのは、ありがたいことですね。維持費は、年間14万3000円です。その程度のお金で1日中遊ぶことができる日が続くんだからいいですよ。お酒ですか?はい。飲みますねえ。というか、それが楽しみでやっているんだけれどもね(笑)」。

2006年から始めた、アムステルダムからマルセイユまでの欧州運河の旅でも、現地の人々と知り合い、友好を深める機会があったという。ブルゴーニュ運河を2人で一緒に渡ったという、ベルギー人との出会いもあった。「本当は、今回の英国運河の旅にも彼には同行してもらいたかったんだけどね。どうしても予定が合わなかった。彼とはいつかドイツのロマンティック街道の辺りにも行きたいな。あの古城の河を渡ってみたい」。

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側道から水上の吉岡さんを追いかけ始めて、数十分が経っていた。「この先、河沿いの道は行き止まりになっていますから、迂回してまた戻ってきてください。私はゆっくりとこのまま河の上を直進していきますから」と言われて一度別れた後、リトル・ベニスと呼ばれる水辺の一帯に辿り着いた。対岸で、先に到着していた吉岡さんが大きく手を振っている。

休憩代わりに陸に上がってまた少し話をしてくれた後、今度こそ本当の船出を迎えた。「それでは」と言って、再び漕ぎ出す。

気付けば運河の河幅は広くなり、既にグランド・ユニオン・カナルと名前を変えている。その運河上を行く吉岡さんの姿が、随分と速く、小さくなっていった。

パドルに日の丸
パドルに日の丸を結び付けて、準備完了

狭い道を通るのは一苦労
カヌーを運びながら狭い道を通るのは一苦労

いよいよ出発
ロンドン動物園前でカヌーを下ろし、いよいよ出発

いよいよ出発

リージェント・カナル
リージェント・カナルを渡る

グランド・ユニオン・カナル
そしてグランド・ユニオン・カナルへと旅立っていった


吉岡さんによる、英国運河の航行記が、次週より連載されます。お楽しみに!

 

冷たいデザート・カフェ9選

夏の終わりを締めくくる、冷たいデザート・カフェ9選

冷たいデザートと一口に言っても、アイスクリームから冷やしぜんざい風のものまで、テクスチャーや発祥国は多種多様。さらに、様々な人種が入り混じり、オリジナルの味を知る舌の肥えた消費者が多いここ英国では、クオリティーの高さも要求される。今回は、絶品冷菓が楽しめる、ロンドン市内の厳選カフェ9店をご紹介。冷たいデザートで夏気分を楽しんでみてはいかがだろうか。 (Shoko Rudquist)

こだわり抜いた高品質ジェラートに脱帽
Scoop

ScoopPistachio/ Venezuelan Chocolate 2フレーバーで£3.50

終日賑わうコベント・ガーデンのすぐ近く、人通りの多い道を少し外れた静かな通りに、オレンジ色のポップな看板文字が踊る。オーナーのマテオさんは、伊・トスカーナ出身。地元イタリアの高品質なジェラートをロンドナーに提供したいと、3年前に同ショップを開店した。そんな彼が「アイスクリーム・マシーンのロールス・ロイス」と胸を張る、最高級マシーンを使って製造したジェラートは、味が劣化しないよう厳密な温度管理の下、ディスプレーされている。

フレーバーに関してもこだわり抜いた結果、同じ味でも原材料の産地別に販売するに至ったそう。お勧めのピスタチオ味は、同ナッツの名産地シチリアで2年に1度しか収穫できないという最高品種を使用。週末ともなると小さな店の前に行列ができるのにも納得だ。年に1度は期間限定でスペシャル・フレーバーを紹介。来月25日には、原産地別に様々なチョコレート・フレーバーが楽しめる「I LOVE CHOCOLATE」と題されたイベントが開催される。

● Scoop
40 Shorts Gardens WC2H 9AB
020 7240 7086
月〜日11:30-22:30
Covent Garden駅から徒歩5分
www.scoopgelato.com

仏老舗が手掛ける、繊細なデザートを頂く
Ladurée

LaduréeRose Milk Shake £5.80

1862年、仏パリに店を構えた小さなベーカリーは、時を経て、押しも押されもせぬ名店となった。老舗パティスリー、ラデュレ。映画「マリー・アントワネット」にも登場した、パステル・カラーの愛らしいマカロンが有名だ。しかしそんなラデュレには、実はとても素敵な逸話を持つデザートがある。現オーナーのデービッド・ホルダー氏が、幼い頃、日曜になると店舗に足を運んで家族とともに頬張ったという、アイスクリームだ。氏はその懐かしい思い出を胸に、後に同店の買い取りを決めたのだとか。

そんなラデュレでぜひ試してほしいのは、よく磨かれた銀食器に注がれた、薄紅色の見目麗しい「ローズ・ミルク・シェイク」。一口含むと、青みを感じさせない柔らかなバラの香りが、鼻腔を軽やかに駆け抜ける。好みのフレーバーが選べるアイスクリーム・ディッシュ、「レ・ミニ・マカロン・グラッセ」もお勧め。添えられた4種のマカロンにもアイスが挟んである、小技の利いた逸品だ。

● Ladurée
Harrods 87-135 Brompton Road SW1X 7XL
020 3155 0111
月〜土9:00-21:00 日12:00-18:00
Knightsbridge駅から徒歩3分
www.laduree.co.uk

アルゼンチン発、クールなアイスクリーム・パーラー
Freggo

FreggoDolce de Leche/ Malbec & Berry 2フレーバーで£3.95

巷では「アルゼンチン発のポッシュなアイスクリーム」と呼ばれているそうだ。リージェント・ストリートから繋がる、高級レストラン街の一角を優雅に陣取るこちらでは、暑い南米の国発信ということもあってか、一般的なものより乳脂肪分を抑えたライトなアイスクリームを扱っている。乳脂肪分の含有率は12.5%。どちらかと言うとジェラートに近い軽やかさだ。

様々あるエキゾチックな名称のフレーバーの中でも、特にアルゼンチンならではと言えるのは、トフィー系の濃厚な「ドルチェ・デ・レチェ」と、「凍ったサングリア」とでも呼びたい「メルベック & ベリーズ」。後者は柑橘系の酸味がまろやかに溶け込んだ赤ワインのような、爽やかなのに深みもある、大人びた印象の風味を持つ。そしてこれら全く趣の違うフレーバーを、2つ合わせて食べるのがアルゼンチン流。濃厚な甘みに酔いながら、落ち着いたフルーティー・フレーバーでお口を整える、その絶妙なコンビネーションをぜひ試してもらいたい。

*このお店は閉店しました。

● Freggo
27-29 Swallow Street W1B 4QR
020 7287 9506
月〜木8:00-23:00 金8:00-2:00 土10:00-2:00 日10:00-23:00
Piccadilly Circus駅から徒歩3分
www.freggo.co.uk

英国王室御用達、優雅なアイスクリーム・パーラー
The Parlour Restaurant at Fortnum & Mason

The Parlour Restaurant at Fortnum & MasonKnickerbocker Glory £12

言わずと知れた英国王室御用達デパート、「フォートナム & メイソン」が運営するのが、こちらの優雅なアイスクリーム・パーラーだ。フレーバーはすべて天然素材から抽出。ミルク・シェイクなどに使われる牛乳なども含め、使用するのはすべてオーガニック製品だ。ジンジャーとハチミツのアイスが浮かんだ「ジンジャー・ビア・フロート」なんていう、少し風変わりなデザートも用意しているが、一番のお勧めは、見るも可憐な「ニッカボッカ・グローリー」。

いわゆるパフェだが、お馴染みバニラに加え、ストロベリー・バルサミコ・ビネガー、ストロベリー・ショートブレッドという目新しいフレーバーのアイスクリームが層を成す。合間にはラズベリーとパイナップル、仕上げにはたっぷりのクリームに甘酸っぱいラズベリー・ソースが絡み、高々とそびえるシガー・クッキーが愛嬌を添えている。ラブリーな見た目からは意外な気もする、甘さを抑えた仕上りが、品格の高さの象徴なのかも。

● The Parlour Restaurant at Fortnum & Mason
181 Piccadilly W1A 1ER
0845 602 5694
月〜土 10:00〜19:30、日 11:30〜17:30
Piccadilly Circus駅から徒歩5分
www.fortnumandmason.co.uk

新世代チャイニーズ・カフェでまったりと
Candy Cafe

Candy Cafe左からRed Been Grass Jelly with Sago Cream(£3.60) 、Bubble Milk Drink Taro Milk+QQ Jelly (£3.55+£0.80) 、Pomelo & Mango Sago Cream (£3.60)

ニュー・チャイニーズとでも言うのだろうか。ここ最近、チャイナ・タウンには、味だけでなく総合演出にも力を入れた、洒落たレストランやカフェが続々誕生している。そんな新世代を牽引する1人が、こちらのオーナー、ケイさんだ。純粋なカフェを見付けるのが難しかったチャイナ・タウンに、1年前、同店を開店。店名は奥さんの名前というスイートな発想も、若い世代ならではだ。

メニューには、あずきにタピオカ、お団子にかき氷と、アジア人なら泣いて喜ぶ甘味が並ぶ。特にお勧めなのは、「マンゴーしるこ」とでも命名したい、「ポメロ & マンゴー・サゴ・クリーム」。熟した新鮮なマンゴーと、ポメロと呼ばれる東南アジア原産の柑橘類の果実、そしてサゴヤシの澱粉からできたサゴ・パールが、サゴ・クリームにたっぷり浸っている。ほんの少し、日本のミックス・ジュースを連想させる、どこか懐かしい味だ。頼もしい新世代カフェで、アジアン・フレーバーにどっぷり浸りたい。

● Candy Cafe
1st Floor, 3 Macclesfield Street W1D 6AU
020 7434 4581
月〜日12:00-23:30
Piccadilly Circus/Leicester Square駅 から徒歩5分

実直なオールド・スコッツの誇りを凝縮
Frae

Frae左からNatural with Raspberry (£3.70) 、 Green Tea (£3.10)

「フレー」と発音する店名は、スコットランドの古い言葉で「From」を意味する。もちろん、オーナーのドナルドさんとマーティンさんはスコットランド出身だ。提供するフローズン・ヨーグルトも、素朴で実直なオールド・スコッツの誇りを凝縮したシンプルな作り。ダイエット・ブームから派生したノン・シュガー製品の流行などにも我関せずと、オーガニックのスキム・ミルクにプロバイオティクス乳酸菌を加えて製造したヨーグルトには、未精製の砂糖でほんのりとした甘みを加えている。

酸味をほとんど感じさせないまろやかな風味は、家にある材料だけで作ったおやつを思わせる、優しい味わいだ。レジの横で回るレコードは、ドナルドさんたち自身がセレクトしたもの。気取りのない空間演出は、子供からお年寄りまでが気軽に立ち寄れるようにとの心遣いからだ。ゆっくりと地元に溶け込んでいきたいと話す彼らが目指すのは、信頼に値する製品とサービス提供以外の何ものでもない。

*このお店は閉店しました。

● Frae
27 Camden Passage N1 8EA
020 7704 6538
月〜日11:00-22:00
Angel駅から徒歩5分
www.frae.co.uk

木漏れ日を浴びて、気分はイタリア人
Gelato Mio

Gelato MioAffogato £5

ロンドンの西、ホランド・パークに程近い閑静な地区。背の高い街路樹から注ぐ木漏れ日を浴びながら、落ち着いた雰囲気のハイ・ストリートを行くと、オレンジとダーク・ブラウンを基調にしたシックなパーラーが見えてくる。元々金融関係の仕事でロンドンに居を移した、伊ミラノ出身のカルロさんが、地元イタリアの味を再現しようと2008年にオープンした「ジェラート・ミオ」の第1号店だ。

原材料は100%ナチュラルなものを用い、保存料や添加物は一切加えない。製造してから6日以上経ったジェラートは破棄し、メニューは季節ごとに変える。店名にイタリア語で「私のジェラート」を意味する言葉を冠した、カルロさんのプライドだ。そんなカルロさんのお勧めは、「ミルクの花」と呼ばれるミルク風味のジェラートが、エスプレッソ(またはホット・チョコレート)に浮かぶ「アフォガート」。店の前に置かれた木陰のテーブルでのんびりと過ごせば、心はミラノの空の下だ。

*このお店は閉店しました。

● Gelato Mio
138 Holland Park Avenue W11 4UE
020 7727 4117
月〜木 7:30-22:30 金 7:30-23:00 土 9:00-23:00 日 9:00-22:30
Holland Park駅から徒歩5分
ノッティング・ヒル、セント・ジョンズ・ウッド、フラム、マズウェル・ヒルにも支店あり
www.gelatomio.co.uk

ヘルシー志向のポップな新顔
Snog

SnogSnog Special with Limited Edition Spoon£4.95

日本や米国ではお馴染みだが、英国ではあまり見かけることのなかったフローズン・ヨーグルト。それがこのところ、徐々に市民権を得てきている。ピカデリー・サーカスから程近いソーホー地区の一角にも、時間とともに色調を変える電飾がポップな、フローズン・ヨーグルト・パーラーがお目見え。 こちらの製品は、メキシコなどに自生する植物、「アガべ」から採れるシロップを砂糖の代わりに用いた、完全ノン・シュ ガー・タイプだ。ナチュラル/グリーン・ティー/チョコレートの3種類から選び、好みのトッピングを載せていく。甘ったるさとは無縁の、ついつい後を引く絶妙の酸っぱさが秀逸だ。

トッピングにも工夫を凝らしており、新鮮なフルーツはもちろん、自社製のブラウニーや、グリーン・ティー味にぴったりの餅まで扱っている。場所柄、午後9時を過ぎてからが最も忙しいのだとか。アイスクリームとは違うさっぱりした口当たりが、パブで騒いだ後の喉の渇きにうってつけなのかも。

● Snog
9 Brewer Street W1F 0RG
月〜木 11:00-24:00 金・土 11:00-1:00
Piccadilly Circus駅から徒歩5分
www.ifancyasnog.com

緑の中で楽しむ、スーパー・オーガニック・アイス
Cow & Coffee Beans

Cow &  Coffee BeansDolce de Leche/ Malbec & Berry 2フレーバーで£3.95

週末ともなると、ピクニックやスポーツを楽しむ人たちで溢れるリージェンツ・パーク。南東から入り、丁寧に整備された花壇を眺めながらアベニュー・ガーデンズを進むと、木陰にこぢんまりと佇むコテージが現れる。そこで頂けるのが、英南西部コーンウォール発、乳牛たちが暮らす牧草地さえ安全性が保証されている*という、筋金入りのオーガニック・アイスクリームだ。当然添加物は一切使用しておらず、他社製品だと往々にして緑色をしたチョコ・チップ・ミント味も、自然なクリーム色。

英国ではスコーンのお供でお馴染み、「クロテッド・クリーム」の名を冠したフレーバーもお勧めだ。バニラを超える濃厚な味出しで、同店人気メニューの「コーラ・フロート」にも使われている。このフロート、日本のようにアイスクリームを氷で支えることはしないので、すぐ泡で溢れるのが玉に傷だが、そこはご愛嬌。緑の中、大らかな気分でカジュアルに楽しみたい。

*英国土壌協会認定

● Cow & Coffee Beans
The Broadwalk, Regents Park NW1 4NU
020 7935 5729
夏期 月〜日8:00-20:00 冬期 月〜日8:00-16:00
Regent's Park駅から徒歩10分
www.companyofcooks.com



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湖水地方「桃源郷」を感じる旅 Part 2

湖水地方「桃源郷」を感じる旅 「ありのまま」を守り続ける人々の心に触れる Part 2

湖水地方の山中に、スーパーはない。確かにちょっとは不便だけれども、
地元の人々が意に介する風がないのは、自分たちで食材を育てたり、
地元の「食」を大切にしているから。
湖水地方の「ありのまま」の自然や農業を守るため、
それに何より新鮮で美味しいから、彼らは地元で採れた食材に強いこだわりをもつ。
湖水地方特集2回目の今回は、「食べる / 飲む」をテーマに、
英国人の誰もに愛されるビールとアイスクリームに注目。
湖水地方の味を守り続ける人々の思いを、舌で存分に感じてみよう。
(本誌編集部:村上祥子)

取材協力: 英国湖水地方ジャパンフォーラム(www.kosuichihou.com

Local Beer 地ビール

水の美味しい場所には、美味しいビールがある。大自然が生み出す豊かな湧き水に恵まれた湖水地方には、昔ながらの醸造方法を守りつつ、独自のビールを造り続ける小さな醸造所、マイクロ・ブリューワリーが点在している。醸造家たちが慈しむように育てたビールは、造り手たちの思いとともに熟成し、湖水地方の地ビールを愛する人々のもとへと渡っていく。いつもなら喉の渇きとともに一気に飲み干してしまうビールも、ここ湖水地方では、そんな時の流れに思いを馳せつつ、じっくりと味わってみたい。

ビールの種類
ビール醸造は「上面発酵」と「下面発酵」という2種類に大別できる。上面発酵とは、常温(18~25度)で発酵させる醸造法。酵母は液面に浮いてくる。一方、下面発酵は低温(6~15度)で発酵させる方法で、酵母は液体の底に沈んでいく。英国でよく飲まれるエールやスタウトは上面発酵により醸造されたもので、コクと果物の香りが特徴的。色は濃く、冷やさずに飲むのが一般的だ。日本で人気のピルスナーは下面発酵のビールで、色は淡色、爽やかな喉ごしと苦味が魅力だ。
リアル・エールとは?
エールの中でも、英国の伝統的な醸造方法を守り、濾過も加熱処理も行わず、樽(カスク)内で二次発酵させたものはリアル・エールと呼ばれる。今回ご紹介する醸造所はすべて、リアル・エールを守るために活動する消費者団体、CAMRA(Campaign for Real Ale)が発行している「Breweries of Cumbria」にその名が載っている、本物の「リアル・エール」を提供している場所である。

経験ゼロの職人がつくりあげた味
Barngates Brewery

Barngates Brewery
最近では雑誌等でも取り上げられる人気パブとなった

地ビール
ビールには、このパブで飼われていた
代々の犬の名が。ラベルにも犬たちの
イラストが使われている

ウィンダミアやボウネスと並び、観光客に人気の高いアンブルサイドを車で走っていると、山中に多数の車が並んだ駐車場が目に止まる。キツネや鹿の頭部の剥製が飾られ、ダーク・ブラウンの家具で統一された重厚な雰囲気のガストロ・パブ兼ホテル「ドランケン・ダック」。近年では予約しないと入れないこともあるという人気店だ。そしてこの店に隣接しているのが、バーンゲイツ醸造所である。もともとはホテルの地下貯蔵室で細々とビール醸造を行っていたが、1997年、オーナーが ホリデー・アパートメントだった隣の小屋を改造し、醸造所を設立。現在では、7種のエールを、カンブリア地方はもとより、ヨークシャーやランカシャー、マンチェスターなどの各地方に送り出す、知る人ぞ知る存在となった。

創業当初からここで働くジョンさんは、92年にブラックプールからやって来た。それまではバーで働いていたというジョンさん、実はそれまで全くビール醸造に関する知識がなかったのだとか。「でもイエーツ醸造所で38年の経験を持つベテランが、ゼロからすべて教えてくれたんだ」。湖水地方最古のマイクロ・ブリューワリーのベテランが、惜しみなく与えてくれたその知識と知恵を吸収し、十数年が経った現在。「ここのビールが一番。岩山から生み出される水が何と言ったって素晴らしいからね」と胸を張る、プロの醸造者として成長していた。

Barngates Brewery
左)ビールのラベルをモチーフにしたTシャツに身を包み、満面の笑みのジョンさん
右)ほのかな明かりに照らされたパブ内は落ち着いた雰囲気

Barngates Brewery
Barngates, Ambleside, Cumbria LA22 0NG
TEL: 015394 36575(Brewery)
015394 36347(The Drunken Duck Inn & Restaurant)
www.barngatesbrewery.co.uk
営業時間(Drunken Duck): 月~土 11:30-23:00、日 12:00-23:00

家族と地元を愛するアットホームさが魅力
Coniston Brewery

Coniston Brewery
深紅の家具と時代を感じさせる写真の数々が印象的な店内

最近、新たにピルスナーを取り入れた。「常に新しいことにチャレンジし続けたいのよ」とにっこり笑うのは、コニストン醸造所に隣接したパブ兼ホテル、「ブラック・ブル」のオーナー、スーザンさんだ。

各種ビール
家族の名前や地名が付けられた銘柄が並ぶ

コニストン醸造所は1995年、ブラック・ブルのオーナーの息子であるイアンさんの手によりスタートした。一部銘柄は米国やスウェーデンなどにも輸出され、英国内外で数々の賞を獲得しているが、この醸造所やパブが醸し出す空気に、気取りは全く感じられない。実はエールよりラガーが好みで……と、リアル・エールが自慢のパブで恐々切り出せば、気分を害した様子もなく、「それならこれ。そうそう、これもお勧めよ」とラガーに加え、オートミール・スタウトを味見させてくれる。口にした途端、スタウトならではのコーヒーのような芳ばしさを舌に感じつつ、喉にはすっと通っていく爽やかな後味に、「ああ、これならラガー好きにもぴったりですね」と言いながら飲み干すと、うれしそうに破顔した。

「このOliver's Light Aleという銘柄は孫の名から、Thurstein Pilsnerは、地元の水の名をとったのよ。いいでしょう?」と誇らしそうに語るスーザンさん。地元や家族を愛するアットホームな醸造所とそのパブは、今日も地元民や観光客、ビール愛好家や初心者を問わず、誰にでも温かく、ご自慢のビールを振舞っている。

Coniston Brewery
左)家族連れも入りやすいアットホームな雰囲気が魅力
右)笑顔で次々とお勧めビールを出してくれたスーザンさん

The Coniston Brewing Co.
Coppermines Road, Coniston, Cumbria LA21 8HL
TEL: 015394 41133
www.conistonbrewery.com

The Black Bull Inn and Hotel
Coniston, Cumbria LA21 8DU
TEL: 015394 41335
www.blackbullconiston.co.uk
営業時間: 10:00-23:00

犬好きが集う、地元民憩いの場
Watermill Inn & Brewing

Watermill Inn & Brewing
次から次へとひっきりなしに馴染み客がやってくる

隣り合わせになった2つの家族のテーブルの下で、それぞれの家族の飼い犬同士が、仲良くエサを食べている……。土地柄、犬を飼っている家庭が多い湖水地方の中でも、スタッフ、客ともに犬好き率が非常に高いウォーターミル。店に入れば、挨拶と同時に犬用のエサを手渡してくれるこのパブは、いつでも飼い犬を連れた地元民で賑わっている。とはいえ、このパブの売りは犬歓迎というだけではない。ビールはもちろん、地元の新鮮な食材を使った料理もかなりのもの。特にビールを醸造する際に出たカスを食べて育った牛の肉を、人気の自家製ビールCollie Wobblesに漬け込んで調理したビール・アンド・エール・パイなど、ビーフ料理の評判は高い。

食事
肉料理だけでなく、地元で栽培された野菜を
使った料理も新鮮そのもの

現在、醸造所で働いているのはわずか2人。創業の翌年、1997年から働き始めたブラックプール出身のヒューさんと、1年前に湖水地方にやって来たポーランド人のマーティンさんだ。「英語がまだ上手くないんだ……」と言いつつも、工程表を広げて醸造の過程を一つひとつ事細かに説明してくれたマーティンさんが、「ほら、まだカスが浮いているだろう? これを一日置くと、この液体が澄んだ奇麗な色になるんだ」と目を輝かせながら、醸造途中のビールを飲ませてくれた。酵母がふわふわと浮き、苦味がありつつもまろみを感じさせるそのビールはほのかに温かく、この温かさと柔らかい風味こそが、地元で育まれたビールの醍醐味なのかもしれない、と思わされた。

Watermill Inn & Brewing
左)清潔感漂う石造りの建物 
右)「これは英語で何て言うんだっけ……」と悩みながら、笑顔で醸造工程を教えてくれたマーティンさん

Watermill Inn & Brewing Co
Ings, near Windermere, Cumbria LA8 9PY
TEL: 01539 821309
www.watermillinn.co.uk
営業時間: 月~土 11:45-23:00、日 11:45-22:30
(食事は12:00-21:00) (12月25日休)

町の集会所の趣を持つビア・ホール
Hawkshead Brewery

Hawkshead Brewery
モールの一角に位置する醸造所の近くには、手づくりパンを売る店やアイスクリーム・ショップも

「一度カスク・ビールの味を知ってしまうと、缶のビールなんて味気なくなるよ」と笑いながらビールをぐいっとあおる、2人のおじいちゃん。何でも、ここホークスヘッドで年2回、開催されるビア・フェスティバル目当てでマンチェスターから来たのだとか。

ホークスヘッドはもともとはその名の通り、ホークスヘッド地域にその居を構えていたが、創業から4年が経った2006年、事業の拡大に伴い、3倍ほどの敷地面積を持つここ、ステイブリーに移ってきた。数人で経営している他のマイクロ・ブリューワリーと比べると、かなり規模が大きい。

食事
ホークスヘッドの
ビールは、湖水地方の
様々なパブでも味わえる

1階はショップとカフェ、2階がビア・ホールとなっている。ビア・ホールと言っても、広々としたフローリングの床にシンプルな木のテーブルと椅子がゆとりをもって配置されたこの空間、大勢の人が大騒ぎしながら押し合いへし合いビールを飲み交わすというよりは、町の人々の憩いの場といったイメージに近い。実際、時折イベント会場としても使われるのだと言う。ホールからはガラス越しに醸造所の作業工程を垣間見ることもでき、希望すればツアーも行ってくれる。

ホークスヘッドの瓶ビールは、オンラインでも購入が可能だが、やはり現地で味わうカスクの味は格別。クリーミーな泡をつくるため、ゆっくりと注がれたビールは、地元ケンダルのサビン・ヒル・ファームでつくられたボリュームたっぷりのポーク・パイをお供に、一口ひとくち、じっくり味わいたい。

Hawkshead Brewery
左)昼間からぐびりと一杯。やはりカスク・ビールの味は格別だ 
右)すっきり広々としたホール内

Hawkshead Brewery
Mill Yard, Staveley, Cumbria LA8 9LR
TEL: 01539 822644(Brewery)/ 01539 825260(The Beer Hall)
www.hawksheadbrewery.co.uk
営業時間: 月、火 12:00-17:00、水~日 12:00-18:00


Ice Cream アイスクリーム

英国では老若男女、誰もが大好きなアイスクリーム。そのアイスクリームの主原料と言えば、何といっても牛乳だ。至るところで牛が草を食むこの湖水地方で、アイスクリームが美味しくないはずはない。牧場直送の絞りたての新鮮な牛乳をたっぷり使った極上のアイスクリームを頬張れば、口の中いっぱいに湖水地方の自然の偉大さを感じられるはず。

地元食材なら何でもござれ
Low Sizergh Barn

Low Sizergh Barn
夏場の晴れた日には外でもアイスクリームを販売する

ダムソンのアイスクリーム
一見、ベリー系に見えるが、
食べると濃厚な味が口に広がる
ダムソンのフレーバー

緑の蔦に覆われた小屋に一歩入ると、チーズや肉製品、色とりどりの野菜など、見るからに新鮮な、生き生きとした食材の数々に目を奪われる。1980年、ナショナル・トラストから農場を借り受けたパーク一家が、80年代半ばの牛乳生産制限による経済的打撃を緩和するため、91年にショップをオープンさせたのが始まり。今ではショップだけでなく、トレイルやクラフト・ギャラリーも併設している。ここで販売しているアイスクリームはもちろん、自分たちで飼育している牛の乳を使用。

お勧めは、湖水地方で多く生産される西洋スモモの一種、ダムソンのフレーバーだ。濃厚だが後味はさっぱりとしているその甘味は、新鮮な牛乳に負けない存在感を放っている。この湖水地方ならではの組み合わせに舌鼓を打った後は、ミート・パイやチーズなど、地元産の食品を買い込んで、湖水地方の味覚を丸ごと味わいたい。

Low Sizergh Barn
左)とにかく豊富な品揃えのチーズ。「私たちの牛の牛乳からつくられました」というポップがかわいらしい 
右)小屋の右隣には牛舎が

Low Sizergh Barn
Low Sizergh Farm, Sizergh, Kendal, Cumbria LA8 8AE
TEL: 015395 60426
www.lowsizerghbarn.co.uk
営業時間: 9:00-17:30(ショップ)9:30-17:00(ティー・ルーム)
(12月25日、26日、1月1日休)

濃厚ながらくどくない、日本人好みの味をどうぞ
Natland Mill Beck Ice Cream Parlour

Natland Mill Beck Ice Cream Parlour
おじいちゃんから子供まで、誰もが美味しそうにアイスをほお張る

木と石を基調とした、広々とした店内は、避暑地の家族向けレストランのような趣。小さな子供連れの家族が、アイスクリームやパフェをほお張る姿がある。湖水地方の南の玄関口、ケンダルに位置するナットランド・ミルベックでは、オーナーが運営する裏の牧場の牛から採れる牛乳をふんだんに使った手づくりアイスクリームを提供している。様々なフレーバーの中でも「一番人気があるのはバニラやチョコレートなどの定番ですね」と語るのは、何とカオリさんという日本人女性スタッフ。英国人のご主人とともにケンダルに住み、このパーラーで働き始めて3年が経ったのだとか。新鮮な食材に恵まれた北海道で生まれ育ったカオリさんも太鼓判を押すピーチ・アンド・クリームは、採れたて牛乳の芳醇な味と爽やかなピーチの香りのバランスが絶妙な一品。その他のフレーバーも、濃厚ながらくどさがなく、日本人好みの味揃いだ。

Natland Mill Beck Ice Cream Parlour
左)ピーチ・アンド・クリーム(右)はたっぷり入ったピーチ・ソースが程よいアクセントになっている
右)「日本人と全く会わないので、日本語を忘れてしまいました」とはにかむカオリさん

Natland Mill Beck Ice Cream Parlour
Natland Mill Beck Lane, Kendal, Cumbria LA9 7LH
TEL: 01539 731141
営業時間: 9:30-17:00(12月25日、26日、1月1日休)

人気の観光スポットにある本格派
Windermere Ice Cream

Windermere Ice Cream
常に多くの観光客が往来を行き来している絶好の立地

湖水地方随一の観光地、ボウネス。同地方の観光の拠点となるフェリー発着所の斜め向かいにあるウィンダミア・アイスクリーム・ショップは、敷地面積は小さいながらも、32種類という圧倒的なフレーバーの多さが魅力。立地の良さも手伝って、いつでも観光客で賑わっている。店内では、ハニー・アンド・ラベンダーやシナモン・プラム、フルーツ・オブ・ザ・フォレスト・ヨーグルトなど、普段はあまり見慣れぬフレーバーを前に、どれにしようか、あれこれ悩むお客さんの姿が。しかし、観光地の中心にあるからと言って侮ってはならない。この店のアイスクリームは、ソルベなど一部の例外を除いては、すべてオーガニックの牛乳を使った本格派。中でも地元の食材を取り入れたレモン・カードやリュバーブ・アンド・カスタードなどのフレーバーは、せっかく湖水地方を訪れたのならば、是非試してみたい個性的な味だ。

Windermere Ice Cream
左)たくさんのフレーバーを前に、誰もが思わず悩んでしまう 
右)大勢のお客さんをてきぱきとさばいていく

Windermere Ice Cream
Lake Road, Promenade LA23 3DE
TEL: 015394 43047
www.scoopchocice.co.uk
営業時間: 9:00-20:30(12月25日、26日、1月1日休)

湖水地方「桃源郷」を感じる旅 Part 1

 
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