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独断時評


ミュンヘン安保会議で欧米がウクライナに連帯を表明

今年もミュンヘンのホテル「バイエリッシャー・ホーフ」で恒例の安全保障会議(MSC)が開かれた。1963年に「軍事学会議」という名称で始まったこの会議は、今年で59回目。民間団体が開催するにもかかわらず、世界各国の首脳、外務大臣、国防大臣らが参加する、世界でも珍しい会議だ。MSCの期間、ミュンヘンは「ミニ・安全保障サミット」の場になる。

2月17日、MSCで演説をしたショルツ首相2月17日、MSCで演説をしたショルツ首相

ショルツ首相がウクライナ支援を約束

2月17日から3日間にわたって行われた今年のMSCには、米国のハリス副大統領、フランスのマクロン大統領、ポーランドのドゥダ大統領らが参加。ウクライナはクレバ外務大臣を派遣したほか、ゼレンスキー大統領も、リモート会議の形で参加した。

最も重要なテーマは、ウクライナ戦争だった。ショルツ首相は、ゼレンスキー大統領に語りかけ、「ウクライナは、われわれの仲間だ。ドイツと同盟国は、ウクライナが必要とする限り、強力な援助を行う。この戦争で、プーチン大統領を勝たせてはならない。プーチン大統領が、この戦争で勝てる見込みがないということを早く悟れば、戦争を終えるチャンスは高まる。ただしわれわれは、戦争犯罪を厳しく追及する。正義なしには、平和は長続きしないからだ」と語った。

同時に「われわれは北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間で戦争が起こらないように細心の注意を行う。われわれは、全ての措置をNATOの同盟国と話し合ってから決める」と述べ、戦争のエスカレートを避けるべく全力を尽くすという姿勢も示した。

ショルツ氏は、「レオパルド2型を持っている国は、一刻も早くウクライナに供与してほしい」とも語った。ドイツは1月にレオパルド2A6型を14両ウクライナに供与すると発表し、この戦車を持つ国がウクライナに輸出することも承認した。しかし蓋を開けてみると、ドイツ以外でレオパルド2を供与する準備がある国はポルトガル(3両)とスペイン(4両)の2カ国だけというお寒い状態となっている。首相がMSCで戦車に言及したのは、そのためだ。

ドイツは中国の和平提案に懐疑的

MSCの特徴は、各国政府の外交交渉の舞台としても使われるという点だ。この3日間に、ミュンヘンでは各国の安全保障関係者が公式、非公式の話し合いを持つ。昨年のMSCは、極めて緊張した雰囲気の中で行われた。ロシア軍が約10万人の兵力をウクライナ国境付近に集結させ、米国政府が「ロシアは近くウクライナに侵攻する」と警告していたからだ。昨年MSCの主催者は、プーチン大統領に発言の機会を与え、あわよくば武力行使を思いとどまらせようと考えた。そして、昨年プーチン大統領らロシア政府関係者をミュンヘンに招待したが、ロシア政府は拒否。ウクライナ侵攻はすでに秒読み段階に入っていたのだろう。

これに対し今年MSCの開催団体は、ロシア政府関係者を招待しなかった。MSC代表のクリストフ・ホイスゲン氏(元ドイツ外務省高官・メルケル前首相の補佐官)はその理由について、「ロシア政府関係者がウクライナ侵攻を正当化するプロパガンダ活動を行うのを避けたかったから」と説明している。同氏は、2月17日に独日刊紙に寄稿し、「ロシア軍はウクライナ市民を虐殺し、病院などを爆撃するなど、数々の戦争犯罪を犯した。国連はロシア軍による戦争犯罪の責任を追及するための特別法廷を設置するべきだ」と提案した。

MSCに参加したフィンランドのマリン首相は、「もしも2014年にロシアがクリミア半島を併合したときに、欧米がロシアに対してもっと強硬な措置を取っていたら、昨年ウクライナ侵攻は起きなかったかもしれない。その意味で、われわれは将来過ちを繰り返さないために、過去の政策ミスを詳しく分析する必要がある」と語った。

今年のMSCでは、中国政府の王毅政治局員が、「和平提案を近く公表する」と発言。中国政府は2月24日に12項目から成る和平提案を公表した。中国は、即時停戦、ウクライナとロシアの間の和平交渉の再開、米国、EUなどの対ロシア制裁措置の停止などを提案した。しかしドイツのメディアは、「これまでの中国の主張を繰り返したもので、新しい内容はない」と指摘した。さらに米国政府は「中国がロシアに武器を供与しようとしている情報がある」と警告。2月23日にはシュピーゲル誌が「中国企業が100機の自爆ドローンのロシアへの輸出を計画している」と報じている。このため欧米は中国に対する警戒心を解かないだろう。

米国大統領がキーウを電撃訪問

MSCが終わった翌日の2月20日、米国のバイデン大統領がキーウを電撃的に訪問して世界を驚かせた。米国の大統領が、米軍が駐留して治安を確保していない戦地を訪問したのは、歴史上初めてである。バイデン大統領とゼレンスキー大統領がキーウの教会から外に出たとき、空襲警報のサイレンが鳴り響いた。ベラルーシからロシア軍の戦闘機が離陸したからだ。しかしバイデン大統領は、平然とキーウの街を歩いていた。リスクを冒して米国の大統領がウクライナを訪れ、同国に「武器供与を続ける」と約束したことに、ゼレンスキー大統領が感激の涙を流す一瞬もあった。

欧米諸国は、MSCでのメッセージとバイデン大統領のキーウ訪問によって、ウクライナを強力に支援し続けるという姿勢を世界中に示した。一方で、ウクライナの敗北を防ぎながら、ロシアとの全面衝突も避けるという難しいバランスを取り続けなくてはならない。

最終更新 Donnerstag, 02 März 2023 11:50
 

高学歴移民を増やせ! 法整備を急ぐドイツ

労働力不足に悩むドイツは、欧州連合(EU)域外からの高技能・高学歴の外国人の移住を促進する方向で、法律を大幅に改正する。

特に医療・介護分野における人手不足の解消は急務となっている特に医療・介護分野における人手不足の解消は急務となっている

カナダを模範としたポイント制度

高齢化と少子化が進むドイツでは、IT産業などで技能を持つ人材が不足している。そこでショルツ政権は、産業界の要請に応えて、優秀な人材のドイツへの移住を容易にするため、法律を改正することを決めた。

最も重要なのが、カナダがすでに実施している移民制度に似た、ポイント制度の導入である。狙いは、経済界が欲しているEU域外の専門職業人のドイツ移住を促進することだ。法案によると、職業に関する資格や技能、過去の就労年数、学位、ドイツ語能力などが判断基準になる。例えば、「ドイツの職業資格と同等」と認証できる職業資格を持つ外国人は、4ポイントを取得できる。3年間の職業経験を持つ外国人は、3ポイントを得られる。さらにゲーテ・インスティテュートのドイツ語検定試験でB2の水準に達している35歳未満の外国人は2ポイント、ドイツ語能力がB1で40歳未満の外国人は1ポイントを取得できる。

合計点数が6ポイントを超えた外国人には、「Chancenkarte」(チャンスカード)という滞在資格を与えられ、最長1年間ドイツに住んで就職先を探すことができる。チャンスカードでは1週間に最高20時間までしか働くことができない。したがって6カ月の試用期間が終わって企業に正式に採用された外国人は、通常の労働・滞在許可を申請して働くことになる。

これまでドイツでは原則として、企業から招聘(しょうへい)されないと、働くための入国ビザを取得できなかった。しかしチャンスカードが導入されれば、事前に企業から招聘されなくても、入国して仕事を探すことができる。これは高技能・高学歴を持つ外国人にとって、就職のチャンスが大幅に増えることを意味する。

さらに、外国人が長期間ドイツに住みたいと思うように、インセンティブも用意する。例えば現在では、ドイツの滞在許可を取得してから8年たたないと、ドイツ国籍を取得できないが、ショルツ政権はこの期間を5年間に短縮することを検討している。特殊技能を持つ上にドイツ語が堪能であるなど、優秀な外国人については、移住3年後に帰化を可能にすることも検討されている。さらに、EU域外からの外国人に二重国籍を認めることも検討中だ。これまでドイツでは、日本と同じく原則として二重国籍が禁止されていた。元の国籍を捨てないで済むならば、ドイツの国籍を取ろうという外国人が増える可能性もある。

IT部門を中心に専門職業人が不足

ショルツ政権が外国人受け入れに関する規定を大幅に緩和する理由は、同国が特殊技能を持つ人材不足に悩んでいるからだ。連邦労働局のアンドレア・ナーレス長官によると、ドイツでは毎年40万人の労働力が不足している。特にIT部門での人材不足は13万7000人と過去最高の水準に達している。経済界では今後、特殊半導体の設計、IoT(物のインターネット)、ビッグデータの分析による新しいビジネスモデルの開発、人工知能、量子コンピューターなどに関する知識を持った人材への需要が急増するが、国内だけで適した人材を見つけるのは困難とみられている。

しかもドイツでは今後ベビーブーム世代に属する多数の市民が引退するので、2035年までに労働人口が現在に比べて約700万人減ると予想されている。あるコンサルティング企業は、昨年10月に公表した報告書の中で、「人材不足のためにドイツに毎年生じる経済損害額は、860億ユーロ(12兆4000億円・1ユーロ=140円換算)に達する」と指摘した。

チャンス滞在権によって就業機会を与える

しかも労働力が不足しているのは、IT分野だけではない。公共交通機関、スーパーマーケットからクリーニング店、パン屋さんまで、働き手を募集している。

人手不足が特に深刻なのが、医療・介護部門だ。コンサルタント企業PWCが昨年公表した報告書によると、2035年に医療・介護分野で不足する勤労者の数は、約180万人に達する見込みだ。私の知人の医師によると、ミュンヘンの大病院でも、コロナ・パンデミック以降、集中治療室で働く看護師の数が減ったため、手術を延期しなくてはならない例が増えている。

ドイツ政府は今年1月1日から、移民法の中に「チャンス滞在権」(Chancen-Aufenthaltsrechts)という新しい滞在資格を導入した。昨年10月31日の時点で、最低5年間ドイツに居住し、その間に法律に違反しなかった外国人に対して、18カ月間の滞在権を与えるという制度だ。ドイツに亡命を申請したものの、すぐに難民として認定されなかったが、健康上・人道上の理由などから、仮滞在を認められるケースは少なくない。彼らがドイツ語を学び、職業に就いて生活の糧を得られるようになれば、長期間の滞在許可を取得することができるかもしれない。

日本にとっても他人事ではない

世界では、人材の獲得競争が激化している。高度な専門技能を持った人々は、「どの国で働こうかな?」と各国の給与水準や労働条件を比べている。日本政府も法制度の整備を進めてはいるが、外国人の専門職業人はドイツほど社会に溶け込んでいない。高齢化と少子化が急速に進む日本にとっても、人材不足に悩むドイツの窮境は決して対岸の火事ではない。

最終更新 Donnerstag, 16 Februar 2023 16:08
 

独政府が圧力に屈し ウクライナに戦車供与へ

ドイツのショルツ首相は1月25日、欧米諸国の圧力に屈して、同国製のレオパルド2型戦車をウクライナに供与すると発表した。

レオパルド2型戦車は欧州などで約2000両が使われている(筆者撮影)レオパルド2型戦車は欧州などで約2000両が使われている(筆者撮影)

ウクライナは300両の戦車を要望

ドイツ政府は、ウクライナ軍がレオパルド2・A6型の戦車中隊を編成できるように、まず14両を送るとともに、乗員の訓練も開始する。首相はさらに、ポーランドなど他国が保有しているレオパルド2型のウクライナ供与も承認することを明らかにした。

ゼレンスキー大統領は感謝の意を表したが、「14両では足りない」と不満も表した。ウクライナ軍は現在1500両の戦車を持っているが、全てロシアか旧ソ連製の戦車。砲弾や部品が急速に不足している。このためウクライナ軍のザルジニー総司令官は、「レオパルド2型など西側の戦車を300両、西側の装甲歩兵戦闘車を600~700両、りゅう弾砲を500門が必要だ」と語っている。

レオパルド2型は、世界で最も優秀な戦車の一つといわれる。レオパルド2型は最高時速70キロで走行しながら、約5キロ離れた目標に砲弾を命中させる能力を持ち、ロシアが使っているT80やT90型戦車よりも優れている。いわばドイツの輸出商品の目玉の一つであり、オランダ、スペイン、ギリシャ、カナダなど14カ国が、約2000両のレオパルド2型を保有する。このため各国が「レオパルド・プール」を構成し、ウクライナに多数の戦車を送る公算が大きい。

ロシア軍の春季大攻勢に備える

ウクライナ軍が多数の戦車を求めている理由は、ロシア軍が戦況の膠着(こうちゃく)を打開するために、春に大攻勢を計画しているからだ。さらにゼレンスキー政権は「ロシア軍をウクライナ領土から完全に追い出すまで、停戦交渉・平和交渉に応じる気はない」としている。ロシア軍をクリミア半島やドンバス地方から駆逐するには、多数の戦車と装甲歩兵戦闘車を投入する必要がある。

今回の決定は、「難産」だった。ゼレンスキー大統領は、数カ月前からドイツにレオパルド2型の供与を要請していたが、ショルツ首相は「ドイツがほかの国に先駆けて戦車を送ると、ロシアから交戦国と見られる。ほかの国とじっくり調整してから決める」として、供与に反対してきた。1月20日にはラムシュタインの米軍基地にバイデン政権のオースチン国防長官ら北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防大臣が集まり、ウクライナ支援について協議したが、この場でもレオパルド2型の供与について結論が出なかった。

ポーランド政府は「ドイツの優柔不断な態度は受け入れ難い」とショルツ政権を露骨に批判。その上でポーランド政府は、1月23日、ドイツ政府に対し、ポーランド軍が保有するレオパルド2型のウクライナ供与を許可するよう申請した。

「独り歩き」を極度に嫌うショルツ首相は、ラムシュタイン会議の直前に、「米国がエイブラムス戦車をウクライナに供与するならば、ドイツもレオパルド2型を供与する」という条件を付けた。バイデン政権は当初エイブラムスの供与に反対していたが、ドイツの条件をのんで、30両のエイブラムスをウクライナに送ることを決めた。また英国政府も1月15日には、同国製のチャレンジャー2型戦車をウクライナに供与すると発表。この結果、ショルツ首相はレオパルド2型の供与を拒む理由を失い、ゴーサインを出した。

ドイツの決断の遅れに批判集中

レオパルド2型をめぐる議論は、ドイツの国際的な信用性を低下させた。国内外からショルツ首相に対して、「決断が遅く、欧州のリーダーにふさわしくない」という批判が集中した。ドイツは、最初はいろいろな理由をつけてウクライナの要請を断るが、結局は他国の圧力に屈して兵器を供与するというパターンを、1年近く続けてきた。

昨年2月に米英がウクライナに携帯型対戦車ミサイルを供与したときに、ドイツは5000個のヘルメットを送って、国際社会の失笑を買った。兵器供与に消極的だった当時のランブレヒト国防大臣は、「わが国は法律で、紛争当事国に武器を送ることを禁じられている」と繰り返した。だがドイツは、他国の圧力のために、しぶしぶ旧東ドイツ人民軍の旧式の携帯式対空ミサイルなどを送り始めた。

ウクライナ政府が「ゲパルト対空戦車やマルダー装甲歩兵戦闘車を送ってほしい」と要請したときも、「わが国が自国を防衛するために必要だ。他国に送る余裕はない」と拒否した。だが他国からの批判が高まると、ショルツ政権はこれらの兵器をウクライナに送った。

戦争のエスカレートへの不安

だがドイツ市民の間に、レオパルド2型の供与が戦争をエスカレートさせる可能性についての不安感があることも確かだ。ドイツ公共放送連盟(ARD)が1月19日に公表した世論調査によると、戦車の供与に賛成した市民の比率は46%だった。反対の比率(43%)との差は、わずか3ポイント。ドイツ人の間では、戦火がNATO加盟国に広がることへの恐怖感が強い。

一方ウクライナのメルニク副外務大臣は、「レオパルド2型の次は、西側の戦闘機を送ってほしい」と要請した。欧米諸国は今後も、戦争をエスカレートさせずに、ウクライナの敗北も防ぐという、微妙な綱渡りを強いられる。

最終更新 Mittwoch, 01 Februar 2023 19:08
 

暖冬でドイツのガス不足 回避の可能性高まる

ロシアのウクライナ侵攻以来、ドイツ経済と市民生活に垂れこめていた暗雲に、一筋の光が見えてきた。ドイツのエネルギー供給を監督・監視する連邦系統規制庁(BNetzA)のクラウス・ミュラー長官は、1月8日に「この冬にドイツでガスが不足して、緊急事態の宣言に追い込まれる危険は、ほぼ遠のいた」と語った。

1月3日、ドイツ北部ヴィルヘルムスハーフェンの浮体式LNG陸揚げ設備に最初のLNG船が到着した1月3日、ドイツ北部ヴィルヘルムスハーフェンの浮体式LNG陸揚げ設備に最初のLNG船が到着した

真冬に90%を超える備蓄率

ミュラー長官によると、ドイツのガス貯蔵設備の充填(じゅうてん)率は1月8日の時点で91.2%だった。1月の充填率としては、異例の高さである。しかも充填率は、昨年12月20日の87.2%以来徐々に増え始めている。

ドイツ政府は、「今年2月1日の時点で充填率が40%を割ると、危険な状態になる」と警告していた。しかしミュラー長官は、突発事態が起こらなければ、2月1日に充填率が40%を上回ることはほぼ確実と考えている。このため彼は、「この冬にガス不足が起きる可能性は薄らいだ」と発言したのである。

なぜドイツの充填率はこれほど高いのだろうか。その理由はいくつかある。一つは、異常な暖冬によって、市民のガス消費量が減ったことである。

昨年12月中旬にドイツは寒波に襲われた。第50週(12月12日~18日)の気温の中間値はマイナス5.2度だった。ところがこの週以降、気温が上昇し始め、第51週の気温の中間値は6度になった。昨年12月31日には、ドイツの一部の地域で20度という春のような気温が観測された。これは、大みそかの気温としては、1881年にドイツで気温の観測が始まって以来最も高い気温である。バイエルン州の海抜1100メートルのブラウネックでは、雪不足のためにスキー場の大半が草地となり、1月に営業を取りやめた。人工雪も溶けるほどだった。

しかもこの温暖な天候は、約2週間続いた。私が住むミュンヘンでは、暖房が全く必要なかった。地球温暖化による気候変動が原因とみられるが、最も寒さが厳しくなる12月から1月に記録的な暖冬となったことは、この国のガス消費量を減らすことに役立った。

企業・市民のガス消費量が減った

第2の理由は、企業と市民が政府の呼びかけに応えて、ガスの消費量を節約したことである。ドイツで最も多くガスを消費するのは製造業界で、ガス消費量の約37%が産業ガスとして使われている。

BNetzAによると、ドイツの産業界の昨年11月のガス消費量は、過去4年間(2018~2021年)の平均消費量に比べて、27.1%も少なかった。12月の消費量も過去4年間の平均に比べて15.4%少なかった。ガス料金が高騰したために、メーカーが熱源をほかのエネルギーに切り替えたり、生産活動を減らしたりしたせいもある。

市民も暖房の室温を低く設定したり、温水シャワーの回数を減らしたりした。BNetzAによると、昨年11月の家庭と中小企業のガス消費量は、過去4年間の平均に比べて27.3%、12月の消費量も4.4%少なかった。年金生活者のあるドイツ人夫婦は、「シャワーは3日に1回しか浴びないようにしている」と語った。

もう一つの理由は、ノルウェー、オランダ、ベルギーなどがパイプラインで着実にガスをドイツに送ってくれたことである。ロシアからのガスは昨年8月31日から止まっているが、これらの友好国から届けられたガスによって、今のところは代替されている。ドイツはチェコやスイス、オーストリアにもガスを融通しているが、暖冬でこれらの国でも消費量が減ったため、ドイツからのガス輸出量も減った。

これらの好条件が重なったため、ドイツでは真冬であるにもかかわらず、貯蔵設備の充填率が約90%という高い水準にある。このため、昨年8月には1メガワット時当たり300ユーロを超えたガスの卸売価格も、今ではロシアのウクライナ侵攻直前の水準まで下がっている(1月11日の時点で約70ユーロ)。

最大の懸念はパイプラインへのテロ

だが油断はできない。問題は2023~2024年の冬である。昨年ロシアは、1月1日~8月30日まで3138億1037万キロワット時の天然ガスを供給した。だが今年ドイツは、ロシアのガスなしに、秋には再びガス貯蔵設備をほぼ満タンにしなくてはならない。充填率が100%でも、安心はできない。現在北米を襲っているような寒波が長期間にわたり欧州に襲来した場合、タンクは約2カ月で空になるからだ。

昨年12月には、ドイツで最初の浮体式・液化天然ガス(LNG)陸揚げ設備が完成し、輸入が始まった。政府は固定式・浮体式を含めて9カ所にLNG陸揚げ設備を建設するが、全てが稼働するのは2026年になる。これらの設備が完成しても、ドイツのガス需要のほぼ3分の1しかカバーできない。

ミュラー長官が最も心配しているのは、ノルウェーからの海底パイプラインに対する破壊工作だ。昨年ノルウェーは、ドイツが輸入したガスの約33%を供給した。今年はその比率がさらに増える。昨年9月には、何者かがロシアからドイツへガスを送る海底パイプライン・ノルドストリーム1と2を爆破。犯人はまだ分かっていないが、北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアによる破壊工作の可能性もあるとみている。NATOはノルウェーのパイプライン海域でパトロールを強化しているが、テロを完全に防ぐのは至難の業だ。

ウクライナ戦争で座標軸が変わってしまった今日の欧州では、一寸先は闇である。今後も気を緩めずに、ガスや温水の節約に努める必要がありそうだ。

最終更新 Donnerstag, 19 Januar 2023 18:13
 

2023年のドイツを展望する

新しい年が明けた。誰もが、今年は流血と破壊がない年であってほしいと願っているのではないか。だが、2023年も欧州の政治・経済問題の中心はロシアのウクライナ侵略戦争になるだろう。

昨年12月にショルツ政権発足から1年を迎えたが、支持率は低迷したまま昨年12月にショルツ政権発足から1年を迎えたが、支持率は低迷したまま

ウクライナがロシアの飛行場を攻撃

戦争が収束する兆候は、全く見えない。ロシアは昨年9月にドンバス地方の「ドネツク人民共和国」、へルソンなど四つの地域の併合を宣言した。しかし、ウクライナ軍は欧米の強力な武器供与を受けて、へルソン市やハルキウ地区をロシア軍から奪回。プーチン大統領は、巡航ミサイルでウクライナの発電所、変電所、暖房設備などを破壊し、市民から電気や暖房、水の供給を奪う作戦に切り替えた。

ウクライナも沈黙してはいない。ウクライナ軍は昨年12月に、国境から約600キロメートル離れたロシア空軍の飛行場3カ所をドローンで攻撃し、軍用機や燃料施設に大きな被害を与えた。ウクライナ軍はロシア本土を攻撃する能力を蓄えたことを全世界に示した。

戦争の長期化は不可避か

読者の中には、「戦争はいつまで続くのか」と思っている人も多いだろう。ゼレンスキー大統領は、ドンバス地区、クリミア半島を含めてウクライナの領土から全てのロシア軍を撤退させるまでは、停戦交渉のテーブルには着かない」と語っている。

ウクライナは、ロシアを挑発していないのに一方的に攻め込まれている被害者だ。このため、欧米諸国もウクライナの頭ごなしに、ロシアを停戦条件について交渉することはできない。一方プーチン大統領は、「ウクライナの政府を占拠しているネオナチ勢力を排斥し、同国を武装解除するまで、戦いは止めない。欧米諸国は、ロシアの安全を保障するべきだ」と語り、ゼレンスキー政権転覆の野望を捨てていない。

プーチン大統領は、昨年10月27日のバルダイ会議で、「欧米が世界を支配する時代は、終わった。これから、第二次世界大戦後、最も危険で困難な10年間が訪れる」と語った。「10年間」という言葉から、プーチン大統領が長期戦を想定していることが分かる。次の節目は、今年4月の雪解けの時期が過ぎて、地面が固まる時だ。西側の軍事専門家の間では、春にウクライナ軍が大攻勢を開始するという見方も出ている。

興味深いのは、昨年12月初旬に有力紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)が、「米国政府はドイツがウクライナにレオパルド2型戦車の供与することに同意した」というリーク情報を伝えたことだ。ウクライナ政府はロシア軍を駆逐するために、レオパルド2型の供与を求めているが、ドイツのショルツ首相は反対。だが「米国政府には異論はない」とリークされ、ショルツ首相へのプレッシャーは強まる。慎重派のショルツ氏が清水の舞台から飛び降りる可能性もゼロではない。ドイツがウクライナにレオパルド2型を供与した場合、戦争に大きな転機が訪れるかもしれない。

ガス不足は回避できるか

2023年のもう一つの焦点は、エネルギー危機の行方だ。昨年の秋以来、ガスや電力料金の大幅な値上げが相次いでいる。私が住むミュンヘンでは、地元の電力会社SWMが今年1月から電力料金を約123%、ガス料金を93%引き上げた。私は33年前からドイツ在住だが、これほど急激な電気代やガス代の上昇は一度も経験したことがない。ロシアのガス供給停止の影響が、われわれの足下にも押し寄せたのだ。

幸い、政府は昨年12月の市民や中小企業のガス料金・地域暖房料金を全額負担したほか、今年1月からは電力・ガス・地域暖房の料金に、部分的に上限を設定した。それでも、市民の負担がウクライナ戦争勃発前に比べると増えることは確実なので、政府は低所得層に対する緊急援助金も準備している。政府がこれらの支援措置に投じる費用は、約1440億ユーロ(約20兆1600億円・1ユーロ=140円換算)に達する。

また、ロシアのガスが完全に止まっているにもかかわらず、今のところガス不足は避けられている。製造業界などがガス消費量を減らしたことや、ノルウェーやオランダが着実にガスを供給してくれているからだ。

連邦系統規制庁(BNetzA)によると、ドイツのガス貯蔵設備の充じゅうてん填率は、昨年12月7日の時点で約96%だった。BNetzAは、「2023年2月1日の時点で充填率が55%前後であれば、産業界や市民生活に大きな悪影響を与えずに冬を乗り切れる」と説明する。万一、寒さが例年よりも強まってガス消費量が増えたり、ノルウェーからの供給に支障が生じたりして、2月1日の充填率が40%を割った場合、政府が緊急事態を宣言し、ガスを多く消費するメーカーに対して配給制を導入する可能性もある。だが現在の状態が続けば、ドイツは最悪のシナリオを回避できるかもしれない。

ただしエネルギー業界の関係者の間では、エネルギー危機は2024年夏まで続くという意見が有力だ。ドイツ政府は今年からFSRUと呼ばれる浮体式のドックを使って、液化天然ガスの陸揚げを本格化させる。しかしヴィルヘルムスハーフェンなど3カ所に陸揚げターミナルが完成するのは、2024~2026年になる。エネルギー危機の暗雲がわれわれの頭上から完全に去るまでには、まだ時間がかかりそうだ。

筆者より読者の皆様へ

いつも独断時評をお読みくださり、誠にありがとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

最終更新 Donnerstag, 05 Januar 2023 12:03
 

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