Hanacell
独断時評


シュトイバー体制の終焉?

ヴィルト・バートクロイトバイエルン州のヴィルト・バートクロイトは、テーゲルン湖に近い風光明媚な土地である。ここでキリスト教社会同盟(CSU)の執行部は、毎年1月に恒例の戦略会議を開催する。はるか彼方にアルプスの山並みを望む静かな村は、日常の雑務から切り離されて、じっくりと党の路線を話し合うのに適した環境である。

だが今年のヴィルト・バートクロイト会議は、ふだんと異なる興奮の中で開かれた。CSUそしてバイエルン州に13年間にわたり君臨してきた、エドムント・シュトイバー州首相の支配体制が大きく揺さぶられているからだ。

巨人ゴリアテに石を投げたダビデは、フュルトの郡長であるCSUの党員、ガブリエレ・パウリ氏。彼女は、シュトイバー氏の指導力に疑問を投げかけ、2008年の州首相選挙に立候補するべきでないと公言していた。ところが昨年の暮れに、シュトイバー首相の秘書室長が、知人に電話をかけて、パウリ氏の私生活についての情報収集を行っていたことが分かり、辞任に追い込まれたのだ。彼女は、「シュトイバー首相は秘書室長の行為を知っていたに違いない」として、CSU執行部が遺憾の意を表わすよう求めるとともに、シュトイバー氏に対する批判のオクターブを上げている。

経済政策の成功によって、バイエルン州で絶大な人気を誇っていたシュトイバー氏だが、05年の連邦議会選挙の前後の行動については、CSU党内でも批判の声が出るようになった。特に、「旧東ドイツの州はバイエルンを見習うべきだ」という趣旨の発言をしたことは、CDU/CSUが選挙で得票率を減らす原因の1つとなった。さらに、当初は大連立政権で閣僚になるという意向を示していたにもかかわらず、結局バイエルン州首相のポストに留まった優柔不断な態度も多くの党員の首をかしげさせた。今やCSUの中でも、「そろそろシュトイバー氏の後継者を探したほうが良いのでは」という声が、密かにささやかれている。

パウリ氏は、「08年にシュトイバー氏を州首相候補に選ぶ前に、CSUの党員に氏が候補として適格かどうか、アンケートを行うべきだ」と主張している。そうすれば、多くの党員がシュトイバー氏を支持していないことが明らかになるというのである。初めはパウリ氏を無視していたシュトイバー首相も、党内の動揺を意識して、パウリ氏をミュンヘンの州首相府に招いて話し合いを行うという柔軟姿勢を見せた。草の根の一党員が投げた石の波紋は、確実に広がりを見せているのだ。

これに対しヴィルト・バートクロイト会議の後、CSU執行部は「次回の選挙でも我々は一丸となって、シュトイバー氏を州首相候補として支持する」と結束を強調した。会議に参加したCSUの重鎮らが、ふだんよりも声高に、シュトイバー氏の功績を賞賛したことは、党内の動揺を必死に隠そうとする試みのようにも見えた。だがシュトイバー氏が、得票率低下の元凶になるとしたら、CSU執行部にとってもマイナスである。「王様は裸だ」と叫んだ1党員の批判がきっかけとなって、今年66歳になる白髪の政治家が、表舞台を去る瞬間が近づいているようだ。

19 Januar 2007 Nr. 646

最終更新 Donnerstag, 25 August 2011 10:56
 

メルケル首相、苦難の道

ドイツ「現在進行中の改革の成果は、決してすぐに出るものではありません。新しい法律が施行された日から、直ちに効果が現われるわけではなく、時間がかかります」。メルケル首相は、国民に向けた年頭所感演説の中で、こうした言葉を使って市民に忍耐を求めた。この演説には首相の政府内で置かれている苦境ぶりが、にじみ出ていた。

特にメルケル首相の立場を苦しくしているのが、この国始まって以来の抜本的な健康保険制度改革が難航していることだ。キリスト教民主同盟(CDU)内のライバルである州首相たちが、改革案に疑問を呈し始めているほか、市民や経済界からも不満の声が上がっている。改革が実現すると、公的健保に加入している人、民間健保を持っている人、双方にとって負担が増大する。保険会社や医師たちも改革に反対している。

また経済界は、健康保険料が労働コストから切り離されて、企業の人件費負担が軽減されることを期待していたのだが、少なくとも短期的には健康保険料が引き続き企業の負担となりそうな情勢だ。「メルケル首相の言うことは立派だが実行が伴わない。彼女はドイツのサッチャーにはなれない」。ドイツ人の間では、こんな批判がささやかれている。

メルケル首相は、失業率が低下していることを成果の一つとして挙げているが、これは前任者のシュレーダー氏が実現した労働市場改革「ハルツ Ⅳ」と、一部の企業が雇用削減に歯止めをかけたことが主な理由であり、彼女の功績ではない。

ロシアの天然ガスに依存することの危険性が、ますます明らかになる中、エネルギー問題に国民の関心が集まりつつある。前のシュレーダー政権が推進した脱原子力政策を変更して、一部の電力会社が求めている、原子炉の稼動年数の延長を認めるべきか、否か。メルケル首相は、これまで先延ばしにしてきたこの論争に決着をつけなくてはならない。だがメルケル首相が、原子炉稼動年数の延長を求めるCDU側の主張を認めれば、社会民主党(SPD)が反発して、政権内に深い亀裂が生じるかもしれない。

私はメルケル政権が誕生した2005年秋から、「大連立政権の首相には、重い足かせがはめられており、十分な指導力を発揮できない恐れがある」と主張してきたが、そのことが現実になりつつある。もともと科学者だった彼女はシュレーダー氏と違って、独断的に振る舞わず、関係者の主張に冷静に耳を傾ける性格を持っており、調整役としては適した人材だ。だが首相は、しかるべき時には反対意見を押し切って決断する胆力を持たなくてはならない。

ドイツは今年、欧州連合(EU)の議長国を務める。メルケル首相は、フランスの国民投票で否決されて「死に体」になっているEU憲法条約を復活させることを重要な目標として掲げているが、国民はむしろ彼女に内政面で勇断を求めている。「外交が忙しいから」という言い訳を使わずに、メルケル首相が国内政治の舞台で強いリーダーシップ を発揮することを期待する。

12 Januar 2006 Nr. 645

最終更新 Donnerstag, 25 August 2011 10:56
 

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