#17 まっくろさん

この夏は、ほぼ毎日をクラインガルテンで過ごした。今年はブドウが豊作だ。2歳半の息子は全裸になって、ミミズを探したり、畑の作物をつまみ食いしたりした。少しずつ修繕して居心地の良くなった小屋では、昼寝やお絵描きもした。
その小屋で遊んでいたある日のこと。天井から「ゴソゴソッ、ゴソ、ゴソッ」という物音が聞こえてきて、僕らは息を呑んだ。ハトかイタチでも屋根裏に潜り込んだのだろうか。怖がる息子を安心させるために僕は「トトロに出てきた、まっくろく3 3 3 3 3ろすけ3 3 3 かな?」と話しかけた。すると息子は「まっくろさん……?」と言ってこちらを見つめ返した。その目には明らかな不安の色が浮かんでいる。
「それじゃあ、まっくろさんの絵を描いてみようか!」。彼の恐怖がやわらぐようにと考えた僕は、息子を膝の上に座らせ、絵を描き始めた。普通ならここで愛らしいまっくろくろすけを描くべきところなのだが、つい魔が差した。気がつけば僕は、恐ろしい化け物を描いてしまっていたのだ。
まずい、やってしまった……‼︎ と悟った時には、もう遅かった。その絵を見た彼は、息をしているのか分からないほど静かになり、体はガチガチで、目には一筋の光もない。そしてその夜、彼はベッドの上でまっくろさんを思い出して大泣きした。トラウマを植え付けた僕は大反省である。
ちなみにその正体はMarder(テン)で、どうやら今は子育て期間中らしい。ドイツではこの時期に捕獲したり追い払うことを禁止しているようで、しばらく僕らは二世帯住まいとなった。今も小屋にはほんのり獣の匂いがする。



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック




