Hanacell

独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計14年間ドイツに在住。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第29回これからはユーロの時代!?ユーロは国際基軸通貨になるか

ユーロは1999年の導入以来、着実に国際的な地位を固めてきた。特に最近は、米財政やドル安誘導政策発動に対する懸念を背景にユーロ高が進むなど、ユーロがより大きな役割を果たすことに対する期待が高まっている。今回はユーロが国際基軸通貨となるための論点を整理し、その展望について論じてみたい。

  • ユーロは国際通貨としての地位を確立している
  • 国際基軸通貨としてユーロには、経済・金融面と国際的影響(≒軍事)力が不十分
  • ユーロが国際基軸通貨化することはなさそうだが、ドル安ユーロ高リスクには備えが必要

野心なき国際主要通貨「ユーロ」

欧州単一通貨ユーロが1999年初に誕生してから、はや四半世紀が経過した。2026年1月からはブルガリアが加わり、21カ国が参加する大所帯になる見込みだ。ユーロ圏内でのビジネスにおける為替リスクや送金手数料が激減した上、ユーロ導入前の法定通貨ドイツマルクに比べて1割ほど安いため、ユーロはドイツ輸出産業の隠れた追い風となっている。

ユーロの番人である欧州中央銀行(ECB)は、域内の物価や金融システムの安定を優先し、ユーロの国際利用をさほど積極的に推し進めてきたわけではなかった。しかし、アフリカ・中東・アジア諸国との取引においてもユーロの利用が拡大し、ユーロを使う人が多いので、自分も使わざるを得なくなるという「ネットワーク外部性」が発揮されつつある。今や下表に示した通り、ユーロはドルに次ぐ世界第二の国際通貨としての地位を確立している。

ユーロが国際基軸通貨になるための条件

多くの国の間で貿易や国際的な投資などの取引に使用される国際通貨のうち、ほかの通貨よりも大きな存在感を持つものが「国際基軸通貨」と呼ばれる。ドルは第二次世界大戦以降、圧倒的な経済規模、貿易・決済量、軍事力、国際的影響力などを背景に、国際基軸通貨の地位を維持している。ユーロがドルにとって代わるためには、以下の3点でドルを凌ぐ必要があるが、いずれにしても実現する可能性は低そうだ。

第一に、経済の規模と質の問題がある。現時点でのユーロ経済は、規模面では米国はおろか中国にも見劣りしている。少子高齢化で人手不足が深刻な上、米国のような活力あるイノベーションによる生産性向上や高成長はとても期待できそうにない。気候変動対策で世界的リーダーシップを発揮する可能性も低下している。

第二に資産運用面での問題だ。ユーロの債券市場と株式市場はドルに比べて規模が小さく、大きな取引を低コストで遂行することが難しい。国ごとの規制の違いも障壁となっており、資産運用先として使いづらい。加えて、経済・金融危機勃発時における加盟国間での足並みの乱れ、対応力不足にも不安が持たれている。

第三の問題は、国際的影響力面で見劣りすること。ユーロ圏が外交力と軍事力の両面で米国以上のプレゼンスを確立し、ほかの国々を動かしていくような姿はとても想像できない。米国が「自国ファースト」で他国の信認を失っても、安全保障面での影響力は圧倒的であり続けるだろう。

国際基軸通貨化はなくてもドル安への備えが必要

今後は中国やロシアなどの脱ドル化がある程度進みそうだが、ユーロの国際利用がドルを上回るためには、米国の凋落とユーロ圏の台頭の両方が必要だろう。具体的には、米国金融・経済の深刻な混乱、信認低下、軍事力の縮小と並行して、ユーロ圏の経済活性化、財政・金融と資本市場の統合深化、軍事的プレゼンスと国際的影響力の拡大が進み、その結果としてドルからユーロへの資金シフトが促されるという展開だ。そのようなシナリオが実現する可能性は極めて低いので、ユーロはドルに次ぐ世界第2位の地位を維持するにとどまるだろう。

ただし、ユーロに対してドルが急落するリスクには十分な備えが必要だ。新興国を中心に、米国の経済制裁を回避するための代替通貨(一時避難先)としてユーロが選択されやすくなっている。当面は、①米財政懸念やインフレ懸念を背景とする米国債の入札不調(悪い金利上昇)、②ドル安誘導政策発動を示唆するようなトランプ米大統領の発言、③米景気急減速に伴う大幅利下げ観測の台頭、などによるドル安ユーロ高はいつ起こってもおかしくない。いざという時すぐ動けるよう、どんな時にどのような手続きでどれくらいドルを売るのかについては、あらかじめ明確にしておくことが求められる。

主要通貨の国際シェア比較

国際決済 外国為替市場 資産運用 経済規模 一言メモ
SWIFT
決済シェア
外為市場
取引シェア
外貨準備
シェア
世界国債
インデックス(FTSE)
シェア
世界株式
インデックス(MSCI)
シェア
名目GDP
世界シェア
時期 2024/11 2022/4 2025/3 2025/6 2025/6 2025
米ドル 47.6% 44.2% 57.7% 約40% 約64% 26.8% ドル安誘導懸念あり
ユーロ 22.2% 15.3% 20.1% 約30% 約13% 14.8% 次期基軸通貨候補筆頭
日本円 3.4% 8.3% 5.1% 約10% 約5% 3.7% 円の国際化進まず
人民元 3.9% 3.5% 2.1% 約10% 約3% 16.9% 米ドル依存脱却を狙う
 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express SWISS ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド

デザイン制作
ウェブ制作