独断時評


外国人排撃を狙ったトレグリッツ放火事件を糾弾する

ザクセン=アンハルト州のトレグリッツは、人口2816人の小さな町だ。4月4日、亡命申請者の収容施設となる予定だった住宅に何者かが放火し、屋根の一部が焼け落ちた。現在、ドイツではシリアなどからの亡命申請者が急増している。トレグリッツは今年5月以降、約40人の外国人を受け入れる予定であった。

「法治国家への攻撃」

政界からは、一斉に非難の声が上がった。マヌエラ・シュヴェージヒ連邦家庭相(社会民主党=SPD)は、「卑怯で恐るべき放火事件だ。私は激怒し、悲しみに溢れている」として犯人を非難。「極右主義との戦いの手を緩めてはならない」と述べた。また、キリスト教民主同盟(CDU)連邦議会議員団の院内総務であるフォルカー・カウダー氏は、「亡命申請者の収容施設に放火し、外国人の受け入れを妨害しようとする行為は、法治国家ドイツに対する攻撃だ」と批判した。

ネオナチの犯行か

トレグリッツでは、今年に入ってから極右勢力が不穏な動きを繰り返していた。一部の市民は、周辺の郡から集まったネオナチ勢力と共に毎週日曜日に亡命申請者の受け入れに抗議するためのデモを行っていた。

神学者でもあるマルクス・ニールト町長(無党派)が、亡命申請者の受け入れに賛成していたからである。それを受け、ネオナチを含む反対派が3月、デモの後にニールト氏の家の前で抗議集会を行う方針を明らかにした。ニールト氏は、トレグリッツを管轄するブルゲン郡当局に抗議集会を禁止するよう訴えたが聞き入れてもらえず、「郡から十分な支援を受けられない。デモ隊によって家族が脅かされるのは耐えられない」として、町長を辞任した。

ニールト氏は、何者かから殺害予告を受けていたことを明らかにしたほか、トレグリッツの難民問題を引き継いだブルゲン郡のゲッツ・ウルリヒ郡長(CDU)も、「首を切り落とす」と脅迫されていることが分かった。

本稿を執筆している4月8日の時点で、放火事件の犯人は摘発されていない。しかし、1月以来の状況から、ネオナチ勢力の仕業である疑いが濃厚だ。

これまで亡命申請者は、兵舎などに収容され、1カ所に固まって住むことが多かった。だが、これではドイツ人住民との交流が進まず、外国人が地域に溶け込みにくい。ドイツ人との交流を促進するためブルゲン郡当局は、12棟の住宅の部屋の一部を借り上げて、亡命申請者を住まわせることにしていた。

受け入れ賛成は小数派

ウルリヒ郡長は、亡命申請者の受け入れをあきらめていない。しかし、放火事件や脅迫事件の発生により、トレグリッツが5月に受け入れる亡命申請者の数は、10人に減らされることになった。

ニールト前町長は、「トレグリッツの大半の住民は、亡命申請者をめぐる議論で押し黙り、受け身だった」と語る。彼のように難民の受け入れに積極的だった市民は、小数派だったのだ。4月4日に、放火に対する抗議集会がトレグリッツで開かれたが、集まったのは350人に過ぎなかった。

この種の事件は旧東独以外の地域でも起きている。昨年12月には、バイエルン州のフォッラという町で、亡命申請者の収容施設となる予定だった建物が放火された。犯人は、近くの建物にスプレーでかぎ十字を描いていた。また今年2月には、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州のエッシュブルクでも、イラクからの難民を住まわせる予定の建物に火がつけられた。

90年代にも極右の暴力が増加

私はこれらの事件を知り、極右勢力の暴力が吹き荒れた1990年代を思い出している。92年には極右勢力が2285件の暴力事件を引き起こし、外国人ら17人を殺害した。旧東独のロストックでは、極右勢力が亡命申請者の住宅に放火、投石し、周辺住民が喝采を送る模様がテレビで放映された。

当時、外国人に対する暴力事件が急増した理由の1つは、ドイツ政府が統一とともにポーランドやチェコに対する国境検査を緩和した結果、ルーマニアなど東欧からの亡命申請者が急増したことである。92年には、43万8191人がドイツに亡命申請をした。

憲法擁護庁によると、ドイツの極右勢力の数は2013年の時点で2万1700人。ドイツの人口の0.03%に過ぎない。数は少なくとも、極右勢力はこの国に住む外国人にとっては、極めて危険な存在なのだ。さらにこの種の事件は、ドイツの対外イメージを深く傷付ける。

ドイツ人の不安感

ドイツ人、特に年配の人々と話すと、彼らが亡命申請者、特に中東からの難民について強い不安感を抱いていると感じる。「ドイツがイスラム化するのではないか」「難民に混じって、過激派組織イスラム国(IS)のテロリストがドイツに潜入するのではないか」という不安である。だが同時に、この国では「イスラム過激派とイスラム教徒を混同してはならない」として、イスラム教徒を守ろうとする動きが目立つ。また、「国民経済に負担が掛かっても、戦争や圧制を逃れてきた外国人を受け入れて、救いの手を差し伸べるべきだ」という意見も根強い。そのことは、この国に住む外国人として心強く感じる。ドイツ政府には、極右勢力や排外主義との闘いに、一層力を入れて欲しい。

17 April 2015 Nr.1000

最終更新 Mittwoch, 19 April 2017 10:21
 

ジャーマンウイングス墜落事故の衝撃

3月24日、ドイツ航空史上最悪の墜落事故が発生した。バルセロナからデュッセルドルフへ向かっていたジャーマンウイングス航空のエアバスA320型機が、フランス上空で突然急降下してアルプス山脈に墜落したのだ。

ジャーマンウイングスのエアバス A320型機
ジャーマンウイングスのエアバス A320型機

欧州諸国に強い衝撃

4U9525便の機体は跡形もなく大破し、乗客・乗員150人は全員死亡したとみられる。すべての犠牲者に対し、心から冥福をお祈りする。

ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、スペインのラホイ首相、NRWのクラフト州首相がそろって事故の翌日に現場入りし、犠牲者に追悼の意を表したことは、この大惨事が欧州諸国に与えた衝撃の強さを物語っている。

「副操縦士が故意にやった」

だが、事故から2日後の3月26日、さらに衝撃的な事実が明らかになった。フランス検察庁は、「事故機のボイスレコーダーの分析から、4U9525便の副操縦士が故意に事故を起こした疑いが強い」と発表したのだ。27歳の副操縦士アンドレアス・Lは、機長が操縦室を離れた後、ドアを内部からロックして外から開かないようにした後、直ちに機体の高度を下げた。異常に気付いた機長がドアを叩いて開けるよう要求したが、副操縦士はドアを開けずに、無言のまま同機を急降下させ、アルプスの岩山に激突させた。ボイスレコーダーには、最後の瞬間まで彼の呼吸音が残っていたので、彼は墜落まで意識を失っていなかった可能性が強い。このことから検察庁は、副操縦士がわざと4U9525便を墜落させたとみている。

副操縦士が自殺のために149人を道連れにしたとしたら、それは大量殺人である。何が彼を凶行に走らせたのだろうか。遺書や犯行声明は見付かっていない。ラインラント=プファルツ州出身のL は、2008年からルフトハンザのパイロット養成学校で訓練を受け、2013年にジャーマンウイングスのパイロットになった。ルフトハンザ側は、彼について異常なそぶりを認めていなかった。イスラム系過激組織などに関わっていたという情報もない。

だが3月26日にドイツの捜査当局がLのデュッセルドルフの自宅を捜索した結果、医師の証明書が引きちぎられた状態で見付かった。それは、Lが病気のため就労不能であることを医師が証明した書類だった。Lが何の病気にかかっていたかは公表されていないが、一部の報道機関は「Lが9年前に精神科で治療を受けていた」と伝えている。つまり彼は病気を隠して、飛行機に乗り込んでいたのだ。旅客機を操縦するパイロットが、リスクファクターとなった。想定外の事態である。飛行機を利用している全ての人を戦慄させる事実だ。メルケル首相は26日、「我々の想像を絶する出来事が起きた」と述べ、非常に強いショックを受けたことを明らかにするとともに、捜査当局に事件の背景を徹底的に解明するよう求めた。

ルフトハンザには痛撃

ジャーマンウイングスは、ルフトハンザの子会社の格安航空会社。ルフトハンザにとって、死者を出す事故は22年ぶり。同社はここ数年、割安でサービスが良いカタール航空やエミレーツ航空などに乗客を奪われていたほか、乗務員のストライキが頻発し、利用者に迷惑を掛けるなど、苦しい状況に追い込まれていた。

副操縦士が故意に引き起こした大事故は、安全性を重要な売りにしてきたルフトハンザにとっては大打撃である。同社は、ライアンエアーやエア・ベルリンなどの格安航空会社に対抗するために、ディスカウント路線を拡大する方針を明らかにしていた。乗務員のストライキが多発していた原因の1つも、そこにある。今回の事件は、同社のディスカウント路線の拡大にとって、逆風となるだろう。ルフトハンザのカルステン・シュポール社長は3月26日の記者会見で、「我が社でパイロットになれるのは、希望者の10人に1人。選抜基準は非常に厳しい。乗務員の心理チェックを行っているほか、精神面の健康にも十分配慮している」と述べている。そして「4U9525便の副操縦士の異常な行動は、例外中の例外だ」と指摘した。

安全対策の強化を!

しかし、本当に副操縦士の自殺が事故原因であるとしたら、犠牲者の遺族からは「自殺をするために100人を超える乗客を巻き添えにするような人物が、なぜ副操縦士になれたのか」という疑問の声が上がるだろう。

ルフトハンザなど欧州の航空会社は、今回のような事態の再発を防ぐために、機長もしくは副操縦士が操縦席を離れる時には別の乗務員がコックピットに入るルールを導入した。副操縦士ないし機長が、コックピットで1人にならないようにするためである。しかしパイロットの組合では、「今回の事件は、例外中の例外であり、パイロットや副操縦士全員を疑惑の目で見るべきではない。さらに、コックピットに常に2人の乗員がいるようにすれば、今回のような事件を必ず防げるという保証もない」と反発している。

統計によると、乗務員が自殺を図って多数の乗客を巻き添えにするという事故は、確かに少ない。さらに、全ての乗務員の精神状態をフライト前にチェックすることは、事実上不可能である。しかし今回の事件が世界中の旅客機の利用者に与えた不安感は、底知れない。ルフトハンザは、信頼を回復するために、万全の努力を行って欲しい。

3 April 2015 Nr.999

最終更新 Montag, 19 September 2016 12:09
 

終わりなきギリシャ危機の行方

今年、欧州への関心が日本の言論界や経済界で急激に高まっている。日本人に「欧州は一体どうなるのだろう」と思わせているのが、ギリシャ危機の再燃だ。

巨額の借金に悩むギリシャ

ギリシャ政府の債務危機が発覚したのが、2009年12月。その後、約5年間にわたり欧州連合(EU)加盟国と国際通貨基金(IMF)から総額2400億ユーロ(31兆2000億円・1ユーロ=130円換算)の融資を受けてきた。しかし同国の経済状態は改善せず、公的債務の国内総生産に対する比率は175%に達している。

状況を決定的に悪化させたのが、今年1月末の選挙結果。勝った極左政党が右派政党と連立して、反EU色の強いポピュリスト政権を誕生させたことだ。チプラス首相は、国民に対してはEUが融資の条件として要求した緊縮策や経済改革をストップさせ、低所得層の税金免除や、貧困層に対する食料や電力の無料供給、解雇された公務員の復職などを約束している。

しかし、ギリシャ政府はEUとIMFの金に依存している。同国は、3月から12月までの間に174億ユーロ(2兆2620億円)の借金と利息を返済しなくてはならないが、ギリシャ政府の金庫は事実上空になっており、公務員の給料すら支払うのが難しい状況だ。ギリシャ政府は、今年だけでも200億ユーロ(2兆6000億円)の追加融資、今後5年間で400億ユーロ(5兆2000億円)の追加融資が必要となる。

チプラス政権の二枚舌

EUのギリシャ向け支援プログラムは、今年2月末で終わる予定であった。このためチプラス政権のバルファキス財務相は、2月20日にブリュッセルで開かれたユーロ圏財務相会合で、「ギリシャ政府は欧州のパートナーや諸機関、IMFと緊密に協力し、国家財政の健全化、金融システムの安定化、経済復興の促進のために努力することを約束する」と述べ、合意文書に署名した。しかしこの文書の内容は総花的で具体性を欠いているほか、「前政権がEUに対し、これまで約束した緊縮策を実行する」とは書かれていない。「借金や利子をきちんと支払う」とも書かれていない。このためユーロ圏加盟国の財務相たちは、4月末までにチプラス政権がより詳細な施策リストを提出するという条件で、支援プログラムの延長を認めたのだ。

ところが、チプラス首相とバルファキス財務相は、「二枚舌」を使い始めた。バルファキスはこの合意後、ギリシャ政府がユーログループに対して債務の削減を求めていくことを明らかにして、ほかのユーロ圏加盟国をあぜんとさせた。彼は、「ユーログループとの合意文書は、ギリシャ支援に批判的な国々の合意を得るために、わざと曖昧にした」とすら語っている。

つまりバルファキスは、EUからの融資を引き出すために、他国の財務相との交渉では「経済改革を実施する」と約束しながら、自国民には「EUからの攻撃にもかかわらず、選挙前の公約、つまり緊縮政策の拒否と債務削減の要求は維持する」というメッセージを送っているのだ。ユーログループは3月9日にも会合を持ったが、この場でもギリシャ政府は具体的な提案を示さなかった。それどころかバルファキスは、「ユーログループが我が国への融資を行わないのならば、国民投票や再選挙によって、国民に緊縮策を続けるかについての民意を問う」と発言し、他国の財務相らの神経を逆撫でした。もしも国民投票や再選挙が実施されれば、有権者の圧倒的多数が緊縮策の廃止や債務削減を要求することは確実だからだ。

またチプラス政権の国防相で、連立政権のパートナーである右派政党のカメノス党首は、「もし他国がギリシャを支援しないのならば、我々は難民に渡航に必要な書類を渡して、ベルリンに送り込む。大量の難民の中に、テロ組織「イスラム国」の戦闘員が混ざっていたとしても、それは欧州の責任だ」と脅迫めいた発言をしている。ドイツ財務省は、「チプラス政権の振る舞いは反則だ」と厳しく批判している。

ギリシャがロシアに接近する危険

私は、2月20日にギリシャが具体的な改革案を示さなかったにもかかわらず、ユーログループが支援プログラムの延長に同意したことで、チプラス政権は「我々はどのような態度を取っても救済される」と判断したと考えている。

その最大の理由は、地政学的な事情だ。ギリシャがユーロ圏を脱退した場合、経済的な混乱が今以上に悪化する。窮地に陥ったギリシャは、ロシアに救援を求める可能性がある。すでにロシア側は、「ギリシャが援助を要請すれば検討する」という態度を見せており、EUはウクライナ内戦をめぐりロシアとの対立関係を深めているが、プーチンにとっては、EUおよび北大西洋条約機構(NATO)のメンバーであるギリシャとの友好関係を深めることは戦略的にプラスとなる。つまりEUは、ギリシャのロシア接近を防ぐために、ギリシャへの支援延長を決めたのだ。

興味深いのは、ギリシャ危機の悪化にもかかわらず、ギリシャ以外の金融市場が平穏を保っていることだ。逆にドイツの株式市場の平均株価は、欧州中央銀行の量的緩和の影響で上昇する一方だ。これは、金融市場が、「万一ギリシャがユーロ圏から脱退しても、通貨同盟全体が崩壊する危険は低い」と判断していることを意味する。

いずれにしても、ギリシャは今後何年間も、欧州の政局の台風の目であり続けるだろう。

20 März 2015 Nr.998

最終更新 Mittwoch, 19 April 2017 10:08
 

先鋭化する亡命申請者問題

ドイツは、日本とは比べられないほど、様々な民族と文化が共存している社会だ。

移民国家ドイツ

朝の通学時間帯のバスには、トルコ系、アフリカ系、インド系、アジア系……様々な民族の子どもたちが乗ってくるが、皆、流暢なドイツ語を話している。この国に移住してきた外国人の子どもたちだからだ。ドイツが移民国家であることは、もはや否定できない事実である。この国が、米国のような「民族のサラダボウル」に近づいていくことは確実だ。

日本と同じように高齢化・少子化が急速に進んでいるドイツでは、将来的に働き手が不足する。このためドイツ連邦政府は、社会保障制度に依存せず、自分の力で生活できる外国人の移民や帰化を奨励している。特に、IT分野などでドイツが必要とする技能を持った外国人は、通常よりも簡素化された手続きで、滞在許可や労働許可を取ることができる。

急増する亡命申請

だがドイツ市民の間には、「ドイツ社会に溶け込まない外国人が増えると、ドイツがドイツでなくなってしまう」と不安を抱く人々がいる。その不安感は、ドイツ語のÜberfremdung(外国人が増えることなどによって、自分の祖国が外国であるかのように、よそよそしいものになること)という言葉に象徴される。

一部の人々の不安や不満を掻き立てているのが、ドイツへの亡命申請者の増加だ。ドイツ連邦移住・難民局(BAMF)によると、2014年にドイツに亡命を申請した人の数は約20万3000人。前年に比べて約60%も増えた。亡命申請者のうち、26%に当たる約3万3000人が、ジュネーブ難民協定に基づきドイツへの亡命を認められ、亡命申請の33%は却下されている。

亡命申請者数の増加の原因は、シリアでの内戦が激化していることだ。今年1月には2万5000人がドイツで亡命を申請したが、そのうちシリア人が約25%で最も多かった。これまでドイツは、約6万5000人のシリア難民を受け入れている。さらに、コソボやアルバニア、セルビア、アフガニスタンからの難民も多い。中でもコソボでは、「ドイツへ行くと、誰でも住む所と滞在許可をもらえる」という根も葉もない噂が広がっているため、亡命申請者が増えているのだ。

シリアやトルコ、コソボには、出国希望者からお金を取って、ドイツへ輸送する「運び屋」がいる。彼らは、ドイツが豊かな国である上に、亡命申請者の受け入れについて比較的寛容であることを知っている。シリアからの難民は船でイタリアへ着いても、そこで亡命を申請せず、バスでドイツへ行ってから申請するのだ。ドイツの地方自治体は、スポーツ競技場や使われなくなった兵舎などに亡命申請者を住まわせているが、食事代や暖房費などの負担が重く圧し掛かり、連邦政府や欧州連合(EU)に資金援助を要請している。

中には「経済難民」も

ドイツは「戦争や政治的迫害から逃れてきた難民は原則として受け入れるが、イタリアなど、ほかのEU諸国に到着した難民は、そこで亡命を申請するべきだ」と主張している。欧州にはダブリン合意という原則があり、難民は危険な地域を脱出して到着した最初の国で亡命を申請する決まりになっている。また、政治的迫害を受けていないのに、生活保護など社会保障サービスだけを求めてドイツにやって来た「経済難民」は、強制送還する。だが、実際には強制送還には人道的な見地から問題点が多いため、亡命を申請する資格がないと判断されても、すぐに強制送還されるわけではない。 BAMFでは、中東やアフリカの政治的混乱が続いていることから、今年の亡命申請者数が30万人に達すると予想している。これまで最も亡命申請者数が多かった年は鉄のカーテン崩壊直後の1992年で、43万8000人に達した。その大半は、東欧からのシンティ・ロマ(いわゆるジプシー)だった。当時ドイツでは、極右勢力が亡命申請者の増加を理由に、外国人に暴力をふるう事件が多発した。92年に極右勢力が引き起こした暴力事件は90年に比べて8倍も増加し、2285件になった。この年、外国人17人が暴行の末に殺された。特に旧東独のロストックでは、極右勢力が亡命申請者の住宅に放火、投石し、周辺の住民が喝采を送る模様がテレビで放映された。

92年11月には、旧西独のメルンで極右の若者がトルコ人家族が住む家に放火し、女性と子ども3人が焼死。93年6月にも旧西独のゾーリンゲンで、極右思想を持つドイツ人が民家に火をつけ、トルコ人の女性と子ども5人を殺害した。

反人種差別運動のプラカード
2014年11月24日ミュンヘン、反人種差別運動のプラカード「違法な人間はいない」

PEGIDAへの共感は残っている

旧東独では、亡命申請者の流入規制を求めるポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への人気が高まりつつある。ドレスデンでは、昨年秋に「欧州のイスラム化に反対する愛国的な欧州人(PEGIDA)」という市民団体が結成され、デモ参加者の数は一時2万人にも達した。政府が難民問題の舵取りを上手く行わないと、有権者が右派ポピュリストに流れる危険もある。ドイツ政府は、「亡命資格のある難民は温かく迎える」ことを基本原則としている。だが、PEGIDAに対する潜在的な共感が、一部の市民の心に残っていることも否定できない。

 今後、ドイツ社会で外国人を見る目がどう変わっていくか、我々は注視していく必要がある。

6 März 2015 Nr.997

最終更新 Mittwoch, 04 März 2015 17:50
 

ギリシャの緊縮策拒否とドイツの苦悩

2012年以降、沈静化していたユーロ危機の暗雲が、再び欧州の上空を覆い始めた。そのきっかけは、1月25日にギリシャで行われた総選挙だ。

トロイカとの協力を拒否

チプラス党首率いるポピュリスト政党・急進左派連合(SYRIZA)が、2012年の選挙に比べて9.6ポイントも得票率を伸ばし、勝利を収めた。チプラスは、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)がギリシャに求めてきた緊縮策を拒否し、やはり緊縮策に反対する、右派ポピュリスト政党「独立ギリシャ人」と連立することによって首相の座に就いた。

EU、ECB、IMFが構成する監視委員会はトロイカと呼ばれる。約400年にわたってトルコに支配された経験を持つギリシャ人は、外国人による支配を嫌う。その誇り高いギリシャ人にとって、トロイカが政府の箸の上げ下げを監視し指導することは大きな屈辱であり、怨嗟(えんさ)の的である。首相となったチプラスは、トロイカに一切協力しないことを宣言した。

さらに彼は、2月初めに議会で行った所信表明演説の中で、「我々はEUの援助プログラムから脱却する。我々は援助プログラムが与えた傷を癒し、被害を受けた市民たちに手を差し伸べる」と述べた。

EUからの援助に依存するギリシャ

 EU加盟国とIMFは、2009年末に債務危機が表面化して以降、ギリシャが支払い不能状態に陥るのを防ぐために、総額2400億ユーロ(33兆6000億円、1ユーロ=140円換算)の融資を行ってきた。

さらにEUは、ドイツやフランスの金融機関などの民間投資家を説得して、1070億ユーロ(14兆9800億円)相当の対ギリシャ債権を放棄させた。これは、民間投資家の対ギリシャ債権のほぼ半分に当たる。つまり、ギリシャ政府の借金の一部を棒引きしたのである。

またECBは、ギリシャの銀行が倒産するのを防ぐために、緊急流動性援助というプログラムによって、多額の資金を供給してきた。ギリシャの公共債務残高は、国内総生産(GDP)の175%に達している。このため同国は、外国市場で国債を売って、お金を借りることができない。つまりギリシャは、輸血を受けなくては生きていけない重症患者なのだ。EUとIMFは、33兆円を超す金を貸す条件として、ギリシャに対し、歳出削減と増税による財政の建て直しや、市場開放や規制緩和による経済構造の抜本的な改革を要求した。

構造改革を帳消しに

だがチプラスは、「EUの援助プログラムは我が国に深い傷を与えた」として、選挙戦中の公約通り、プログラムからの脱却を宣言した。例えば、2010年以来ギリシャ政府は、「公務員の数を15万人減らせ」というEUの要求に従い公務員を解雇してきたが、チプラスは解雇された公務員を復職させることを明らかにした。

また、ギリシャでは不況が深刻化しており、今年1月の失業率は25.8%とEUで最悪の状態になっている。若年層の失業率は、約50%に達する。このためチプラスは、貧困層に属する30万世帯に無料で食料と電力を供給する方針を打ち出したほか、貧困層の医療費を免除したり、長期失業者に対して交通費の援助を行ったりする方針だ。また、貧しい高齢者への年金を12カ月分から13カ月分に増やすほか、2012年に月額751ユーロから586ユーロに引き下げられた法定最低賃金を元の水準に引き上げる。

チプラスは、「EUが援助プログラムの名の下に押し付けた緊縮策のために、国民が苦しんでいる」と主張しているが、その緊縮策を要求した張本人はEU最大の経済パワーであるドイツだと考えている。同国におけるドイツ政府に対する反感は、非常に強いものがある。

さらにチプラス政権は、2400億ユーロの借金についても条件を大幅に緩和したり、債務額を減らしたりすることを要求している。また、現在の融資プログラムを延長することも求めている。

ユーロマーク
欧州中央銀行本店にあるユーロマーク

EUは新政権の要求を拒絶

ギリシャの要求は、多くのEU加盟国をあきれさせている。特にドイツのショイブレ財務相(CDU)は、「ギリシャの新政権がどのようにして債務問題を解決しようとしているのか、まったく理解できない」と批判。ドイツ政府はチプラス政権に対して、緊縮策を予定通り実行するよう求めている。

EUの資金力に依存している国がEUを強く批判し、しかも「さらに金を貸してくれ」と要求していることを受け、多くのドイツ人がギリシャの態度を虫が良すぎると考えている。チプラス政権のバルファキス財務相は「ギリシャがユーロ圏から脱退したら、通貨同盟はトランプの城のように崩れ落ちる」と警告している。これに対し、ケルンのドイツ経済研究所(DIW)のヒューター所長は、「EUは妥協すべきではない」と述べ、強硬姿勢を打ち出している。ヒューター氏は「債務危機に陥ったEU加盟国が緊縮策や構造改革を放棄する場合には、情状酌量の余地はない。EUは毅然とした態度で臨むべきだ」と、ギリシャがEUの条件を拒否する場合は、脱退もやむを得ないという意見を明らかにした。

ギリシャはEUの資金に依存しているので、選択の余地は少ない。EUでは、「やがて妥協するだろう」という見方が有力だ。しかしギリシャ人の怒りは高まっており、「窮鼠猫を噛む」という事態もあり得る。ユーロをめぐる今後の動きから、目が離せない。

20 Februar 2015 Nr.996

最終更新 Donnerstag, 19 Februar 2015 14:48
 

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