独断時評


テューリンゲン州議会選挙に見る東西ドイツの「心の分断」

10月27日に行われた旧東独・テューリンゲン州議会選挙では、予想通り伝統政党が得票率を減らし、右翼政党が大きく躍進した。連立政権の構成も困難を極めている。旧東ドイツの地方選挙の結果は、ベルリンの壁崩壊から30年経った今なお、東側と西側の市民の間で「心の壁」が残っていることを浮き彫りにした。

10月28日にベルリンで開かれた記者会見に出席した、AfDのヘッケ氏(右から2番目)10月28日にベルリンで開かれた記者会見に出席した、AfDのヘッケ氏(右から2番目)

AfDが得票率を倍増

キリスト教民主同盟(CDU)は、得票率を前回の33.5%から21.8%に減らして第3党に転落。得票率が11.7ポイントも減ったことになる。社会民主党(SPD)も得票率を12.4%から4.2ポイント減らした。わずか8.2%の得票率では、泡沫政党と言われてもおかしくない。これに対して右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、得票率を10.6%から2倍以上の23.4%に増やし、第2党の座に躍り出た。今回の選挙でAfDほど大きく票を伸ばした党はほかにない。

AfDは、イスラム教徒やトルコ人を露骨に差別する政党だ。筆頭候補は、テューリンゲン州支部長のビョルン・ヘッケ氏。彼はAfDの中で最も右派に属する政治家だ。同党の内部組織「フリューゲル」の指導者の1人だが、この組織は連邦憲法擁護庁から「人種差別的」として監視されている。ベルリンにはナチスが虐殺した約600万人のユダヤ人のための追悼モニュメントがあるが、ヘッケ氏はこの慰霊碑を「恥のモニュメント」と呼んで批判したことがある。そうした人物が要職にある党を、約26万人の有権者が選んだ。

連立政権樹立が困難に

AfDの躍進は、政権樹立を難航させている。テューリンゲン州議会では、前回(2014年)の選挙でリンケ(左翼党)、SPD、緑の党が連立政権をつくっており、リンケのボド・ラメロウ氏が首相を務めている。旧西独出身のラメロウ氏は社会保障政策を重視する、リンケでは穏健派の政治家だ。テューリンゲン州での人気は高い。実際、同州の今年9月の失業率は5.1%で、ノルトライン=ヴェストファーレン州(6.5%)よりも低かった。今回の選挙でリンケは、得票率を0.8ポイント増やして31%を確保し首位に立った。しかしSPDと緑の党が得票率を減らしたため、これまでどおりに赤・赤・緑連立政権を続けられなくなった。

ラメロウ氏は「有権者がわが党に政府を率いる権利を委託したのは、明らかだ」として首相を続投する方針を打ち出した。彼はAfDを除くすべての政党と連立の可能性を探ることにしている。だがCDU執行部は、リンケとの連立を禁止。リンケは社会主義時代の東ドイツの政権党「ドイツ社会主義統一党(SED)」の流れをくむ政党だからである。

またCDU執行部は、AfDとの連立も禁じている。こう考えると、どの党にとっても過半数の確保は難しい。現在最も可能性が高いのは、ラメロウ首相を首班とする「少数派政権」であるとみられている。

旧東独3州でAfDが地盤を拡大

さて今年秋に旧東独の3州で行われた州議会選挙では、いずれも伝統的政党が後退してAfDが躍進し、第2党になった。ザクセン州議会選挙では、AfDの得票率が前回の選挙での9.7%から約3倍に増えて27.5%に。CDUの得票率が7.3ポイント減って32.1%だったのとは対照的である。SPDの得票率は4.7ポイント減ってわずか7.7%に下落。また、ブランデンブルク州でもAfDは得票率を前回(12.2%)の約2倍に増やして、23.5%を記録した。

AfDの人気は、旧西独よりも旧東独で高い。2017年の連邦議会選挙で、AfDの旧西独での得票率は10.7%。これに対し同党は旧東独で約2倍の得票率(21.9%)を記録。2019年5月の欧州議会選挙でも、旧西独でのAfDの得票率は8.8%だったのに対し、旧東独では2倍を超える21.1%だった。社会の右傾化は、われわれ外国人にとって不気味な現象だ。

統一後の変化に対する失望感

この背景には、旧東独の一部の市民が「自分は東西統一で負け組になった」という怨念を抱いているという事実がある。

統一後、旧東独では多くの旧国営企業が閉鎖され、多くの市民が生まれて初めて失業を経験。年配の労働者は、定年を繰り上げて退職させられた。旧東独の失業率は2005年には18.7%という高い水準に達し、一時東側の失業率は西側よりも約10ポイントも高かった。そのため多くの旧東独人、特に高等教育を受けた優秀な若者たちが統一後、職を求めて旧西独に移住したのだ。連邦統計庁によると1990年の旧東独(東ベルリンを含む)の人口は1603万人だったが、2000年には1512万人に減った。

統一から30年経った今も、社会主義時代に生まれ育った旧東独人の中には「われわれは二級市民のように扱われている」、「社会主義時代に自分がやってきたことは、今日のドイツでは全く価値のない物と見なされており、人生を否定されたような気がする」という不満を持つ者が少なくない。こうした不満がAfDにとって追い風となっている。

AfDに対する支持率は、今後旧西独では下がるが、旧東独では地域政党として地盤を中期的に確保するとみられている。旧東独では、高速道路や鉄道、住宅は見事に整備された。しかし東西間の目に見えない壁は、ベルリンの壁崩壊という歴史の輝かしい1ページに暗い影を落としている。政府にとっても、この壁を崩すのは容易なことではない。

最終更新 Mittwoch, 13 November 2019 18:08
 

反ユダヤ主義者の危険な暴走 ハレ・シナゴーグ襲撃の背景

極右勢力が、またもやドイツ社会に衝撃を与えた。10月9日は、ユダヤ人にとって最も重要な祝日ヨム・キップール(贖罪の日)である。この日、旧東ドイツのハレで27歳のドイツ人男性がユダヤ教の礼拝所(シナゴーグ)を襲ったのだ。

10月10日、警察に連行されるシュテファン・B(真ん中)10月10日、警察に連行されるシュテファン・B(真ん中)

犯行をネット上で「生中継」

男は数丁の銃を持ってシナゴーグに押し入ろうとした。彼は散弾銃で扉を撃ったが、施錠を壊すことができなかった。このため侵入をあきらめ、通りがかりの女性を射殺したほか、近くの飲食店にいた男性を殺害した。男はさらに2人の市民を負傷させた後、車で逃走を試みたが、警察に逮捕された。

連邦検察庁の調べによると、犯人はザクセン・アンハルト州のアイスレーベンに住むエンジニア、シュテファン・B。彼はシナゴーグに乱入して、礼拝中のユダヤ人たちを殺害することが目的だったと認めた。Bは散弾銃のほか小銃など2丁の銃と多数の銃弾を持っており、さらに彼の車からは4キロの爆薬や火炎瓶が見つかった。

彼はヘルメットに取り付けた小型ビデオカメラで、犯行の一部始終を撮影し、インターネット上の「トゥイッチ」というストリーミング・フォーラム上に配信。トゥイッチは、テレビゲームの愛好者らが自由に動画を公開できるフォーラムだ。犯人がシナゴーグの扉をこじ開けようとしている様子や、通行人を射殺する模様がトゥイッチに20分間にわたって流れた。

Bがネット上に残した犯行声明は、彼がネオナチの思想に汚染されていることをはっきり示している。彼は「ナチスによるユダヤ人大量虐殺はなかった」と語ったのだ。さらに「ヨム・キップールを選んだのは、この日には敬虔な信徒以外のユダヤ人もシナゴーグに集まると思ったからだ。ユダヤ人を1人でも殺せば、目的を達成できたことになる」と述べている。

この日ハレのシナゴーグでは、約50人のユダヤ人が礼拝に参加していた。もしもBが扉をこじ開けていたら、大惨事となるところだった。

彼の犯行は、今年3月15日にニュージーランドのクライストチャーチで起きた銃乱射事件を想起させる。この事件では、極右思想を持つ男がイスラム教徒の礼拝施設に乱入し、51人を射殺したが、やはり犯行の様子をネット上に流していた。

ユダヤ人を狙う犯罪が増加傾向

2019年は、ドイツで極右のテロが新しい段階に入った年として記憶されるだろう。これまでドイツの極右の暴力は、トルコ人などイスラム教徒に対して向けられることが多かった。たとえば1992年11月に旧西ドイツのメルンでネオナチの若者がトルコ人の住む住宅に放火し、親子3人が焼死した事件や、翌年5月にゾーリンゲンで極右勢力がトルコ人の住む家にやはり放火して、家族5人を殺害した事件などがある。旧東ドイツのネオナチ・グループが、2000年からの11年間にミュンヘンやハンブルクなどで外国人ら10人を殺害した事件でも、被害者の多くはトルコ人だった。

だがハレの事件は、人種差別主義者が初めてユダヤ人の大量殺害を試みたという意味で、極右の暴力の質を大きく変えた。ナチスは1930~1940年代に約600万人のユダヤ人を虐殺。21世紀の今、再びユダヤ人がドイツで生命の危険にさらされたのである。

実際、ゼーホーファー内務大臣はハレの事件の直後、「ドイツでは反ユダヤ主義による危険が非常に高くなっている」と指摘。大臣は「この国の極右勢力の数は約1万2000人だが、彼らの中には武器を愛好し、暴力をためらわない者が多い。今後似たような事件がいつ起きてもおかしくない」と注意を呼び掛けた。

またシュタインマイヤー大統領は、「ハレの事件の犯人は、独りでテロを実行したかもしれない。しかし彼は実際には独りではなかった」と語る。大統領は、「犯人は独りで凶行に走ったのではなく、インターネット上で極右勢力に感化され、応援されていた。反ユダヤ主義を煽る言葉は、街角やネット上に広がる一方だ」と述べ、人種差別に対するタブーの意識がこの国で減りつつあることに警鐘を鳴らした。

また近年ドイツでは、ユダヤ人が路上で唾をかけられたり、暴言を浴びさせられたりする事件が増えている。連邦内務省によると、ユダヤ人を狙った極右の暴力犯罪は2001年には27件だったが、昨年は49件に増えている。

「過去との対決」への重大な挑戦

衝撃的だったのは、犯人が武器の大半を自作していたことだ。Bは銃弾や手投げ弾も自分で作っていたという。しかもBは、過激な極右勢力として警察からマークされていなかった。このことは、警察が知らないうちに、危険な思想を持つ市民の武装化が進んでいることを示している。もちろんドイツ人の大半は外国人を差別しない、穏健な人々である。多くの人々が今回の事件を糾弾している。だがこの国では、まるでコンピューターゲームのように、大勢の人を殺す映像をネット上に流すことによって、「同志たち」から喝采を浴びたいと思う勢力が、社会の片隅に巣食い始めている。ハレの事件は、その事実を白日の下に曝した。

政府はシナゴーグなどユダヤ関連施設の警備を強化するべきだ。そして、ドイツが第二次世界大戦後から続けてきた「ナチスの過去との対決」を無きものにする思想が、なぜ今この国で広がり始めているのかについて、原因を究明する必要がある。

最終更新 Donnerstag, 31 Oktober 2019 12:11
 

環境保護か経済成長か? 独政府のCO2削減策に厳しい批判

日本と同じモノづくり大国ドイツは、いま地球温暖化の防止と経済成長という2つの目標を同時に実現するために苦闘している。

9月20日、「2030気候保護プログラム」を発表するメルケル首相9月20日、「2030気候保護プログラム」を発表するメルケル首相

交通と建物に排出権取引を導入

そのことを浮き彫りにするのが、メルケル政権が9月20日に発表し、10月9日に閣議決定した法案パッケージ「2030気候保護プログラム」をめぐる議論だ。

この法案パッケージの目的は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を、2030年までに1990年比で55%減らすこと。同国は来年から540億ユーロ(6兆4800億円・1ユーロ=120円換算)の費用を投じて、現在の年間排出量・8億7000万トンを2030年までに5億6000万トンに減らすことを目指す。政府は、今回発表された気候保護プログラムの中心を、交通と建物に使われる化石燃料に置いた。具体的にはガソリンや灯油など化石燃料を販売する企業に対し、2021年から2025年までCO2排出権証書の購入を義務づける。

政府は初年度に1トン当たり10ユーロに設定して年々引き上げ、4年後には35ユーロとする。さらに2026年以降は政府が毎年の排出量を制限し始める。また、企業は国内市場での入札により、排出権証書を購入することになる。2026年以降の価格は市場メカニズムで決まるが、政府は最低価格を35ユーロ、最高価格を60ユーロに設定。2026年以降は、毎年排出できるCO2の量も制限され、減らされていくという。

国内の空の旅が割高、列車が割安に

メルケル政権は、暖房効率を改善するための費用については、課税対象額からの控除を始める。ドイツには19世紀末から20世紀初頭にかけて建てられたアパートが多く、窓などの密閉性が悪いものも少なくない。また灯油を使う暖房装置を再生可能エネルギーによる熱を使う設備などに更新するための費用も、政府が40%まで補助する。2026年以降は、灯油を使った暖房装置の新設は禁止される予定だ。

さらに、国内で移動する際に飛行機ではなく列車を使う市民を増やすため、列車の切符の付加価値税を19%から7%に引き下げる。逆に国内便の航空運賃は新税により割高になる。今回の法案は、ドイツの遠距離・近距離の公共交通機関、特に鉄道や路面電車を飛躍的に充実させる。連邦政府とドイツ鉄道会社(DB)は、2030年までに鉄道網の更新、拡充のために860億ユーロ(10兆3200億円)を投資するという。今年7月の時点では、ドイツで走っている電気自動車の数は約8万台にすぎないが、政府は2030年までにこの数を1000万台まで引き上げる方針。そのために充電ポイントの数を、2030年には現在の約2万個から100万個に増やす。

これまでドイツのエネルギー転換は、電力業界に集中していたが、政府は今回初めて交通と建物部門にメスを入れる。排出権取引という、企業にとっては最も付加的なコストが低い方法を選んだ。企業は自社に最も適したCO2削減の方法を選べるという利点がある。

市民の負担軽減措置も重視

これらの措置が実施されると、ガソリン、軽油、灯油の価格が上昇する。このためメルケル政権は気候保護プログラムに、低所得層の市民の負担を軽減する措置を盛り込んだ。例えば政府は、電力料金に含まれている再生可能エネルギー拡大のための賦課金を引き下げる。また車で職場へ通う市民が、通勤にかかる燃料費などをこれまでよりも多く課税対象額から控除できるようにする。

学界は「不十分」と厳しく批判

だがメルケル政権が発表した削減策は、学界から「不十分」と批判されている。気候学者の間では「この内容では、2030年までにCO2排出量を55%削減するという目標を達成できない」という意見が有力だ。ポツダム気候影響研究所のエーデンホーファー所長は、「メルケル政権は十分に踏み込まなかった。カーボンプライシング開始時の10ユーロという価格は余りにも低すぎる。CO2価格が10ユーロでも、1リットル当たりのガソリン価格は3セントしか増えない。本来は50ユーロから始めるべきだった」と厳しく批判した。

現在、欧州連合域内排出取引制度(EU ETS)における1トン当たりのCO2価格は約30ユーロ。ポツダム気候影響研究所は、「2030年までにCO2排出量を1990年比で55%減らすには、最終的なCO2価格を少なくとも70ユーロ、理想的には130ユーロにするべきだ」という試算を発表している。多くの環境保護主義者は、今回の法案を読んで唖然としたはずだ。

経済成長と雇用を重視したメルケル政権

要するにメルケル政権は、気候保護プログラムを、「企業や市民に過剰な痛みを与えない削減計画」にとどめた。政府は、景気や雇用に悪影響を与えないように、あえて初年度のCO2価格を低く設定し上昇率も遅くした。その背景には、景気の先行きへの懸念がある。米中貿易摩擦などによって、ドイツの第2・四半期のGDPは0.1%減り、景気後退の兆候が表れている。

メルケル政権は今年末までに、法案パッケージを連邦議会・連邦参議院で可決させる方針だが、緑の党は初年度のCO2価格の大幅な引き上げなど、法案の修正を要求している。今後ドイツでは温暖化防止と雇用の保護のバランスをめぐり、激しく議論されるだろう。

最終更新 Donnerstag, 17 Oktober 2019 12:11
 

州議会選挙でAfD躍進、東西間の心の分断が浮き彫りに

9月1日にザクセン州とブランデンブルク州で行われた州議会選挙では、予想通り、右翼政党ドイツのための選択肢(AfD)が前回の選挙に比べて大幅に得票率を伸ばした。AfDは旧東ドイツに固定的な支持層を持つ地域政党への道を着々と歩みつつある。同時にこの選挙結果は、ドイツ再統一から約30年経った今も東西間の「アイデンティティーの統一」が完遂されておらず、一部の市民の間では亀裂が深まっていることを明らかにした。

9月1日、選挙結果を受けて喜ぶ、AfDブランデンブルク支部長のカルビッツ氏(左)9月1日、選挙結果を受けて喜ぶ、AfDブランデンブルク支部長のカルビッツ氏(左)

ザクセンでは得票率が約3倍に

AfDの躍進は予想されていたとはいえ、前回の2014年の選挙に比べた増加率には驚くべきものがある。逆にキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)は両州で大幅に得票率を減らし、全国で続く凋落傾向に歯止めをかけることができなかった。

ザクセン州議会選挙では、AfDの得票率が前回の選挙での9.7%から約3倍に増えて27.5%となった。一方、CDUの得票率は7.3ポイント減って32.1%に、SPDの得票率は4.7ポイント減ってわずか7.7%に下落。SPDはザクセン州では泡沫政党への道を突き進んでいる。

「AfDは一過性の現象ではない」

ブランデンブルク州でもAfDは得票率を前回(12.2%)の約2倍に増やして、23.5%を記録。逆にSPDは得票率を5.7ポイント、CDUは7.4ポイント減らした。AfDブランデンブルク州支部を率いるアンドレアス・カルビッツ氏は、2014年から1年間にわたり「文化と歴史」という極右グループのリーダーだった。彼は開票結果が明らかになると「AfDは、一過性の現象ではない。われわれはここにとどまる」と勝利宣言を発した。カルビッツ氏は、AfDテューリンゲン支部長のビェルン・ヘッケ氏とともに、AfDで最も右に位置する組織「フリューゲル(翼)」で指導的な立場にある。フリューゲルにはネオナチ・グループと接点を持つ党員が加盟しており、外国人を差別する発言を行う者もいることから、ドイツ内務省の捜査機関・連邦憲法擁護庁は同組織に対する監視を行っている。

AfDがザクセンとブランデンブルク州で成功を収めた最大の理由は、同党が「旧東ドイツ人たちは29年前の東西ドイツ統一で貧乏くじを引かされた。今こそ旧東ドイツ人の利益を重視する『Wende2.0(第2の革命)』を起こそう」と訴えたからだ。AfDのこのスローガンについては、1989年にベルリンの壁崩壊につながる市民運動を行った人々の間から「AfDは、当時の社会主義政権に対する抗議運動を自分たちの目的のために悪用している」という批判が上がっている。

抗議政党としての地盤を確保

今回の市議会選挙で興味深いのは、過去に旧東ドイツの抗議政党と見られていた「リンケ(左翼党)」がAfDによって票を奪われたことである。リンケの得票率は、ザクセン州で8.5ポイント、ブランデンブルク州で7.9ポイント減った。つまり旧東ドイツの抗議政党としてのリンケの役割は、AfDによって取って代わられたのだ。この点には、旧東ドイツの右翼化傾向がくっきりと表われている。

AfDは2013年に創設された当時、ユーロに反対する泡沫政党だった。だが2015年にメルケル首相がハンガリーで立ち往生していたシリア難民ら約100万人に対し、超法規的措置としてドイツでの亡命を認めたことが、AfDにとって強力な追い風となった。

同党は2017年の連邦議会選挙で得票率を前回(4.7%)に比べて、ほぼ3倍の12.6%に伸ばした。AfDは連邦議会に100人近い議員を送り込み、泡沫政党から一気に第3党の地位にのし上がった。

しかしこの党の幹部らはイスラム教徒や有色人種、トルコ人に対して差別的な発言を行っているほか、ドイツが戦後続けてきた「ナチスの過去との批判的な対決(Aufarbeitung der NS-Vergangenheit)」を疑問視している。ヘッケ氏は、ベルリンに政府が建設したホロコースト犠牲者のための追悼モニュメントを「恥のモニュメント」と呼んでいる。つまりAfDは、ドイツの戦後レジームを破壊することを狙う政党である。

旧東ドイツ人の怨念が追い風

AfDの追い風となっているのは、政府の難民受け入れ政策に対する不信感と、旧東ドイツ人たちの怨念である。1990年に東西ドイツが統一されると、旧東ドイツの多くの国営企業が閉鎖や民営化されたりして、多数の市民が失業、もしくは早期退職に追い込まれた。早期退職した労働者たちの公的年金は、大幅に減額。2003年に、当時首相だったゲアハルト・シュレーダー氏は労働市場・社会保険制度の改革プロジェクト「アゲンダ2010」を断行し、長期失業者への援助金を生活保護と同じ水準に引き下げたが、この措置は旧東ドイツの多くの市民の暮らしに悪影響を与えた。

今でも旧東ドイツに本社を持つドイツ企業は存在しない。このため高学歴の若者の多くは、職を求めて旧西ドイツへ移住した。旧東ドイツの人口は1990年からの29年間で345万人も減った。

ドイツの政治学者の間では、「AfDの得票率は、旧西ドイツでは今後下がっていくだろう。しかし旧東ドイツでは、AfDは地域政党として固定した地盤を確保するだろう」という見方が強まっている。今回の選挙結果は、東西ドイツ間の心の壁がまだ崩れていないことを如実に示しているのだ。

最終更新 Donnerstag, 03 Oktober 2019 11:42
 

環境保護と政治経済、緑の党はどうバランスを取るか?

今年5月26日の欧州議会選挙では、ドイツで緑の党が前回の選挙に比べて得票率を約2倍に増やし、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に次ぐ第2党となった。また今年6月に発表された公共放送局ARDの政党支持率調査では、緑の党がトップの座に立った。どちらもドイツの政治史上初めてのことである。

緑の党のハベック共同党首1日に行われたザクセン州とブランデンブルク州の議会選挙の結果を聞く、緑の党のハベック共同党首

緑の党政権入りの可能性強まる

それに対し、現在大連立政権を構成するCDU・CSUと社会民主党(SPD)の支持率は低下する一方だ。90年代末に有権者がコール首相の長期政権に不満を強めたように、人々は政治の刷新を望んでいる。このため今日の状況が続いた場合、2021年の連邦議会選挙では、緑の党が連立政権に参加する可能性が濃厚だ。連立のオプションは、緑の党とSPD、左翼党(リンケ)が組む緑・赤・赤政権、もしくはCDU・CSUと緑の党が連立する黒緑政権などが考えられる。

政党支持率調査(2019年6月6日発表)

政党支持率調査(2019年6月6日発表)

また今年6月にエムニード社が発表した世論調査では、「もしも首相を直接選べるとしたら誰を選ぶか」という設問に対し、緑の党の共同党首の1人ロベルト・ハベック氏を選んだ回答者の比率が51%となり、保守陣営の首相候補と目されているCDUのアンネグレート・クランプ=カレンバウアー幹事長への支持率(24%)を大きく上回った。つまりこの国の歴史で初めて、緑の党から「エコロジー首相」が生まれる可能性すら浮上しているのだ。

緑の党は今や、2年後に政権入りすることを目標にした準備を着々と進めている。経済界、産業界の一部では「緑の党は環境保護に関する新しい法律を企業に押し付け、コストを増加させるので、国際競争力を弱める」という先入観が抱かれている。緑の党はこうした懸念を緩和するために、昨年「経済評議会」を設け、毎年3回緑の党の幹部、議員と大手企業の役員らが共同でワークショップを開催し、討論を行っている。また同党は社会保障や雇用問題についても同様の評議会を創設して、組合関係者らと協議を始めた。

ドイツ産業界も緑の党と意見交換

産業界も緑の党が上昇気流に乗っていることを敏感に察知し、緑の党のハベック共同党首ら幹部を招き、積極的に意見交換を行っている。たとえばドイツ産業連盟(BDI)は、今年6月4日の「産業の日」記念式典で、緑の党のアンナレーナ・べーアボック共同党首を締めくくりの講演者に選出。彼女は地球温暖化問題や環境保護だけではなく、国民と経済界にとって「欧州」としての結束を強めることの重要性を強調した。

べーアボック氏は、ドイツの雇用と繁栄を守るためには、欧州が結束して米国の金融資本主義、中国の国家資本主義に対抗する第三の道を目指すべきということ、経済のデジタル化や人工知能(AI)の開発においても、欧州の意見を強く反映させるべきと語り、会場の財界人から大きな拍手を受けていた。だが緑の党が今最も重視している温室効果ガス削減と、経済成長・雇用確保のバランスをどのように取るかについて、産業界は同党の一挙手一投足をじっと観察している。

環境保護と経済成長のバランス

例えば、緑の党は「メルケル政権は2038年までに褐炭・石炭火力発電所を廃止することを決めたが、緑の党が政権入りした場合、脱石炭を2030年に前倒しするのか?」、「緑の党は温室効果ガスの排出量削減のために、自動車や航空機の燃料、暖房用の灯油に二酸化炭素税を導入して、交通手段や建物に関するコストを引き上げるのか?」、「電気自動車の普及を加速するのか?」、「緑の党は公約通り、ロシアからの天然ガス・パイプライン『ノルドストリーム2』の建設計画を中止させるのか?」、「再生可能エネルギー比率の大幅な引き上げに必要な、高圧送電線の建設をどのように加速するのか?」といった問いへの回答を求められる。

ドイツは電力料金が欧州で最も高い国の1つだ。環境保護のための政策を急テンポで進めた場合、この国で事業を継続するためのコストが増大し、企業が工場などを国外へ移す可能性もある。産業の空洞化は、雇用が減ることを意味する。企業経営者だけではなく、市民も恐れている事態だ。緑の党は実効性のある地球温暖化対策を進める一方で、経済界が抱いているこうした疑問に、一つひとつ答えていかなければならない。

緑の党は2011年の福島原発事故直後、バーデン=ヴュルテンベルク州の州議会選挙で躍進し、初めて州首相を輩出。だがCDU・CSUなどすべての政党が脱原子力を目指したために独自色を失い、2013年の連邦議会選挙の得票率は8.4%に留まった。緑の党は当時の失敗を繰り返さないために、慎重に戦略を練りつつある。ハベック氏とべーアボック氏は、どちらも緑の党内では左派でなく、現実路線を重んじる政治家だ。彼らが環境保護と経済成長・雇用保護のバランスをどのように取ろうとするかが、大いに注目される。

最終更新 Donnerstag, 19 September 2019 10:23
 

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