ドイツワイン・ナビゲーター


ぶどう畑の土壌 5 変成岩と火成岩

この章では、岩石が熱や圧力などの影響でさらに堅固になった変成岩、マグマが固まってできた火成岩をご紹介し、土壌解説を締め括りたいと思います。

●変成岩

ライン川流域やモーゼル川流域には、デヴォン紀(4億年前)の粘土など、海底堆積物が岩石化した粘板岩(シーファー / Schiefer)が見られます。粘板岩に特徴的な灰青色は、堆積の際の有機物に起因しています。粘板岩は、このような堆積物から形成されたシルト岩などが、高温化や圧力作用を幾度も経て板状になったもので、状態によって堆積岩に分類されたり、変成岩に分類されたりします。粘板岩は主に石英、雲母、緑泥石といった鉱物から成り、鉄分、カリウム、マグネシウムを豊富に含みますが、石灰分は含有しません。また、非常に風化しやすい岩石で、水はけが良く、保水力がほとんどありません。通気性に優れ、熱を蓄えやすいものの、ぶとうにとっては根を張るのが困難な土壌です。

片岩(シスト)は、ドイツではグリマーシーファー(Glimmerschiefer)と呼ばれる、粘板岩よりも変成の進んだ岩石です。グリマーとは雲母のことで、片理と呼ばれる構造ゆえ、平行に剥がれやすくなっています。グリマーシーファーはフランケン地方などに部分的に存在しますが、ドイツよりもオーストリア、スイスのアルプス地方に多く見られます。

千枚岩(フィリット / Phyllit)は、ラインガウ地方などで見られる古い岩石の1つ。4億5000万年前のオルドビス紀に形成されたといわれています。海岸沿いの粘土の堆積が隆起の際に深い谷に沈んで折り畳まれ、重みで粘板岩状になったもので、やはり雲母などの鉱物から成り、さらに変成が進むと片岩あるいは片麻岩(グナイス / Gneis)になります。千枚岩も粘板岩と同じ性質を持ち、石灰分は含有しませんが、適度なミネラル分を含んでいます。

珪岩(クワツィット / Quarzit)は、ラインガウ地方、ラインヘッセン地方、ナーエ地方に見られます。デヴォン紀の砂状の堆積土壌が砂岩となり、その後強い圧力を受けて変成したもので、ほとんどが石英から成っています。水はけの良さは中くらい、保水力もあまりありません。しかし通気性が良く、熱を素早く蓄積します。珪岩も石灰分を含有せず、ミネラル分は少なめです。

●火成岩

ドイツのぶどう畑には火成岩土壌も多く、中でもよく知られているのがアール、ミッテルライン、 そしてバーデン地方のカイザーシュトゥールです。

火成岩のうち、マグマがゆっくりと冷却固結したものを深成岩といいます。ラインガウ地方、ヘッシッシェ・ベルクシュトラーセ地方、プファルツ地方、ザクセン地方で見られる花崗岩(グラニット / Granit)は深成岩に分類されます。変成岩とほぼ同様の特徴を持ち、水はけが良く、保水力がなく、通気性に優れ、熱を蓄えますが、根付きにくい土壌です。石灰分はなく、ミネラル分のポテンシャルは中くらいです。ナーエ地方などで見られる斑岩(ポルフィル / Porphyr)も、火成岩の1つです。

 
Weingut Schäfer-Fröhlich
シェーファー・フレーリヒ醸造所(ナーエ地方)

 

ツィアアイゼン一家
ナーエ地方ボッケナウにある家族経営の醸造所。醸造所の伝統は200年を越えるが、ハンス&カリン・フレーリヒ夫妻が現在の醸造所の礎を築いたのは1970年代のこと。2.5ヘクタールからスタートしたぶどう畑は、現在では17.5ヘクタールに拡大。1995年からは息子のティムが醸造を担当、ティムの妻ニコルと妹のマイケ・ペーターが販売業務を担当している。栽培品種の約75%はリースリング。ボッケナウのフェルゼンエックに6ヘクタールを所有。岩石の多い急斜面の特級畑(VDP格付)で、主にデボン紀のスレート岩、珪岩、火成岩の一種である玄武岩で構成される。醸造所の顔であるフェルゼンエックのリースリングは、辛口のみならず極甘口も評価が高い。ティム・フレーリヒは2010年の「ゴー・ミヨ・ドイツワインガイド」で最優秀醸造家賞を受賞している。

 

Weingut Schäfer-Fröhlich
Schulstraße 6, 55595 Bockenau
Tel. 06758-6521
www.weingut-schaefer-froehlich.de


2011 „Schiefergestein“ Bockenauer Riesling trocken
2011年「シーファーゲシュタイン」ボッケナウアー・リースリング
辛口 16.00€(完売)
※2012年ヴィンテージは4月中旬より発売  17.50€

 

2009年 シューレン・ブラウエ・シュペートブルグンダー
ナーエ地方はあらゆる岩石の標本箱のような土地。ティム・フレーリヒは土壌の多様性を最大限に表現するワイン造りに挑んでいるが、注目したいのが、デボン紀シーファーの風化土壌の特徴が活かされたボッケナウのオルツワイン(村名ワイン)であるこのリースリング。オルツワインとはいえ、ぶどうはすべて特級畑フェルゼンエックのもの。つまり、この畑のぶどうからはグローセス・ゲヴェックス(VDP格付の最高級辛口ワイン)が造られているが、この軽快な「Schiefergestein」(スレート岩)は、若木のぶどうだけを選別し、醸造したものだ。ミネラリッシュなトーンに、熟れた果実味が重なる魅力的なワイン。辛口のほか、カビネットもリリースされている。

 

最終更新 Freitag, 09 Oktober 2015 15:04
 

ぶどう畑の土壌 4 堆積岩

この章では、前章でご紹介した様々な土壌に大きな圧力が掛かったり、あるいは脱水固結して岩石となったりしたものをご紹介しましょう。

黄土を構成しているシルト(粘土より粗く砂より小さい砕屑土)が続成作用を経て堆積岩となったものは、シルト岩あるいは泥岩と呼ばれます。通常、海底や湖の底に堆積したシルトが脱水固結して岩石になります。

構成粒子の大きさによって、粘土岩に分類されるものもあります。これらが変成岩になると、剥離性の高い粘板岩、千枚岩、片岩(結晶片岩)となります。

また、泥灰土(マール)が固結すると、泥灰岩になります。これは、粘土成分と炭酸塩成分が混在する堆積岩です。メルゲルはラインガウ地方、ラインヘッセン地方、プファルツ地方、バーデン地方などで見られます。泥という文字の付く岩石には、ほかに砂や粘土、炭化物、マールなどで構成される泥土岩(コイパー / Keuper)があります。泥土岩はかつて雑色砂岩に分類されていました。主にフランケン地方、モーゼル地方、プファルツ地方、バーデン地方、ヴュルテンベルク地方に見られる土壌で、約2億年前にできた岩石だそうです。

雑色砂岩(ブントザントシュタイン / Buntsandstein)はフランケン地方、ザーレ・ウンストルート地方、ナーエ地方、プファルツ地方などに見られる砂や粘土が岩石化したもの。約2億5000万年前に形成されたといわれています。雑色砂岩は、浅い湖や河川に重なった、黄色っぽいものから赤みを帯びたものまで様々な色調の砂状の堆積物が圧力によって固まってできたもので、ドイツでは比較的多く見られます。このほか、単色系の砂岩(ザントシュタイン / Sandstein)がザクセン地方、ナーエ地方、ラインガウ地方などに分布しています。

雑色砂岩や砂岩はやがて風化し、小石の多い土壌となります。砂岩は一般的に水はけが良く、あまり水分を蓄積しません。そのため通気性に優れ、熱を蓄えることができる土壌で、石灰分やミネラル分が少ないのも特徴です。

石灰岩(カルクシュタイン / Kalkstein)はラインガウ地方、ラインヘッセン地方、プファルツ地方、バーデン地方などに多く、貝殻石灰岩(ムッシェルカルク / Muschelkalk)はフランケン地方、モーゼル上流地域、プファルツ地方、ヴュルテンベルク地方、ザーレ・ウンストルート地方で見られます。石灰岩土壌は、特にフランスの冷涼なワイン生産地で重視されています。水はけ、通気性が良い上、水分を保持し、炭酸カルシウムを多く含む土壌で、白っぽい色をしています。ちなみに、石灰岩が熱変成されると大理石になります。貝殻石灰岩は、サンゴや貝殻といった生物の殻が堆積してできたもので、中に化石などが見られることもあります。チョーク(白亜、クライデ / Kreide)や石膏(ギプス / Gips)も石灰岩の部類に属します。

粘板岩(シーファー / Schiefer)は、アール地方、ミッテルライン地方、ラインガウ地方、モーゼル地方、ナーエ地方、ザーレ・ウンストルート地方で見られ、堆積岩から変成岩まで、あらゆる段階の岩石が存在しますが、これについては次回、詳しくお話しましょう。

 
Weingut Ziereisen
ツィアアイゼン醸造所(バーデン地方)
ツィアアイゼン一家
ツィアアイゼン一家。奥中央の2人が、ハンスペーター&
エーデルトラウト・ツィアアイゼン夫妻

 

バーデン地方最南西端、フランスとの国境に接するマルクグレーフラーラント地域の醸造所。オーナーのハンスペーターは、木工職人の修業を経て醸造家に転身した1代目だ。醸造所の設立は1991年。ブルグンダー品種に力を入れている。地元の造り手やブルゴーニュ地方の造り手と情報交換をしつつ、畑では手仕事に重点を置き、完璧なぶどうを収穫。醸造においては、管理しつつ最小限の手を施すという彼独自のスタイルが生まれた。ブルグンダー種のほかには、地元の伝統品種グートエーデルにも愛情を注ぎ、そのポテンシャルを引き出すことに成功している。

 

Weingut Ziereisen
Markgrafenstraße 17, 79588 Efringen-Kirchen
Tel. 07628-2848
www.weingut-ziereisen.de


2009 Schulen Blaue Spätburgunder Badischer Landwein
2009年 シューレン・ブラウエ・シュペートブルグンダー 22.00€(完売)
※2010年産は13年3月にリリース。

2009年 シューレン・ブラウエ・シュペートブルグンダー
手前がシューレン、奥がグートエーデル「Viviser」

 

ジュラ紀の石灰岩土壌の畑で育つシュペートブルグンダー。ハンスペーターの畑はすべてエフリンゲンのエールベルクにあるが、ワイン名の「シューレン」はそのうちの一区画のかつての名称。小型のオーク樽で18カ月熟成させたもので、新樽の比率は20%。造り手の手仕事の確かさがしみじみと感じられるワイン。ラントワインとしてリリースしているのは 州の官能検査局が彼のワインを「典型的なバーデンワインではない」と判断し、AP番号(公認検査番号)をもらえなかったため。しかし、渾身の努力が実り、今や彼のワインの美味しさは世界的にも広く知られている。2008年産のシューレンは、ドイツ・ワインインスティトゥートが11年にロンドンで開催した世界各地のピノ・ノワール・テイスティングにて、上位10位内にランクインした。この時、彼の別のシュペートブルグンダー、ヤスピス・アルテ・レーベン(古木)もトップ10入りを果たしている。

 

最終更新 Freitag, 09 Oktober 2015 15:02
 

ぶどう畑の土壌 3 堆積土壌

ドイツにある13のワイン生産地域の土壌は、いずれも異なります。また、同じ地域内であっても土壌は均質ではありません。1つの村内、1つの畑内でも、その土質は異なります。その多彩さゆえに土壌が注目されるのです。今回から3回にわたって、ドイツのぶどう畑の代表的な土壌をご紹介します。

ドイツのすべてのぶどう栽培地域で見られるのが黄土(レス / Löss)と呼ばれる、氷河期の砂塵が風などによって運ばれ、堆積した土壌です。レスという名称は、ギリシア神話の風の神アイオロスから付けられているそうです。 黄土は農業に最適な土壌の1つとされ、含有されるミネラル分が豊富だといわれています。乾燥時は白っぽく、水分を蓄積しやすい土壌で、湿気を含むと黄土色になります。土壌の粒子は細かく、石灰分を多く含んでいます。比較的柔らかい土壌なので、ぶどうの根は無理なく伸びて行きます。

黄土には粘板岩(シーファー / Schiefer)など、ほかの岩石が混在していることもあり、この混在土壌には浸食によるものと、人工的に掘り返すことで改良された土壌(リゴゾール)とがあります。黄土土壌の大部分はシルト(粒子の粗い泥、シュルフ / Schluff)で構成され、粘土(トーン / Ton)も含まれており、香り高く、調和の取れたワインを生んでいます。

このほか、黄土が混在する土壌にローム(レーム / Lehm)があります。ナーエ地方やラインガウ地方、プファルツ地方、フランケン地方などで見られ、混在土壌はレス・レーム(Lösslehm)と呼ばれることもあります。ロームは砂とシルトと粘土の混在する風化堆積土。この土壌は粒子が粗めで、通気性や水はけに優れているそうです。

粘土土壌も、ラインガウ地方やナーエ地方、ラインヘッセン地方、プファルツ地方、バーデン地方など各地方で見られ、第三紀(約6500万年前から180万年前まで)起源の土壌もあります。ライン地方の粘土土壌は、細かい砂塵が静かな内海の底に堆積し、その後、土壌の隆起で海との繋がりが途切れたもの。堆積土は明るい緑色や灰色、青色など、様々な色調を帯びています。粘土は非常に締まった土壌で、保水力に優れていますが、保温性や通気性があまり良くない上、根が伸びにくいという特徴があります。こう書くとネガティブな印象を与えますが、粘土土壌は水分が多いと膨張し、減ると嵩が低くなるため、自力で土壌を耕すような効果があるそうです。石灰質は少なめですが、ミネラル分も窒素も充分に含まれているため、ぶどうの栽培にそれほど困難はないようです。粘土土壌からは、ボリューム感のあるワインが生まれます。

粘土土壌のある地域には、泥灰土(マール、メルゲル / Mergel)あるいはトーン・メルゲル(Tonmergel)という石灰質土壌と粘土から成る土壌も見られます。これも第三紀(この場合は約3000万年から2400万年前)の内海の堆積土壌だそうです。 泥灰土は通常、土壌の深いところにあり、ミネラル分が大変豊かな土壌。粘土土壌よりも通気性に優れています。

 
Weingut Leitz
ライツ醸造所(ラインガウ地方)

オーナーリューデスハイムの伝統ある醸造所。その起源は18世紀まで遡ることができる。第2次世界大戦で壊滅的な打撃を受け、戦後、現在のオーナー、ヨハネス・ライツの祖父ヨゼフ・ライツが醸造所を再建。ヨハネスは、父親が早逝したため、母親が副業として辛うじて維持していた醸造所を20歳の若さで継いだ。当初2.6ヘクタールだった所有畑は、現在では約40ヘクタールに拡大。リューデスハイムの急斜面の名醸畑から、テロワールを反映した、ミネラリッシュで重厚なリースリングを生産する一方、普段飲むのに適した軽やかなリースリングも生み出している。同醸造所は米国、英国、スカンジナビア諸国などへの輸出に力を入れ、辛口リースリングを広めている。2011年、ゴー・ミヨ年間最優秀醸造家賞受賞。VDP会員。

Weingut Leitz
Theodor-Heuss-Straße 5, 65385 Rüdesheim
Tel. 06722-48711
www.leitz-wein.de


2011 Eins-Zwei-Dry Riesling Qualitätswein trocken
2011年 Eins-Zwei-Dry リースリング・クヴァリテーツヴァイン(辛口)8.50€

2011 Magic Mountain Riesling Qualitätswein trocken
2011年 Magic Mountain リースリング・クヴァリテーツヴァイン(辛口)14.90€

2011年 Magic Mountainリースリング・クヴァリテーツヴァイン 2011年 Eins-Zwei-Dry リースリング・クヴァリテーツヴァイン「Eins-Zwei-Dry」は、ラインガウ地方のレスとレームの土壌から生まれるリースリングをブレンドした、ライツ醸造所のベーシックなリースリング。 シンプルかつ画期的なネーミングで辛口リースリングを世界的にアピールしている。リンゴと柑橘系の香味が初々しく、サラダなど毎日の軽い食事にぴったりのワイン。また、「Magic Mountain」はリューデスハイムの岩場の畑から造られるリースリングのブレンドで、フルーティーさに加え、タイムなどハーブの香りが魅惑的。ミネラリッシュで切れ味が良く、シンプルな味付けの肉料理にもよく合う。

最終更新 Freitag, 09 Oktober 2015 15:00
 

ぶどう畑の土壌 2 畑の風景ができるまで

土壌について門外漢の私が、ぶどう畑の成り立ちを何億年にも遡って述べるなど、とてもできない業です。そこで今回は、ガイゼンハイム研究所のペーター・ベーム博士が所属する調査グループが作成した資料を基に解説したいと思います。彼らの調査対象は、希有な地形としてその一部が世界遺産にも指定されているライン川流域。その成り立ちを簡単に追ってみましょう。

今から約4億年前の後期デヴォン紀、ヨーロッパとアメリカはローラシア大陸という1つの大陸を形成し、その南には南米、アフリカ、インド、オーストラリア、南極などが合わさったゴンドワナ大陸があったといわれています。当時、ライン地方は平らで内海があり、やがて河川がその内海へ大量の砂と粘土(トーン / Ton)を運び込むと、岸辺には目の粗い砂がたまり、海底には細かい粘土の粒子が堆積していきました。海底は何度も沈下し、堆積土砂は厚さ数キロメートルにも及ぶ岩石層となりました。デヴォン紀の終わりに大陸間の衝突が起こり、堆積層は押されて折り畳まれ、山塊は海面上まで隆起します。急傾斜の形成、岩石のスレート化はこの時に起こり、ライン・スレート山地(Rheinisches Schiefergebirge)が形作られました。また、石化した堆積物は上にある岩石の強い圧力によって変成していきました。

砂からは珪岩(クワツィット / Quarzit)が、粘土からは 変成過程にある粘板岩(トーンシーファー / Tonschiefer)ができ、こうして形作られたタウヌス珪岩やフンスリュック粘板岩(フンスリュックシーファー)は、ミッテルライン地方のぶどう畑の代表的な土壌となっています。

今日の地形は、約5000万年前の上ライン地溝(Oberrheingraben)とマインツ盆地(Mainzer Becken)の沈下によって出来上がりました。約3000万年前の漸新世にはこの場所は海で、亜熱帯の海岸だったタウヌス(Taunus)とベルクシュトラーセ(Bergstraße)の辺りにはサメやマナティーが生息していたそうです。大海と繋がっていたのは数百万年間だけでしたが、ライン川流域には小石や砂、粘土、石灰岩など、海の痕跡がみられます。海が引けると川の流れができましたが、粘板岩の山々はまだ深部にあり、後にライン川となる流れは緩やかな谷を縫って北方の海へ向かいました。

約200万年前の更新世には、粘板岩の山々が隆起して川は深いところに沈み、ドイツのグランドキャニオンとでもいうべきライン峡谷が形成されました。更新世とともに氷河期(氷期と間氷期が繰り返されます)が始まり、後期にはアルプスの氷河がライン川を形成、氷期と間氷期の繰り返しは今日も続いているそうです。氷結と氷解の繰り返しが岩を砕き、風化と堆積が起こって現在の風景が出来上がっています。ラインガウ地方やベルクシュトラーセ地方の斜面には、氷河期の風の強さを物語る、飛翔した砂塵の厚い層が形成されています。風にさらされない場所で空中から砂塵が梳き出され、形成されたのが黄土(レス / Löss)の堆積土壌です。黄土は今日、両地域の丘を広範囲にわたって覆っています。

さて、5億年前の世界と今日のぶどう畑の風景が、少しだけ繋がってきたでしょうか?

(参考資料: Terroir Hessen, Vielfalt erleben!,Gesellschaft für Rheingauer Weinkultur mbH Kloster Eberbach, 2008)

 
Weingut Balthasar Ress
バルタザー・レス醸造所(ラインガウ地方)

醸造所のオーナーラインガウ地方ハッテンハイムの伝統ある醸造所。1870年 の創業以来、ワイン造りのほか、ホテル・レストラン業にも着手し、事業を拡張してきた。1970年代に醸造所とホテル業を分離。当時は数ヘクタールの小さな醸造所だったが、先代のシュテファン・レスの時代に所有畑は46ヘクタールにまで拡大した。90年代にハッテンハイムの旧協同組合の建物を購入し、改築・移転。由緒ある旧醸造所は特別な催し物に使用されている。現在のオーナーは5代目のクリスチャン・レス(写真)。フランケン、ボルドーで研鑽を積んだ彼は、ワインの品質に磨きを掛けるほか、2009年に旧醸造所のセラーにWineBANKをオープン。この会員制ワインセラーは、チップカードで24時間出入り可能で、テイスティングルームも完備した贅沢な施設。キャパシティーは3万5000本。月額44 ~ 199ユーロで異なるサイズのセラースペースを借りられる。また、13年ヴィンテージからは北海ズュルト島産のラントワインをリリース予定。革新的な醸造所として知られる。VDP会員。

Weingut Balthasar Ress
Rheinallee 7, 65347 Hattenheim
Tel. 06723-91950
www.balthasar-ress.de


2011 Schloss Reichartshausen Riesling Kabinett feinherb
2011年 シュロス・ライヒャルツハウゼン 11.10€

2011年 シュロス・ライヒャルツハウゼンバルタザー・レス醸造所の栽培品種は、ラインガウ地方の典型的な醸造所と同じく、9割がリースリング。ほかにシュペートブルグンダー、ヴァイスブルグンダーを少量栽培している。ハッテンハイムのほか、エアバッハ、リューデスハイムにも名醸畑を所有。ハッテンハイムの「シュロス・ライヒャルツハウゼン」はモノポール(単独所有)。12世紀以来、エーベルバッハ修道院の所有畑だったという由緒ある畑を、同醸造所は1979年から所有している。ライン川に面して広がる4ヘクタールの畑の土壌は石灰質土壌の混じるレス(黄土)。栽培品種は、リースリング100%。酸味とほのかな甘みの絶妙なバランスを保った軽快なワイン。アルコール度数は9%。

最終更新 Freitag, 09 Oktober 2015 15:00
 

ぶどう畑の土壌 1 見えない土壌のメカニズム

23章で「テロワール」という概念について簡単にご紹介しました。テロワールとは、あるぶどう畑の気候や土壌、地形などの自然・環境条件を総合したポテンシャルであり、個々の造り手もその一端を担っています。今回から数回にわたり、このうちの土壌にスポットを当てたいと思います。

ぶどう畑の土壌といっても、私たちの目に見えるのは残念ながら表面だけ。土壌研究をしている学者たちでも、実際にはあまり深くまで掘ることができないそうです。例えば、ラインガウ地方の多くのぶどう畑では、通常1メートルも掘らないうちに大きな岩石にぶつかり、それ以上は掘れなくなってしまいます。学者たちは、畑の周囲で基礎工事現場や崖崩れなどを見付けるたびに、土壌の様子を見に駆け付けるのだそうです。

ぶどうの根は水分とそれに含まれる養分を求めて地下へと伸びていきます。上層部に十分な水分があればそこにとどまりますが、そうでない場合は 小石や風化した岩石の間を縫って伸び、大きな石や岩盤に突き当たれば岩肌に沿って伸びていきます。そこでも水分が不足していれば、数本の太い根がなんとか隙間を探して、さらに深いところへと張っていきます。

ぶどうの根の部分には、ほぼすべてフィロキセラに耐性のあるアメリカ品種の台木が接ぎ木されています。造り手は多種ある台木から土壌に適したものを選択します。例えば、石灰分の多い土壌では意図的に石灰質土壌に適応した台木を使います。つまり、ぶどうの根の性質は、ワインの味を左右するぶどう品種本来の特性とは異なるのです。

穀物や野菜は一般に肥沃な土壌を必要としますが、ぶどうは大抵の土壌で育ちます。そのため古くから、主に腐植土から成るオーガニック成分の豊かな、肥沃な土地では、人間の生命維持に欠かせない食物が優先的に栽培され、ワイン用ぶどうは、それ以外の「痩せた」土地で栽培されてきました。ところが、痩せた土地で栽培したぶどうから、優れた品質のワインができることがあります。

痩せた土地とは、オーガニック成分がほとんどなく水分の乏しい土壌のことです。ぶどうが水分を求めて根を伸ばし、到達した深いところで、上層部とは異なるミネラル分を得ることができれば、そのぶどうから造られるワインは、ある特定の個性を獲得すると考えられています。 とはいえ、肥沃な土地でも優れたワインは造られており、浅くても十分なミネラルが蓄えられている土壌はありますし、ほかにも無数の土壌の組成が存在します。

土壌の組成や成分と出来上がるワインの品質や成分との関連性については、まだほとんど解明されていません。人間がどのようなワインを素晴らしいと感じるかによっても、その答えは異なってきます。確実にいえるのは、私たち飲み手はテロワールという「一期一会」から生まれるワインの表現力を享受しているということだけなのかもしれません。

(6章にわたる土壌編は、ガイゼンハイム研究所で土壌学・植物栄養学を研究するペーター・ベーム博士(Dr. Peter Böhm)との対話をもとに構成しています。)

 
Weingut Georg Breuer
ゲオルク・ブロイアー醸造所(ラインガウ地方)

醸造所のオーナーハイ・クオリティーのワインで世界的に評価が高いラインガウ地方の老舗醸造所。所有畑は33ヘクタール、栽培品種はリースリング(80%)やピノ・ノワール(11%)など。亡き父ベルンハルトの後を継ぎ、娘のテレザが2011年から醸造所のオーナーを務める。彼女は父親が亡くなった後、ガイゼンハイムで国際ワイン経済学を勉強し始め、07年に学業を終えると、実家の醸造所の運営に専念することになった。「父からは、人から笑われても自分の信念を貫き、夢を実現するということを学んだの」とテレザ。ベテランの栽培責任者や醸造責任者とコミュニケーションを密に取り、理想とするワインの実現に奔走中だ。テレザは醸造所の伝統を守りながら、環境に配慮した究極のエコ・ワイン造りを目指している。11年からは厳格なエコロジー基準に従ってすべての畑の手入れを行っているが、特定のエコロジー連盟、団体には加盟していない。

Weingut Georg Breuer
Grabenstraße 8, 65385 Rüdesheim
Tel. 06722-1027
www.georg-breuer.com


2011 Terra Montosa
2011年 テラ・モントサ 16.00€

2011年テラ・モントサテラ・モントサは、テレザの父ベルンハルトが1990年に世に出したワイン。以後、毎年リリースされている。「父は残糖と酸が調和した食事にふさわしいリースリングを造りたくて、このワインをスタートさせた」とテレザは言う。リューデスハイムのベルク・ローゼンエック、ベルク・ロットラント、ベルク・ シュロスベルク、ラウエンタールのノンネンベルクという4つの偉大な畑で育つ、樹齢の低い木のぶどうから造られたリースリングをブレンド。このワインには、醸造所の個性が凝縮されている。テラ・モントサとは、ラテン語で「山のような土地」を意味する。リースリングを飲む楽しみを心から感じさせてくれるワイン。

最終更新 Freitag, 09 Oktober 2015 14:59
 

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