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独断時評


ウクライナへの初の戦車輸出を承認

ドイツ政府がまたもや安全保障に関する原則を大きく転換した。ショルツ政権は4月26日、内外の圧力に屈して、ゲパルト対空戦車のウクライナへの輸出を承認すると発表した。ランブレヒト国防大臣によると、政府は武器メーカー、クラウス=マッファイ・ヴェクマン社が連邦軍から引き取って保管していた中古の対空戦車ゲパルト50両を、ウクライナに輸出することを許可。さらに政府は、中古のレオパルド1型戦車20両と、マルダー装甲歩兵戦闘車80両に関するウクライナへの輸出許可申請も審査している。

4月19日、バイデン米大統領と欧州首脳との電話会談後に記者会見するショルツ首相4月19日、バイデン米大統領と欧州首脳との電話会談後に記者会見するショルツ首相

ドイツが紛争地域に戦車を輸出するのは初めて。同国はこれまでウクライナに携帯式対戦車ロケット砲など小型の武器しか送っていない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ロシア軍に包囲された都市を奪回し市民を救うには、戦車や自走りゅう弾砲などが不可欠」として、ドイツなどに重火器の供与を要請していた。

「第三次世界大戦を避けたい」

ショルツ首相は長い間、戦車、装甲歩兵戦闘車、自走りゅう弾砲などの重火器をウクライナに送ることをちゅうちょしていた。その理由は、「重火器をウクライナに送ると、ロシアからドイツが交戦国と見なされる危険がある」と考えていたからだ。彼は、ドイツが第三次世界大戦に巻き込まれることを懸念している。

首相は、4月にシュピーゲル誌に対して行ったインタビューの中でも、「ドイツは、独り歩きするべきではない。ロシアと直接交戦する事態、そして核戦争は避けなければならない」と語っていた。確かにこの時点では、ポーランドなど東欧諸国は極秘裏に戦車をウクライナに供与していたが、米国、英国、フランスは戦車や装甲歩兵戦闘車を供与していなかった。

ショルツ政権は苦肉の策として、スロベニアがウクライナにT72型戦車を供与し、ドイツがスロベニアにマルダー装甲歩兵戦闘車を送って、兵器の不足を穴埋めする」という方針を打ち出した。ランブレヒト国防大臣は、「T72はソ連製なので、ウクライナ兵たちも操縦法に熟知しており、すぐに使えるという利点がある」と説明していた。

だがポーランド、バルト三国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国からは、ドイツのためらいに対して、強い批判と不満の声が上がった。彼らは、「ウクライナ人たちは自国だけではなく、欧州全体をプーチン大統領の侵略戦争から守るために戦っている。毎日ウクライナ市民が犠牲になっているなか、欧州のリーダー国ドイツは、もっとイニシアチブを取って軍事支援を強化するべきではないか」と主張した。

さらに連立与党の間でも、重火器の供与を求める声が強まった。連邦議会国防委員会のシュトラック=ツィンマーマン委員長(自由民主党・FDP)や欧州担当委員会のホーフライター委員長(緑の党)は、「われわれに与えられた時間は少ない。重火器の供与が遅れれば、ウクライナでさらに犠牲者が増える」として、首相の決断を求めた。ベアボック外務大臣も、「ウクライナに対する支援内容にタブーがあってはならない」として、間接的に重火器の供与を求めた。

ホーフライター氏らは、「プーチン大統領の侵略戦争がウクライナで終わる保証はない。もしロシアが勝ったら、プーチン大統領はバルト三国などNATO加盟国に矛先を向け、欧州が第三次世界大戦に巻き込まれるかもしれない」と訴えた。首相が属する社会民主党(SPD)よりも、反戦主義的な傾向が強かった緑の党の方が、重火器の供与に積極的な姿勢を示した。

キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首も「ショルツ首相が引っ込み思案であるために、ドイツの国際的信用が日一日と低下している」と批判し、ウクライナへの重火器供与に関する決議案を連邦議会に提出し、政府への圧力を高めた。

米国のオースティン国防長官は、ブリンケン国務長官と共に4月24日にキーウを訪問した後、ドイツで各国の国防大臣との会議に参加し、ウクライナへの軍事支援について協議した。同長官は、ショルツ政権が重火器の供与に踏み切ったことを歓迎した。

ドイツの指導力に陰り

しかし、ショルツ政権は当初説明責任を十分に果たさなかった。ドイツは「戦車を送る前に、まずウクライナ兵に訓練を受けさせて操作法に習熟させなくてはならない。現地で戦車が故障したら誰が修理するのか」、「自国領土の防衛やNATOの任務のためにも重火器が必要なので、連邦軍にはもはやウクライナに送れる兵器はない」などとさまざまな言い訳を述べて、重火器の供与を断ろうとした。同政権は内外で批判が沸騰するまで、戦車輸出にゴーサインを出さなかった。

ドイツは、今年1月にロシア軍がウクライナ国境に20万人近い兵力を集結させて緊張が高まり、米英が対戦車兵器などをウクライナに送り始めていたときにも、「わが国では法律で紛争地域への武器供与は禁じられている」としてウクライナの要請を断った。ランブレヒト国防大臣は、ヘルメット5000個の供与を発表して、全世界から失笑を買った。

ドイツの消極姿勢は、同国がこれまで欧州で果たしてきた指導的な役割に大きな影を落とした。特に東欧諸国は、ショルツ政権への失望を隠さない。シュレーダー・メルケル両政権がプーチン大統領に対して懐柔的な態度を取り、ロシアのガスへの依存度を高めたことと並び、ショルツ政権の優柔不断な態度は、各国のドイツへの視線を厳しいものにするだろう。

最終更新 Donnerstag, 05 Mai 2022 14:30
 

ブチャの住民虐殺で欧米がロシアを強く非難

戦慄すべき映像が世界中を駆け巡った。ウクライナ政府と欧米諸国は、「ロシア軍がキーウ(キエフ)近郊の街で多数の市民を虐殺した」と非難している。

4日、ブチャを訪問し、地元の市民と話すゼレンスキー大統領(中央)4日、ブチャを訪問し、地元の市民と話すゼレンスキー大統領(中央)

住民410人が虐殺される

現場は、キーウから北西25キロのブチャ(人口約2万4000人)。この街は3月上旬からロシア軍に占領されていたが、3月下旬にウクライナ軍が奪回した。4月2日に同市に入ったウクライナ国土防衛隊のオレクサンドル・ポーレビスキ氏は、道路のあちこちに住民の遺体が横たわっているのを見たという。ウクライナ軍の車両は、道に捨てられた遺体を避けて走らなくてはならなかった。一部の住民は手を背中の後ろで縛られており、後頭部を銃弾で撃ち抜かれていた。

ある家族の遺体は、一箇所に遺棄されていた。妻と息子の身体の一部が、土から突き出ている。夫の遺体には拷問を受けた後の傷があった。ロシア軍が司令部としていた建物の地下には、手を縛られて膝と頭を撃たれた遺体が、18体見つかった。自転車に乗っていて撃ち殺された男性、車の中で殺された母親と子ども。一部の遺体は、燃料をかけられて焼かれていた。

ブチャのアナトーリ・フェドルク市長は、「410人の市民の遺体が収容された」と語っている。ウクライナ政府のウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、4月4日に現場を訪れて生存者たちの話を聞き、悲痛な表情を見せた。彼は4月3日に行ったビデオ演説で、「これはロシア軍による民族虐殺(ジェノサイド)だ。なぜ無抵抗の市民たちが射殺され、拷問を受けなくてはならないのか?」と怒りをあらわにした。

国際調査団の派遣を要求

彼はブチャだけではなく、ロシア軍が占領したほかの地域でも残虐行為が行われていると危惧している。NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」も、「ウクライナ市民から、ロシア軍による民間人の射殺、性暴力、金品の略奪などの犯罪行為について多数の報告を受けている」と伝えた。

ウクライナ政府は国際犯罪裁判所(ICC)に対し、ブチャなどにおけるロシア軍の戦争犯罪を捜査するよう要求した。同国政府は4月4日に欧米の記者団に現地を訪問させ、殺害された市民の遺体の一部を公開した。現場の状況を記録させるためだ。ニューヨークタイムズは4月4日に衛星写真の分析結果を公表し、「ロシア軍がブチャを占領した3月11日以降、それまでなかった11人の遺体と見られる物体が、道路に現れている」と報じた。対するロシア政府は、「わが軍はウクライナ市民に全く危害を加えていない。ブチャの映像は、ウクライナ軍が演出したものだ」と反論している。

第二次世界大戦中のオラドゥール、ベトナム戦争中のソンミ村、ボスニア内戦中のスレブレニツァのような虐殺が、21世紀の欧州で繰り返されつつある。ICCは一刻も早く調査団をウクライナに送り、犯罪の証拠を収集するべきだ。国際社会は虐殺を行った兵士たちや、軍の責任者を処罰しなくてはならない。

独仏の対ロシア政策を批判

ブチャでの惨劇が暴露されたことで、ドイツやフランスなど、プーチン大統領に懐柔的な態度だった国に対する風当たりが強まっている。ゼレンスキー大統領は4月3日のビデオ演説で、両国を厳しく非難した。

「北大西洋条約機構(NATO)は、2008年のブカレストでの首脳会議で『ウクライナは将来のNATO加盟国』と述べた。だがこれは外交的な言辞にすぎなかった。実際にはドイツとフランスの反対によって、ウクライナのNATO加盟は拒否された。ロシアを刺激したくないという、独仏の愚かな恐れが原因だ。両国は、ウクライナのNATO加盟を拒否すれば、ロシアを懐柔しておとなしくさせられると思い込んだのだ」

さらに同氏は「14年間にわたる独仏の融和政策と誤算が、ロシアのウクライナ侵攻、そして今回の戦争犯罪につながった。私は、アンゲラ・メルケル前首相と、フランスのニコラ・サルコジ元大統領をブチャに招く。お二人には、拷問を受けたウクライナの男女に会ってほしい」と述べ、両国に矛先を向けた。

メルケル氏はこの声明に対し、ブチャでの虐殺を非難し、ロシアの野蛮な侵略戦争を終わらせるための国際的な努力を支援すると述べながらも、「2008年にウクライナのNATO加盟に反対したことは正しかった」と述べ、当時の決定を正当化している。

一方フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー大統領は、4月4日に「ロシアから直接ガスを輸送するパイプライン、ノルドストリーム2の建設に尽力したことは誤りだった。プーチン大統領の真意を見抜けず、東欧諸国などの警告を受け入れなかった」と述べ、対ロ政策の失敗を認めた。これは、駐独ウクライナ大使アンドリー・メリニク氏が3日に「シュタインマイヤー大統領は、プーチン大統領が仕掛けたクモの巣に絡めとられている」と批判したのに答えたもの。シュタインマイヤー大統領は、シュレーダー政権の連邦首相府長官、メルケル政権の外務大臣として、ロシアとの緊密な経済関係を構築した責任者の一人。大統領が過去の政策の誤りを公に認めたのは、極めて異例だ。

もう一つの焦点は、ドイツのロシアからのガス輸入だ。4月5日の時点では、ショルツ政権はガスの即時輸入禁止に反対している。虐殺により、ウクライナや東欧諸国からは「ドイツはいつまでロシアに多額の金を払い続けるのか」という批判が高まることは確実だ。ドイツ政府は、ますます苦境に追い込まれつつある。

最終更新 Donnerstag, 14 April 2022 08:15
 

ゼレンスキー大統領がドイツを厳しく批判

ロシアがウクライナに対する侵略戦争を始めて1カ月がたつが、犠牲者は増える一方だ。欧州連合(EU)はウクライナの人口の約4分の1に当たる1000万人が難民化する可能性があるとみている。そうしたなか、ウクライナ政府はドイツに対する不満を強めている。

3月17日、ドイツ連邦議会でリモート演説をしたウクライナのゼレンスキー大統領3月17日、ドイツ連邦議会でリモート演説をしたウクライナのゼレンスキー大統領

武器供与の遅れを批判

そのことを浮き彫りにしたのが、3月17日にゼレンスキー大統領がドイツ連邦議会の議員たちに向けて行ったリモート演説である。彼はドイツの連帯感に感謝したが、演説の中ではドイツのロシアに対する宥ゆうわ和的な姿勢への批判の方が強かった。

ゼレンスキー大統領は、「ドイツはロシアの侵攻を防ぐための努力を十分に行わなかった。戦争が始まる前に、われわれはドイツに対して武器を送ってくれと何度も要請したのに、あなた方の反応は遅く、送られた武器も少なかった」と指摘した。

米国や英国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国が大量の携帯式対戦車ミサイルを送り始めてからも、ショルツ政権は「紛争地域に武器を送ることは、法律で禁じられている」として、当初ウクライナの要請を拒否した。ヘルメットを5000個供与した時には、駐独ウクライナ大使が「ジェスチャーとしての意味しかない。ドイツは冷たい」と厳しく非難している。

ドイツがようやく重い腰を上げて、対戦車ミサイルなどの供与に踏み切ったのは、ロシア軍がウクライナに侵入した2日後の2月26日だった。ショルツ政権の武器供与は、NATOで最も遅かった。しかもドイツが送った武器の中には、社会主義時代の東ドイツ人民軍が保有していた、ソ連製携帯式対空ミサイル「ストレラ」など、製造されてから30年以上経った旧式の武器も含まれていた。

ゼレンスキー大統領は、「ショルツ政権には、ウクライナに自衛用の武器を与えて、ロシアによる侵略を抑止しようという努力が欠けていた」と批判。彼は、「われわれは開戦前に、ロシアがウクライナへの侵攻を思いとどまるように、プーチン政権に対して厳しい経済制裁措置を発動してほしいと要請した。しかしあなた方はロシアとの貿易を重視し、経済、経済、経済の原則を貫くだけだった」と不満をあらわにした。

パイプライン計画に固執したドイツ

さらに痛烈なコメントは、ロシアからドイツにガスを輸送するパイプライン「ノルドストリーム2」(NS2)に関するものだ。ゼレンスキー大統領は、「われわれはドイツ政府に対し、『ウクライナを経由せずに西欧にガスを送るNS2は、ロシアの政治的な武器だから、建設を許してはいけない』と警告してきた。それなのに、あなた方は『NS2は純粋に民間経済のプロジェクトだ』と言うばかりで、警告を無視した」と指摘。

ロシアの国営企業ガスプロムは、ドイツ政府の許可を得て2018年にNS2の建設を開始し、昨年完成させた。つまりプーチン政権が2014年に国際法に違反してクリミア半島を併合したり、ウクライナ東部のドンバス地方の親ロシア派の分離独立の動きを軍事的に支援していたにもかかわらず、ドイツはロシアとの経済プロジェクトを粛々と進めたのだった。

ドイツ政府がNS2の稼働許可申請手続きを凍結したのは、ロシアが2月22日に「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の独立を承認した後だった。侵略戦争開始の2日前である。ロシア政府のノバク副首相は「われわれはすでに稼働中のNS1による西欧へのガス供給を停止する権利を持っている」と恫どうかつ喝した。つまり「NSはロシアが西欧を脅すための武器だ」というウクライナ人たちの警告は、正しかった。この結果、ドイツは輸入するガスの約55%をロシアに頼るという、危険な状態に陥っている。

さらにゼレンスキー大統領は、「われわれをNATOやEUに加盟させてほしいという要求も、あなた方は聞いてくれない」と批判。彼は、「今欧州には新たな壁が築かれつつある。われわれは壁の向こう側に取り残され、ドイツは壁の西側に残る。あなた方はNSに関するわれわれの警告を無視し、NATOやEU加盟への道を閉ざすことによって、欧州を分断する壁を築くセメントを提供している」と述べ、ドイツがウクライナを見捨てようとしていると嘆いた。

大統領は、「ウクライナではすでに数千人の市民が死亡した。そのうち、子どもの死者は108人だ」として、ショルツ政権に対し「将来ウクライナを助けるために十分な努力をしなかったと後悔しないように、新たな欧州の壁を打ち破ってほしい」と訴えた。

第三次世界大戦を避けるという鉄則

ゼレンスキーの「告発」は、西欧諸国が直面するジレンマを示している。ウクライナが最も求めているのは、NATOが同国に飛行禁止空域を設定し、ロシア軍の戦闘機や巡航ミサイルによる攻撃を阻止することだ。しかしその場合、NATOは侵入したロシア軍機を撃墜しなくてはならず、第三次世界大戦が勃発する。このためNATOは飛行禁止空域の設定を拒んでいる。ゼレンスキー大統領は、西側に対し戦闘機の供与も要求したが、NATOは「戦闘機供与は、ロシアから交戦国とみなされる」として拒否した。ロシアは核兵器を使う可能性も否定していない。

つまり「第三次世界大戦を防ぐ」という鉄則のために、ウクライナが見殺しにされる危険が強まっているのだ。欧米の政治家たちは、この残酷なジレンマに対してどのような回答を示すだろうか。

最終更新 Donnerstag, 31 März 2022 16:59
 

ウクライナ戦争に出口見えず - ドイツに迫るエネルギー危機

ウクライナから毎日数千人が到着するベルリン中央駅では、数百人のボランティアが対応している(7日撮影)ウクライナから毎日数千人が到着するベルリン中央駅では、数百人のボランティアが対応している(7日撮影)

第二次世界大戦並みの惨状に

ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まってから2週間以上たったが、戦闘は続いている。プーチン大統領の「電撃作戦により、数日間でキエフ(キーウ)を陥落させる」というもくろみは外れた。このためロシア軍は戦法を切り替えた。軍事目標だけではなく、市街地に無差別に砲撃・爆撃を加えることで市民に恐怖感を与え、政府から民心を離反させようとする試みだ。

このため北部のハルキウ、南部のマリウポリなどでは病院、学校、商店などがミサイルやロケット弾で破壊され、第二次世界大戦に匹敵する惨状となっている。特にマリウポリでは、数万人の市民が水、電気、食糧、暖房、医薬品の補給を断たれて苦しんだ。ウクライナ政府は、いわゆる「人道回廊」を通じて、市民を脱出させる道を探っているが、戦闘が激しいために大半の市民が逃げ道を断たれた。避難している途中で迫撃砲弾による攻撃を受けて、死亡した親子もいる。

4日には、ロシア軍が欧州最大のザポリージャ原子力発電所を攻撃した。原子炉に被害がなかったとはいえ、原発が軍事攻撃の対象になったのは初めて。1986年のチェルノブイリ原発事故で放射能汚染を経験したドイツでは、市民が強い不安を抱いた。

ウクライナ政府のゼレンスキー大統領の補佐官・ショウクワ氏は8日、「ウクライナの主権が維持されるならば、わが国が中立国になる可能性についても、ロシアと協議する準備がある」と語り、北大西洋条約機構(NATO)加盟に固執しないという姿勢を打ち出した。しかし停戦交渉は大きく前進していない。

200万人を超えるウクライナ難民

国連によると、9日までに約201万人が戦火に追われてウクライナから国外に脱出した。第二次世界大戦後、最も深刻な難民流出である。

その大半は女性と子どもだ。18~60歳の男性は総動員令のために出国を禁止されており、家族を国外へ避難させたら、キエフなどに戻って軍務に就かねばならない。最も多く難民を受け入れたのはポーランドで、約120万人。国境近くに住むポーランド人たちが、身寄りのない難民たちを次々に自宅に引き取っている。

欧州連合(EU)はウクライナ難民については、全員に最低1年間は滞在・労働許可を与え、生活に困窮した場合には生活保護も支給することを決めた。国連は難民の数が約400万人に達すると予測している。オーストリアの社会学者ゲラルド・クナウス氏は、「最悪の場合約1000万人(人口の約4分の1)がウクライナから国外へ脱出する可能性がある」とみている。

ドイツには9日までに約6万5000人のウクライナ難民が到着した。彼らはベルリンなどの駅に到着すると、ボランティアから食糧や水、衣服などを手渡される。ドイツ移民・難民局がウクライナ難民の滞在先を募集したところ、企業や個人から「受け入れても良い」という申し出が35万人分集まっている。

ロシアが初めてガス供給停止の可能性を示唆

ドイツに住むわれわれの日常生活にも、ウクライナ戦争の影響が及んでいる。3月の第1週には、1リットル当たりのガソリンやディーゼル向け軽油の価格が初めて2ユーロ台を突破した。8日には、米国政府のバイデン大統領が「ロシアからのガス、石炭、原油のわが国への輸入を禁止する」と発表。ガス価格や電気料金も上昇する見通しで、昨年から続いていたインフレ傾向に拍車がかかる恐れがある。

ドイツ政府は「経済への悪影響が大きくなる」という理由で、ロシアからのエネルギーの輸入停止には踏み切っていない。ガス輸入禁止は、家庭だけではなく、化学、製鉄、セメントなどエネルギー集約型の製造企業にも深刻な打撃となる。

ドイツは輸入するガスの約55%、原油の約34%、石炭の約49%をロシアに依存している。同国はロシアからの輸入量を減らすために、米国やカタールなどからの液化天然ガス(LNG)の輸入量を増やす方針だ。しかし、短期的にロシアからの輸入量をほかの供給国で完全に代替することは極めて困難である。

ロシアがエネルギーを武器にする危険もある。ドイツ政府は2月22日に、ロシアからドイツへ直接ガスを輸送するパイプライン・ノルドストリーム2の稼働許可申請の審査を停止した。これに対しロシア政府のノバク副首相は、8日に「われわれには、稼働中のパイプライン・ノルドストリーム1による西欧へのガス供給を停止する権利がある」と発言した。ロシアが報復としてガス供給停止の可能性を示唆したのは初めて。ハーベック経済気候保護大臣は「エネルギーはロシアの最大の収入源なので、輸出を止める可能性は低いが、ゼロではない」と語っている。

ベルギーのシンクタンク・ブリューゲル研究所は、今年2月に「ドイツは毎日ロシアに対して2億ユーロ(260億円・1ユーロ=130円換算)、毎月56億ユーロ(7280億円)のガス代金を支払っている」という推計を発表した。ガスをドイツに売っているのは、ロシアの国営企業ガスプロム。つまりこの収入はロシアの国庫に入る。今後各国からは、「ドイツは、ロシアのガスを買うことによって、プーチン大統領の侵略戦争に間接的に資金援助している」という批判が上がるかもしれない。

今後ドイツと欧州連合(EU)にとっては、ロシアからの化石燃料への依存から脱却するためにも、再生可能エネルギー拡大が極めて重要な目標となる。

最終更新 Mittwoch, 16 März 2022 16:16
 

ロシア・ウクライナ侵攻の衝撃 ドイツは大幅な軍備増強へ

最悪の事態が現実化した。2月24日にロシアがウクライナに対する侵略戦争を始めたのだ。ドイツは、欧州全体が脅威にさらされているとして防衛政策を根本的に転換し、大幅な軍備増強に乗り出す。

2月27日にベルリンで行われたデモでは、10万人以上の市民がウクライナへの連帯を表明した2月27日にベルリンで行われたデモでは、10万人以上の市民がウクライナへの連帯を表明した

第二次世界大戦以来、最大規模の戦争

首都キエフ周辺や第2の都市ハルキウなどで、ミサイル攻撃による爆発音が轟(とどろ)く。ウクライナの北部・東部の国境を越えて、ロシア軍の戦車や装甲兵員輸送車、自走りゅう弾砲など多数の軍用車両が侵入してきた。ロシアは16万人もの兵力を、ウクライナ周辺に集結させていた。両軍の兵士、民間人に多数の死傷者が出ている。ロシア軍は軍事施設だけではなく、キエフの高層アパートや幼稚園など民間施設も攻撃。30万人を超えるウクライナ人が隣国ポーランドやルーマニアに脱出した。欧州連合(EU)は最悪の場合、約700万人のウクライナ人が難民になると推定している。第二次世界大戦後、欧州で最大規模の戦争となった。

プーチン大統領は、24日のテレビ演説で「われわれはウクライナで虐待されているロシア系市民を救うために、この作戦を実行する。われわれの目的は、ウクライナを武装解除し、非ナチ化することだ。作戦の邪魔をする者には、過去になかったような報復を与える」と警告。西側諸国は、この言葉について、核兵器による報復を示唆したものとみている。彼は21日に親ロシア派が支配する「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」の独立を承認したときにも、「ウクライナは、外国に操られた植民地であり、主権国家ではない。外国の支援を得て、ロシアに対抗するための核兵器を持とうとしている」と主張した。

プーチン氏はしばしば「ゼレンスキー政権はネオナチに支援されている」と主張する。欧米は、彼がゼレンスキー政権の転覆と、親ロシア派による傀儡(かいらい)政権の樹立を目指すのではないかとみている。

ウクライナ政府はロシアと断交するとともに、18~60歳の男性に総動員令を出し、戒厳令を発布した。ゼレンスキー大統領は、ネット上にセルフィー動画を公開し「私はここに残り、最後まで国を守る」と語った。女性たちも自動小銃を持って国土防衛隊に参加し、子どもたちは空き瓶で火炎瓶を作っている。

EUが厳しい対ロ経済制裁を発動

ドイツのショルツ首相やフランスのマクロン大統領がクレムリンを訪れ、戦争を防ぐために必死の外交努力を続ける裏で、プーチン大統領は着々とウクライナ侵攻の準備を進めていた。それだけに西側諸国の政治家たちの怒りと絶望は深い。

ショルツ首相は、24日に「プーチン大統領の行動を正当化することはできない。ウクライナにとって恐るべき日であり、欧州にとって暗黒の日だ。ドイツはウクライナに対する連帯を表明する」と述べ、ロシアの軍事行動の即時停止を要求した。ベアボック外務大臣も「ロシアはウクライナ侵攻によって、国際秩序の最も重要な部分を侵害した。世界は、この恥ずべき日を永久に忘れないだろう」とプーチン大統領を批判した。EUは22日、ロシアがルガンスク人民共和国などの独立を承認した直後に、ロシアの銀行や企業、議員らのEU域内の資産凍結やロシア国債の取引禁止などの経済制裁を発表。24日にはさらに制裁措置を強化し、ハイテク製品などのロシアへの禁輸を決めた。

また欧米諸国は、26日にロシアの大手銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出すことを決定。多くの銀行で国を超えた送金を不可能にする、厳しい措置だ。EUはロシアの航空機のEU上空の飛行も禁止した。ロシアも報復でEU加盟国の航空会社に対して空域を閉鎖したため、EUから日本への空の旅にも支障が出る。

ドイツが初めてウクライナへ武器供与

ドイツは安全保障政策を大きく転換し、軍備を増強する。同国は26日に、約1000基の携帯式対戦車ロケット砲、約500基の携帯式対空ミサイルなどをウクライナに供与すると発表。さらにオランダ政府がドイツ製の対戦車兵器400基をウクライナに送ることも許可した。ドイツはこれまで、NATO加盟国の中で唯一、ウクライナへの武器供与を拒否していたが、各国の圧力に屈した。

またショルツ首相は27日に連邦議会で行った演説で、装備不足に悩むドイツ連邦軍のために1000億ユーロ(13兆円・1ユーロ=130円換算)の特別基金を設置するとともに、毎年の防衛支出が国内総生産に占める比率を2%超に引き上げることを明らかにした。

ドイツは22日、「ロシアからガスを輸送するパイプライン・ノルドストリーム2の稼働許可申請の審査を停止する」と発表した。ロシアは、ドイツにとって最大のエネルギー供給国だ。2020年にドイツが外国から輸入したガスの約55%、石炭の約57%、原油の約34%をロシアから輸入している。ただしドイツ政府は、ロシアがエネルギーを政治的な武器として使う危険があるとして、今後は同国への依存度を減らす。

NATOはロシアに対する抑止力を強化するため、1949年の創設以来初めて緊急対応部隊をルーマニアに派遣した。これに対しプーチン大統領は、核戦力部隊を含む抑止力軍に警戒態勢を取るように命じ、さらに事態をエスカレートさせる構えだ。27日にゼレンスキー大統領は、ロシアの代表団とベラルーシ・ウクライナ国境で停戦条件について協議することを明らかにした。砲火が一刻も早くやむことを祈る。

最終更新 Donnerstag, 03 März 2022 14:46
 

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