第25回ドイツ経済の長期低迷 来年には脱出できるか?
トランプ政権の冷徹な対欧州政策がドイツ経済の強い逆風となる一方、ドイツ新政権が大規模財政出動に踏み切ることにより、来年ごろにはドイツ経済が長期低迷から脱出できる可能性が高まっている。今回は想定される環境変化を具体的にイメージした上で、経営戦略上、当面意識しておくべきポイントを整理しておく。
- トランプに追い詰められたドイツは、財政出動で乾坤一擲の大勝負に出ようとしている
- 独経済は来年以降大きく成長する可能性が高く、攻めの経営に挑む価値あり
- ダウンサイドリスクに備えつつ、機動的かつ柔軟な対応を
トランプ政策の逆風と財政出動の追い風
トランプ再選とともにグローバリゼーションの黄金期は終焉、その最大の受益者であったドイツ経済の低迷がますます深刻になっている。ドイツ経済は昨年まで▲(マイナス)0.3%、▲0.2%と2年連続のマイナス成長に陥り、ユーロ圏経済の足を引っ張ってきたが、いまだに回復の兆候が見えてこない。物価高騰による個人消費低迷、海外経済の不調による輸出伸び悩みなどといった循環的要因以外に、人手不足、エネルギー価格高騰、官僚主義、重税、インフラ老朽化、デジタル化遅延、海外市場での中国との競争激化などの構造的要因が重くのしかかっている。さらに欧州安全保障からの米国撤退や世界的な貿易摩擦激化など、トランプが次々と繰り出す逆風に対する強い危機感もあり、ドイツは防衛、インフラ、デジタル化などへの投資を可能とする大規模財政出動に舵を切った。
ドイツ経済見通しと企業としての注目ポイント
トランプ政策の逆風にしても財政出動の追い風にしても、具体的な政策の規模やタイミングが判明しない限り、ドイツ経済への影響を定量化することはできない。しかし、現時点でのざっくりしたイメージでいうと、トランプ関税がドイツの国内総生産(GDP)を来年▲0.5%程度押し下げる一方、ドイツの財政出動は今後10年間、GDPの2%程度の規模になりそうだ。
これらを織り込んだ最新経済予測が、3月27日に労働組合系シンクタンクIMKから発表された。これによると、ドイツの実質GDP成長率は今年も▲0.1%と3年連続のマイナス成長になってしまうものの、来年は財政出動の効果で+1.7%(名目では+3.8%)に急回復する。インフレは中銀ターゲットの2%に収まり、賃金は3%以下の適正水準に落ち着き、失業率はやや増える程度にとどまると予想されている(下表)。
当該分析には含まれていないが、2027年以降も名目4%程度の成長が続く可能性が高いように思われる。中期経営計画などの策定においては、2026年以降、従来比やや強気の攻めのスタンスで挑む価値がありそうだ。GDP項目の内訳としては、建設投資、設備投資、政府支出が増加する可能性が高く、産業セクター別では、建設、情報通信、企業サービスなどの業界が今後の景気回復をけん引していくことになるだろう。
チャンスといえどもダウンサイドリスクにはご用心
久々にドイツ経済好転のチャンスが出てきたとはいえ、従来比「不透明感」が格段に大きく、予想が大きく外れやすい状況である点には注意が必要である。リスク管理面ではダウンサイドリスクを強く意識した上で、次の五つの予兆を察知したら早めにアクションを起こせる体制を整えておくべきだろう。
- 関税引き上げ合戦が激化し、ドイツが得意とする輸出が滞るような展開
- 不動産バブル崩壊にあえぐ中国経済が一段と悪化し、ドイツ企業の中国市場での売り上げがさらに減少する展開
- ウクライナ、中東、台湾などで地政学的緊張が高まり、経済制裁などを通じてグローバルベースで景況感が悪化する展開
- 財政出動が政治的理由で遅延したり、非効率なバラマキ(特に極右台頭を防ぐための人気取り)で無駄遣いされてしまったりするような展開
- 株価暴落、長期金利上昇、トランプ政権によるドル安誘導開始(ユーロ急騰)などで金融市場が混乱し、実体経済に悪影響を与えるような展開
ドイツ経済は戦後最も重要と思われる分岐点に差しかかりつつある。経済成長率が高まれば市場の魅力が増し、ドイツ拠点の重要性も高まるだろう。環境激変による見込み違い多発をある程度覚悟した上で、来年以降の事業拡大の可能性をご検討いただきたい。
2023年 | 2024年 | 2025年 | 2026年 | 一言メモ | |
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実質GDP | ▲0.3% | ▲0.2% | ▲0.1% | +1.7% | 3年連続マイナス成長に現実味 |
名目GDP | +5.8% | +2.9% | +2.1% | +3.8% | 来年以降、大きく切り上がる |
インフレ | +5.9% | +2.2% | +2.0% | +2.0% | ECB追加利下げに支障なし |
1人当たり賃金 | +6.5% | +5.4% | +2.4% | +3.0% | 高賃上げ一巡で適正水準回帰 |