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独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計14年間ドイツに在住。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第34回ビジネス視点から読み解くドイツ流行語大賞2025

毎年暮れに発表されるドイツ流行語大賞では、その年のドイツの政治経済や社会文化を象徴する言葉が大賞を含めて計10語選ばれる。活きたドイツ語教材として有益なだけでなく、ビジネスパーソンにとっても示唆に富むものが多い。本コラムでは今回で3回目となるが、2025年の入選語をビジネス視点で読み解きたい。

  • 大賞「KI-Ära」(AI時代)が象徴する通り、ドイツでも実務へのAI実装が不可欠に
  • 今回の入賞10語は、いずれもビジネスへの直接的インプリケーションあり
  • 在独日系企業には、トランプ、AI、マーケティングの視点から経営戦略見直しを推奨

大賞は「AI時代」ドイツでもAIが本格稼働開始

  • ドイツ流行語大賞の意義や特徴などについては、過去記事(本誌1210号、1234号)をご参照いただくこととして、早速2025年分の入賞語(下表参照)についての解説に入りたい。
  • 2025年の大賞は「KI-Ära」(AI時代)が獲得した。2023年にも4位に「KI-Boom」(AIブーム)、2024年には5位に「generative Wende」(生成的転換点)が入賞していたことを考えると、2025年がいよいよ本格的な「AI時代」の幕開けになったということだ。検索、翻訳、資料作成から分析に至るまで、知的活動のあり方は激変しており、「AIを使いこなして数十人分の仕事をこなす人」と「AIを活用して高度な現場仕事や対人業務をこなす人」以外は、求人が激減するシビアな時代が迫ってきている。しかし、深刻な人手不足に悩むドイツ(と日本)にとっては、教育やリスキリングさえ成功すれば、生産性向上の大きなチャンスとなるはずだ。
  • ビジネス環境を直撃するトランプ、財政、社会変化

  • 2位に選ばれた「Deal」(取引)、3位の「Land gegen Frieden」(領土と引き換えの平和)、さらに7位の「Strafzölle」(トランプ関税)はいずれもトランプ米大統領関連であり、2025年はグローバルビジネスにとって「トランプの年」だったといえる。「トランプ関税」は今後も「ディール」の中でいつでも変更されうるため、機動的な対応力が求められる。
  • 一方、ドイツ単体ベースで考えると、4位に選出された「Sondervermögen」(特別基金)が最も重要だ。これまで財政規律を重んじてきたドイツが、インフラ整備や気候変動対策のために債務拡大へ舵を切った歴史的転換点といえる。メルツ政権は、この資金で経済を立て直し、8位の「Wohlstandsverlust」(豊かさの喪失)の解消と極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の抑制を狙っている。また、5位の「Wehrdienst-Lotto」(兵役抽選)と6位の「Drohnisierung」(ドローン化)は本来、安全保障関連用語だが、企業にとって前者は若者の人材確保や職業訓練、後者は生産や物流におけるドローン利活用の観点で注目すべき要素だ。9位の「klimamüde」(気候疲れ)と10位の「Vertiktokung」(ティックトック化)は、企業マーケティング戦略の修正を迫っている。環境疲れを感じている層へのアプローチや、ショート動画中心の若者文化への適応が急務である。
  • 在独日系企業に対するインプリケーション

  • 2025年の入賞語から導き出される、日系企業が注視すべきポイントは以下の3点だ。
  • ❶ 脱・日本的意思決定: トランプの「ディール」によって日々激変する環境下では、日本的な合議制や慎重な意思決定プロセスはリスク。現場への権限委譲を含めた、迅速かつ柔軟な対応体制の構築が不可欠である。 ❷ AI活用によるビジネスモデル転換:単なる業務効率化にとどまらず、人員配分の根本的な見直しが必要。AI活用を前提としたビジネスモデルへの転換が、人手不足解消と競争力維持の唯一の解となる。 ❸「気候疲れ」と「短尺」を意識したマーケティング:「気候疲れ」の潮流をくみ、サステナビリティを「義務」ではなく「生活の質向上」として訴求する工夫が必要。また、宣伝広告や情報伝達におけるSNSや短尺動画の活用は不可避。
  • 国際情勢、技術革新、人々の心理の変化などを総合的に分析した上で、2026年の欧州・ドイツにおける経営戦略を今一度見直してみていただきたい。
  • 2025年流行語大賞トップ10 意味・内容
    KI-Ära AI時代(ドイツでもAIの普及が本格化。ドイツ語の将来にも影響ありそう)
    Deal 取引/合意(トランプ大統領によるビジネスのディールのような政治)
    Land gegen Frieden 領土と引き換えの平和(和平実現に領土割譲が必要とする考え方)
    Sondervermögen インフラ・気候保護特別基金(通常予算とは別に設けられる特別な資金枠)
    Wehrdienst-Lotto 兵役抽選(兵役義務を抽選で決める方式を皮肉に表現)
    Drohnisierung ドローン化(軍事やスパイ活動などでドローンの利活用が急速に広がる現象)
    Strafzölle 懲罰的関税/トランプ関税(多くの国が対米貿易戦争回避のために受け入れた)
    Wohlstandsverlust 豊かさの喪失(ドイツ経済の長期低迷で経済的繁栄が失われている状況)
    klimamüde 気候疲れ(気候変動対策関連の議論や行動に疲れ、関心が薄れている状態)
    Vertiktokung TikTok化(社会や文化がショート動画中心のTikTok的形式に染まる現象)
    過去2年の大賞
    2024年 Ampel-Aus 信号機連立/ショルツ政権崩壊
    2023年 Krisenmodus 危機モード(特にウクライナ戦争直後のエネルギー価格高騰)
     
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