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独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計14年間ドイツに在住。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第27回日独職場のカルチャーギャップどう埋められるか?

日本人とドイツ人の間には、言葉の壁だけでなく、国民性や文化面で大きな隔たりがある。今回は日独間のカルチャーギャップのイメージを可視化し、ドイツの職場においてわれわれ日本人が特に気を付けるべき点や、試してみる価値がありそうなアプローチなどについてご紹介したい。

  • 日独間カルチャーギャップはかなり大きく、日本側の歩み寄りなくして相互理解は難しい
  • 日系企業のドイツ人の間では、人事評価、職業訓練、キャリア形成に関する不満が多い
  • ロジック明確化を通じた相互理解と日独各々の得意分野での役割分担を推奨

異文化カルチャーマップにおけるドイツと日本の位置関係

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード教授や、『異文化理解力』(英治出版)の著者エリン・メイヤー教授などの異文化コミュニケーション関連データを参考に、筆者の個人的経験も踏まえ、日独の職場における文化の違いの可視化を試みたものが下記の図表である。あくまで傾向だが、ご自身の経験とも照らし合わせて参考にしていただきたい。

ドイツ人は日本人と同様に、時間に厳格で、長期的視点に立って仕事を進める真面目な側面がある、というイメージは間違っていない。人生を楽しむ方向に安易に流れることなく、仕事を頑張ろうとする傾向も日独共通で見られる。しかし、ドイツ人は空気や行間を読まず、ネガティブなことでも面と向かって直言し、対立を厭わない(ただし、後腐れは驚くほど少ない)。日本のように人間関係を重視し過ぎず、個人のスキルと自分の都合を優先してどんどん仕事を進め、自分の担当業務以外にはおおむね関心が低い。残業は無能の証として拒否し、自分の仕事が終われば速やかに帰宅し、夜の宴席に付き合ってもらうのはかなり難しい。

逆にドイツ人の立場から見ると、日本の意思決定は組織の中を不透明に行ったり来たりして時間がかかる上、結局リスクを取ろうとしないので非常に苛立たしく感じる。ドイツ人は日本人と文化的にかなり遠い存在であり、日本側の歩み寄りなくしてお互いの理解が深まることはない、ということをまず覚悟しておくべきだろう。

日系企業でよく聞かれるドイツ人社員の不満

転職口コミサイト「Kununu」などで見かける日系現地法人のドイツ人社員の不満の中で最も多いのは、人事評価、職業訓練、キャリア形成に関するものである。短時間で効率よく大きな成果を上げたことや、専門スキルや資格はとかく軽視されがちである。日本人幹部相手に声高にアピールや要求を繰り返す人だけ昇給や昇格面で得をして、静かに頑張っている社員ほど割を食ってしまう。小規模な企業だとある程度やむを得ない部分もあるが、職業訓練やキャリア形成の機会が非常に少ない。また、日本人駐在員の処遇は非常に手厚いことが多いため、ドイツ人社員の間では不満がたまりやすい。

加えて、日本人社員の公私混同にも注意が必要だ。日本人駐在員の役所関連手続きや各種トラブル処理(家財の修理、近隣との係争対応など)は、ジョブディスクリプションに明示でもされていない限り、ドイツ人同僚に任せるのは筋違いである。あくまで私的な依頼として、必要な場合は報酬などを用意した上で丁寧にお願いするべきだろう。

お互い働きやすくするためのおすすめソリューション

以前本誌 1198号で、①日本人幹部だけの日本語会議をやめること、②丸暗記した有益なドイツ語フレーズ以外は英語で済ますこと、をお勧めした。今回はもう少し質的な提案をしたい。

日本人幹部は上位者になればなるほど、無意識のうちに自分だけが持つ高次元の経営情報と自社固有のカルチャーに縛られた意思決定を下してしまい、ドイツ人から理解されにくくなる。また、日本式の細か過ぎるPDCAやスケジュール管理も嫌われる。ドイツ人担当者に納得して動いてもらうためには、社風部分も含めてロジックを明確に言語化して説明した上で、管理項目は真に必要なものだけに絞り込むべきだ。

逆にこうした努力を続ければ、自社カルチャーへの理解が深まり、個人的な信頼を勝ち取ることができる。ブレークスルーが必要な時には、まずドイツ人幹部に自由にソリューションを提案してもらい、日本人幹部は自社内のハードル突破(本社の説得など)に注力するという役割分担も有効だ。これらは筆者の長年にわたるドイツ勤務で相応に効果を実感できた手法なので、ぜひ試してみていただきたい。

日独職場の異文化カルチャーマップ

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