#10 私は〇〇になりたい
1歳の息子が保育園に通い始めた。そこはごく庶民的だが国際色豊かな保育園で、ヨーロッパ系をはじめ、アラブ、アフリカ、アジア系の子どもたちが混ざっている。僕にとってこれほど多民族の幼児と触れ合うのは初めての経験なので、最初はいくらか戸惑いがあった。
ドイツでは慣らし保育にかける期間が平均1~2カ月と比較的長く、僕も毎日保育園に通って、息子やほかの園児たちと小一時間過ごす。そうしていれば自然とみんなの名前を覚え、それぞれの性格も分かってくるし、一緒に遊べば情も湧く。肌や目の色が異なっていても、子どもたちは一様に砂遊びに夢中で、不思議なことが大好きで、風船が割れたら悲しくなって泣くし、ママとパパの愛情を切に求める。そんな当たり前のことを身を持って知ると、なんだか深く感動する。
そんな日々のなかで、「Hoch am Himmel」という童謡を覚えた。「Wenn ich nicht ein Kindlein wäre, möchte ich ein 〇〇 sein」(もしも私が子どもじゃなかったなら、私は〇〇になりたい)という歌詞の〇〇にさまざまな生き物を当てはめて歌う。例えば、鳥になりたい、クジラになりたい、カマキリになりたい……などなど。
そういえば幼い頃、僕はセロテープになりたいと思っていた。まさかの無機物である。なぜなら工作が大好きだった僕にとって、それは何でもつなぎ合わせられる超便利なマストアイテムだったからだ。しかも目立たない。そんな僕も今や大人になった。あいにくセロテープになることは叶わなかったけれど、それで良かったと思う。