独断時評


バイデン政権誕生へ! 深く安堵するドイツ・欧州

ドナルド・トランプ大統領の下で孤立傾向を強めていた米国が、世界に帰って来る。トランプ大統領は大統領選挙で敗北宣言を拒否し続けていたが、11月23日に民主党のジョー・バイデン陣営への政権移譲に同意した。これにより、来年1月にバイデン政権が誕生することが確実になった。

バイデン次期大統領は11月24日に次期政権の閣僚の指名を開始した。国務長官にはアントニー・ブリンケン氏が就任する予定。ブリンケン氏はオバマ政権下で副国務長官を務めたほか、バイデン氏の安全保障問題に関する補佐官でもあった。財務長官には、連邦準備制度理事会の議長だったジャネット・エレン氏が就任するとみられる。

11月9日、バイデン氏への祝辞を述べるメルケル首相11月9日、バイデン氏への祝辞を述べるメルケル首相

米独関係の修復に強い期待

ドイツの政界・経済界では多くの人々がバイデン勝利について、安堵している。メルケル首相は11月10日にバイデン氏の当確が伝えられると、同氏に電話で祝福の言葉を送った。メルケル首相はこの日に声明を発表し、「米国とドイツは力を合わせて、コロナ・パンデミックや地球温暖化、テロと闘わなくてはならない。両国は歩調をそろえて、市場開放と自由貿易の強化に努めなくてはならない」と米独関係の強化を目指すという姿勢を明らかにした。

メルケル首相の言葉は、トランプ氏が大統領選挙で勝った時とは対照的だ。メルケル首相は2017年11月4日に送った祝辞の中で「トランプ氏が、民主主義や市民権の尊重、差別禁止など、米独が重視する価値を尊重するならば、私はトランプ氏と共に働く準備がある」と語った。トランプ大統領は、この「条件付きの祝辞」に激怒し、メルケル首相が初めてホワイトハウスにトランプ大統領を訪ねた時、居並ぶ報道陣の前で握手を拒否して侮辱した。

また連邦議会外務委員会のノルベルト・レットゲン委員長(キリスト教民主同盟・CDU)は、「バイデン氏が大統領に就任すれば、米国の対外政策は理性的になり、他国との協調関係を重視するようになるだろう。トランプ政権が繰り返してきた『ドイツ叩き』は過去のものになるだろう」と述べている。

「米国ファースト」主義の傷痕

2017年にトランプ氏が大統領に就任して以来、ドイツの世論は一貫して彼の政策について批判的だった。ドイツは欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)などの国際機関を通じた多国間関係を重視してきた。このため、「米国ファースト」を旗頭に掲げるトランプ大統領の態度は、ドイツの路線と真っ向から対立するものだった。

彼の下で米国は独り歩きの傾向を強めた。例えば米国は地球温暖化に歯止めをかけるためのパリ協定や、国連の教育科学文化機関(ユネスコ)から脱退。また2015年にオバマ大統領(当時)がイランの核開発にブレーキをかけるために、英独仏、ロシア、中国と共にイランと合意した「包括的共同作業計画(JCPOA)」からも脱退した。

安全保障の分野でも、トランプ大統領は過去の常識を次々に覆した。彼は今年7月に、ドイツ政府と事前協議しないまま、同国に駐留させている米軍の兵力を約3分の1削減することを一方的に決定した。

米国のシンクタンク大西洋協議会によると、2018年に行われたNATO首脳会議でトランプ大統領は、ドイツなどほかの加盟国が「国内総生産(GDP)の少なくとも2%を防衛予算に回す」という約束を履行していないことに強い不満を表明し、「請求された金額を払わないのならば、米国がNATOから脱退することもあり得る」と発言した。西側軍事同盟の盟主・米国が、NATOからの脱退をほのめかしたのは、前代未聞の事態だ。トランプ大統領は「ドイツは防衛に関して米国に依存する一方で、ロシアから天然ガスを輸入し、プーチン大統領に金を支払っている。さらに大量の自動車を米国に輸出して貿易黒字を生んでいる。これは不公平だ」として、ドイツをしばしば槍玉に上げた。

米国も経済のグリーン化を重視へ

バイデン政権で大きく変わるのが、地球温暖化問題への態度だ。バイデン氏は選挙戦の中で、「2050年までに米国の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標を打ち出した。これはEUや日本政府など90カ国を超える国々がすでに掲げている目標だ。さらにバイデン氏は「政権発足後、地球温暖化に関するパリ協定にも復帰する」と宣言。彼が「気候問題担当官」という新しい閣僚ポストをつくり、ジョン・ケリー元国務長官を指名したことは、新政権が気候変動問題を重視することの表れだ。

バイデン氏はコロナ危機によって大きな打撃を受けた米国経済を救うために、経済インフラの非炭素化への巨額の投資を行って、景気を浮揚させることを目指している。これはEUのウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長が今年春に打ち出した「グリーン・リカバリー」と共通する発想だ。

しかしながら、トランプ時代の経験から、ドイツ政府内では「米国への依存を減らす必要がある。欧州は自助努力を強めなくてはならない」という見解が強まっている。4年後の米国大統領選挙では、右派ポピュリスト勢力が再び勝利する可能性もある。その意味でドイツ人たちは、バイデン氏の勝利を喜ぶだけではなく、自己責任に基づく安全保障体制を構築する作業を本格化させなくてはならない。

最終更新 Donnerstag, 03 Dezember 2020 09:38
 

イスラム過激派テロに苦悩する独仏

今年の秋はフランス、オーストリア、ドイツでイスラム過激派が無差別に市民を殺傷する事件が相次いでいる。これらの事件は、欧州諸国の治安当局が過激派を十分に把握していないことや、イスラム教徒の社会への統合が遅れていることを浮き彫りにした。

10日に開かれたオンライン会議で話すメルケル首相10日に開かれたオンライン会議で話すメルケル首相

風刺画をめぐる対立がエスカレート

フランスでの事件の引き金となったのは、またもやイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画と表現の自由をめぐる議論だった。今年10月16日にパリ近郊の中学校の歴史教師サミュエル・パティ氏が、18歳のイスラム教徒によって路上で首を切断されて殺害されるという事件が起きた。犯人は逃亡を試み、警察官に射殺された。

パティ氏は授業で表現の自由について教えるために、ムハンマドの風刺画を生徒たちに見せていたという。イスラム教徒の生徒の父親はこの行為に憤慨して、ソーシャルメディアにこの教師の罷免を求めるメッセージを公開していた。

犯人はモスクワ生まれのチェチェン人で、2007年に家族と共にフランスに移住し亡命を申請していた。この男がパティ氏に関するメッセージを見て、犯行に及んだのだ。犯人はシリアのイスラム過激派と接触しており、ソーシャルメディアにヘイトスピーチを掲載するなど過激化の兆候を見せていたが、治安当局の危険人物に関するデータバンクには登録されていなかった。

この事件の約2週間後には、南仏ニースの教会で、21歳のチュニジア人が市民3人をナイフで殺害した。男は今年9月に船でイタリアのシチリア島に上陸した後、フランスに移動していたが、警察や入国管理当局によって全く把握されていなかった。マクロン大統領は、パティ氏殺害事件の後、対テロ部隊の兵士を増員し警戒態勢を強化していた。だがチュニジア人のテロリストは、大統領の対応をせせら笑うかのように、ニースの祈りの場でキリスト教徒たちに憎しみの刃を向けたのだった。

オーストリアにも飛び火

11月2日にはウィーンの中心街で北マケドニア出身のイスラム教徒がナイフで市民4人を殺害し、23人に重軽傷を負わせた。20歳の犯人は、過去にテロ民兵組織「イスラム国(IS)」の戦列に加わるためにシリアへ出国することを希望したため、治安当局によって危険人物として把握されていた。オーストリアでイスラム過激派が無差別テロを行ったのは、初めてのことである。

またドイツでは10月4日にシリア出身のイスラム過激派がドレスデンで観光客2人にナイフで襲いかかって1人を殺害し、もう1人に重傷を負わせた。20歳の犯人は暴力行為の前科があり、事件の6日前に刑務所から出所したばかりだった。

EUはシェンゲン地域外縁の警備を強化へ

今の欧州の状況は、悪夢の2015年に似ている。この年の1月には重武装したテロリストが風刺雑誌シャルリ・エブドの編集部で12人を射殺した。同年11月には、ISのテロリストがパリの劇場やレストランを襲って137人を殺害し、412人に重軽傷を負わせた。今回の事態を重く見たドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、オーストリアのクルツ首相は、11月10日にイスラム過激派によるテロに関するオンライン会議を開いた。

3人が会議後の記者会見で公表した内容は、具体性に乏しかった。テロ対策は犯罪捜査に関わるため、今後の捜査体制の強化については公表を避けたのだろう。メルケル首相は、「シェンゲン地域の国境監視を強化して、外国人に対するチェックを厳しくする」と語るに留めた。マクロン大統領も、「シェンゲン域内で市民が自由に移動できる状態を維持するには、外縁部の警備を強化する必要がある」と述べた。

欧州連合(EU)は来年5月にシェンゲン圏への入域監視を強化することなどを盛り込んだ改正案を発表する予定だ。フォンデアライエン欧州委員長は、11月末までに移民の若者たちの社会への統合を促進し、過激化を食い止める計画をまとめる方針を明らかにした。

二つの格差が生むイスラム過激派問題

イスラム過激派問題という欧州の病弊は、二つの格差問題と表裏一体である。一つは欧州と中東・アフリカ地域の間の格差。中東やアフリカからは、戦乱や貧困、気候変動による干ばつ、人口爆発を逃れて欧州を目指す人々が今後も増えていく。欧州に比べて出生率が高い発展途上国では、仕事や住宅を得られずに、新天地へ向かう若者が後を絶たない。

もう一つは、欧州域内での格差。一部の若者は、安定した職を得られず貧困層が多い地域から脱出できない。彼らは疎外感と不満を募らせ、キリスト教の価値観を基礎とする白人社会に対する怨えんさ嗟を強めていく。ソーシャルメディアは過激化への近道だ。預言者の風刺画は彼らにとってはタブーだが、フランス社会の主流派にとって表現の自由の抑圧はタブーである。「文化の衝突」を解決するための糸口は、まだ見えない。

将来も難民数が増加することを考えると、各国政府は異文化圏からの移住者の社会への統合の仕方を改善するために本格的な対策を取る必要がある。さもなくば、パリやウィーンのような惨事が繰り返される恐れがあるだろう。

最終更新 Donnerstag, 19 November 2020 09:55
 

コロナ第2波の猛威に部分的ロックダウン実施

新型コロナウイルスが、ドイツを再び危機的状況に追い込んでいる。新規感染者が激増するなか、メルケル政権は11月2日から30日まで、学校や商店などを除いて部分的なロックダウンを全国で実施することを明らかにした。

10月28日、記者会見で接触制限令を発表したメルケル首相10月28日、記者会見で接触制限令を発表したメルケル首相

厳しい制限措置を再び導入

10月28日にメルケル首相は、16の州政府の首相たちとのビデオ会議後、全国一律の部分的な接触制限令を発表した。11月2日から30日までは、公共の場での他人との接触は、別の1世帯に住む人々に限られる。つまり三つ以上の別々の世帯に住む人々が集うことは禁止される。しかも上限は10人。違反した場合には、罰金を科される。

レストラン、喫茶店、バー、ディスコ(クラブ)、フィットネスクラブなどの営業は禁止される(飲食店のテイクアウトやデリバリーは可)。さらに劇場、コンサートホール、映画館、プールなども閉鎖されるほか、見本市のような多数の人が参加するイベントもできなくなる。屋外、屋内を問わず、友人や親戚などを集めての宴会やパーティーも制限され、ホテルは観光客を宿泊させることを禁じられる。

これに対し、政府はロックダウンが子どもたちの教育に及ぼす影響を最小限にするため、学校や幼稚園は閉鎖しない。また商店や理髪店も営業を許される。

メルケル首相は、ドイツ全土で接触を制限する理由について、「現在と同じテンポで新規感染者が増え続けたら、ドイツの医療体制は数週間で限界に達する。したがって、今われわれは行動しなくてはならない」と述べた。「クリスマスに家族や親類が集えるように、一時的に厳しい措置を取る必要がある」と説明した。

さらに政府は、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化する危険が高い高齢者や、持病がある人々を守るために、介護施設や病院などで簡易ウイルス検査を実施する方針だ。

新規感染者数が1万人を超えた

メルケル政権が部分的とはいえ、再びロックダウンに踏み切らざるを得なかった理由は、10月下旬以降、新規感染者数が急激に増えているからだ。ロベルト・コッホ研究所によると、10月中旬には1日の新規感染者数は4000~5000人前後だった。しかし10月22日に新規感染者数が1万1409人に達して以降、4日連続で1万人を超えた。10月28日には、1日の新規感染者が1万4964人と過去最高を記録。3~4月の第1波の時にもこのような現象は見られなかった。

ベルリン・シャリテー病院のクリスティアン・ドロステン教授は、今年6月にラジオのインタビューでこう発言した。「1918年のスペイン風邪では、米国での第1波は特定の地域に限られていた。だが秋から冬にかけて始まった第2波では、ウイルスが全国にくまなく広がった。ドイツでも秋以降はこのような状況が起こる可能性がある」。今ドイツで起きているのは、まさにドロステン教授が警告していた状況である。

第1波の時との違いは、若年層の感染者の比率が高いことだ。15~59歳の市民の間で感染者の増加率が最も高い。若年者は高齢者に比べると重症化の危険が少ないので、今のところ1日当たりの死者数は2桁で推移している。今年4月には、一時ドイツでも毎日200人を超える死者が出ていた。

だがドイツでも感染者数が急激に増えるなか、病院に収容される市民の数も増加しつつある。この国の病院には、人工呼吸器を使った集中治療が可能なベッドが約2万9000床あり、10月28日の時点で7700床が空いている。しかし医療関係者の間では「集中治療室で働くための技能を持つ看護師が圧倒的に不足している」という声が強まっている。楽観は禁物だ。

経済にも深刻な影響

ドイツの周辺国でもパンデミックが猛威を振るっている。フランスでは10月後半に入ってから、1日の新規感染者の数は3万~4万人に上る。このためマクロン政権は、レストランやバーの閉鎖や夜間の外出禁止を命じた。スペイン、イタリア、英国などでも毎日1~2万人ずつ感染者数が増加。ドイツの隣国チェコでは、10月下旬に直近2週間の住民10万人当たりの新規感染者数が一時1148人と世界で最も多くなった。ちなみに米国は244人、ドイツは107人、中国は0.02人だった。チェコ政府は、10月22日に学校閉鎖も含む全国的なロックダウンに踏み切っている。

約1カ月の部分的なロックダウンは、生命と健康を守るために必要な措置だ。しかし飲食店、旅行業界、イベント業界などを中心に、甚大な損害が生じることだろう。コンサートの中止で芸術家たちも苦境に追い込まれる。

国際通貨基金(IMF)が10月に発表した統計によると、ユーロ圏の今年の国内総生産(GDP)は前年比で8.3%、ドイツでは6.0%減ると予想されている。だがパンデミック第2波が何カ月続くかは誰にも分からない。部分的ロックダウンの延長が必要になった場合、ドイツ経済はさらに縮む危険がある。

欧州全体の行方も心配だ。ドイツの輸出額の60%は欧州連合(EU)加盟国向けである。今年のスペインのGDPが12.8%、イタリアでは10.6%、フランスでは9.8%も縮小することを考えると、ドイツの輸出産業への悪影響はさらに深刻化するかもしれない。

パンデミック第1波を比較的うまく乗り越えたドイツが今回もウイルスとの闘いで勝者となるかどうかは、未知数である。

最終更新 Mittwoch, 04 November 2020 17:55
 

テレワークを法制化? 在宅勤務大国への道

パンデミックの第1波で、生まれて初めてテレワーク(在宅勤務)を経験した人も多いだろう。コロナ危機をきっかけに働き方を改革しようと、連邦労働社会省のフベルトゥス・ハイル大臣(社会民主党・SPD)が大きな一歩を踏み出した。

2日、連邦議会に出席するフベルトゥス・ハイル労相2日、連邦議会に出席するフベルトゥス・ハイル労相

ハイル労相、24日間の最低日数を要求へ

ハイル大臣は10月4日付の「ビルト・アム・ゾンターク」紙とのインタビューの中で、企業に対し社員が毎年少なくとも24日間テレワークを行なえる制度を導入する方針を明らかにした。企業は、社員のオフィスや工場への出勤が業務上避けられないことを証明できない限り、最低24日間自宅で働くことを許さなくてはならない。ハイル大臣によると24日は最低限の日数であり、経営者団体と産業別労働組合は個別の交渉によって、在宅勤務の日数を増やすこともできる。

大臣は「コロナ危機の経験は、テレワークが可能であることを示した。しかも多くの労働者は、テレワークを歓迎している。例えば幼い子どものいる夫婦が、毎週交代で1日ずつテレワークを行って、子どもの世話をすることも可能だろう」と述べている。

コロナ危機によるロックダウンが引き金

連邦労働社会省の調査によると、国内1460万人の会社勤務者のうち、今年3月以降テレワークを経験した人の比率は36%。これは前年同期(24%)に比べて12ポイントの増加だ。DAK Gesundheit (ドイツの公的健康保険運営者)がコロナ危機前と勃発後にそれぞれ7000人の勤労者にテレワークについて行ったアンケートでも、昨年12月に「ほぼ毎日テレワークを行っている」と答えた人の比率は10%だった。しかし、今年4月には28%と大幅に増えている。

労働者の間でテレワークは好評といえそうだ。DAK Gesundheitの調査によると、回答者の58.7%が「会社よりも自宅で働く方が生産性が高い」と答えているほか、今回のコロナ危機で初めて在宅勤務を経験した人の76.9%が「今後少なくとも部分的にテレワークを続けたい」と答えている。「仕事の間、全くストレスを感じない」と答えた人の比率は、コロナ危機前には48%だったが、コロナ発生後には57%に増えている。

職種により大きな違い

しかしテレワークの実施については、職種によって大きな違いがある。今年3~4月には、銀行などの金融サービス業界やIT業界の大半の社員が自宅で働いていた。DAK Gesundheitのアンケートでも、「私が働いている企業はコロナ危機発生後、テレワークのための体制を急激に拡充した」と答えた人の比率は銀行・保険業界では80%、IT業界では75%に上る。これに対し商業に携わる人の間では37%、医療関連者の間では29%と低くなっている。いわんや、警察官や消防士らがテレワークを行うことは不可能である。

ハイル大臣は、24日間の最低日数を法律で保障することにより、テレワークの恩恵を受けられる市民の比率を増やそうとしているのだ。

労使間で評価が正反対に

ハイル大臣の提案に対する社会の反応はさまざまだ。ドイツ経営者連盟(BDA)のインゴ・クラーマー会長は「ドイツ企業は、すでに可能な限りテレワークの機会を労働者に与えている。政府が法律によって24日間のテレワーク権を企業に強制するのは、現実に即していない。ハイル大臣の提案は、企業にとって可能なことの範囲を超えており、労働者のニーズにも合っていない」と厳しく批判している。

これに対しドイツ労働組合連盟(DGB)のライナー・ホフマン委員長は、「24日という最低日数は少なすぎる。これでは労働者のニーズは満たされない。ハイル大臣は経営者団体に忖度しているのでは」と述べ、在宅勤務が可能な日数を増やすように要求している。

多くの大企業がテレワーク定着を検討

クラーマー会長が言うように、多くの大企業はコロナ危機が去った後もテレワークを新たな働き方として部分的に定着させることを検討している。

例えばシーメンスは今年7月に、コロナ後も一部の社員が週に2~3日自宅で働けるようにすると発表した。ただしテレワークを行うかどうかの判断は社員に任され、工場などで製品の組み立てなどに携わっている社員は除かれる。同社はこのプロジェクトを「ニューノーマル・ワーキングモデル」と命名し、43カ国で働く約29万人の社員のうち、48%に相当する約14万人の社員に適用する。

企業にとっては、テレワークの社員の比率が増えればオフィススペースやエネルギー、社員食堂での昼食代の補助などの経費を節約できる。現在よりも労働時間が短くなり、1時間当たりの生産性が増加するかもしれない。実際、大都市の金融機関の中には、テレワーク社員が増えることを見越して、賃貸オフィススペースの面積の削減を検討している会社もある。

一方社員にとっては、通勤にかかる時間・コストがゼロになるほか、自分の好きな時間に仕事をできるという利点がある。休み時間に家族の世話をすることもできるだろう。ある意味では労使にとって「ウィンウィン」の働き方が将来生まれる可能性もあるのだ。

ドイツはすでに世界でもトップクラスの「時短大国」、「休暇大国」だが、パンデミックが引き金となって働き方がより柔軟になり、「テレワーク大国」への道を進むのかもしれない。

最終更新 Donnerstag, 15 Oktober 2020 08:15
 

シュパーン保健相の第2波対策は成功するか?

欧州にコロナ第2波が襲来した。周辺諸国で感染者数が急増し、ドイツでもホットスポットが増えるなか、連邦保健省のシュパーン大臣は9月21日に、新たなコロナ対策を打ち出した。

9月18日の連邦議会で演説するシュパーン保健相9月18日の連邦議会で演説するシュパーン保健相

発熱外来を導入へ

冬には新型コロナウイルスだけではなく、インフルエンザに感染する人も増える。このため保健省は全国の特定病院に、風邪のような症状がある人のための発熱外来を設置する方針だ。熱のある患者とほかの病気で来院する人の入り口を分け、病院で検査や診察を待つ人たちの間でウイルスが広がることを防ぐ。

また最近は陽性・陰性が直ちに判明する抗原検査キットが増えているので、介護施設などで検査数を大幅に増やす。さらに政府は、リスク地域から帰国した市民を保健所が容易に把握できるように、デジタル化された登録システムの導入も検討している。

英仏スペインで感染者が急増

この背景には、9月に入ってから欧州の一部の国で感染者数が急増しているという事実がある。世界保健機関(WHO)によるとスペインでは9月上旬に、一時毎日約1万人の感染者が見つかった。首都マドリードでは、政府が一部の地区で事実上の外出禁止令を発布。約85万人の市民が仕事や通院、食事の調達以外は外出を禁じられた。

フランスでは9月以降、毎日感染者数が数千人ずつ増加。19日には1日で約1万3000人も増えた。累計死者が約4万2000人と欧州で1番多い英国でも、毎日数千人単位の新規感染者が見つかり、ジョンソン政権は「このままでは10月中旬に毎日感染者が5万人ずつ増え、11月には毎日500人が死亡する」として、レストランの営業時間の短縮などを命じた。WHOのデータバンクで欧州の感染者数のグラフを見ると、夏休みが終わってから急カーブを描いて上昇している。

ドイツでも増加ペースが速まっている

ドイツの状況は、今のところフランスやスペインほど悪化していない。それでも夏休み以降、感染者が増加するテンポが加速している。8月中旬頃までは毎日数百人単位だった新規感染者数は、8月下旬から千人単位となり、9月19日には2300人と今年4月以降で最高の水準に達した。

ドイツでは市・郡単位で直近1週間の新規感染者数が10万人当たり50人を超えると、「危険信号」である。バイエルン州の州都ミュンヘンでは、9月下旬に一時この数値が50人を超えた。このため市当局24日から中心部のマリエン広場などで市民にマスク着用を義務付けたほか、レストランなどで5人もしくは二世帯を超えての会食を禁止。さらに屋内での催し物の参加人数の上限を100人から25人に引き下げた。

このほかロベルト・コッホ研究所の9月22日付の報告によると、ノルトライン=ヴェストファーレン州のハム、バイエルン州のヴュルツブルクやニーダーザクセン州のクロッペンブルクでも、直近1週間の新規感染者数が住民10万人当たり50人を超えた。

全国的なロックダウンを回避せよ!

現在ドイツ連邦政府が狙っているのは、今年3~5月に実施したような全国的なロックダウンを回避することだ。シュパーン大臣はドイツ第2テレビ(ZDF)でのインタビューで、「当時、新型コロナウイルスについてのわれわれの知識は、非常に少なかった。従って厳しいロックダウンを実施した。しかし過去6カ月間にわれわれは多くのことを学んだので、第2波では全国的なロックダウンは避けられると考えている。重要なのは、他人との間で1.5メートルの最低距離を保ち、公共交通機関などでマスクを着けるという規則を全員が守ることだ」と述べている。さらに、「5月以降、商店や理髪店で集団感染が起きたという報告はない。したがって第2波が来ても、商店や理髪店、美容院などを閉鎖する必要はないと思う」と語っている。

ベルリン・シャリテー大学病院のドロステン教授も「欧州のほかの国の数字を見ると、警戒が必要だ。ドイツも感染者増加の初期の段階にある。しかし現在では、今年3月よりも検査数が多く、感染者増加の動向に対する監視システムが整っている。このため第1波の時のような全国的なロックダウンは避けられるのではないか」と述べている。またドロステン教授によると、現在の新規感染者では若者の比率が高い。若者は、高齢者に比べると重症化・死亡の危険が低い。

ロックダウンが経済に深い傷

メルケル政権が全国的なロックダウンを避けようとしている理由の一つは、経済的な打撃があまりにも大きいからだ。欧州連合(EU)加盟国ではコロナ不況が深刻化している。EU統計局の9月8日の発表によると、今年第2・四半期のEU加盟国の国内総生産(GDP)は、第1・四半期に比べて11.4%も減少した。スペイン、フランス、イタリアではGDPの減少率がいずれも2桁に達している。

第1波でのドイツの経済活動の制限は、イタリアやフランスに比べると緩かった。だがそのドイツですら、第2・四半期のGDPは、第1・四半期に比べて9.7%も減少した。連邦政府は今年の通年のGDPが前年比で5.8%減ると見ているが、これは第二次世界大戦後、最悪の減少率だ。ドイツだけでなく欧州各国は、来年の春まで、感染拡大防止と経済活動のバランスを取るという困難な作業に取り組まなくてはならない。

最終更新 Mittwoch, 30 September 2020 10:59
 

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