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日本の歯科医師過剰問題について

一時帰国して近所の商店街などを歩くと、驚くほど多くの歯科医院の看板が視界に入ってきませんか。地域によっては3分歩くごとに1軒の歯科医院がある通りも珍しくなく、新聞や雑誌でも日本の過剰な歯科医院数がたびたび話題に取り上げられています。それらの記事の見出しを見ると「歯科医院倒産ラッシュ」、「コンビニより多い歯科医院数」、「歯科医師のワーキングプア」といったもので、歯科医師数の過剰によって需要と供給のバランスが崩れており、歯科医療体制そのものにひずみが生じているという内容。実際に日本全国にあるコンビニ数が5万7000軒なのに対し、歯科医院数はそれを大幅に上回る6万8000軒で、すでに20年前から歯科医師(歯科医院)過剰が社会問題として捉えられています。

一方ドイツでは、それほど街中に歯科医院が乱立している状態は目につかず、歯科医師数過剰問題を抱えているような印象は受けません。ところが日独の歯科医師数を調べてみると、興味深いことに、人口に対する歯科医師数の比率は日本よりもドイツのほうが約10%も高いのです。それにもかかわらず、ドイツで歯科医師のワーキンプアや医院の倒産といった話を耳にすることはありません。さらに虫歯や歯周病の罹患率も日本よりドイツのほうが低いばかりでなく、世界的に見てもドイツは高い歯科医療レベルを維持し、また先進的な歯科医療機器大国としても知られています。相対的に日本よりも歯科医師数が多いにもかかわらず、なぜここまで日本の歯科医療状況との差が生じてしまっているのでしょうか。

その最も大きな原因は「歯科医療の公的保険制度」にあります。一般的にドイツを含め多くの国では、虫歯治療や歯根治療は保険適用外(または一部適用)に分類されています。1970年代までは「削って詰める」、「痛みを取る」という比較的単純で容易な治療が主で、技術や材料もそれほど発達していなかったため、歯科治療を保険適用とする国も多く存在しました。しかし、歯科治療全般で機器や技術が著しく発達した現代では、高いレベルの治療が求められるに従いコストも増加したため、多くの国が公的保険から歯科治療を外すことに。また、歯周病や虫歯は日頃の歯磨きや口腔ケア、定期的なクリーニングによってかなり予防できることが証明されたので、これらの口腔疾患は「自己責任の病気」として考えられるようになったことが根底にあります。

ところが日本では政治的な理由もあり、昔の「とりあえず安く治す」歯科医療制度をそのまま残しているため、「虫歯になれば歯医者に行けばいい」という意識が強い傾向にあります。そのため、虫歯になることへのリスク管理意識が低く、結果的に口腔衛生状態も悪くなり、それがさら歯周病を引き起こす原因に。また保険では治療費を極端に抑制しているため治療も粗悪なことが多く、治した歯の寿命がかえって短くなるという悪循環を生んでいます。自費診療になれば歯科治療費用は高くなりますが、そもそも口腔衛生を保つことが出費を抑えるだけでなく、健康を維持するために1番効果的な方法であることは以前にもお伝えした通りです(本誌998号、1036号、1038号参照)。日本の歯科医師過剰問題は単なる「過剰」が問題なのではなく、保険制度が本質にあるため改善は容易ではなさそうです。

欧州における人口1000人当たりの歯科医師数(2018年)

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