ドイツワイン・ナビゲーター


高貴さを誇る甘口ワイン

この章では、ベーレンアウスレーゼ(Beerenauslese)、アイスワイン(Eiswein)、トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenauslese)をご紹介しましょう。いずれも甘口ワインで、芳醇かつ濃厚、上質の蜂蜜を思わせる優雅さと気品を持ち合わせています。糖度が高く、発酵が困難なため、アルコール度数が低く、アルコール飲料が苦手な人にも飲みやすいワインです。「普段あまりワインは飲まないけれど、こういったハイクラスの甘口ワインは好き」という方に時々出会います。

これらのワインの味は、通常の甘口(リープリッヒ/lieblich、あるいはズース/süß)と区別して、高貴な甘口(エーデルズース/edelsüß)と表現します。日本語で極甘口と言うこともあります。ベーレンアウスレーゼやアイスワインに比肩する高品質のアウスレーゼに、エーデルズースという表現を使うこともあります。

収穫時のぶどうの糖度は、ベーレンアウスレーゼとアイスワインが同等、トロッケンベーレンアウスレーゼはそれ以上です。また、この中で「貴腐ワイン」と呼ばれているものが、トロッケンベーレンアウスレーゼです。長い名前なので、ワイン関係者の間では頭文字をとって「テーベーアー(TBA)」と呼ぶことが多いです。

TBAは、貴腐菌の働きによって水分が大部分失われた天然干しぶどうを粒選りし、圧搾してつくるワインです。またアイスワインは、氷結によって水分がすっかり凍り付いた、天然のぶどうのシャーベットを圧搾して造ります。この2つのワインが毎年生産できるかどうかはお天気次第です。

ベーレンアウスレーゼも名称通り粒選りします。でも、収穫する人がその場で臨機応変に判断するので、ベーレンアウスレーゼの収穫の際に、貴腐ぶどうが混ざることもあります。また、アイスワインのぶどうに一部貴腐がついて氷結することもありますし、アウスレーゼのぶどうにも貴腐ぶどうが混ざっていることもあります。ぶどうは1粒ずつ成熟のペースが異なり、同じ房にさまざまな成熟度の粒が同居するため、このようなことが起こるのです。また、ある醸造所のベーレンアウスレーゼが、別の醸造所のTBAより、糖度が高く濃厚であることもあります。

エーデルズースと呼ばれるワインは少量しか生産できないため、非常に高価です。テイスティングの機会はまれで、可能な場合も有料であることが多いですが、チャンスがあれば、ぜひ試してみてください。とろりとした蜜のように濃厚なアイスワインやTBAもあれば、さらりとした舌触りの軽快なものもあり、造り手の哲学はここでも千差万別です。このような甘口ワインは、酸味が充分にないと、その美味しさが引き立ちません。甘さと酸味のバランスの良さは造り手の腕の見せどころです。

これらのワインは、食前酒や食後酒として、あるいは甘いデザートやチーズに合わせていただきます。デザートがいらないくらい味わいの凝縮したものもあります。また、20年、30年と長期保存できるので、結婚,出産など記念日のワインとして購入するのに最適です。

Weingut Weegmüller ヴェーグミュラー醸造所
(プファルツ地方)

ヴェーグミュラー醸造所

プファルツ地方で注目すべき醸造所の1つ。オーナーのリヒャルト・シェア、シュテファニー・ヴェーグミュラー=シェア夫妻は、夫が栽培を、妻がケラーマイスターとして醸造を担当する異色のカップル。リースリングをはじめ、ゲヴュルツトラミーナ、ショイレーベ、リースラーナー、グラウアーブルグンダー(ルーレンダー)、ヴァイスブルグンダーなど、多彩な品種から、エレガントな優れたワインを生産している。畑でできあがっているぶどうの品質を最大限に引き出し、醸造段階ではなるべくワインを動かさな いことを信条としている。

Weingut Weegmüller,
Mandelring 23, 67433 Neustadt
Tel. 06321-83772
www.weegmueller-weine.de


2002 Scheurebe Beerenauslese
2002年産ショイレーベ、ベーレンアウスレーゼ(極甘口)
25ユーロ(ハーフボトル)

2002年産ショイレーベ、ベーレンアウスレーゼヴェーグミュラー醸造所で生産された、数少ないベーレンアウスレーゼの傑作。畑はハート村のヘレンレッテン。ショイレーベはリースリングとシルヴァーナーの交配品種 の1つ。リースリングとシルヴァーナーの交配品種には、他にリースラーナーがあるが、ショイレーベのほうが早熟なため、アウスレーゼ以上のワインはあまり生産されていない。ブラックカラントの香り高い、20~30年は問題なく保存可能なレアなワインだ。

最終更新 Montag, 10 August 2015 17:57
 

プレディカーツワイン(Prädikatswein)

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この章では、クヴァリテーツワインの上部カテゴリーであるプレディカーツワインをご紹介しましょう。プレディカーツワインは、ドイツの最高級ワインのカテゴリーで、6種類の肩書きがあります。クヴァリテーツワインとプレディカーツワインを総合したものが、フランスのAOPやイタリアのDOP、すなわち原産地呼称保護ワインに相当し、ドイツ語では「g.U.(Geschützte Ursprungsbezeichnungの略、ゲー・ウー)」と表示され、両者を総合してクヴァリテーツワインと称することもあります。

プレディカーツワインの肩書きは軽快なものから、より芳醇で凝縮されたものへ、カビネット(Kabinett)、シュペートレーゼ(Spätlese)、アウスレーゼ(Auslese)、ベーレンアウスレーゼ(Beerenauslese)、アイスワイン(Eiswein)、トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)の順となっています。 この章では軽快な方の3つをご紹介しましょう。

カビネット、シュペートレーゼ、そしてアウスレーゼは、いずれも料理と合わせるのに最適なワインです。辛口(トロッケン/trocken)も中辛口(ハルプトロッケン/halbtrocken)やファインヘルプ(feinherb)も甘口(リープリッヒ/lieblich)もあり、好みのワインが見つかりやすいカテゴリーです。味覚の表示が見当たらない場合は甘口であることが多いので、購入時に確認することをお勧めします。

各々の肩書きには、それぞれ、収穫ぶどうの糖度の基準が設定されており、重厚な味わいのものほど、収穫時の糖度が高くなっています。つまり、より熟したぶどうを使っているのです。アウスレーゼクラスのぶどうをシュペートレーゼとして、あるいはシュペートレーゼクラスのぶどうをカビネットとしてボトリングする造り手もいれば、カビネットはカビネットらしくと、軽快さを守り抜く造り手もいます。醸造家の哲学によって、その中身はバラエティーに富んでいます。

時には甘口のアウスレーゼの中身が、自然氷結のぶどうから造られたアイスワインである場合があります。造り手がアイスワインを収穫したものの、品質的にアイスワインとして販売するのは納得がいかないと判断したワインをアウスレーゼとしてボトリングすることがあるのです。

カビネットにも、シュペートレーゼやアウスレーゼにも、個々の醸造所のさまざまなドラマがひそんでいます。ですから、糖度のランクを表す数値(エクスレ値)を暗記することはさほど重要ではありません。大切なのは、自分が美味しいと感じられるかどうかです。ワインを選ぶ際には、とにかくテイスティングしてみることをおすすめします。

Weingut Müller-Catoir ミュラー・カトワール醸造所
(プファルツ地方)

ミュラー・カトワール醸造所

近年、醸造所の質が飛躍的に向上しているプファルツ地方で、すでに1970年代から傑出したワインを造り続けて来た老舗醸造所。とりわけ、肩書き付きワインにおける品質の良さと、種類の豊富さで群を抜いている。リースリングだけでなく、ショイレーベ、リースラーナーといった品種から、アウスレーゼ、アイスワイン、貴腐ワインを造り出して来た。エコ団体に加盟していないが、70年代から徹底したエコロジー哲学に基づくワイン造りを行っている。

Weingut Müller-Catoir,
Mandelring 25, 67433 Neustadt,
Tel. 06321-2815
www.mueller-catoir.de


1998 Rieslaner Auslese
1998年産 リースラーナー・アウスレーゼ 参考価格24ユーロ

リースラーナー・アウスレーゼミュラー・カトワール醸造所のワインの中で、最も魅力的なもののひとつが、このリースラーナーのアウスレーゼ。発酵を冷却によって途中で止め、果実の自然の甘さを残している。ドイツのデザートワインの魅力は、この優雅な自然の甘みにあります。最近ではアウスレーゼを辛口に仕立てることも多くなっています。ドイツワインはフレッシュで軽快なので、甘口のアウスレーゼにも、食中酒として楽しめるものがあります。このリースラーナーは、アルコール度数が10度と低く、チーズの他に、様々な甘いデザートとよくマッチします。アペリティフにも適したワインで、20年くらいなら問題なく保存可能です。
最終更新 Dienstag, 30 Juni 2015 16:23
 

クヴァリテーツワイン(Qualitätswein)

クヴァリテーツワインは、ドイツワインの中で最も注目すべきカテゴリーです。ドイツには13の認定ワイン生産地域がありますが、クヴァリテーツワインはそれぞれの地域内で生産されるぶどうを100%使用しているため、各地域の特性がしっかりと表現されています。

クヴァリテーツワインとその上部カテゴリーであるプレディカーツワインとの違いのひとつは「クヴァリテーツワインには補糖が認められている」ことです。補糖とは言え、甘みを補うのではなく、アルコール度数を補うための補糖、つまりアルコール発酵をさらに促進させるための補糖です。この技術はフランス人であるシャプタル氏が考案したため、シャプタリザシオンとも呼ばれます。

天候などの理由でぶどうを完熟しない状態で収穫しなければならない場合、シャプタリザシオンは大きな助けとなります。ヴィンテージによっては、完熟期と前後して進行する腐敗が始まる前に収穫し、シャプタリザシオンを実施する方が良い仕上がりになることもあります。とはいえ、ドイツの造り手たちは、できる限りぶどうが完熟するのを待って収穫し、補糖を行わなくてもすむように努めています。そのため、同じクヴァリテーツワインでも、シャプタリザシオンを行っているものと、そうでないものがあります。

また、ドイツワインの各々のランクには、収穫時のぶどうの糖度の基準が設定されていますが、醸造家たちの中には、個々のランクの基準よりも熟したぶどうを使っていることがあります。たとえばクヴァリテーツワインと表記されているボトルの中に、その上のランクで出荷できるワインが詰まっていることがあるのです。「うちのクヴァリテーツワインはカビネットクラスだよ」とか「シュペートレーゼクラスだけどクヴァリテーツワインとしてリリースした」といった会話を聞かれたことがあるかもしれません。これを「格下げ」と言ったりしますが、よく考えると、ワインの格が下がっているのではなく、クヴァリテーツワインの格が上がっているのです。クヴァリテーツワインの価格で、上部カテゴリーのカビネットやシュペートレーゼなみの品質のワインが手に入るわけですから、ますますクヴァリテーツワインに注目しないわけにはいきません。

最近では、カビネットやシュペートレーゼ、アウスレーゼといった肩書きは混乱のもとになると考え、クヴァリテーツワイン1種類だけを生産している醸造所もあります。このような醸造所のクヴァリテーツワインには、シュペートレーゼ、時にはアウスレーゼクラスのワインが詰まっていると考えていいでしょう。クヴァリテーツワインは各々の醸造所の、いわば名刺のようなもの。醸造所の第一印象を決めてしまうワインなので、力が入っています。そして、ボトルの中に詰まったクヴァリテーツワインのストーリーは、醸造所によって千差万別なのです。

ところで、クヴァリテーツワインの下部カテゴリーには「ラントワイン(Landwein)」と「ドイチャー・ワイン(Deutscher Wein)」があります。「ラントワイン」は13の生産地域とは異なる区分である26のラントワイン生産地域のぶどうを使用したワイン(85%が指定地域のぶどうであればよい)です。ラントワイン生産地域のほとんどが、13生産地域内にあります。「ドイチャー・ワイン」は、ドイツ国内の各生産地域のぶどうを混醸することが認められているため、地域色が表現できないワインです。「ラントワイン」と「ドイチャー・ワイン」は生産量が少なく、日常的に出会う機会が一番多いワインはクヴァリテーツワインとなります。ちなみに「ラントワイン」はフランス、イタリアのIGP、すなわち地理的表示保護ワインに相当し、ドイツ語では「g.g.A(Geschützte geografische Angabeの略、ゲー・ゲー・アー)」と表示されます。

Weingut Ludi Neiss ルディ・ナイス醸造所(プファルツ地方)

ルディ・ナイス醸造所

ナイス醸造所はプファルツ地方北部、ラインヘッセン地方との境界近くに位置する。醸造家アクセル・ナイスは、1997年に幼なじみの醸造家、フィリップ・クーン、ヨッヘン・シュミットと3人で「ユンゲ・プファルツ」という若手醸造家のグループを結成。以来、お互いのワインを厳しく批評しあい、かつ助け合って、高品質のワインを生産している。ナイス醸造所のリースリングには定評があるが、ブルゴーニュスタイルで生産されているシュペートブルグンダーの評価も高い。リースリングもシュペートブルグンダーも、その多くが樹齢35年を重ねており、凝縮した果実が収穫されている。また石灰岩土壌は、この両者に重厚な味わいを与えている。

Weingut Ludi Neiss,
Hauptstr. 91, 67271 Kindenheim,
Tel.06359-4327
www.weingut-neiss.de


2006 Spätburgunder trocken blanc de noir
2006年産 シュペートブルグンダー・トロッケン(辛口)
ブラン・デ・ノワール 6.10ユーロ

シュペートブルグンダー・トロッケンナイス醸造所のグーツワイン(醸造所のスタンダードワイン)、「ブラン・デ・ノワール」は、赤ワイン品種であるシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)の圧搾果汁を、色素を含むぶどうの皮とコンタクトさせずに発酵させている。「ブラン・デ・ノワール」とは「黒から得られる白」という意味。外観は白ワインのそれだが、味はやはりシュペートブルグンダー。爽やかな夏向きのワインです。

最終更新 Dienstag, 30 Juni 2015 16:17
 

ドイツワインの森へ

ドイツワインドイツは世界に類のないワインの宝庫、と言ったら驚かれるでしょうか? でも、それは本当のお話。13の地域で生産されているワインの種類はあまりにも多彩で、一言でご紹介することはできません。

例えばドイツでは、小さな家族経営の醸造所であっても、ドイツならではのリースリングとフレンチスタイルのシュペートブルグンダー(仏語名ピノ・ノワール)という、収穫期も醸造方法も全く異なる白ワインと赤ワインの双方を、当然のごとく生産していたりするのです。ドイツの造り手たちは、自国ならではの品種や他国の品種を積極的に取り入れているので、どんな嗜好にもぴったりのワインが見つかるはずです。お互いにワインの好みが異なるカップルでも、ドイツの醸造所でなら、きっとそれぞれのお気に入りが見つかることでしょう。

また、ドイツの造り手は、1つの品種を様々な成熟度、気象条件で収穫し、同じぶどうから、いくつもの異なるタイプのワインを生み出したり、発酵をうまくコントロールして、辛口から甘口に至るまで、様々な味わいのワインをつくり出すなど、他国ではあまり行われていない高度な醸造技術を持っています。

このように、造り手たちが多種多様なワインを生み出しているため、ドイツワインがちょっとだけ複雑で、わかりにくくなっていることも事実です。でもドイツワインの味わい自体は、ストレートかつクリアで、少しも難解ではありません。

ひとつ知っておくと便利なことがあります。それは、ドイツワインを代表する白ワイン、リースリングの多様性と包容力です。リースリングは、たった1つの品種でありながら、ライトなものから重厚なものまで、また辛口から中辛口、甘口、そして極甘口まで、様々な表情を見せてくれます。そして、食中酒としてお薦めのクヴァリテーツワイン、プレディカーツワインのカビネットといったカテゴリーのリースリングは、たいていの食事と難なくマッチしてしまうのです。つまり、合わせられる料理の幅がとても広いのです。それはリースリングの持つ清涼感とフルーティーさ、さらにはそのバラエティの豊かさのおかげでしょう。

ひょっとすると、すでに文中に、聞いたことのないワイン用語が登場して来ているかもしれません。でも、どうかご心配なく。次回から一歩ずつ、ドイツワインの森の中へ一緒に入って行きましょう。

 
Weingut Keller ケラー醸造所(ラインヘッセン地方)

ケラー醸造所

収穫量を大幅に減らし、凝縮した偉大なリースリング、偉大なシュペートブルグンダーを次々に産み出すことで、大衆ワインの産地だったラインヘッセン地方のイメージをすっかり塗り替えた家族経営の醸造所。美しく手入れされたぶどう畑を一目見れば、この醸造所がいかに日々の畑作業の積み重ねを大切にしているかがわかる。ケラー父子の丁寧な共同作業から生まれるワインの数々は、辛口から極甘口までカバーする意欲的なコレクション。

Weingut Keller
Bahnhofstr.1 67592 Flörsheim-Dalsheim,
Tel.06243-456
www.keller-wein.de


2006 Riesling trocken
2006年産 リースリング・トロッケン(辛口) 6.20ユーロ

リースリング・トロッケン 多くの醸造所が、様々な品種の「グーツワイン」、あるいは「グーツリースリング」というカテゴリーのワインを生産しています。ワイングート(ワイン醸造所)のスタンダード・ワイン、あるいはスタンダード・リースリングのことです。ランクは通常、肩書きなしのQbA(クーベーアー)。エチケットにはグーツワインの表示はありません。一流醸造所のグーツワインには、QbAより上位の肩書きつきワインに負けない中身が詰まっていることが多いです。何と言っても醸造所の名刺となるワインですから、造り手も力を入れています。グーツワインは毎日飲みたくなる、軽やかなオールラウンドワイン。初めての醸造所のワインは、まず グーツワインから試してみてはいかがでしょう。
最終更新 Dienstag, 30 Juni 2015 16:06
 

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