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独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 デュッセルドルフ在住経済アナリスト。在独歴は14年。大手邦銀の駐在員を務め、ケルン大学経営学部にも留学した。現在はブログYouTube「日独経済日記」のほか、X(@dateno)でドイツ関連テーマを幅広く解説する。訳書に『毎日が必ずうまくいく366のヒント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
https://dateno.hatenablog.com

第39回年に平均20日間!?ドイツで病欠が多い理由

ドイツの病欠率が近年急上昇し、政財界で熱い議論の的となっているが、その真因は「サボり」ではなく、データ改善による「現実の可視化」だった。政策対応による病欠抑制は非常に困難であり、各企業が個別に対応するしかない。本稿では「ドイツの病欠の新常識」をひも解いた上で、戦略的な対応方法を提案する。

  • 病欠急増の主因はサボりではなく、電子証明(eAU)導入に伴う現実の可視化
  • 政府は待機日導入などの病欠抑制策を模索したが、強い反発で手詰まりの状況
  • 病欠には個別対応が重要であり、企業単位での社内健康管理制度の充実がポイント

急増するドイツの病欠と広がる波紋

近年、ドイツにおける病欠(Krankenstand)の多さが熱い議論を引き起こしている。健康保険組合のデータによると、長年4%台で推移していた病欠率が、2022年以降は6%近くまで切り上がり、従業員1人当たりの年平均欠勤日数も、かつての約15日から約20日へと急増している。

病欠率急増の最大の理由は、2022年から本格導入された「電子就労不能証明」(eAU)にある。以前は、軽度な風邪などで受診しても、従業員が雇用主や保険組合に報告し忘れるケースが多発していた。しかし、eAUの導入で医師からデジタルデータが自動送信されるようになり、これまで見逃されていた病欠が正確に統計に反映されるようになったのである。また、一定の条件のもと、軽度の場合は電話で初回のeAU(最長5日間)が取得可能となった。加えて、コロナ禍を経て「少しでも病気の兆候があれば、同僚にうつさないために休む」という意識が定着したこと、長時間のデスクワークや強度の肉体労働による疲労やけが、そしてストレスフルな環境下での精神疾患の顕著な増加が、病欠を高止まりさせている。

病欠率(1日当たり社員100人中何人が病気で欠勤しているか)

病欠率(1日当たり社員100人中何人が病気で欠勤しているか) 出典:BKK Dachverband 出典:BKK Dachverband

これに対し、ドイツの政財界からは「電話による病欠証明の悪用ではないか」「正当な理由のないサボり(Blaumachen)が増えたのではないか」といった疑念が噴出した。しかし少なくとも現時点では、客観的なデータで裏付けられていない。

病欠を減らす策なし政治もお手上げ状態か

メルツ政権は、この状況をドイツ経済の競争力を削ぐ重大な課題と位置づけ、対策を急いだ。もともとビジネスエリートでもあるフリードリヒ・メルツ首相(キリスト教民主同盟・CDU)は「私たちは本当にこれほど病気なのか?」と疑問を呈し、電話による病欠証明の廃止を強く主張した。これは使用者側から喝采を浴びたが、連立相手の社会民主党(SPD)や労働組合、医療専門家から「電話で発行されたeAUは病欠全体の約0.9%に過ぎず、廃止すれば軽症患者で待合室が溢れ、かえって感染リスクが高まる」と強く反発され、見送らざるを得なくなった。

また、病欠後6週間も給与が保障されている現行の手厚い制度を修正し、最初の数日間を無給とする案も議論されたが、これも労働者サイドからの激しい抵抗で頓挫した。その後、政府は安易に病欠しないためのインセンティブ強化(病欠の少ない従業員への税制優遇など)を模索しているが妙案は見当たらず、政策対応は手詰まりの状況にある。

病欠はドイツの文化?企業が個別に工夫すべし

ドイツにおける現状の高水準の病欠は、ドイツ固有の文化と法制度に基づく必然的な結果であり、ドイツの労働人口の高齢化が今後一層進むことを考えれば、病欠はさらに増えやすくなるはずだ。日本の基準で見て「休みすぎだ」などと嘆いていても仕方がない。政策対応に期待できない以上、個々の企業で手を打つしかない。ある程度の病欠は、事業運営上回避できない構造的コスト、他社にも平等に課される競争条件として割り切り、人員計画やスケジュール管理に最初から組み込んでおく必要がある。そして、このような状況について、日本の本社側にもしっかり理解しておいてもらわなければならない。

BKK Dachverbandの直近のデータ(2025年)が示す病欠の原因トップ3は、①筋骨格系疾患(腰痛、リウマチ、けがなど)、②呼吸器系疾患(風邪、インフルエンザなど)、③精神疾患(うつなど)である。この全体感を念頭に置いた上で、自社の個人・チーム・業務ごとに病欠の原因を特定し、従業員の個別事情や本音に精通している経営評議会(Betriebsrat)や健康保険組合などと緊密に連携しながら、社内健康管理制度の充実(カウンセリング窓口の設置、税制優遇対象となる健康増進プログラムの導入など)で実務的な予防策を講じていくべきだろう。また、日本人駐在員やマネジメント層自らが、体調不良時にはしっかりと休み、「健康第一」のサステナブルな企業文化を率先して醸成することも、意外と効果的なのではないかと思っている。

 
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