Hanacell

独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計14年間ドイツに在住。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第32回DAX40から見えてくるドイツ市場の現在地

株価指数は「景気の鏡」と言われるように、企業業績やマクロ経済の見通し、そしてそれに対する投資家の評価を数値で示す指標である。日本で日経平均が担う役割を、ドイツではDAX40が担っており、まさにドイツ経済の「顔」と言うべき存在だ。本稿では、DAX40を通じて見えてくるドイツ市場における興味深いポイントをご紹介しよう。

  • DAX40はドイツ経済を的確に反映しているが、配当込みの指数である点に注意
  • 製造業中心、長期視点、品質重視、労使協調などの特徴があり、米国市場とは対照的
  • 上場企業が少ないドイツにおけるDAX銘柄の開示情報は希少価値高く、有効活用したい

DAX40の成り立ちと特徴

DAX指数は1988年に導入され、当初は30銘柄で構成されていた。2021年には、ワイヤーカード社の不正会計事件を契機に、ガバナンス強化と市場の多様化を目的として40銘柄へと拡充された。この変更により、従来の重厚長大型産業中心の構成から、テクノロジー、ヘルスケア、消費財、防衛関連などの比率が高まり、より現代のドイツ経済を反映する指数へと進化している。

DAX40は「パフォーマンス指数」であり、株価の値動きに加えて配当の再投資分も含めたトータルリターンを反映する点が特徴だ。MSCIやFTSEなどのインデックスと同様、投資家にとって実際の運用成果に近い形で市場動向を把握できる。一方、日経平均やNYダウなど多くの主要指数は「価格指数」であり、配当を含まないため、DAX40とは単純に比較できない。厳密な比較を行う際には、「トータルリターン」「配当込み」などと付記された、配当込みの指数を参照することが重要である。

DAX40を通して見えるドイツ経済とドイツ企業

日独株価指数比較(2025年10月31日時点)

DAX40 日経225
算出主体 STOXX(ドイツ証取子会社) 日本経済新聞社
計算方式 時価総額加重型 株価平均型
銘柄数 40社 225社
年初来騰落率 20% 31%
時価総額 2.0兆ユーロ/355兆円 4.8兆ユーロ/854兆円
時価総額上位5社 ① SAP(ソフトウェア・IT) ① トヨタ(自動車)
② シーメンス(電機) ② ソフトバンクG(通信・IT)
③ エアバス(航空機) ③ MUFG(金融)
④ アリアンツ(保険) ④ ソニーG(エレクトロニクス)
⑤ ドイチェ・テレコム(通信) ⑤ 日立(電気)

DAX40の構成銘柄を見渡すと、まず目につくのが自動車産業だ。フォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツなどの大手に加え、コンチネンタルやダイムラー・トラックなどが名を連ね、指数全体の約2割を占める。次いで金融・保険セクターが2割、化学・製薬が1割を構成している。個社としては、SAP(ソフトウエア)、シーメンス(電機)、エアバス(航空機)、アリアンツ(保険)、ドイチェ・テレコム(通信)などが高いウエートを持つ。また近年は、防衛関連企業のラインメタルの存在感が急速に高まっている。

米国市場ではグーグル、メタ、エヌビディアなどのデジタル企業が主役だが、DAX40ではSAPを除けばそのような企業は少ない。代わりに、ドイツの「モノづくり」精神を体現するグローバル企業が中心である。ドイツ企業は、長期的視点に立った経営、品質へのこだわり、持続可能性の重視といった点に特徴があり、DAX40銘柄はそれらを高いレベルで体現している。外国人投資家比率が推計6割と高いため、株主還元を意識せざるを得ないが、研究開発や人材育成への投資を怠らない姿勢が見られる。

また、労使協調を制度化した「共同決定制度」(Mitbestimmung)により、企業経営に労働者の視点が反映される仕組みが整っている。これらは、短期的な利益を重視しがちな米国型資本主義とは一線を画す特徴である。

希少価値が高いドイツの開示情報

ドイツには上場企業が400社強しかなく、日本の約3900社と比べると圧倒的に少ない。上場に伴う開示情報が少ない分、ドイツ企業関連の情報やデータは日本と比べてはるかに入手が困難だ。日本の書店なら頻繁に山積みされている「業界地図」や「業界シェア一覧」の類がドイツの書店で全然見つからないのはこのためである。逆に言うと、DAX40銘柄のディスクロージャー資料は、個別企業の情報としてだけでなく、ドイツ経済の縮図としても貴重な存在となる。

多くの資料は英語でも入手可能であり、AIによる翻訳や要約を活用すれば、理解のハードルもさほど高くない。特に、サステナビリティやガバナンスに関する非財務情報は充実しており、「エネルギー転換(Energiewende)」「少子高齢化」「デジタル化」「地政学リスク」など、日独共通の課題に対する洞察を得る上でも有益だ。AIの助けを借りながら15分でもいいので、DAX銘柄企業の統合報告書や投資家宛プレゼン資料などを、ぜひ一度のぞき見ていただきたい。

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express SWISS ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド

デザイン制作
ウェブ制作