Fujitsu 202406

独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計13年間ドイツに駐在。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第6回 今ドイツが「欧州の病人」と呼ばれる理由

先進諸国の中でドイツだけ、今年マイナス成長が予想されている。それはインフレに成長をまるまる食われてしまう典型的スタグフレーション(景気後退と物価上昇が同時に進行すること)に陥っているからだ。今回は、私が大手邦銀でグローバル経済調査を担当していた経験を踏まえて、ドイツ経済の苦悩について掘り下げてみたい。

  • かつて高成長を誇ったドイツ経済も日本並みの低成長体質に変わりつつある
  • 今年は高過ぎるインフレのせいでマイナス0.3%程度のマイナス成長で着地する可能性が高い
  • 短期的にはインフレと中国、中長期的には産業空洞化のリスクに注目

「日本化」が進むドイツ経済

低成長の先進国と聞いて、日本のことを思い浮かべる人が多いだろう。一方、ドイツといえば、先進国の中でも米国並みに力強い成長を続ける優等生だった。コロナ禍前の2019年までの10年間で、実質国内総生産(GDP)は米国で1.22倍、ドイツで1.16倍、日本で1.08倍になっていた。

ところが、その優等生ドイツが今苦悩している。ドイツは今年、先進国の中で唯一マイナス成長が予想される「欧州の病人」となり、ユーロ圏経済の足を引っ張っているのだ。インフレで個人消費が抑圧され、インフレ退治のための利上げによる金利上昇で建設や設備投資が抑圧され、中国経済の調子が予想以上に悪くて輸出も抑圧されている。

短期的な経済見通しが悪いだけならまだしも、中長期的な経済成長の実力を示す潜在成長率も急速に悪化している。主因は少子高齢化に伴う労働力不足で、コロナ禍前まで1%強あったドイツの潜在成長率は、足元0.8%程度、2027年には0.5%程度にまで低下する見込みだ。年ベースでプラス0.8%ということは、四半期ベースに引き直すと前期比わずかプラス0.2%ということを意味する。これほど低水準になると、在庫減少などのちょっとした統計上のあやで前期比は簡単にマイナスに転落する。潜在成長率が年0.5%以下とされている日本では、実際マイナスが頻発しているのだが、今年第2四半期までの直近10四半期を見ると、ドイツと日本はそれぞれマイナスを4回記録している。

今後のメインシナリオ

直近の景気先行指標(PMI、ifoなど)がいずれも弱く、ドイツの景気が上向く兆しはまだほとんど見えない。一方でインフレが低下基調にあるなか、人手不足のため雇用が堅調で賃金がしっかり上昇してきていることは朗報である。今年4~6月期から名目賃金の伸びがインフレをわずかながらも(+0.1%)上回り始め、今後は実質賃金が増加トレンドに入るため、個人消費はかなりの確度で回復し始めるはずだ。また、来年に向けて世界経済(ドイツ輸出市場)が市場予想通りに回復すれば、GDPの約半分の規模を誇るドイツの輸出も自然に伸び始めるだろう。今年6月16日に発表されたドイツ連銀経済予測(右表)では、実質GDP成長率が今年マイナス0.3%、来年プラス1.2%、再来年プラス1.3%と予想されているが、そのような軌道をたどる可能性は相応に高そうだ。

これから注視すべき3大リスク

ドイツの実質成長率をマイナスに押し下げる主因は高水準のインフレであり、インフレ低下は成長回復の必要条件である。しかし、地政学上の理由などでエネルギー価格が再び大きく上昇する場合、インフレが再発し、成長率を押し下げることに。また、中国における不動産バブルの崩壊と過剰債務問題の重圧によって中国経済の低迷期間が長期化すれば、中国向け輸出の不振がドイツ経済の足を引っ張り続ける可能性がある。短期的にはこの「インフレ」と「中国」が2大リスクといってよさそうだが、中長期的には産業空洞化にも厳重な警戒が必要である。

経営者系シンクタンクIWの推計によると、昨年はドイツから1250億ユーロ(約20兆円・1ユーロ=159円換算)もの投資資金がネットで国外へ流出し、過去最高を記録した。そのため、ドイツの産業空洞化はすでに進行中である可能性が高い。ドイツ産業界最大の不満は割高なエネルギーコストで、例えば国際比較サイトGlobalPetrolPrices.comで産業用電力価格(昨年末時点、米ドルベース)を比較すると、米国を1とした場合、日本は1.6、ドイツは6.2とドイツが突出して高い。ドイツはほかの先進国の模範となるべく、2050年ではなく5年前倒しの2045年までにカーボンニュートラルの達成を目標にしているため、割高な再エネ導入を強行している。エネルギーコストがさらに上がることはあっても、下がることはまずなさそうな状況だ。

米国は、もともとエネルギーコストが低い上、外国企業でも条件さえ満たせば巨額の補助金がもらえる。そのため、ドイツ製造業の海外進出先としてますます魅力的になってきている。ドイツの最新鋭工場が大挙して米国に移転し、ドイツの産業空洞化が決定的になってしまうリスクが高まっている。幸いドイツの財政は非常に健全で、財政出動余力はたっぷりある。今後ショルツ政権がどのように財政を運営していくかは、日本にとっても大いに参考になる可能性があるので、注目する価値があるだろう。

ドイツ連銀経済予測(前年比%)※▲はマイナス

2022年 2023年 2024年 2025年
実質GDP 1.9% ▲0.3% 1.2% 1.3%
インフレ 8.7% 6.0% 3.1% 2.7%
1人当たりの賃金 4.1% 6.0% 5.2% 4.1%
個人消費 4.9% ▲1.4% 2.1% 1.3%
ドイツ
輸出市場
6.5% 1.1% 3.1% 3.2%
 
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