Hanacell
独断時評


なぜウクライナ危機で ドイツが批判されるのか?

各国の外交努力にもかかわらず、ロシアがウクライナ国境付近に集結させた約13万人の軍隊を撤兵させる兆しはない。こうしたなか、米国やウクライナではドイツに対する批判が高まっている。

7日、ショルツ首相は米国のバイデン大統領と会談し、結束をアピール。しかし、ノルドストリーム2への意見の相違が浮き彫りになった7日、ショルツ首相は米国のバイデン大統領と会談し、結束をアピール。しかし、ノルドストリーム2への意見の相違が浮き彫りになった

ウクライナへの武器供与をかたくなに拒否

最大の理由は、ショルツ政権がウクライナへの武器供与を拒否していることだ。同国はドイツに対して、携帯式対空ミサイル、ドローン迎撃用機関砲、弾薬、赤外線暗視装置などの供与を求めている。ドイツは「紛争が起きている国に兵器を供与することはできない」として断り、ヘルメットを5000個供与することだけを約束した。

この決定について在ドイツ・ウクライナ大使館のメルニク大使は、「ヘルメットは、シンボルとしての意味しか持たない。プーチン大統領は将来何をするか分からない。従って、ドイツはわが国への武器供与に慎重な路線を改めてほしい」と不満を表明した。

ドイツは、他国のウクライナへの武器供与にも待ったをかけた。エストニアは、1990年代にドイツから42門の榴りゅうだんほう弾砲を買っていた。これは東ドイツが所有していたソ連製の大砲だった。エストニアはウクライナを支援するために、この榴弾砲の供与を計画した。ところがショルツ政権は、エストニアに対してこの大砲をウクライナに移転することを許可しなかった。

ドイツの法律は紛争地域への武器移転を禁止

ドイツの「戦争兵器管理法」は、「紛争に巻き込まれている国、もしくは紛争が勃発する危険のある国に対する兵器の輸出や移転」を原則的に禁止している。

ドイツ人にとっては、第二次世界大戦中の記憶も武器供与をためらわせる理由となっている。ナチス・ドイツ軍がウクライナを含むソ連領土に侵攻し深刻な被害を与えたからだ。ドイツの政治家たちはウクライナに武器を供与することをためらう理由として、「過去の経験から」という言葉をしばしば使うが、ナチスがソ連に対して与えた甚大な被害に対する罪の意識を示している。

ほかの国々は、ドイツよりもウクライナに対する軍事支援に積極的だ。バイデン政権は2月2日に2000人の戦闘部隊をドイツとポーランドに送り、ドイツに駐留している1000人の兵士をルーマニアに派遣した。米国は昨年12月にウクライナに対し2億ドル(220億円・1ドル=110円換算)の軍事物資を供与することを約束し、ジャベリン対戦車ロケット砲や弾薬など約90トンの支援物資をキエフに送った。

英国政府は、今年1月「ウクライナに携帯式対戦車ミサイルの供与を開始し、同国の兵士たちをミサイルの操作法に習熟させるために少数の英軍兵士を同国へ派遣した」と発表。トルコも、ウクライナに対し地上攻撃ミサイルを装備したドローン「バイラクタルTB2」を売却している。

かつてソ連に強制的に編入され、1990年代に独立を回復したバルト三国も、米国政府に対して「米国製の武器をウクライナに供与することを許可してほしい」と要請。バイデン政権は1月中旬に、これらの国々に対し、米国から買っていた対戦車兵器などをウクライナに供与することを承認した。ポーランドも「ウクライナ政府に、携帯式対空ミサイルの供与を決めた」と発表している。

ドイツは、世界第4位の武器輸出大国だ。同国は昨年93億5000万ユーロ(1兆2155億円・1ユーロ=130円換算)の武器を中東、アフリカ、アジアなどに輸出した。2014年には、「紛争地域に武器を送らない」という原則の例外措置として、テロ組織・イスラム国と戦うクルド人の戦闘部隊に、対戦車ミサイルを供与した。米国やバルト三国が「ドイツはなぜ今回も例外措置として、ウクライナに武器を送らないのか」と批判するのは、そのためだ。

これに対しドイツ政府は、「わが国は2014年以来、ウクライナに18億3000万ユーロ(2379億円)の経済援助を行っている。2018~2019年にウクライナに対して行った経済援助額は2億2000万ドル(242億円)で、二国間の援助額としては、世界で最も多い」と反論する。

ウクライナはドイツの態度に強い不満

ただし、ほかの国々が武器を送っているときに、ドイツが「われわれは多額の金を払っている」と主張しても、理解を得ることは難しい。

2月1日にウクライナ議会で、議員たちは米国、英国、ポーランド、トルコなど同国に軍事支援を行っている国々の国旗を掲げて、感謝の意を表した。しかしその中にドイツの国旗は入っていなかった。ウクライナ人たちのドイツへの不満がはっきりと表われている。

もう一つの理由は、ロシアに対する経済制裁をめぐるドイツの態度だ。米国やウクライナは、「ウクライナ侵攻が起きた場合、ロシアからドイツに直接ガスを送るパイプライン、ノルドストリーム2(NS2)の稼働を禁止するべきだ」と主張。一方で、ショルツ首相は「あらゆるオプションを検討する」と言うだけで、明言を避けている。首相は「手のうちを全部見せない方が、抑止効果がある」と説明しているが、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長もNS2を制裁の対象に含めると述べているなか、ドイツの首相が腫れ物に触るような態度を取っているのは、不自然だ。

ショルツ首相は、政権発足早々に吹き始めた逆風を、押し戻すことができるだろうか。

最終更新 Mittwoch, 16 Februar 2022 13:21
 

原子力はグリーンか?EUとドイツが対立

欧州各国でエネルギー価格が上昇を続けるなか、欧州連合(EU)では原子力が持続可能性が高いエネルギーかどうかについて、論争が起きている。

昨年末に廃炉になったニーダーザクセン州のグローンデ原子力発電所。環境保護団体グリーンピースが「原子力フリーの欧州のために」の文字を映し出した昨年末に廃炉になったニーダーザクセン州のグローンデ原子力発電所。環境保護団体グリーンピースが「原子力フリーの欧州のために」の文字を映し出した

EU、原子力の「グリーン認定」を提案

引き金となったのは、EUが昨年12月31日の深夜に加盟国政府に送った文書だ。EUはこのなかで、原子力発電所と天然ガス火力発電所が一定の条件を満たせば、「地球温暖化や気候変動の抑制に貢献する事業」のリスト(タクソノミー)に載せる方針を打ち出した。EUが作成中のタクソノミーは、持続可能性の高い経済活動の事業分類表で、民間の投資家のための指針として使われる。ここに記載された事業は「グリーンな経済活動」と認められて、将来資金の調達が容易になる。

EU提案によると、原子力発電所をタクソノミーに記載するには、最新のテクノロジーを使用すること、2045年までに建設許可を取得すること、2050年までに高レベル放射性廃棄物の処理方法について、具体的な計画があるなどの条件を満たすことが必要。

また2030年までに新設される天然ガス火力発電所については、電力1キロワット時を発電する際に排出される二酸化炭素(CO2)の量が270グラム以下であること、2035年までに燃料を天然ガスから再生可能エネルギーによる電力で作られる「グリーン水素」に切り替えることなどの条件を満たせば、タクソノミーに記載される。

ドイツは原子力のタクソノミー記載に反対

これに対しドイツは、EU提案に強く反発している。同国は2011年に日本で起きた福島第一原発の炉心溶融事故以来、脱原子力政策を進めている。これまでに14基の原子炉を廃止し、今年12月末には残りの3基のスイッチを切る。

連邦経済気候保護省のハベック大臣(緑の党)は、「原発からの高レベル放射性廃棄物は、人類と環境にとって長年にわたり負担となる。そう考えると、原子力をEU タクソノミーに記載することは、持続可能性の定義を不当に変更することになる。これはいわゆるグリーンウォッシングであり、誤りだ」と反対した。グリーンウォッシングとは、実際には環境保護に貢献しないものや事業を、表面的に「持続可能性が高い」と見せかけることだ。

すでに脱原子力を達成しているオーストリアも、EU提案に反対している。同国ゲヴェッスラー環境大臣(緑の党)は、「EUが原子力を実際にタクソノミーに記載した場合には法的措置を取る」として、欧州裁判所に提訴する可能性を示唆した。

EU提案の背景には、欧州の多くの国々で、「CO2を迅速に減らすには、原子力と天然ガス火力を使う必要がある」とする意見が強まっているという事実がある。その筆頭は、電力の約71%を原子力でカバーしているフランスだ。マクロン大統領は当初原子力の比率の引き下げと再エネ拡大を計画していたが、昨年のエネルギー価格の高騰で方針を転換し、2021年11月、原子炉の新設計画を発表した。

またポーランドは現在電力の78%を石炭に依存しているが、2049年までに脱石炭を実現するために、2033年までに最初の原子炉を稼働させる。EUのフォンデアライエン欧州委員長も昨年11月、「2050年までにカーボンニュートラルを達成するには、少なくとも過渡期のエネルギーとして原子力と天然ガスの使用が不可欠だ」と語っている。

つまり欧州では、EUのCO2削減政策が「原子力ルネサンス」の追い風となっているのだ。このためドイツやオーストリアは押し切られる公算が大きい。提案は、EUの人口の65%を持つ20カ国が反対しない限り、可決される。フランス、オランダなど12カ国が原子力のタクソノミー記載に賛成しており、反対しているのはドイツやオーストリアなど5カ国にすぎない。

ちなみにハベック大臣は「天然ガス火力発電所は、長期的には持続可能性が高いとはいえない。しかし過渡期のエネルギーとしての役割を果たすことができる」と述べ、タクソノミーへの記載に前向きである。ショルツ政権は連立契約書の中で、「電力需要が増えるなかで、安定供給を確保するために、天然ガス火力発電所を新設する。ただし、将来は燃料を天然ガスからグリーン水素に切り替える」と明記している。つまりEUは原子力のグリーン認定を求めるフランスと、天然ガスのグリーン認定を求めるドイツの意向に配慮したことになる。

金融機関も「原子力のグリーン認定」には当惑

重要な点は、EU タクソノミーが民間投資家のための指針であり、加盟国に対してエネルギー政策を命じるものではないということだ。各国はこれまで通り、独自のエネルギー政策を取ることを許される。つまりこの事業分類リストは、ドイツが脱原子力政策を貫徹する上で、障害にはならない。

また金融業界からは、EU提案に批判的な意見が出ている。これまでもドイツの一部の投資ファンドは、「大規模事故のリスクや、放射性廃棄物の問題がある」として、原子力関連事業が年間売上高の5%以上を超える企業への投資を避けていた。このため原子力がタクソノミーに記載されても、EUの思惑通り、投資家が原子力関連産業を含むポートフォリオへ投資するかどうかは、未知数である。EU加盟国間の原子力をめぐる論争には、まだ紆余曲折が予想される。

最終更新 Donnerstag, 03 Februar 2022 09:29
 

ウクライナ危機にNATO・ドイツはどう応える?

プーチン大統領は昨年秋以来、ウクライナ国境付近に約10万人の兵力を集結させ、米国と北大西洋条約機構(NATO)に対し、冷戦終結後の欧州の秩序に変更を加えるよう迫っている。ドイツなど西欧諸国の安全保障体制をも揺るがす事態だ。

1月9日、ウクライナのキエフにてプーチン大統領の政策に抗議する市民たち1月9日、ウクライナのキエフにてプーチン大統領の政策に抗議する市民たち

10万人の兵力が国境に集結

1月10日、ウクライナ危機をめぐって米ロ代表がジュネーブで最初の会議を開いた。ロシアのリャブコフ副外相は「われわれがウクライナに侵攻するというのは、フェイクニュースだ。わが国にはそのような意図は毛頭ない。ロシア軍は軍事演習を行っているだけだ」と述べ、西側の懸念を打ち消そうとした。これに対し米国のシャーマン国務副長官は「10万人の部隊を動員して、ウクライナ国境の近くで演習を行う必要はない。早く部隊を撤退させるべきだ」と反論した。

昨年11月米国のメディアは、「政府の安全保障担当者が部内の会議で『ロシアは2022年初頭にウクライナに侵攻するための準備を整えている』という見解を表明した」と伝えている。

NATOの東方拡大禁止を求めるロシア

昨年12月に、プーチン大統領の意図が明らかになった。同氏は米国とNATOに対して新しい条約の草案を送りつけ、「ウクライナをNATOに加盟させないことを条約によって約束しろ」と迫ったのだ。ロシアは2014年にウクライナの領土だったクリミア半島に戦闘部隊を送り、併合した。さらにウクライナ東部で起きている内戦では、ロシアはウクライナからの独立を求める勢力を支援している。

ウクライナはNATOへの加盟を希望している。NATOは2008年の首脳会議で、ウクライナに対し「加盟の可能性」を示唆したが、かつてソ連に属していた国をNATOに受け入れることはロシアを刺激するとして加盟を認めていない。リャブコフ副外相は、「NATOは2008年にウクライナに対して示した加盟の可能性を撤回するべきだ」と迫っている。

しかもプーチン大統領は「NATO・米国は、これ以上東側に拡大しないこと、もしくは加盟国の数を増やさないことを約束せよ」と主張。さらに、かつてソ連に属していた国に基地を置いたり、軍事的に協力したりしないよう求めている。またロシアは条約草案の中で「NATOとロシアは、自国領土内を除いて、互いに脅威を感じさせるような行動をやめるべきだ」としている。これは、ロシアがウクライナ国境付近で軍事演習を行えるのに対し、NATOにはバルト三国やウクライナでの演習を禁止する「不平等条約」である。

米国とNATOは、「プーチン大統領の提案には、受け入れがたい部分が多い」としている。例えばウクライナがNATOに加盟するかどうかは、同国とNATOが決めることであり、ロシアが口出しする問題ではないという意見が有力だ。このため西側では、「ロシアの本当の狙いは、無理な要求を突き付けることで協議を決裂させ、ウクライナに侵攻する口実を作ろうとしているのではないか」という懸念も高まっている。実際プーチン大統領は、「米国とNATOがロシアの要求を拒否するならば、私は軍人たちのアドバイスに耳を傾けるだけだ」と不穏な発言をした。

ドイツの安全保障にも大きな影響

NATO加盟国ドイツにとっても、プーチン氏の「挑戦状」は重要な意味をもつ。ドイツは英仏とは異なり自国の核兵器を持っていないが、米国の核兵器がドイツ領内に配備されている。米軍はドイツのほか、トルコ、イタリア、オランダとベルギーに自国の核兵器を配備している。

ロシアとの間で戦争が始まった場合、ドイツ政府はラインラント=プファルツ州のビュッヘル空軍基地に保管されている米国の核爆弾を、連邦軍の戦闘機に搭載して出撃させる。これはドイツ語で「nukleareTeilhabe」(核兵器を使った協力)と呼ばれ、NATOの核抑止戦略の中で重要な要素の一つだ。だがプーチン大統領は米国に対して、「これらの国々に配備している核兵器を撤去せよ」と要求。つまりNATOの核兵器は現在よりも大幅に減って、ロシアに対する抑止力は弱まる。

ショルツ政権は、連立契約書の中でNATO・米国との結束を維持する方針を明らかにした。「nukleareTeilhabe」についても原則として継続する方針だ。ただし、核爆弾を搭載するドイツのトルナード型戦闘機が老朽化しているため、ショルツ政権は連立契約書の中で、戦闘機を更新する必要性について言及している。

ショルツ首相は、マクロン大統領と共にロシアとの対話を深めることによって、ウクライナをめぐる緊張を緩和したいと発言。これに対してベアボック外相は、「ロシアはウクライナに侵攻した場合、高い代償を払うことになる」と警告し、ほかの欧州連合(EU)諸国と共に厳しい制裁措置を実施する可能性を示唆している。

西側の意表を突いた2014年のクリミア併合のときとは異なり、今世界中の目がウクライナ国境に注がれている。このため、プーチン大統領にとって奇襲効果は小さい。だがロシアは実際に戦車を投入しなくても、西側に打撃を与えることができる。同国が大規模なサーバー攻撃を行い、ウクライナや西側諸国の電力、暖房、水道、通信などインフラを麻ひさせる可能性がある。米ロ間の主張の隔たりは大きく、短期的な成果は望めないだろう。2022年が動乱の年とならないことを祈る。

最終更新 Donnerstag, 20 Januar 2022 09:51
 

2022年のドイツを展望するショルツ政権の課題

新しい年が明けた。2022年は、昨年スタートしたショルツ政権のかじ取りに世界中の注目が集まる。

昨年12月8日、所信表明演説をするショルツ首相昨年12月8日、所信表明演説をするショルツ首相

オミクロン株の拡大抑制に力点

ドイツ政府の当面の最重要課題は、コロナ対策だ。ウイルス学者たちは「オミクロン株は、デルタ株よりも感染力と免疫回避力が強いので、早急な対策強化が必要だ」と警告する。

ショルツ政権は接種率の引き上げと、ブースター投与を急いでいるほか、今年3月15日までに医療・介護従事者に対し接種を義務付けた。首相は、接種義務を原則として全国民に拡大するよう法改正の準備を指示。しかし旧東ドイツを中心に、ワクチン接種義務に対する抗議デモが過激化する傾向が見られる。政府にとっては、初のワクチン義務化が社会の分断の深刻化につながるのを防ぐことも重要だ。

デジタル化の加速を強調

ショルツ政権は、ドイツに大きな変革と進歩をもたらすことを約束した。社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)は、2021年11月24日に連立契約書を公表し、政策のポイントを明記している。

178頁にわたる連立契約書には、1969~1974年に首相だったヴィリー・ブラント氏(SPD)の「もっと民主主義を実行しよう」(Mehr Demokratie wagen)という言葉にちなんで、「もっと進歩を実行しよう」(Mehr Fortschritt wagen)という名称が付けられた。3党は、この連立政権を「自由と公正、持続可能性のための連合体」と位置付けている。つまり民主主義、自由市場経済、市民権、格差の是正、環境保護を重視するというメッセージだ。

興味深いのは、連立契約書が行政、社会、経済のデジタル化の加速を文書の冒頭で公約していることである。2020年春に勃発したパンデミックにより、ドイツの行政、経済のデジタル化が米国や中国、スカンジナビア諸国などに比べて大幅に遅れているという事実が明らかになったからだ。デジタル化の重視には、経済界寄りの新自由主義政党FDPの筆致がはっきり表れている。

またFDPの「公官庁の認可プロセスを短縮・効率化することによって、企業からの建設許可申請などの審査にかかる時間を少なくとも現在の半分に減らすべきだ」という主張も、連立契約書に盛り込まれている。連立政権はデジタル化を加速するために、ITや通信関連のインフラ構築に多額の投資を行う方針だ。さらに21世紀の経済成長の鍵となるイノベーションを促進するために、2025年までに国内総生産の少なくとも3.5%を研究開発に回すと約束している点も重要である。

再エネ拡大・産業の非炭素化へ大号令

デジタル化に次いで重要なのが、地球温暖化に歯止めをかけるための気候保護政策である。この分野では緑の党の主張が数多く盛り込まれ、ロベルト・ハベック共同党首が経済・エネルギー政策と気候保護政策を同時に担当する「連邦経済・気候保護省」という新しい省庁の大臣に任命された。経済成長とCO2削減のバランスを調整するためだ。

ショルツ政権は、今年から経済の非炭素化へ向けた本格的な作業に着手する。連立契約書が掲げる目標は、極めて野心的だ。3党は、「2030年の電力需要6800~7500億キロワット時のうち、80%を再エネでまかなう」と明記。そのために、再生可能エネルギーの発電設備を大幅に増やす。新築の商業用建物の屋根には、太陽光発電設備の設置を義務付けるほか、全国の土地の2%を陸上風力発電所の用地にする。洋上風力発電にも力を入れ、2040年の設備容量を7000万キロワットに引き上げる。

ショルツ政権は、2038年に予定されている脱石炭を「理想的には2030年に前倒しする」と明記。さらに「2030年までに1500万台の電気自動車を普及させる」と発表したが、これは現在の台数(約50万台)の約30倍だ。内燃機関の新車の販売は、2035年以前に禁止される予定である。

財源確保が未知数

SPDが重視した所得格差の是正も、連立契約書に明記された。ショルツ政権は、法定最低賃金を9.6ユーロから12ユーロに引き上げることを明記したほか、パンデミックによってテレワークが普及したことに伴い、労働時間のさらなる柔軟化も目指す。3党は社会保障制度を引き続き重視することを国民に対して約束している。

気になるのは、デジタル化や再生可能エネルギー拡大のための財源だ。ショルツ政権はFDPの要求通り、所得税の最高税率の引き上げや財産税の復活を断念した。政府は「不要な補助金をカットすることで、新しい政策の財源にする」と説明しているが、それだけで巨額の投資を実行できるかは未知数である。

ショルツ首相は、最初の所信表明演説で「ドイツ経済は過去100年間で最大の変化を経験する」と述べたが、2022年は信号機政権が改革をどの程度実現できるかを占う上で、重要な里程標になるだろう。

最終更新 Donnerstag, 06 Januar 2022 10:37
 

高まる変異株の不安 - 独政府がワクチン義務化へ

ドイツで毎日4~6万人の新規感染者が出るなか、新たな変異株オミクロン感染者がドイツでも見つかった。ショルツ政権はワクチン接種キャンペーンを始めたほか、接種義務化のための準備を開始した。

1日、連邦軍の輸送機がドレスデンからケルンへコロナ重症患者を移送する様子1日、連邦軍の輸送機がドレスデンからケルンへコロナ重症患者を移送する様子

「ワクチン拒否者へのロックダウン」

3日、連邦政府と州政府は感染者数を抑制するために、感染症防止法を強化することで合意した。政府は今年末までに3000万人にワクチンを接種するが、法改正によって薬局の従業員や歯科医、介護職員も接種作業に動員する。

7日間指数(7日間における人口10万人当たりの感染者数)や入院指数が特に高い地域では、地方自治体はクラブ、バー、レストランなどの営業禁止を命じる。食料品店や薬局を除いて、商店にも2G規則を拡大し、接種者か快復者以外は入店禁止に。ワクチン拒否者には接触制限を実施し、家族以外は2人までしか接触できないようにする。ブンデスリーガのサッカーの試合は、今年末までは無観客で実施するという。

また連邦首相府にコロナ危機対策本部を設置し、連邦軍のカルステン・ブロイヤー少将がロジスティクスを指揮する。同氏はこれまでも連邦軍兵士による病院や介護施設の支援、物資の運搬などを統括した経験をもつ。

11月30日には、カールスルーエの連邦憲法裁判所が、今年4月から2カ月にわたって政府が実施した「連邦非常ブレーキ」について、合憲の判断を下した。当時のメルケル政権は、ウイルス拡大を防ぐために、全国規模で休校措置や夜間の外出禁止措置を実施したが、多くの市民が違憲訴訟を起こしていた。これに対し憲法裁は、「国民の健康と安全に関わる非常事態には、政府は自由権を制限することを許される」として、メルケル氏の決定を追認した。この判決は、ショルツ政権や各州政府の首相たちにとって、コロナ対策を一段と強化するための追い風となった。

接種義務化への作業を開始

さらにオラフ・ショルツ首相は来年2月までに、小児などを除く国民全員に対するワクチン接種義務を法制化する作業を始めることを宣言した。義務化された場合には、接種拒否者は罰金を科される。ドイツの接種率は11月30日の時点でも、68.5%にすぎない。政府は、「市民の自主的な判断に任せていては、もう接種率は上がらない」と判断したのだ。だが義務化するには、政府が法案を連邦議会に提出し、議員たちが票決で法案を可決させなくてはならない。ドイツでは今後義務化をめぐって、激しい議論が行われるだろう。

興味深いのは、これまでショルツ氏、メルケル前首相や各州首相たちは、一貫して「接種義務を導入しない」と明言してきたことだ。つまり政治家たちは前言を翻したことになり、面目丸つぶれとなった。彼らが態度を180度転換せざるを得なかったことは、ドイツの状況がいかに深刻かを物語っている。

11月上旬に始まったドイツの感染爆発は、今なお続いている。11月30日の新規感染者数は6万7186人。446人が死亡した。7日間指数は442.9で、早く対策を始めたイタリア(143.1)スペイン(130.2)、イスラエル(39.5)よりもはるかに高い。

最も被害が深刻となっているザクセン州(7日間指数1268.9)、テューリンゲン州(936.7)、バイエルン州(619.1)では一部の病院で集中治療室(ICU)のベッドが足りなくなり、約50人の重症者が連邦軍の輸送機やヘリコプターで、北部の病院へ搬送された。医師や看護師たちは、肉体的、精神的に極限状態のなかで患者の治療にあたっている。ドイツ集中治療・救急医療協会(DIVI)によると、11月30日の時点でドイツにはICUに2万2186床のベッドがあるが、そのうち89.3%が埋まっている。残りは2363床である。

オミクロン変異株への不安

もう一つの大きな懸念は、11月9日に南アフリカで検出されたオミクロン変異株である。この変異株は、デルタよりも感染力が強いとされ、世界保健機関(WHO)は11月29日に「この変異株は非常に高いリスクを秘めている」と各国政府に警告した。オミクロン感染者は、アフリカからの渡航者を中心として、ドイツ、イスラエル、英国、日本などで見つかっている。

マインツのバイオンテック社などは、現在のコロナワクチンがオミクロン変異株による発症を効果的に防げるかどうかについて、分析を急いでいる。メッセンジャーRNAワクチンの特徴は、ウイルスに合わせた「改良」が比較的簡単であることだ。バイオンテック社とともにワクチンを開発したファイザー社は、必要となれば、約100日でワクチンのアップデートが可能だと説明している。

ドイツでは連邦議会選挙のために、夏から秋にかけてのコロナ対策がおろそかになった。政治家たちは支持率が下がるのを恐れて、選挙戦で「冬に向けて接種率の引き上げなど、厳しい対策が必要だ」というメッセージを前面に押し出さなかった。彼らは、ワクチンの義務化など、有権者の耳に痛いことを言うのを避けたのだ。その結果、フランス、イタリア、スペイン、イスラエルなどに比べて対策強化が大幅に遅れ、感染爆発を招いた。欧州のほかの国々は、「かつてコロナ対策の優等国といわれたドイツは、なぜ感染拡大に歯止めをかけられないのだろう」と首をかしげている。

ショルツ政権の最初の仕事は、コロナとの闘いになった。同政権が感染爆発を抑制し、重症者や死者の数を減らせるかどうか、世界全体が注視している。

最終更新 Mittwoch, 15 Dezember 2021 15:51
 

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