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ゲーテの愛した黒ビール

「黒ビール」と聞いて、皆さんはどんなビールを思い浮かべますか? シャープでキレのあるドイツのシュヴァルツとドゥンケル、まったりとした英国のスタウト、高アルコールでどっしりとしたオールド・エールなど、黒と言っても、その味わいや醸造方法は様々です。「黒ビール」という呼び方はビールの外観しか表さないので、ひと括りにせず、スタイル名を意識して飲むと、味の違いがよくわかります。これからは、「黒ビール」と呼ぶのはドイツ語で黒を意味するシュヴァルツだけにしませんか?

シュヴァルツの傑作とも言える銘柄は、「ケストリッツァー・シュヴァルツビア(Köstritzer Schwarzbier)」 です。ライプツィヒの南東50キロに位置するバート・ケストリッツ村で、 1543年創業の醸造所が生んだビールです。当時の日本は、歴史の授業で「以後予算(1543)が掛かる鉄砲伝来」と暗記したように、種子島に鉄砲が伝わった戦国時代。それほど昔から続く醸造所が残っているとは、ドイツビールの歴史の長さには驚かされますね。

ケストリッツァー・シュヴァル旧ラベル
2005年まで使用されていた旧ラベル。
イタリア紀 行時の若きゲーテの肖像画が使われた

このビールには、ビターチョコレートを思わせるほろ苦さと、やさしい甘味が感じられます。シャープな喉越しに仕上がる下面発酵酵母を使っているので、濃い色から連想されるほどの重さはなく、すっきりとした味わい。ローストした肉との相性は抜群です。ちなみに私は、グラスを手で温めてからミルクチョコレートをつまみに飲むのが好きです。焙煎された麦芽のほろ苦さと香ばしさが、チョコレートの甘さによって引き立てられる、魅力的な組み合わせですよ。

ケストリッツァー・シュヴァルツビアは、文豪ゲーテ(1749 ~ 1832年)が愛したことでも知られています。 ゲーテがワイン好きだったことは有名ですが、このビールには格別な愛着を持っていました。それは、友人の書簡から引用した次の一文が証明しています。「ゲーテは、スープも肉も野菜も食べない。彼はビールとゼンメル(ドイツの丸いパン)で生きている。朝から大きなグラスでビールを飲んでいる。召使にケストリッツァーの黒ビールか、茶褐色のビールを注文するだけなのだ」。晩年のゲーテは、「もっと光を」という言葉を最後に息絶えるまで、ビールとわずかなパンのみを食していました。

また、ドイツ帝国を統一した鉄血宰相ビスマルク(1815~98年)もこのビールを飲んでいたといい、「優雅な味わいで、ビールの中の貴族と言える」と絶賛しています。現在、醸造所はビットブルガー(Bitburger)社の傘下に入って販路を広げ、スーパーマーケットでも手に入るようになりました。機会があれば、皆さんもぜひゲーテ詩集と一緒に、秋の夜長を過ごすお供にしてみては? 20世紀初頭の広告には、「寝る前にケストリッツァーを1杯飲めば、寝ている間にエネルギーが蓄えられ、次の日は万全の体調で働けます」といった内容の文言が書かれています。ゲーテも愛した栄養たっぷりのこのビールを飲めば、次の日も元気良く働けることでしょう。

 
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