第31回ドイツ5大研秋季合同経済予測から読み解く日系企業への示唆
9月25日に発表されたドイツ5大研秋季合同経済予測は、ドイツ経済の輸出依存型モデルから内需主導型モデルへの転換に向けた具体的な道筋を示しており、事業・経営計画を策定する際のベースシナリオとして活用できる。本稿では当該報告書のポイントを整理し、在独日系企業にとってのインプリケーションを解説する。
- 詳細かつバランスの取れた5大研分析は、タイムリーなドイツ経営環境分析として有益
- ドイツ経済は今年小さなプラス成長に止まった後、来年以降は内需主導で回復する見込み
- 内需・政策・人材の3分野での大きな変化の中にビジネスチャンスが見込まれる
ドイツ経済成長のメインシナリオ
ドイツ5大経済研究所が発表した秋季合同経済予測では、トランプ関税とドイツ財政出動の影響を織り込んだ上で2027年までの見通しが示されている。それによると、15%のトランプ関税はドイツの輸出を最大▲(マイナス)2.5%、実質GDP(国内総生産)成長率を今年▲0.2%、来年▲0.5%押し下げるが、ドイツの大規模財政出動がGDPを来年+0.8%、再来年+0.4%押し上げるため、全体としては来年以降+1%強の成長への回復が予想されている。2023年と2024年の実質GDP成長率が、8月にそれぞれ前年比▲0.9%/▲0.5%に下方修正されており、3年連続で今年もマイナス成長に陥ることが懸念されていたが、5大研は今年+0.2%のプラス成長を見込んでいる。財政出動の効果が出れば、来年は+1.3%、再来年は+1.4%と景気回復が期待される。本報告書は金融市場のコンセンサスとも整合的でバランスの取れた内容になっており、予算や経営計画策定の際のベースシナリオとしてご活用いただくことをお勧めする。
5大研秋季合同経済予測
2024年 | 2025年 | 2026年 | 2027年 | 一言メモ | |
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実質GDP(前年比) | ▲0.5% | +0.2% | +1.3% | +1.4% | 財政出動で来年以降は回復 |
うち 製造業(除建設) | ▲2.8% | ▲0.2% | +1.5% | +1.1% | 輸出ではなく内需主導の回復 |
情報通信 | +2.6% | +0.5% | +2.7% | +3.0% | デジタル化・AI投資で好調 |
商業・交通・観光 | +0.2% | +0.4% | +1.5% | +1.5% | 交通インフラ整備等が追い風 |
インフレ(前年比) | +2.3% | +2.1% | +2.0% | +2.3% | 2%以下には下りづらい |
1人当たり賃金(前年比) | +5.2% | +3.7% | +3.2% | +3.3% | 3%強の賃金上昇が続く |
失業率 | 6.0% | 6.3% | 6.1% | 5.6% | 2027年には人手不足深刻化も |
5大研秋季経済予測の注目点
今回の景気回復局面は、輸出主導ではなく内需主導となることが特徴で、輸出依存度が高いドイツの製造業も国内投資増加に支えられて来年からプラス成長に転じることが予想される。長年にわたる緊縮財政のせいでこれまで低迷していた設備投資は、これから発動される各種税制優遇・補助金などに刺激され、来年+2.8%、来年+3.1%と活性化する見込みである。産業セクター別で最も強い成長が期待できるのは、デジタル化やAI投資の追い風が吹く「情報通信」で、次いで交通インフラ整備や個人消費回復で潤いそうな「商業・交通・観光」となっている。景気が強めに推移することもあり、インフレ率は2%をやや上回る水準から下げ渋る見込みで、賃金はインフレに1%程度上乗せした3%強で推移すると予想されている。景気回復にやや遅れて失業率は低下に転じ、2027年頃には人手不足が深刻化するリスクがあるので注意が必要だ。ドイツ経済はトランプ関税と中国のデフレ輸出のため、輸出依存型モデルの限界に直面しており、内需主導型への転換を迫られている。本報告書はドイツ経済の競争力回復のため、①輸出依存からの脱却/内需対応強化、②サプライチェーン再構築、③規制緩和/許認可手続き簡素化、④労働力確保、⑤企業の負担軽減/投資促進、⑥気候変動対策支援、⑦財政の健全性確保、などを提言しているが、これらはほぼそのまま日本にも当てはまりそうだ。
在独日系企業へのインプリケーション
本報告書からは、ドイツ経済が、①内需、②政策の枠組み、③人材の3分野における大胆な変化を通じて新たな成長モデルへの移行に取り組もうとしていることが読み取れる。在独日系企業としては、こうした変化を単なる外部環境の変化としてではなく、現地社会との接続性を高めつつ競争力を高めるための絶好の機会と捉え、戦略的に対応すべきだろう。
まず内需分野では、財政出動のメインターゲットとなっているインフラ関連(不動産・建設、デジタル、脱炭素などを含む)と軍事関連だけでなく、医療・介護、教育、観光などでもビジネスチャンス拡大が見込まれるので、その取り込みに注力したい。政策の枠組み面では、減税以外にも民間投資活性化とイノベーション促進を狙って今後もいろいろな政策が打ち出されてくるだろう。現地企業・研究所との連携も絡めながら、研究開発費補助や税制優遇措置を積極的に活用したい。人材分野では、政府が進めている高齢者および高度スキル外国民の活用、職業教育強化などに沿った人材確保に注力する必要がある。特に2年後あたりに深刻化しそうな人手不足にしっかり備えておいていただきたい。