Hanacell
ドクターの診察室


新型コロナウイルスもし検査で陽性だったら?

新型コロナウイルスに感染していないか心配です。もし検査で陽性と判断されたら、ドイツではどうしたら良いのでしょうか。また、よく聞く自宅隔離とは何でしょう。

Point

  • PCR検査では現在の感染有無を判定
  • 抗体検査は最近・過去の感染有無を判定
  • PCR陽性の場合は2週間の自宅隔離が基本
  • 重症感染者と高リスク患者は入院して治療
  • 「回復」はロベルト・コッホ研究所(RKI)の基準で判定する
  • 予防の基本は「手洗い・距離・換気」

CR(RT-PCR)検査とは?

● 症状が軽い人の場合

感染者との接触がなく症状が軽い場合、掛かりつけ医(Hausarzt/-ärztin ハウスアルツト)または専用検査施設にて、鼻咽頭拭い液(スワブ)を採取してもらって調べます(RKI)。



PCR検査と対応の流れ
PCR検査と対応の流れ

● 現在のウイルス遺伝子の有無を知る

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子に特徴的な部分の配列だけを切り出して増幅させ、ウイルス遺伝子の有無を判定。採取時点での感染の有無が分かります。

● PCR検査の精度は?

「陽性 = SARS-CoV-2感染」という特異度(Specifität)が高いのが特徴です。一方「陰性 = 感染なし」ではなく、①感染のごく初期、②採取した検体中のウイルスが少ない時、③綿棒が鼻咽頭に達しなかったような時は、感染していても「陰性」となることも。強く疑われる場合は、繰り返し検査が必要とされています(3月の放射線医学誌 EJRの論文)。

抗体(Antikörper)検査

● 血液を用いて検査

ハウスアルツトで採血し、検査ラボで血液(Blut)の中の抗体の有無をELISA法(抗原抗体反応を利用して微量生体物質を定量する方法)によって測定します。

● 最近・過去の感染の有無を知る

感染後の時間経過と共に異なるタイプの免疫グロブリン(Ig)抗体が産生されます。Ig-M抗体、Ig-A抗体の増加は最近の感染を、Ig-G抗体増加は過去の感染を示し、Ig-A抗体とIg-G抗体を同時に測定できる診断キットもあります(ドイツのEUROIMMUN AG社)。信頼性の高い診断キットは供給が追いついていない状態です。

● 米国住民の抗体検査

米国シリコンバレーのあるサンタ・クララ(Santa Clara)郡の住民を対象に行った抗体検査結果では、PCR検査で確認された感染者数の約50倍がすでに感染している可能性が示されました(4月17日の英国の科学雑誌 Nature誌)。一方、抗体陽性が長期的に再感染の予防に繋がるのかどうか、必ずしもまだ明らかではありません。

陽性の場合は2週間の自宅隔離

● 入院は重症患者、高リスク患者のため

PCR検査で陽性判定が出ても症状が軽く、重症化のリスク(免疫不全、高齢、慢性疾患)が無い場合は、14日間自宅で隔離生活(häusliche Quarantäne、Häusliche Isolierung)を送ります。 その間もハウスアルツト(または担当医)と連絡を保ちます。

● 自宅での隔離生活はどのように?

外出の禁止、共同生活者(家族)との接触も制限、外部の第三者(郵便配達人、配送業者、隣人、友人など)との直接接触も避けます。同居者がいる場合、感染者はできるだけ自室内にとどまり、共用キッチン、浴室への立入りは必要最小限にします。

● 自宅隔離中の衛生管理

RKIのガイドライン(3月24日)にのっとって、住居内の衛生管理、洗濯、掃除、消毒、ゴミ処理を行います。

● 自宅隔離中に症状が悪化した場合

仮に自宅隔離中に症状増悪がみられた場合は、ハウスアルツトに速やかに連絡し、保健所と協議して入院の手続きがとられます。

● 感染者の同居者の扱い

同居者も感染リスクが高いため(4月15日付のRKIの接触者カテゴリー1に相当)、感染者の自宅隔離終了後(あるいは最後に会った後)14日間は、同居者も保健所(Gesuntheitsamt)への状況報告、1日2回の検温、症状の有無を自己チェック、接触者の名前を記録します。症状があれば、PCR検査が行われます。

自宅での2週間の隔離生活

  • •保健所へ連絡
  • •ハウスアルツトとの連絡を保つ
  • •最初から無症状であれば14日で終了
  • •最初に症状があれば14日以上経ち最後の48時間に症状がなければ終了
  • •自宅での生活
    ・外出は禁止
    ・共同生活者(家族)との接触に制限
    ・外部者との接触は避ける
    ・衛生管理の規定あり(洗濯、掃除、消毒、ゴミ処理など)

「治りました」の基準

● 回復者の数は?

ドイツでは、累積感染者16万人のうち79%が回復者(wieder gesund、genesene Fälle)として報告されています(5月2日現在、ベルリーナー・モルゲンポスト紙)。ただし、「治った」とする国際的な基準はなく、回復を通知する義務もないため、あくまで推測数です。

● 自己隔離者の「回復」

最初から症状がない感染者は14日間の自宅隔離の終了で「回復」とされます。何らかの症状があった場合は、14日間以上の自己隔離を行い、最後の48時間に症状がなかった場合を「回復」とします(4月17日発表のRKIの定義)。

● 入院感染者の「回復」

症状が48時間以上なく、最後の24時間以内に行われる2度のPCR検査が陰性の場合に「回復」とされます(同上の定義)。

● 退院して自己隔離へ移行した場合

入院中に症状が改善し、退院して自宅での隔離生活に移った場合、退院してから少なくとも14日間の自己隔離を完了し、最後の48時間に症状がなかった場合を「回復」とします(同上の定義)。

● 回復後、再び陽性の報告

PCR検査で陰性になった後に再陽性となった感染者が、韓国では5月2日までに335名おり(韓国疾病予防管理局の発表)、WHOも含めその原因が議論されています。

感染の流れを読む

● 実効再生産数 relative Reproduktionszahl = R

1人の感染者が何人に感染を拡げたかを示します。Rが1より大きいと感染拡大の恐れがあり、 1より小さい場合は感染は収束の方向です。現在のドイツは「0.79」(5月2日のフランクフルター・アルゲマイネ紙)です。

● 新感染者数の増加率 Wachstumsrate

ドイツの1日当たりの感染者数の増加率は3月の一時期は最大で46%もありましたが、生活・行動制限が始まった後の5月1日には1%まで低下しています。

● 累積感染者数 Gesamt-Fallzahlen

今までにPCR検査にて「陽性」と判定された人の総数です。国、地域によって検査基準や検査処理能力も異なるため、単純に数だけを比較するのは注意が必要です。

今後も注意すること

● 基本は「手洗い・距離 ・換気・人混みを避ける」

手指へのウイルスの付着は、ちょうど塗りたてのペンキの世界を手で触れ回るのと似ています(4月15日のNHKのNews Upより)。手洗いをこまめに、他人との距離は1.5メートル以上、頻繁に部屋の換気を行い、人混みは避けるようにましょう。

● 十分な睡眠と休息

睡眠は感染に対する抵抗力を高め、睡眠不足は免疫を低下させます。在宅ワークで1日中コンピューターに向かっているような、過大なストレス生活も好ましくありません。ウォーキング、ジョギングなどの運動がおすすめです。

最終更新 Dienstag, 23 Juni 2020 14:28
 

在独日本人のための新型コロナウイルスQ&A

スポーツの試合やコンサートが中止され、多くの店も閉まり、ドイツ国内外への旅行も控えるようになりました。この先どうなるのか心配です。医学的な理由を理解したいのですが、テレビのドイツ語の説明が難しくよく分かりません。

Point

  • 社会生活の制限により感染拡大を防ぐ
  • ドイツでの感染者が6万人を超す※
  • ウイルスは数時間は空気中に浮遊の可能性
  • 物体に付着して数時間〜数日生存
  • 風邪での欠勤は電話で診断書を依頼可
  • メンタルのケアにも十分留意して
  • ※2020年3月30日時点

社会生活の制限の目的は?

● 感染機会を減らす

新型コロナウイルス感染者(ウイルス保有者)が日常生活の中で感染を拡げる機会、すなわち未感染者が感染する機会を減らします。

● 感染拡大のスピードを抑える

重症患者を受け入れられる病床数は限られています。中国の武漢地域、北イタリアでは重症患者が一挙に増えたため、医療上の対応が追いつかず不都合が生じました。感染拡大のスピードを緩やかにすることにより、限られた病床を有効に活用できます。

感染者の急増と医療対応
感染者の急増と医療対応

具体的な対策は?

● 学校・幼稚園の休校・休園

中国の患者解析で20歳未満の若年者の発症が少なかった(2月28日の米国医学誌NEJMの論文)のは、若年層では軽症や無症候性感染が多いためと解釈されています。そのため若年者を介しての感染拡大が危惧されてきました(3月13日の米医師会雑誌JAMAの論文)。

● ドイツ国内の旅行の自粛

旅の移動中は多くの物に触り、不特定多数の人と接触する機会も多く、交通機関内(例えば、搭乗機までの空港バス内)では他人との距離を保つのも困難です。人の移動により感染がさらに遠くまで拡がるのを防ぎます。

手洗いはなぜ重要?

● 接触感染を減らす有効手段

感染者が触れたドアの取っ手、電車やバスの停車ボタン、手すりなどを介し、ウイルスが伝搬することを防ぐのに手洗いは最も効果的です。

● 手から口や鼻へウイルスが付着

私たちは無意識に手で顔、口の周り、髪を何度となく触っています(2015年の米国感染管理誌AJICより)。蛍光塗料を付けた手で握手すると、蛍光塗料が短時間で相手の顔や髪の毛にまで拡がる様子が、3月3日のWDRの番組「Quarks extra」で紹介されました。

● まずは手洗いを。握手は控えても

帰宅後には何はさておき手を洗いましょう(できれば消毒用アルコールで消毒も)。パンデミックが落ち着くまで、ドイツでは日常の握手を控えても失礼にはなりません。

手洗い以外に感染を防ぐ方法は?

● 人が大勢集まるところは避ける

換気ができず、人が密に集まって過ごす空間で感染が拡大しています。人混みを避けるとともに、人と人との間は最低1.5メートル、できれば2メートル以上空けることが推奨されています。

● 密室は避け、部屋の換気を

窓を開け、外の新鮮な空気を取り込むことが大切です。最近、新型コロナウイルスは空気中で数時間漂って生存することが報告されています(3月17日のNEJM誌)。

● 掃除もきめ細かく

感染者のいた部屋からは換気口、洗面台、ドアの取っ手、椅子、床、窓ガラスからもウイルスが検出されました(3月4日のJAMAの論文)。物体表面に付着したウイルスは1日以上生存する可能性も報告されました(前記のNEJM誌)。掃除と要所の消毒が大切といえます。

検査はどのように行われるの?

● 検査の対象

①感染者と接して14日以内に呼吸器症状がみられる場合、②肺炎患者が増えている介護施設や病院でウイルス性肺炎が考えられる場合、は感染が強く疑われます。感染者との接点がなくとも、(a)ウイルス性肺炎が最も疑われる場合、呼吸器症状を伴い(b)高齢者施設、医療施設で仕事に従事している場合、(c)重症化の危険因子(高齢、糖尿病などの合併症)がある場合、(d)前記の(b・c)以外の場合も検査にゆとりがあれば対象となります(3月24日発表のロベルト・コッホ研究所の指針)。

● 実際の検査の流れ

綿棒を使用して口蓋(のどの奥)、口内、鼻腔からの液を拭い取り、PCRという遺伝子学的検査に送ります。PCR検査は4〜5時間を要し、検体採取から検査結果が出るまで24〜48時間ほどかかっています(WDRの「Quark」より)。

検査のコストは?

● 検査の必要性がある場合

前記の感染が強く疑われる場合は、検査費用は疾病保険(Krankenversicherung)で支払われます。医師が医療上必要と判断した場合も、疾病保健がカバーします。

● 自分で検査を希望した場合

医師の判断ではなく自分で検査を希望するという場合は自己負担が生じます。

今、風邪をひいたらどうすれば良いか?

● 仕事を休んで自宅療養

ほとんどの風邪(感冒)は十分な睡眠と安静で自然に治ります。この期間に限り、電話によるハウスアルツト(Hausarzt/-ärztin)との問診で最長7日間の診断書(Krankmeldung、Arbeitsunfähigkeitsbescheinigung)が診察なしでもらえます。

● 解熱剤の安全性

アセトアミノフェン(Paracetamol、Ben-u-ron)が副作用や薬物相互作用の観点から安全です。イブプロフェンの新型コロナウイルスでの安全性は議論が残っています(WHO、スイス保健省)。

● 花粉症や風邪の時期でも

朝・夜の気温変化も大きい季節の変わり目で風邪(Erkältung)もひきやすく、春の花粉症(Heuschnupfen)のシーズンも始まりました。咳をすれば周囲から「まさか?」と心配されてしまいます。

風邪や花粉症との症状の違い
風邪や花粉症との症状の違い

日常生活での留意点

● 子どものメンタルケア

不安に感じているのは、大人も子どもも一緒。自宅に長時間いて、体力を持て余したり、親との葛藤が生じることもあるかもしれません。親の不安や不満から子どもを叱りつけたりするのは控えましょう。

● 家庭内暴力(Häusliche Gewalt)への懸念

行く所が少ない、自宅で今まで通り自由にならない、息抜きの時間がない、などから家庭内暴力(DV)が助長される危険も。身の危険を感じたら家を出て警察署、知人宅や、街角の薬局(Apotheke)で助けを求めましょう。

● 祖母・祖父に子どもの世話を頼まない

症状の乏しい若年感染者がいること、高齢者ほど重症化しやすいことにより、祖母(Oma)、祖父(Opa)に孫の世話を頼むのは控えるように(ノルトライン=ヴェストファーレン州のラシェット首相、3月17日)。

最終更新 Dienstag, 07 April 2020 10:24
 

在独日本人のための新型コロナウイルスの知識

コロナウイルスに感染すると皆が肺炎になるのでしょうか?
春に子どもと一時帰国をする予定ですが、心配です。何をどう注意すれば良いか教えてください。

Point

  • 病名は「COVID-19」
  • 欧州内(特に北部イタリア)で感染拡大
  • 感染力が強く、致死率は1.5%(中国以外)
  • 高齢者、基礎疾患ありで重症化
  • 潜伏期、不顕性感染でも感染源に
  • 特異的な抗ウイルス薬は未開発
  • ウイルスを遺伝子学的手法にて診断
  • ※2020年3月時点

新型ウイルスによる新型肺炎

WHOは中国の湖北省武漢市(Wuhan)から流行が始まった新型コロナウイルス(neuartigen Coronavirus)感染症を「COVID-19」と(2020年2月11日)、国際ウイルス分類委員会(ICTV)はウイルス名を「SARSCoV-2」と命名しました(2月7日)。

● SARS ウイルスの姉妹種

通常のコロナウイルスは風邪症状しか生じません。しかし、今回のSARS-CoV-2は「重症急性呼吸器症候群(SARS)」の原因ウイルスの姉妹種(bioRχiv掲載の2月7日の論文)で、SARSや「中東呼吸器症候群(MERS)」のように重い症状を引き起こします。

● 感染の拡大

2020年3月1日の時点で、ドイツは57名の感染者、日本はクルーズ船の感染者を除くと239名です。中国の患者数は7万9968名(死亡者は2873名)、中国を除く世界58カ国で7169名(死亡者は104名)で、そのうち705名は横浜港のクルーズ船内で感染。

● WHOのリスク評価 WHO Risk Assessment

WHOによる感染のリスク評価のレベルは、世界中(ドイツ、日本を含む)で4段階のうち最も高い「very high」となっています(2月28日のWHOのCOVID-19状況報告書39以降)。

人から人への感染様式

● 飛沫感染 Tröpfcheninfektion

感染者の咳、くしゃみ、唾などの飛沫に含まれたウイルスを、周りにいた人が口や鼻から吸い込んで感染します。人の多く集まる場所などで拡がる原因となります。

● 接触感染 kontagiöse Infektion

感染者の手に付着したウイルスが、ドアノブ、エレベーターのボタン、トイレの蛇口などに付着し、そこを触った人の手から口や鼻の粘膜に入り感染します。付着ウイルスは数時間は感染力があると推測されます(2月11日のWHOのコロナウイルスに関するQ&Aより)。

● 感染力の強さ

感染者1人から何人に病気が伝染るかを示す「基本再生指数(Basisreproduktionszahl)」が指標になります(例えば、麻しんは12〜18人)。SARS-CoV-2は平均2.6人(1.5~3.5人)と推定され(インペリアル・カレッジ・ロンドンのMRC GIDAの1月25日の報告書3)、インフルエンザとほぼ同等の感染力です。

● 潜伏期でも感染源に

SARS-CoV-2に感染してから発症するまでの無症状の潜伏期(Inkubationszeit)にもウイルスを排出して感染を拡げる危険が指摘されています(医学誌NEJMの1月30日号の論文)。COVID-19の潜伏期は2日〜2週間と推測されています。

臨床症状:大人の場合

● 軽症で経過するケース(風邪として経過)

多くは風邪(感冒)や急性上気道炎のような症状が1週間ほど続き、その後に軽快します。2〜3日で治る一般的な風邪に比べて長引くことが特徴です。

● 重症化するケース(新型肺炎)

一部の患者では風邪症状が1週間ほど続いてから、肺炎による咳、息苦しさ、強い倦怠感が出現します。高齢者や慢性の基礎疾患がある場合に多いと考えられています。

● 致死率は中国以外で1.5%

WHOのまとめた資料によると、中国国内全体での致死率(確認された患者数に占める死亡例の割合)は3.6%(湖北省、Hubeiは4.1%)、中国以外では1.5%(2020年3月1日の時点)です(日本国内でのインフルエンザの致死率は約0. 1%)。

COVID-19の臨床経過の例
COVID-19の臨床経過の例

臨床症状:子ども、妊娠中の場合

● 子どもは重症化しにくい?

中国でCOVID-19の確定診断のついた生後1カ月〜17歳の28名では、無症状の感染時から発熱、乾性咳、倦怠感、鼻汁、鼻閉などの上気道症状を伴ったものまでさまざまでした。症状は比較的軽度で、全員1~2週間で回復しています(小児科誌WJP オンラインの2月2日の論文)。

● 母親から胎児への垂直感染は?

中国でSARS-CoV-2感染による肺炎を起こした妊婦9名では、母親から新生児への垂直感染はみられませんでした(医学誌Lancet オンラインの2月12日の論文)。

● 感染した母親の授乳再開の目安は?

SARS-CoV-2に感染している母親が発熱を伴っている場合は、母体がウイルス血症になっていることが推測されるため授乳は控えます。解熱後3日間は感染力があると判断し、授乳は解熱後4日目を目安とします(2月6日の日本産婦人科学会の新型コロナウイルス感染予防対策より改変抜粋)。

ドイツでのCOVID-19の診断

● 遺伝子学的な診断(PCR法)

PCR(核酸増殖)法によりウイルス遺伝子の有無を判定します。検査には喀痰(かくたん)、気道分泌液、鼻腔粘液が用いられます(ロベルト・コッホ研究所)。

● どのような場合に検査しますか?

ロベルト・コッホ研究所(RKI)の手順指示(2月26日)にのっとって、①保健所(Gesundheitsam)に届け、入院した上で検査を受ける場合、②外来にて検査を受ける場合に分けられています。前者は2週間以内に危険地域(中国、イタリア、イラン、韓国の一部地域)を訪れたか、または感染者との接触のあった患者です。

● 日本での指針

37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(高齢者や基礎疾患のある人は2日でも)「帰国者・接触者相談センター」に相談した上で、指定の医療機関で受診するとされています(2月17日の厚生労働省の「新型ウイルス 相談・受診の目安」より)。

治療法は?

● 抗ウイルス薬はありますか?

SARS-CoV-2に対して効果のある抗ウイルス薬はまだ開発されていません。そのため、軽症例も重症例も対症療法が主体です。新型肺炎を伴う重症例では呼吸管理のためにICU(集中治療室)での加療が必要となることも。

感染のリスクを減らすために

● 咳エチケット Husten- und Nies-Etikette

咳やくしゃみをするときは、上腕を曲げて口前に置いたり、ティッシュ、ハンカチ(ガーゼやタオルでも可)で口元を覆い、周囲への飛沫を防ぎます。

● マスクについて Mund-Nasen-Schutz

日本では厚生労働省によりマスクの着用が勧められていますが、ドイツのRKIは マスク(Gesichtsmasken、Atemschutzmasken)はSARS-CoV-2感染者からの飛沫が散るのを抑えるものの、未感染者の感染防御には十分でないとしています(RKIのコロナウイルスSARS-CoV-2のQ& Aより)。WHOは、マスクは自分が咳をしている場合、COVID-19が疑われる人の世話をする場合だけに用いるようにとの立場です(WHOのマスクに関する助言より)。

● マスクの使い方

マスクを用いる場合は、適正に口と鼻を覆って装着する、使用中はマスクを手で触らない、取外した後に手を洗う、使い捨てマスクを再使用しない、などが大切です(上記WHOのガイダンスより抜粋)。

予防のための日常生活の留意点

❶ 手をよく洗う
❷ 咳エチケット
❸ 十分な睡眠と休養
❹ 病人との距離は1~2メートル以上
❺ 不要・不急の人混みは再検討

最終更新 Mittwoch, 04 März 2020 13:03
 

日本人に多い脳血管障害

日本の父と叔母が脳卒中で倒れているので、自分は脳卒中の家系ではないかと心配しています。脳卒中について詳しく教えてください。

Point

  • 脳卒中は日本人の病気による死因の第3位
  • 脳血管が破れる脳内出血
  • 脳血管が詰まる脳梗塞
  • くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂が原因
  • 疑ったら迷わず専門病院へ
  • 脳内出血と脳梗塞の危険因子は生活習慣病

脳血管障害 = 脳卒中

● 「脳卒中」という言葉

脳卒中(Schlaganfall)は、古くは卒中風(そっちゅうぶ)と呼ばれていました(小学館「日本国語大辞典6巻」より)。「卒」には「にわかに」の意味があり、急に中風(半身不随の状態)になることを指します(大修館書店「大漢和辞典、巻2」より)。

● 日本人の病気による死因の第3位

がん、心臓病に次いで日本人の死因の3番目を占め、要介護・寝たきりに至る原因として最も多い病気です(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」より)。

● 脳出血と脳梗塞

脳卒中は、①脳の血管が破れる脳出血(Hirnblutung、脳内出血、クモ膜下出血など)、②脳の血管が詰まる脳梗塞(Hirninfarkt、脳血栓、一過性脳虚血発作など)に分けられます。日本人の脳卒中の約75%は脳梗塞、20%が脳(内)出血、5%がくも膜下出血です(日本脳卒中データバンク報告書2018年より)。

脳出血と脳梗塞
脳出血と脳梗塞

● 症状は脳と反対側の身体に

身体の末梢神経と脳の中枢神経は途中で左右が交差しているため、障がいを生じた大脳と反対側の身体に症状が現れます(例えば、右脳の障がいでは左半身に)。

脳内出血(Intrazerebrale Blutung)

● どんな病気ですか?

脳内の細い血管が破れて血の塊(血腫、Hämatom)が直接的に脳にダメージを与えたり、脳圧を高めることにより、正常な脳を圧迫して障がいを起こします。

● 危険因子は高血圧 Bluthochdruck

脳内出血の多くに高血圧が関係します。高い圧力が絶えず血管壁に加わり、血管が脆くなっているためです。「高血圧性脳出血」とも言われます。また、治療に用いられている抗血栓治療が出血の危険因子となることも指摘されています(日本脳卒中学会の脳卒中治療ガイドライン2015「追補2019」より)。

● 出血部位と症状

大脳の出血(被殻出血、視床出血、皮質下出血)では、運動と知覚の麻痺(Lähmung)を生じます。小脳出血では、めまいや運動失調(Ataxie)が見られます。脳幹部の「橋」は生命維持に必要な機能を持っていることから、「橋出血」は生命に関わることが少なくありません。どの部位の出血でも、意識障害(Bewusstseinsstörung)のある場合の予後は予断を許せません。

● 脳内出血の治療

血圧のコントロール、脳浮腫の予防が基本。小さな出血の場合、血液はやがて自然に吸収されますが、出血が多い場合には内視鏡下、もしくは開頭による血腫除去が行われます。脳圧が亢進し脳ヘルニアが危惧される場合には、手術により減圧を図ります。

脳梗塞(Hirninfarkt、ischämischer Schlaganfall)

● ラクナ梗塞(微小脳梗塞)

動脈硬化などで非常に細い血管(穿通枝)が詰まり、1.5センチ以下の小さな梗塞像(Lakunäre Infarkte)を生じます。日本(アジア)人に多いとされる脳梗塞です。

● アテローム硬化による脳梗塞

血管内にできたプラーク(コレステロールを中心とした血管内の粥状の塊)に傷が入って血栓(血の塊、Thrombus)ができ、血流を遮断することにより発症します(アテローム血栓性脳梗塞)。半身の運動麻痺(片麻痺、Lähmung)などが見られます。

● 心臓にできた血栓による脳梗塞

心房細動、弁膜症などによって心臓内にできた小さな血栓が血流に乗って脳血管まで流れ、脳の血管を詰まらせてできる脳梗塞です(心原性脳塞栓症)。

● 脳梗塞の治療

発症後数時間以内の早い時期に血栓を溶かす薬を用いたり(血栓溶解療法)、場合によってはカテーテルという細長い管を用いて血栓を取り除く方法(脳血管内血栓回収療法)があります。

一過性脳虚血発作(TIA、transitorische ischämische Attacke)

● 短時間だけの血流障害、しかし……

脳梗塞と同じ症状が短時間(数秒〜24時間)だけ見られ、再び元に戻ります。3カ月以内に脳梗塞を発症する危険性が高く(2007年の米国医師会誌より)、症状が消えても注意が必要です。

● 脳梗塞を発症するリスク計算

年齢、症状の期間、麻痺や言語障害の有無、高血圧や糖尿病の有無などをスコア化して、2日以内に脳梗塞が生じるリスクを予測することができます(例えば、ABCD2スコア、前述の脳卒中治療ガイドライン2015「追補2019」より)。

● TIAの治療

症状のある急性期は脳梗塞と同じ治療が行われます。発作消失後は前記のABCD2スコアなどの脳卒中予測リスクを考慮して、抗血小板作用のあるアスピリンの少量投与が行われます。

くも膜下出血(Subarachnoidalblutung)

● 脳動脈瘤の破裂が原因

多く(80〜90%)は脳血管にできた血管の「こぶ(脳動脈瘤、Aneurysma)」に急な圧負荷が加わり、破裂して発症します。日本人では、欧米人には少ない「もやもや病(Moyamoya Erkrankung)」や脳動静脈奇形が原因になることもあります(10〜20%)。

● バットでなぐられた? 突然の頭痛

突然バットで頭を殴られたような強烈な頭痛が特徴です。くも膜下出血全体での死亡率は10~ 67%と高く(日本脳卒中治療ガイドライン2009より)、一般に意識障害を伴う場合の予後はよくありません。

● くも膜下出血の治療

24時間以内に再破裂する確率が特に高いため、できるだけ早く出血源の動脈瘤を見つけて処置します。治療としては、①血管内から動脈瘤内にプラチナのコイルを詰めて閉じる方法(Coliling)、②開頭して動脈瘤の根本にクリップをかける方法(Clipping)があります。

治療とリハビリ(Rehabilitation)

● 急性期の早期治療が重要

診断と治療開始が早いほど良い効果が得られます。脳卒中を疑わせる症状が見られたら、すぐに救急車(Krankenwagen)にて専門病院(Krankenhaus)を受診してください。

● 機能回復をめざす

意識障害がなく、血圧、呼吸、体温などが安定していれば、早い時期から座位、ベッドからの起立、移乗動作、歩行訓練へと進めていきます。廃用症候群を予防し、日常生活の基本的な活動(ADL)の向上と早期の社会復帰を図るためです(脳卒中治療ガイドライン2009より)。

● 脳の可塑性(かそせい)

脳細胞が一旦死滅するとその領域の機能は失われますが、リハビリにより脳への刺激を続けると周りの脳細胞が役割を代替して機能を回復する「脳の可塑性」(neuronale あるいはKortikale Plastizität)という特質があります。失われた機能の回復がリハビリによって期待できるのはこのためです。

脳卒中予防のために

•血圧の管理
•脂質値の適正化(国際基準)
•糖尿病があればコントロール
•十分な睡眠と休養
•適度な運動を続ける
•むやみに急に興奮して怒らない
•くも膜下出血の家族歴があれば留意
•心房細動、弁膜症は専門医に相談

最終更新 Dienstag, 11 Februar 2020 11:38
 

よくある耳の症状・ 病気

最近人混みの中で立ち話をしても良く聞こえないことがあり気になっています。また、ドイツでは耳掃除をするために医者に行くと聞きましたが、本当でしょうか?

Point

  • 日本人はカサカサした乾性耳垢が多い
  • ベトベトした湿性耳垢は耳鼻科で掃除
  • 子どもの風邪では中耳炎にも注意
  • ヘッドホンによる聴力低下が増えている
  • メニエール病はストレスと睡眠不足が関与
  • 高齢者に多い高音域の聴力低下と耳鳴り

耳垢(Ohrenschmalz)

● どうしてたまるの?

耳垢(じこう)は、①耳道の耳垢腺からの分泌物、②古くなった表皮、③外からのホコリ、が混じってできます。耳垢は食事や会話で顎を動かすことで、自然に外に出ていくようになっています。しかし耳垢がたくさんたまって耳道が詰まってしまうと、耳栓をしたような状態となります。

● 乾いた耳垢、湿った耳垢?

耳垢腺からの分泌物の量の差によるもので、どちらかが正常というわけではありません。日本人の7割近くはこの腺が少ないのでカサカサした「乾性耳垢」、西欧人の約9割はベタベタと湿った「湿性耳垢」の持ち主です。

乾いた耳垢、湿った耳垢

乾性耳垢 湿性耳垢
症状 乾いてカサカサ 湿ってベタベタ
人種による割合 日本人の約7割 欧米人の約9割
耳垢腺から分泌 少ない 多い
顎運動で排泄 あり あり
耳かきでの除去 比較的容易 難しい
耳鼻科での除去 少ない 多い

● 日本とドイツの耳掃除

乾燥耳垢の多い日本人は1カ月1〜2回、耳かき(Ohrlöffel)で耳掃除をします。湿性耳垢では耳かきでの除去が難しく、綿棒で拭き取るか、数カ月に1度、耳鼻科にて耳掃除をしてもらいます。

耳閉感(耳閉塞感、Gefühl wie Watte im Ohr)

● 耳の詰まった感じ

耳のこもったような、耳の詰まった感じになります。自分の声が響いたり(自声強聴)、外の音がグアングアンと不快に響いたりします。

● さまざまな原因で起こる耳閉感

耳垢、外耳炎、異物などによる外耳の異常、風邪をひいた後の中耳炎など中耳の病気、急性低音障害型感音難聴(後述)のような内耳の病気でもみられます。

聞こえが悪い(Gehörlosigkeit、Schwerhörigkeit)

● 難聴の原因

急に聞こえなくなる「急性難聴」として多いのは中耳炎、突発性難聴、メニエール病、徐々に聞こえなくなる「慢性難聴」として多いのは老人性難聴です。音がきちんと内耳まで伝わらない難聴を「伝音難聴」(中耳炎など)、音の振動がうまく電気信号に変換されて神経に伝わらない難聴を「感音難聴」(加齢性難聴など)といいます。

難聴の原因

● 高齢者での特徴

左右両方の耳で高音域の音を聞き取りにくくなり、人混みの中での聞き返しが多くなったり、テレビのボリュームを大きくしたり、知らず知らずに大きな声で話す人もいます。一方、低音域の聴力は保たれるため、低音が強く感じられ重低音などが不快に響きます。

● ヘッドホン(イヤホン)難聴

大きな音に長時間さらされることによって生じる聴力障害です(騒音性難聴または音響外傷、geräuschbedingten Hörverlust)。以前は工場の作業現場など職業性のものがほとんどでしたが、最近は長時間ヘッドホンで音楽を聞いたり、大音響のコンサートが原因となる「騒音性難聴」も増えてきています。

耳鳴り(Tinnitus、Klingel der Ohren)

● 案外多い耳鳴りの頻度

耳鳴りは実際には音がしていないのに、何かが鳴っているように聞こえる現象です(日本耳鼻咽喉科学会)。耳鳴りは日本の人口の10〜15%の人にみられ、このうち臨床的に問題となるのは2〜3%といわれています。

● 自分だけに聞こえる

耳鳴りのほとんどは自分だけにしか聞こえない「自覚的耳鳴り」です。これに対して、ごく小さい音を外から聴取できる「他覚的耳鳴り」は、筋肉の痙攣による雑音や耳部の圧迫などによる血流音が原因となっています。

● 高齢者に多い耳鳴り

「キーン」「シャー」というような高周波音が持続的に聞こえます。何かに没頭していると気にならないものの、トイレなど1人静かな環境で強く聞こえます。ドイツでは治療薬として、銀杏の葉の植物製剤(Ginkgoblätter-Extrakt)が用いられることがあります。

突発性難聴(Hörsturz)

● 症状は?

前触れなく突然発症する難聴で、多くは片耳だけにみられます。耳鳴り、めまい、吐き気を伴うことも。働き盛りの40~60歳代に多いといわれています。難聴となるのは1度だけで、改善・増悪の波はみられません。

● 原因は不明です

音を感じ取って脳に伝える部分の循環障害やウィルス感染が原因と考えられていますが、詳細は不明です。

● 治療法と予後

発症して1〜2週間以内(急性期)に治療しても完治するのは40%、ある程度の難聴が残るのが50%、改善しないのが10%といわれています。治療開始が遅れるほど治療効果が下がります。

中耳炎(Mittelohrentzündung)

● 子どもに多い

中耳は鼓膜の奥の空洞(鼓こしつ室)を中心とした部分。6カ月〜8歳ぐらいの子どもは構造的に咽頭(のど)と中耳をつなぐ耳管(Eustachi-Röhre)が太く短いた

め、風邪のときなどに細菌が中耳に至りやすくなっています。

● 風邪での耳の痛み

風邪のときに子どもが夜中に急に耳を痛がって泣きだす経験をした人もいるかもしれません。中耳に膿や浸しんしゅつえき出液がたまって、圧が上昇し痛みが生じま

す。「耳だれ」といって、鼓膜に穴が開いて膿が流れ出ることも。

● 中耳炎の治療は?

通常は点鼻薬や内服薬で良くなります。改善しない場合には、鼓膜に小さな穴を開けて圧を下げ滲出液を吸い取る「鼓膜切開術」が行われることがあります。

メニエール病(Menière-Krankheit)

● めまい、吐き気、難聴、耳鳴り

天井や周囲がグルグルと回る、体のバランスが変でフワフワする、めまいの発作前に耳鳴りが強くなる、低音域の聴力低下などの症状が繰り返し起こります。30~ 50

歳代の人に多い病気です。

● ストレスが引き金?

心身のストレス、過労、睡眠不足が引き金になると考えられています。ストレスで内耳の内リンパ液の量を調整できずにリンパが腫れ、神経が圧迫されるためです。

● 治療法には?

過労や睡眠不足を防ぐなどの生活指導を含めた、ストレスマネージメントが重要です。発作が起きたら慌てずに安静を保つようにします。

耳管狭窄症・耳管開放症

● 耳管の役割

耳管(前述)は鼓膜の内側と外側との間に気圧の差ができた時、開閉して鼓膜内外の圧を同じに保っています。

● どのような症状?

風邪に伴う鼻の奥の炎症で耳管の鼻側の開口部が塞がってしまったり(耳管狭窄、Tubenstenose)、体重減少や脱水が原因で逆に開きっぱなしになってしまう(耳管開放症、Klaffende Tube)と、「耳閉感」や「自声強調」などの症状を来します。

最終更新 Dienstag, 07 Januar 2020 11:20
 

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