ドクターの診察室


ドイツでの健康診断・人間ドック

ドイツの公的医療保険に入っています。健康診断か人間ドックを受けたいのですが、医療保険は適用されますか?

「健診」「検診」「人間ドック」どこが違うの?

診察と検査によって身体の異常をチェックする健康診断を、日本では「健診」と略し、学校健診、職場健診、入学や就職時の健康診断などがあります。「検診」は、がん検診のように、ある特定の病気を発見するために検査を行うことを指します。健康診断が限られた検査項目で行われるのに対し、人間ドックでは通常の健康診断より広い範囲で精密検査が行われます。これらは隠れた病気の早期発見や病気の危険因子を確認するのに役立ちます。「人間ドック」とは、あたかも船が定期的に受ける船全体の精密検査と似ていることから名付けられた純和製語です。

健康診断は何処で受けられますか?

ドイツでは通常、病院(Krankenhaus)ではなく開業医(Praxis)のもとで健康診断を受けます。かかりつけ医(Hausarzt / -ärztin)に希望を話してみてください。ドイツでは、健診システムが整っている日本とは、医療の仕組みが違うため、全く同じ意味のドイツ語はなく、Vitalitäts-Checks、Gründlicher Gesundheit-Checkup、Medizinische Untersuchungなどと呼ばれています。がん検診はKrebsvorsorge-Untersuchungです。

健康診断にはドイツの医療保険が適用されますか?

医療保険に認められている範囲内で、健康診断を受けられます。公的保険か、プライベート保険かにより、医療保険の適用となる年齢、検査項目が違ってきます。特に公的保険の場合、企業の海外就任者用の健康診断項目や日本の労働安全衛生法に規定されている項目のごく一部しか保険適用項目に含まれていません。ドイツの公的保険加入者は、35歳以上で2年に1度、保険でカバーされる成人健診を受けることができます。項目は一般診察、身体計測、血圧、血糖、総コレステロール値、尿検査一般です。小児と職業実習のための健診は一般診察のみで、採血や採尿は含まれません。

図1 あなたの健康管理は?

公的保険でがん検診も受けられますか?

50歳以上になると1年に1度、大腸がんのスクリーニングのため、3日法による便潜血検査を受けることができます。また、35歳以上から(保険によっては18歳から)2年に1回、皮膚がん検診を受けることができます。46歳以上の男性では、1年に1回、直腸診による前立腺がんの診察を受けられます(血液のPSA測定は含まれません)。

プライベート保険で受けられる健康診断の項目は?

公的保険と比べて、プライベート保険では幅広い検査項目が保険でカバーされます。多くの場合、一般末梢血液、肝・腎機能の血液検査、腹部超音波検査、心電図、胸部レントゲン検査、肺機能検査、ヒトヘモグロビン法による便潜血検査、胃の検査などです。ただし、すべてのプライベート保険で一律というわけではなく、契約内容によっても異なるので、事前に医療保険会社と医療機関に確認しましょう。

ドイツの人間ドック施設の選び方は?

半日~1日で集中してすべての精密検査を行えるのが人間ドックの特徴で、欧州の日系企業の定期健康診断や個人の精密検査に活用されています。来年2月からは、デュッセルドルにも新しい人間ドック施設ができます。最近は日本語の通訳スタッフを介さずに、直接日本語で診察し、日本語のレポートがもらえるところもあります。スケジュールや、利便性、検査メニューの内容、さらには旅行を兼ねて受診先を選んではいかがでしょうか。検査結果の解釈に日本人の正常範囲内を考慮してくれたり、異常値に対して個別に助言をもらえたり、必要に応じて日本の医療機関とも連絡を取ってくれるようなところが良いでしょう。

健康診断や人間ドックで指摘があったら?

大切なことは、問題を指摘された結果はそのまま放置しておかないことです。助言に従って精査を受け、適切な治療を開始すれば、健康診断はより価値のあるものになります。私たちの体調は絶えず変化しているので、グレーゾーンの値に対しては時間を置いて再検査することが大切です。

健康診断も万能ではない?

健康診断や人間ドックには、おのずと限界があります。測定外の項目は臨床所見から「恐らく大丈夫であろう」としか言えません。例えば大腸がん検診に用いられる通常の便潜血反応は、採便時に出血が混じらなければ陰性に出ることもあります。早期に肺がんを見付けるには胸部レントゲン写真より、胸部CTの方が検出率が高いという専門家も多くいます。がんの腫瘍マーカーにも、種類によってはグレーゾーンがあり、偽陽性や偽陰性もあります。受け取った結果の解釈に悩む場合は、担当医の先生から説明を受けましょう。

欧州生活での安心のために

大丈夫だと思っていたのに、健康診断で高血圧を指摘された、糖尿病が見付かった、中には肺がんを指摘されて手術したという人もいます。毎日の忙しい仕事、日本とは異なる気候と食事、外国語での日常生活、外出時の無意識の緊張感など、知らない内に体に負担が掛かっていることも少なくありません。家族の安心のためにも、1年に1度の健康チェックを考えてみましょう。

表1 健康診断コースの1例
内容
診察問診、聴打診、触診、視診
身体計測身長、体重、肥満度
血圧、脈拍数高血圧の有無
機器による検査腹部超音波、心電図、呼吸機能、甲状腺、血管壁など
眼と耳視力(眼圧)、聴力検査
血液貧血の有無、肝・腎機能、脂質、血糖など
ピロリ菌胃潰瘍の原因菌の有無
尿尿蛋白、糖、潜血、白血球の有無
便大腸がんスクリーニングの潜血反応
腫瘍マーカー前立腺がん、子宮頸がんなど
胸レントゲン検査異常所見があれば胸部CT
胃の検査胃透視または胃カメラ
(ノイゲバウア馬場内科クリニックの項目を参考)
最終更新 Montag, 26 November 2012 11:48
 

高血圧とドイツ生活

以前は低血圧気味でしたが、40歳半ばより血圧が上がり始め、今では150/92前後に。ドイツで暮らす上で、どのような点に注意したら良いでしょうか?

血圧とは、そもそも何ですか?

血管を流れる血液の圧力です。血液を全身に送り、栄養分や酸素を運ぶのに必要です。ポンプに当たる心臓が収縮して血液を送り出す時の最大圧が収縮期血圧(最高血圧)、その後心臓が血液を吸い込む作業をしている時が拡張期血圧(最低血圧)です。血圧は「心臓から送り出される血液量」と「血管のしなやかさ」で決まります。

高血圧は症状のないサイレント・キラー

高血圧が続くと、第1に血管壁が厚くなり、内腔が狭くなります。第2に必要以上に高い血圧の影響で臓器に負担が掛かり、機能障害の原因となります。これらの変化は痛みを伴わずに進行するため「サイレント・キラー」と呼ばれます。高血圧から引き起こされる病気には、心筋梗塞、脳卒中、四肢の閉塞性動脈硬化症、腎障害があります。

高血圧の診断基準は?

収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上が継続して計測されれば「高血圧(Bluthockdruck、Hypertonie)」と診断されます(図1)。収縮期血圧160mmHg以上、または拡張期血圧100mmHg以上の場合は薬物による治療が必要です。自宅で血圧を測定した場合は、安静時の収縮期血圧135mmHg以上もしくは拡張期血圧85mmHgで血圧が高いと言えます。

血圧の正常値は、収縮期血圧130mmHg未満、かつ拡張期血圧85mmHg未満。血管障害の予防のためには、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満が望ましいとされています(日本高血圧学会)。

図1 高血圧の診断

血圧の値は絶えず変化する?

緊張した時、怒った時、興奮した時、運動時など、私達の血圧は絶えず変化しています。病院に入ると緊張して血圧が上昇する「白衣性高血圧」の人もいます。血圧は、起きて活動している時間帯は高めで、睡眠中は低くなります。睡眠中の血圧下降が十分でないと、血管障害が生じやすいとも言われています。

右腕と左腕で血圧は同じ?

左右の腕で測った血圧は、ほぼ同じです。しかし、大動脈炎症候群(高安病、Takayasu Arteritis)に罹ったことがあると、腕に流れる動脈が断片的に細くなり、疾患のある腕の血圧値が低く測定されることがあります。

本態性高血圧と2次性高血圧

高血圧症患者の9割以上は原因が特定できない「本態性(ほんたいせい)高血圧」です。一方、体中のホルモン異常(内分泌性高血圧)、腎臓への血管が細くなる(腎血管性高血圧)、腎臓の病気(腎性高血圧)など原因が明らかな高血圧は、「2次性高血圧」と呼ばれます。35歳以下の若年性高血圧の約半数は2次性高血圧で、原因疾患の治療により血圧も改善します。

糖尿病と高血圧

糖尿病患者の約半数に、高血圧の合併がみられます。この高血圧が糖尿病による動脈硬化を促進し、糖尿病による腎障害(糖尿病性腎症)をも悪化させます。高血圧を伴った糖尿病患者は、血糖と共にきちんとした血圧コントロールが大切です。

日常生活の改善のポイント

高血圧による血管障害を防ぐためのポイントは、「塩分制限」「コレステロールを抑える」「禁煙」そして「運動」です。肥満のある場合は、体重を1kg減らすことで血圧値を2mmHg下げることができると言われています。また、散歩をする、エレベーターの代わりに階段を使う、電車・バスはひと駅前で降りるなどのちょっとした運動でも、年間の運動量が大きく違ってきますので、こつこつ頑張りましょう。

イライラ感が続くときは

ストレスが多く忙しい生活は、それ自体が血圧上昇の原因。逆に、血圧の上昇がイライラの原因になっていることもあります。最近どうも怒りっぽくなったなと感じたら、血圧を測ってみてください。血圧の正常化と共に、イライラ感がなくなることもあります。

ドイツの食事と高血圧

日本人の1日の塩分摂取量の半分以上は醤油と和風の加工食品から摂られているそうです。ドイツでもビールに合う美味しい外食、缶詰、即席食品、ソース類など、塩分が多く含まれている食品が少なくありません。また日本と比べ、動脈硬化の天敵である脂肪含有量の多い食事や、カロリー数が非常に高い食事もあるので留意しましょう。

血圧の薬

血圧の薬は、大別すると「心臓から送り出す血液の量」を調整する薬と、血管を拡げて「血管の抵抗性」を改善し、血圧を下げる薬に分けられます(図2)。ドイツでは、異なった作用を持つ薬が合剤として用いられることもあり、各々の薬に特徴があるので、かかりつけ医の説明を十分に聞くようにしましょう。降圧薬によって血圧は比較的すぐに下がりますが、一旦厚くなった血管の壁が元に戻るには数年以上の降圧薬の継続を要します。

図2 高血圧の治療薬

最終更新 Dienstag, 06 September 2011 14:22
 

男性の前立腺の病気

父が最近、夜中に何回もトイレに起きるようになったとこぼしています。医師からは「前立腺肥大」と言われたようですが、どんな病気ですか?

前立腺(Prostata)って何ですか?

ぼうこうの下に位置し、尿道を取り囲んでいるクルミ大の腺組織(図1)で、尿道の幅を調節し、排尿をコントロールしています。また、男性ホルモンの働きで前立腺液を作ります。前立腺液は精液の成分となり、精子に栄養とエネルギーを与えます。外からは見ることも触れることもでません。前立腺肥大、前立腺癌、前立腺炎の3つが代表的な疾患です。

図1 前立腺肥大

前立腺肥大とは?

生殖年齢が遠ざかり、男性ホルモンの活性が下がると前立腺は萎縮するか、肥大します。戦前の日本人男性は、前立腺が萎縮することが多かったのに対し、近年では肥大が増えています(図2)。肥大した前立腺(主に内腺)が尿道を圧迫すると、あらゆる症状が出てきます。これを、(良性)前立腺肥大症(benigne Prostatahyperplasie、略してBPH)と言います。

図2 増加する日本の前立腺肥大症

前立腺肥大の症状は?

最初に気付く症状は、尿線が細くなるため排尿時の勢いがなくなり、夜間にトイレに起きるようになること。さらに、排尿が途切れる、時間が掛かる、残尿感がある、などが加わり、ひどくなると尿が全く出なくなる(尿閉)場合もあります。前立腺肥大は日常生活の質(Lebensqualität)を損なう病気です。

前立腺肥大の原因は何?

まず加齢です。前立腺肥大は40歳後半~50歳頃より出現し、頻度は年齢と共に増加します。日本人男性では、40代の10%、60代の25%、70代の40%程度の人が罹っています。脂肪やたん白質の多い食生活、性経験の年数や旺盛さの関与も示唆されていますが、詳細は不明です。

前立腺肥大でぼうこう症状も?

肥大した前立腺が直接ぼうこうを圧迫するほか、抵抗に逆らって尿を出そうとするため、次第にぼうこうの壁が厚くなり、柔軟性が乏しくなります。また、ぼうこうが過敏に働くようになり(過活動ぼうこう)、尿が充分に溜まっていないのに突然、我慢できないような尿意を感じることがあります。そのため、トイレを気にする余り、日常生活に不安や支障をきたすことがあります。

前立腺肥大の治療方法は?

尿道への過剰な圧迫を除く目的で、α1ブロッカーという内服薬が用いられます。抗男性ホルモン薬はテストステロンの作用を抑えて前立腺を小さくします。また、植物エキス製剤や漢方薬が用いられることも。薬で効果が得られない場合は手術療法の適応も考えます。最近は、高温度療法やレーザー治療など、手術より負担の少ない治療法もあります。過活動ぼうこうを和らげる、抗コリン薬も有効です。なお、抗コリン薬は尿道の閉塞を促す可能性があるため(後述)、α1ブロッカーなどの前立腺肥大治療薬との併用が基本です。

前立腺肥大で避けるべき薬は?

日常使われている治療薬の中には、前立腺肥大の症状を悪化させる可能性のある薬が多く存在します。例えば、アレルギーや風邪の治療で用いられる抗ヒスタミン薬や腹痛に用いられる抗コリン薬、循環器領域や精神・神経科領域で用いられる薬の一部、排尿障害自体の治療に用いられる薬も時として症状を増悪させます。前立腺肥大の疑いがある場合は、担当医に必ずその旨を告げることが大切です。

前立腺癌(Prostatakrebs)とは?

前立腺の外腺にできる悪性腫瘍です。欧米人男性にとっては最も発生頻度の高い癌の1つで、日本人男性にも増えてきています。前立腺癌は非常にゆっくりと増殖し、しかも進行期になるまで症状がないのが特徴です。骨や腎臓に転移しやすく、転移があって初めて気付かれることもあります。そのため早期発見が最も大切です(後述)。前立腺癌が大きくなると、尿が出にくくなる、トイレの回数が増えるなど、前立腺肥大症に似た症状が出現します。血尿を認めることもあります。

スクリーニングのためのPSA測定の勧め

前立腺癌の腫瘍マーカーである血中PSA(前立腺特異抗原)の測定が、最も簡単なスクリーニング法です。前立腺の直腸診も有用。PSAは4.0ng/ml未満が正常で、それより高い値を示した場合には専門の泌尿器科で精査を受けます。PSA値は前立腺肥大症でも上昇することがあります。PSA値4.0 –10ng/mlの値を示す人の約30%、10ng/ml以上の50~80%に前立腺癌が見付かります。

前立腺炎はどういう病気ですか?

前立腺部に痛みと腫れを伴なう病気群の総称です。原因が細菌感染によるもの(急性細菌性前立腺炎、慢性細菌性前立腺炎)と非感染性のものに分けられ、しばしば、ペニス下部の袋の部分と肛門の間(会陰部)の筋肉のけいれんから痛みを生じます。痛みはペニスの先端におよぶこともあり、勃起や射精時に支障をきたす場合もあります。治療法は原因によって異なり、急性細菌性前立腺炎では抗菌薬が投与されます。

身近な病気です

前立腺の病気は男性だけに生じる身近な病気。病気への理解と家族のサポートが大切です。前立腺癌スクリーニングのPSA測定はかかりつけ医(Hausarzt/ärztin)で行えます。高値の場合には専門の泌尿器科に紹介してもらいましょう。

最終更新 Dienstag, 06 September 2011 14:29
 

ドイツの水 硬水と健康

ドイツに来て半年ほど経ちますが、まだドイツの水(硬水)に馴染めません。また、硬水の健康への影響も気になります。

水の硬度とは?

水に含まれるカルシウムやマグネシウムのイオンの多いものが「硬水」、少ないものが「軟水」です。日本の水道水は多くが軟水なのに対し、ドイツを含め、欧州のほとんどの地域で水道水は硬水です。水の硬度の表記単位と定義は様々で、ドイツでは14°dH以上(WHOの基準でほぼ250mg/L)を硬水としています(図1)。ちなみに、デュッセルドルフでは14.5°dH(Stadtwerke Düsseldorf, 2010年分析)、ケルンでは18.7°dH(RheinEnergie, 2010年分析)、ベルリンでは15.4~24.1°dH(Berliner Wasserbetrieb, 2009年分析)と地域によって差があります。

図1 水の硬度の分類

硬水の日常生活への影響は?

軟水は素材の味を引き出すので、お米を炊いたり、コーヒーやお茶を入れたりするのに適しています。一方、硬水を肉の煮込み料理に用いると、硬水中のカルシウムがタンパク質と結合し、アクとなって取り除かれるため、肉の臭みが少なくなります。ドイツのビールの味にも各地方の硬水の特徴が出ています。また、硬水で石鹸を使うと泡立ちが悪く、特にアルカリ性石鹸だと硬水で成分が凝固するため、体表にヌルヌルとした石鹸の成分が残り、洗い落とすのに時間が掛かります。塩類が析出し、白い斑点(スケール)として、蛇口など水回りに残るのも硬水の特徴です。

どうしてドイツの水は硬水なのですか?

水道水の硬度はその水源に影響されます。欧州では、地下水や河川水が石灰質の豊富な地域を長い時間を掛けて通ってくるため、水の硬度が高くなります。ちなみに、海中ではカルシウムが海洋微生物により速やかに除去されるため、海水中のカルシウム濃度は河川水ほど高くありません。

硬水の健康への影響は?

日本の水道水もドイツの水道水も各々の国の安全基準をクリアしています。WHOが2006年と2009年にまとめた、飲料水中に含まれるカルシウムとマグネシウムの健康への影響についての報告書によると、長期間の硬水摂取による特定の疾病の増加は認められていません。

● 尿路結石
カルシウムを多く含む硬水の水道水を飲むと腎結石が増えるのではないか? と、多くの研究がなされました。その結果、硬水と尿路結石との因果関係はないというのが現在の結論です。むしろ、硬水は腸管で尿路結石の元となるしゅう酸吸収を妨げ、尿路内でのしゅう酸の濃度を下げることにより結石形成を抑えると考えられています。

● 胆石
同じ体内に出来る「石」でも、胆石の主な原因はカルシウムではなく胆汁に含まれるコレステロール。硬水によって胆石が増えるという臨床的な証拠は見付かっていません。胆石形成にはコレステロールの多い食生活と肥満が大きな影響を与えています。

● 唾石(だせき)
唾石は主に顎下腺(がくかせん)に異物を中心とした石灰化が起こり、食事の時に耳から頚部(けいぶ)に放散する痛みを生じる疾患です。水の硬度が大きく違う2地域を比較したイギリスの研究によると、硬水と唾石症には関係性が確認されていません。

● 皮ふ疾患
硬水自体が湿疹を起こすことはありません。しかし、石鹸カスやスケール(石灰カス)が十分に洗い落とされずに体表に付着したまま残っていると、皮ふの炎症(湿疹)の引き金になります。また、体に残った石鹸を取り除こうと強くこすりすぎると、その部分の皮ふの防御バリアが壊され、乾燥肌(乾皮症)を誘引することもあります。赤ちゃんの皮ふは大人より敏感で、しかも皮ふの防御システムが十分に完成していないので注意が必要です。

● 心疾患
 一時、カルシウムを多く含む硬水は動脈硬化を促進して狭心症や心筋梗塞などの心疾患を増やすのではないかと議論されました。しかし、現在まで硬水が心疾患を増やすという証拠はなく、弱効果ながら、むしろ心疾患を減らす可能性さえも示唆されています。

● 下痢
硬水中のマグネシウム・イオンは腸管で水と結合することにより、水の吸収を妨げます。そのため、大量の硬水を飲むと下痢を起こすことがあります。反対に、非常に硬度の高いミネラルウォーター(超硬水)などは、便秘改善の目的で飲まれることもあるようです。

市販のミネラルウォーターの硬度は?

ドイツの主流は炭酸入りミネラルウォーター。しかし炭酸が入っていなくても、水の硬度は日本の水より高いことが少なくありません。有名なエヴィアン、ヴィッテルも硬度300mg/Lを越す硬水です。一方、ボルヴィックは硬度60mg/Lの軟水と言ったように、スーパーでは実に多様なミネラルウォーターが販売されています。なお、嗜好飲料の多くには硬水より遥かに多量のカルシウムやリンが含まれています。

軟水器・浄水器とは?

硬水中のカルシウムやマグネシウムを減らし、口当たりの良い水に変えるのが軟水器です。陽イオン交換樹脂の働きでカルシウムやマグネシウムなどの陽イオンをナトリウムイオンと置き換える方法が一般的。活性炭や微細フィルターと組み合わせて有機物・微細粒子も減少させるような装置もあります。また、逆浸透膜という膜で水を濾過し、不純物を取り除こうとするものもあります。どうしても硬水が口に合わないという場合には、手頃な値段で軟水・浄水器が市販されているので、試してみても良いかもしれません。

最終更新 Dienstag, 06 September 2011 14:30
 

ドイツの夏と健康

初めて過ごすドイツの夏です。日本では熱中症が問題になっていますが、ドイツでは健康上どのような注意が必要でしょうか。

寒暖の変化

7月は38℃近い暑さが続いたのに、8月上旬は最高気温が20℃前後の涼しさ。来週はどんな気温に変化するのか、カレンダー通りには予想できないのがドイツの夏です。気温の日内変動幅も大きく、日中は半袖・半ズボンでも夜は温かい上着が必要ということもよくあります。寒暖の変化に起因する体調異常に留意し、夜の外出や小旅行の際は暖かめの衣服も用意しましょう。

知らない内に脱水状態

ドイツは日本に比べて湿度が低く、背中に汗をかきながら歩くという経験はあまりありません。しかし、自覚がなくても体内からは「不感蒸発」として、肺や皮ふから絶えず水分が失われています。不感蒸発は体重60kgの人で1日に約900ml、気温が30℃以上の時は1℃上がるごとにさらに15 ~ 20%、量が増えます。スポーツや長時間のハイキング、南欧地域に旅行する際には、喉が乾いていなくても適宣水分を補うようにしましょう。特に小さい子どもと高齢者には注意が必要です。

熱中症は無縁ですか?

発汗による体温調節がうまくいかずに体の中に熱がたまり、生じる病態が熱中症ですが、気温の低いドイツでも必ずしも無縁ではありません。今年の7月のようにヨーロッパでも数年に一度は猛暑が訪れます。最上階の住居、炎天下での重労働、筋肉から大量の熱を発生する激しいスポーツなど、高い外気温の中で体温調整の限界を越えた場合に発症します。大切なことは、体温を効果的に下げることです。昔の日本の「行水」のように、バスタブに生温い水を入れて10 ~ 20分つかるだけでも体温の有効な調整に役立ちます(表1)。濡れたタオルを体に直接載せるだけでも気化熱で温度が下がります。

表1 熱中症の予防に役立つ方法
・喉が乾いていなくとも水分の補給に配慮
・通気性の良い服装
・炎天下でのスポーツ、筋肉労働はできるだけ控える
・猛暑日はバスタブ「行水」やプール(Schwimmbad)が効果的
・十分な睡眠時間に配慮

日焼け

ドイツは冬の日照時間が短いこともあり、日光浴を楽しむ人が多く、日焼けはおしゃれの1つにもなっています。北緯に位置するドイツでの紫外線指数自体は日本より低めですが、夏の日照時間が長いため晴れた日は1日で結構な日焼けをすることがあります。日焼けは、中波長紫外線(UVB)の影響で短時間の間に皮ふが赤くなる日光皮膚炎(Sonnenbrand)と、長波長紫外線(UVA)の働きでメラニンが皮ふに沈着して褐色になるSonnenbräuneがあります。一般に日本人の方が白人より多くのメラニンを持っており、メラニンが多いほど紫外線に対する保護能力が高いと考えられています。2009年にWHOの外部組織である国際がん研究機構(IARC)から紫外線と皮膚がんとの関連が示され、不要に日焼けすることに注意が喚起されました。

日焼け止めクリーム

日焼け止めクリーム(Sonnencreme)は紫外線による皮膚炎症を予防するためのものです。商品に記載されているSPFとは皮ふの炎症と関係するUVBを遮断する作用の強さの指標です。一方、PAはメラニン誘導と関係するUVAをブロックする指標です。サンオイルは炎症を起こすUVBを遮断する作用はあるものの、UVAに対しては効果がありません(そのため、炎症を起こさずに肌を黒くすることができます)。SPFやPA値の非常に強い日焼け止めクリームは、製剤成分による肌荒れや炎症を起こすこともあるので、過度の使用や長期連用には注意が必要です。

夏の花粉症

夏から秋にかけても花粉の飛来が多くなる季節です(表2)。特にイネ科の草花による花粉症が増えてきます。ドイツに来て数年、風邪を引いた様子でもないのに、目の痒み、流涙、くしゃみなどが続くようでしたら、花粉症の可能性も考えてみましょう。花粉症は春だけの病気ではありません。


表2 ドイツにおける夏から秋にかけて飛来する花粉
    7月 8月 9月 10月
モミ Tanne        
ライムギ Roggen        
コムギ Weizen        
オオムギ Gerste        
ボダイジュ Linde        
エンバク Hafer        
ニワトコ Holunder        
トウモロコシ Mais        
アカザ Gänsefuß        
イネ科植物 Gräser        
マツ Kiefer        
ヨモギ Beifuß        
アキノキリンソウ Goldrute        
イラクサ Nessel        

シーズン・ピーク  シーズン後  可能性あり

夏バテと旅行バテ

高温・多湿の状況下で体温を一定に保とうとする調整機構への負担、外の高温と屋内の冷房の差からの体調不良、さらに暑さから夜間の不眠も加わり、食欲不振・易疲労・倦怠感が出現するのが夏バテの正体と考えられています。そのため、低湿・涼夏で夜間の気温が下がり、冷房設備も少ないドイツでは本来の夏バテは少ないようです。一方、夏休みだからと、目一杯スケジュールを盛り込んだ旅行から戻ってくると、「旅行バテ」こと「ウアラウプ病」にもなりかねません。

旅先で病気に対応

健康保険証(健康保険組合のカード)は必ず持参しましょう。健康保険組合によってはドイツ国外での疾病がカバーされていなかったり、特約になっている場合もありますので、国外を旅する予定の時は確かめておきましょう。 薬を服用している人は薬を忘れずに。また、かかりつけの医師(Hausarzt)の連絡先も持参しましょう。

休養の必要性

ドイツの人は学校が夏休みになると、「民族大移動」と呼ばれる長期休暇に出発します。ドイツに暮らす私達の場合、取引先や日本の本社との関係で長い休みは取りづらいという場合も少なくありません。実際には、適度な休暇で日常とは違った生活を送り、気分転換をした方が仕事の効率も良くなるとされています。家を預かる側にとっても毎日の家事から離れることは、同じように大切なことです。この夏、皆さんはどちらに行かれましたか?

最終更新 Montag, 26 November 2012 11:49
 

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