第42回ドイツの在宅勤務事情 ハイブリッド型が定着
以前本コラムでは、ドイツにおける在宅勤務(Homeoffice)の意義や特徴、オフィス市場への悪影響等については取り上げた。本稿では、その後の在宅勤務の定着状況や、従業員および経営陣にとっての具体的な価値等について、最新データを用いてアップデートしたい。
- 週2日前後のハイブリッド型勤務は、ドイツのニューノーマルとして完全に定着
- 在宅勤務には給与同様の経済価値があり、希望に反するオフィス回帰強制は副作用大
- 在宅勤務の積極活用は、暗黙知のデータ化等を通じてデジタル化推進にも資する
在宅勤務は4人に1人 ニューノーマルはハイブリッド型
ドイツ連邦統計局のデータ(下図)によれば、全就業者の中の在宅勤務利用者の割合は、2019年の13%からコロナ禍を機にほぼ倍増し、現在もその高水準を維持している。利用頻度はコロナ禍当時よりやや減少しているが、週2日前後を中心とする「ハイブリッド型」が定着しており、その背景には、①ウェブ会議やクラウド基盤といったテクノロジーの普及と定着、②昨今のエネルギー価格高騰に伴う通勤コスト削減ニーズの高まり、③深刻な人手不足下において、優秀な人材を獲得・維持するための「必須条件」として在宅勤務が機能している現実がある。
ドイツ在宅勤務者の割合

在宅勤務の頻度

給与減額もいとわない!? 在宅勤務の価値
ドイツのバイエルン州デジタル変革研究所(bidt)の最新調査から、労働者が在宅勤務に見出す「金銭的価値」の生々しい実態が浮き彫りとなった。現在、在宅勤務を利用する労働者の44%は「追加給与が支払われるなら完全出社に戻してもよい」と回答しているが、その対価の中央値は「手取りで月額500ユーロ」に上る。反対に、業務上より多くの在宅勤務が可能な労働者の35%は、「週にあと1日」在宅勤務を増やせるのであれば給与減額を受け入れるとしており、その許容額の中央値は「手取りで月額100ユーロ」となっている。労働者がこのように在宅勤務を高く評価する理由のトップ5(重要と考える人の割合/複数回答可)は、①労働時間と働き方の柔軟性(84%)、②時間の節約(84%)、③仕事とプライベートの両立(83%)、④自己管理のしやすさ(79%)、⑤集中力と生産性の向上(76%)となっている。
対照的に、経営陣が強行する「オフィス回帰」(Return-to-Office)政策は組織に深刻な副作用をもたらしうる。労組系シンクタンクである経済社会研究所(WSI)の調査によれば、労働者が希望する在宅勤務時間と実際に許可された時間に「20時間以上」の乖離が生じた場合、過大な労働負荷を感じる人の割合は乖離なしの場合の3倍(18%)、健康状態悪化を訴える人の割合は2倍(28%)に急増する。在宅勤務が、労働者の「経済的インセンティブ」としてだけでなく、「ウェルビーイングの基盤」としての地位を確立していることが分かる。
戦略的な在宅勤務 デジタル化推進の基盤に
日本の企業風土では、場の「空気を読む」ハイコンテクストな対面コミュニケーションが依然として重視されるため、パンデミック終息後は一気にオフィス回帰が進んだ。「従業員エンゲージメント(組織への自発的な貢献意欲)」が世界最低水準にある日本では、管理の目が届かない在宅勤務での生産性低下が強く懸念されている。対照的に、職務内容と評価の透明性が高いジョブ型雇用が浸透するドイツでは、この点はさほど大きな議論にはならない。希望に合致しない在宅勤務の制限や剥奪が、従業員の満足度を著しく引き下げ、優秀な人材の流出や、心身の不調につながるリスクの方がよほど心配だ。
在宅勤務は企業の競争力を左右する重要な要素となり得る。テレワーク環境下では業務指示や進捗報告の大半がデジタル上で完結するため、アナログだった「暗黙知」が構造化データとして蓄積されやすくなり、今後本格的なデジタル化を推進する上で極めて好都合だ。在宅勤務を前提とした業務プロセスの再構築は、社内に眠る属人的な知見を人工知能(AI)が処理可能な形式へと変換し、真のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に貢献する。属人的なアナログ組織から、データ駆動型のデジタル組織に生まれ変わるために、在宅勤務の戦略的な活用をお勧めしたい。



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